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こんなはずじゃなかったのに。~ボッチだった高校生活をやり直します~  作者: 松竹梅竹松
第2章 高1夏・体育祭

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第2章 第17話 青春

2018年 6月28日(木) 15:19




「結局4位か~」



 部対抗リレーが終わり、月長が台車から降りてくる。流れで最後の方は本気で走ったが、力及ばず3位入賞にも至れなかった。さすがは俺。表彰台が似合わない男第1位だ。



「悪い、調整してたんだけどな」



 猛ダッシュで疲れた俺と落胆の色を見せる月長に、部対抗リレーで見事1位に輝いた部活のアンカーが近づいてきた。



「そこまで気を回してくれなくても……」

「そういうわけにもいかないさ。何をしているかはわからなかったけど、水菜のためだってことはわかったから」



 そうどこまでもかっこいい発言をしたのは、樹来紅。左腕の怪我によりほとんどの競技に参加できないためか、1年生でありながらサッカー部のアンカーを務めた男だ。まぁサッカー部はペアを組んでパスしながら走っていたし、わざと順位を落とすのは難しかったのだろう。



「それより次二人三脚だろ? もう整列始まってるぞ」

「いや、二人三脚はいいよ。たぶん先生に怒られるだろうし」



 それに目的は達成できた。おふざけ要素の強い部対抗リレーなのに、男子の声援がほとんど聞こえなかった。おそらく月長の下着に思いを馳せているのだろう。これ以上恥を晒すことはさせたくない。



 そして何より、二人三脚は足を縛らなくてはならない。月長相手にそれをしろというのは酷な話だろう。



「水菜ちゃんはやる気マンマンだよ~?」



 そのはずなのに、なぜか月長は満面の笑みで俺の腕をとった。



「いや……ちょっと待て。わかってるだろ? これ以上は……」



 汗ばんだ腕に柔らかな感触が当たって少し浮ついたが、なんとか正気を取り戻して足を止める。



「大丈夫だよ~。それに~水菜ちゃん二人三脚やりたいし~」

「いやだから……ほら、先生こっち来た」



 少し遠くから三人の先生が焦った顔で駆け寄ってきている。そもそも俺たちは犯罪者に狙われている可能性のある二人。あまり自由にさせるわけにもいかないのだろう。



 それに、俺のタイムリミットまで残り約30分。二子玉が来る気配はないし、あとは月長の印象をよくするためになるべくおとなしく――



「せんせーっ、あたしのスマホ知んなーい?」



 俺たちと先生の間に入るように。髪をくるくるといじりながら、七海が歩いてきた。



「あたしロックかけてないから盗まれるとやばいんすよー。ちょっと探すの手伝ってもらっていー?」



 後ろ姿しか見えないので七海が何を思っているかはわからない。それでも俺は、七海が俺たちを庇っているように感じた。



「先生、発案者は私です。あの子たちは先輩に逆らえなかっただけ。怒るのなら私だけにしてください」



 先生の内の一人を連れていく七海と入れ替わるように現れた宍戸さんが、腕を組んで堂々とそう告げた。これで残りは一人。そんな中、二人三脚の待機列の一番前から馬鹿みたいな大声が広い校庭に響く。



