第2章 第10話 陰キャの生態
「月長。俺をハメようとしてるだろ」
それはあくまで俺の推理でしかない。でも確信している。月長が俺を騙そうとしていることを。
色仕掛け。誘惑。月長はそういった類のことを俺にしてきている。じゃなきゃ長袖を着るほど肌を隠したがっていた人間がノースリーブを着ようとするわけがない。
「なにを言ってるのかな~? 水菜ちゃんはただ大矢くんと仲良くなりたいだけだよ~?」
後ろから月長の無理に取り繕った明るい声が届く。だがそもそもそれが間違いなんだ。
「色仕掛けは悪くない選択だと思うよ。特に陰キャをひっかける場合にはな。月長みたいなかわいい子に優しくされたらすぐ好きになっちまう」
ただそれは、ただの陰キャならの話だ。
「俺は人に好かれるようなことは何もしていない。だから人が俺を好きになることはない。勘違いするわけがないんだよ、俺みたいな本物の陰キャは」
自分で言っていて悲しくなってきた。だが悲しいのには慣れている。月長も同じはずだ。
「……どうしてわかったの?」
ぽつりと。そんな小さな声が漏れた。なにやってんだ俺。なんで月長にこんな声を出させているんだ。でも説明しないわけにはいかないだろう。
「最初に違和感を覚えたのはデートに誘った時。いや、あれも元々試すために言ったんだよ。だって月長みたいなかわいい子が俺とデートしてくれるわけがないだろ」
金曜日の夜。俺は警察官、宍戸さん、月長。とりあえず今関連している全ての人に疑いの目を向けることにした。何が起きているのかわからなかったから、全てを疑うことを決めたのだ。
「疑惑が確信に変わったのは、さっき月長が俺に三カ月の付き合いだって言った時。おかしいよな。たかが三カ月同じクラスなだけの人間にあそこまで優しくするか?」
「じゃあ……いい感じになったのは全部演技だったんだ……」
「いや、あんな風に言ってもらったことは素直にうれしかった。自分でも驚くくらい心を動かされた。でも優しくされるのに慣れてなくてな。裏があると疑ってみたらピッタリだったってわけだよ」
つまりはこういうことだ。
「月長は何らかの目的で俺を惚れさせたかった。だから俺とデートしたし、俺に優しくしてくれた。そうだろ?」
今までの全てが嘘だったわけだ。だがそれはどうでもいい。そんなことで傷つくほど自己肯定感は高くない。それに俺を惚れさせることは、俺の目的とも合致している。
「俺の意思は昨日言った通り変わりない。月長を助けたい。だから教えてくれ、全部。月長の身に何が起こっているのかを」
それさえわかれば過程なんてどうでもいいんだ。月長に言われた通り楽しみたい、けれど。それ以上に俺は月長に幸せになってほしい。
「……どうしてそこまでしてくれるの? 私のために……なんで……!」
今にも泣き出しそうな。そんな苦しそうな声がすぐそばで響く。そんなの、一つしかないだろ。
「月長がいい人だから。いい人は幸せになるべきだ。当たり前のことだよ」
それがここまで俺が月長に拘る理由。リルに止められても、月長に騙されても。この想いだけは変わらなかった。
「……そうなんだ。やっぱり大矢くんは優しいね」
「言っただろ、当たり前のことだって。俺は別に……」
「じゃあ、さ――」
突然。俺の腕が引っ張られ。
「――私のために、死んで」
全裸の月長が、あの時の警官と同じ瞳で俺を見つめた。
「きゃーっ! 誰か助けてーっ!」
俺を試着室へと引きずり込んだ月長は叫ぶ。縄で縛られて内出血を起こした跡を身体中に纏って。
「つき、な……!」
「どうしましたっ!?」
そこに都合よく一人の警察官が現れる。人の顔を覚えるのが苦手な俺でも、決して忘れられないこの瞳。
「この人に、襲われました」
「なるほど。それは、大問題だ」
「あんたが彼氏かよ……!」
あの夜出会った警察官が、ハメられた俺を見てにっこりと笑った。




