第2章 第12話 幸せになれない人たち
「ぁ、はは……。かわいそうだね、大矢くん……」
「はは……さすがにこんなかわいそうな奴いねぇよ……」
冷や汗を垂らして気まずそうにしながらも笑みを抑えきれない月長と、あまりの救いのなさに笑うしかできない俺。お互い笑みの意味は違うが、お互い楽しくないんだから笑えない。
「なぁ、助けてくれたりしない? なんか心変わりとかしてさ」
「それは無理……。私を助けてくれるんでしょ。そのまま黙って死んで」
社会的な死、か……。でも思ったより辛くないな。物理的に死ぬ方が億倍きつい。
「俺が捕まったら月長は助かるんだ」
「あの人、あと一つ功績を上げられたら昇進できるんだって。他県の偉い所に勤めるらしいよ。そうしたら私は……救われる……」
「……その話、信じてるのか?」
「信じるしかないじゃん。少しでも助かる可能性があるのなら……私は……」
月長の苦しみは俺には想像もつかない。なんせ犯人が警察官だ。警察に相談しても揉み消されてしまうかもしれない。それに宍戸さんも言っていたが、やはり力の強い相手に逆らうのは怖いのだろう。
終わることない束縛。それに比べたら、俺をハメるくらい何でもないはずた。
「まぁいっか。聞きたいことも聞けたしな」
「まぁいっかって……。私のこと、罵らないの……? 捕まるんだよ、私のせいで……!」
「他人を罵れるほど出来た人間じゃねぇよ。それに罵倒したって意味ないしな。まぁ多少ふざけんなとは思ってるけど、月長たちより俺の方がクズだし。それと早く服着とけ。人来るぞ」
「えっ……えぇ……?」
身体をよじって試着室から抜け出すと、少し上から困惑の声とカーテンが閉まる音がした。なんか月長が本当に困ってるのって新鮮でおもしろい。
「んなこと考えてる場合ですか。捕まられたら私が困るんですけど。文字数埋められないじゃないですか」
今度はリルの声が上方からした。スカートだろうし上は見れないが、少し怒っているような気がする。まぁリルからしたら困るよな。
(だから俺を助けろ。右ポケット、樹来に頼めば何とかしてくれる)
「……いいように使われてる気がしてやなんですけど」
(頼む。俺は今回で終わらせたい。これが最後だと思って)
「また私に聞こえないよう何か考えてますね……まったく」
そう言いながらもリルは俺のズボンからあるものを回収してくれた。これであとは何とでもなる。
「……言っときますけど、違いますからね。私が怒っている理由」
(なにが……?)
「上見るなっ」
(すいません……)
何を怒ってるんだ、リルは。俺の作戦は理解してるはずだろ。それなのになんで、俺の頭を踏みつけてるんだ……?
「私は天使です。だからあなたと同じなんですよ」
(は、ぁ……)
「ほんっとわからない人ですね!」
そしてリルは突然怒りを露わにすると、上から俺の目の前へと移動した。その顔は、
「あなたみたいないい人は、幸せになるべきなんです」
とても悲しそうな色で溢れていた。
「……俺に死んでほしいんじゃなかったのかよ」
「ええそうです。死んでくれるのが理想です……けど。今回のあなたはがんばってました。私が止めたのにがんばって……騙されてるのを知ってもがんばって……。それだけがんばったのに、報われないのはなんか、悔しいです。だから少しくらい、幸せになってくださいよ」
――パンツ見えた。
「死ねっ」
紅い顔でそう叫ぶと、リルの姿が消えていく。思考を読まれるってのも案外使えるな。適当なことを考えていれば騙せる。
……さすがにリルからあんなことを言われたら、な。泣くなと言うのが無理な話だ。
さて、奥の方から二人の警察官が歩いてきた。そろそろ終わりか。
「……月長、一ついいか」
「……なに」
もう一つ聞いておきたいことがあったのを忘れてた。どうして。
「どうして俺だったんだ? 見ず知らずの他人の方がよかっただろ」
「……一番ちょろそうだったから」
「はは、確かにな」
よし、これで全部わかった。あとは捕まるだ……
「私はっ! ウソ、言ってないからね……」
すぐ後ろから声がする。でもどこか遠い。カーテンを挟んでいるからか。あるいは。
「無理してるのも、今日、楽しかったのも……全部、ホントだから……!」
月長が泣いている。でもそれは、俺のための涙じゃない。
「やっぱり俺より月長の方がかわいそうだよ。仕方なくクラスメイトを犠牲にした悲劇のヒロインだ」
「そんな……つもりじゃ……!」
「じゃあ一言くらい謝っとけよ……。別にいいけどさ……」
なんか結局罵倒みたいになっちゃったな。まぁこっちの方が悲劇のヒロイン気取れるからいいだろ。
「風邪ひくなよ。木曜日は体育祭だからな」
そう言ったタイミングで駆け付けた警官に立たされた。そして布を被せられて引っ張られる。これが連行……。テレビとか映るのかな……。
「まぁいっか」
騙されようが、逮捕されようが。俺の意志が変わることはない。
月長を助ける。これさえできれば俺の勝ちなんだ。