「いだだだだっ! 腹痛い! ちょ、これマジで痛いわマジでっ!」

「まずいなー! 誰か代わってくれねーかなーっ!」

「くそくそくそくそっ! 貸し一だぞこんにゃろーっ!」



 そこにいたのは、腹を抑えながら元気に叫んでいる真壁と、懐に立ちながらも俺に視線を送っている金間の二人。なんだよ、みんな……。



「どうして、そこまで――」

「みんな想いは一緒だよ」



 そして樹来が俺の肩にポン、と手を置いて、



「みんなで体育祭を楽しみたいんだ」



 残り一人の先生の元に歩いていった。



「友だちにここまでやってもらったら、やめたくてもやめるわけにはいかないよね~?」



 月長が俺の手首に巻いてあった赤いハチマキをするりと解き、俺に見せつけてくる。



「まぁ……そうだな。月長のためだ」

「大矢くんはやりたくないの~?」


「やりたいかやりたくないかで言えばやりたくない。つかれるからな」

「でも残念~。水菜ちゃんはやりたいのでやっちゃうんだぜ~」



 何がうれしいのか知らないが、月長は心底楽しそうに笑うと、しゃがんで俺の右足首と自身の左足首を固定し始める。



「月長は……嫌じゃないのか? これも拘束だけど」

「……大矢くんは運命の赤い糸って信じる?」

「糸はわからないけど、運命は信じてるな」



 この世界のことを一つ上から見ているリル曰く、積み重ねの結果。物事を継続することによって決まる未来。それこそが運命というものらしい。



「つまりはそういうことだよ」



 呆けるように立ち尽くす俺を見上げ、月長は告げる。



 彼女にしか理解できない想いを。



「きついだけが、縛りじゃないみたい」



 そう言うと、月長はきゅっと力強く縛りつけた。




2018年 6月28日(木) 15:24




「せーの、だぞ。せーの」

「うん、任せるよ」


「よし……せー……のっ」

「ぅひゃぁっ」


「……悪い、一歩が大きすぎた」

「だいじょうぶだいじょぶ……。せーのっ」


「うわぁっ」

「ごめんごめん、うまくいかないね」


「いや俺は大丈夫だけど……。服が……」

「私よりも服の心配するの?」


「そういうわけじゃなくてだな……。それより急ぐぞ、だいぶ出遅れた」

「大矢くんらしいね」


「うるさいないくぞ……せーのっ。よし……!」

「大矢くん。1、2でいこうっ」


「よし。1、2、1、2……」

「ちょっ、もっと大きくっ」


「あ、ああ……。1、2……」

「もうっ。また私にエスコートしてもらいたいの?」


「そっちの方がいいかもな」

「そこは男子としてのプライドを見せてほしいなー」


「プライドなんて持ってたら生きれねぇよ……」

「じゃあ私がエスコートしてあげるから。1、2、1、2、1……」


「ちょっ、速いっ」

「あははっ、そのちょーしっ。1、2……」


「くそっ……後で覚えてわぁっ」

「後でなにー?」


「わかったわかったから! ……がんばるよ、俺も」

「うん、がんばれ」




2018年 6月28日(木) 15:27




「今度はびりっけつかー……」

「月長が俺をハメたせいで全然練習できなかったからな」


「私のせいにするつもりー? 大矢くんの運動神経が悪かったんじゃん」

「ぐうの音も出ねぇっす……」



 ブービーから大きく離されてゴールした俺たちは、転がるように列から離れ、地面に倒れ込む。何度も転んだせいで二人とも砂まみれだ。体育着をこんなに汚したのは初めてだな。



「ねぇ、大矢くん」

「なんだ?」


「たのしかったね」

「楽しいかよ。あんなに転びまくって」

「ふふ。そうだね」



 ずっと笑って動こうとしないので、仕方なく俺がハチマキを外していく。月長の肌に触れないよう気をつけないとな。



 そんな時、月長のスカートがわずかに振動した。おそらくポケットに入れていたスマホに通知が来たのだろう。月長がすぐにスマホを取り出して内容を確認する。



 ……くそ、めちゃくちゃ固いな。これどうやって結んだんだ……? 悪いけど月長の脚に触らせてもらって……。



「おおや、くん……。こ、れ……どうしよ……?」



 縄を解くのに手間取っていると、月長が俺の目線の先にスマホの画面を置いた。月長の腕がブルブルと震えていて見えづらいがそこに映っていたのは、



「芽依……?」



 体育倉庫で縄に縛られている芽依の写真と、『誰にも言わずに二人で体育倉庫に来い』というメッセージ。



 差出人欄には、二子玉消という忘れかけていた名前が表示されていた。

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