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こんなはずじゃなかったのに。~ボッチだった高校生活をやり直します~  作者: 松竹梅竹松
第2章 高1夏・体育祭

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第2章 第5話 複雑怪奇

2018年 6月22日(金) 21:19




「ほんっと主水さんって主人公補正効かないですよね。せっかくのタイムリープ持ちなのに」

「反論したいけどこの有様じゃな……」



 宍戸さんに教えてもらった月長の彼氏の家の前に到着してから約5時間。俺は延々と電柱の陰に隠れ続けていた。



「普通こういう時って『ヒロインを懸けて彼氏と対決! やーん私のために争わないでー!』展開になると思うのですが」

「俺もそう思ってたよ。まぁ役者じゃないってことなんだろ」



 彼氏が住むアパートを見据え、リルと暇つぶしがてら会話をする。ここの204号室に月長はいるらしいのだが、全く出てくる気配がない。窓はずっと暗いままなので家にいない可能性もあるが、いい加減に夜も深まってきた。お互い学生だろうし、そろそろ何らかのアクションが起きてもおかしくないとは思うのだが……。



「もしかしてお泊まりケースとか?」

「週末だし可能性はあるけどな……。そうなったらお手上げだ」



 そろそろ俺も帰りたくなってきたが……一週間しか期間はないのに収穫なしというのもいただけない。



「まぁ22時くらいまでは待ってみるよ」

「うっ。あの主水さんがここまでがんばるなんて……!」



 リルがわざとらしく目元に手を添えた。俺の考えていることは全てリルにはお見通し。だからこその反応だと思うが、



「そんなに驚くほどのことじゃないだろ。俺はただ当たり前のことを考えてるだけだ」

「そうは言いますが……ここまで律儀な方もいませんよ。さすがは陰キャ。無駄なところで真面目ですね」

「ほっとけ」



 確かに無駄だ。俺が月長を助けたいと思っているのは自己満足。たぶん理屈的には変なのだろう。



 でも欲張ると決めた以上、ここで引き返すわけにはいかない。今日収穫なしだと、土日を挟んで残り4日しか猶予がなくなる。このままみんなと仲良くするのも悪くないが、なにか劇的な一手がほしい。これも俺がここまで粘る理由の一つだ。



「ここまでがんばっている主水さんへのサービスです! ちょっと様子を見てきますよ」



 泣き真似はしていたが、本当に感心していたのだろう。なんとリルが204号室に入ってくれた。天使体なら壁なんて存在しないも同義。リルの姿が壁に吸い込まれていく。さて俺は……。



「警察です。君、そこで何やっているんだい?」

「うわぁっ!?」



 そう。俺は電柱の陰に隠れていた。たった一人、制服で、夜に。どう見ても不審者である。非番中に見かけたのだろう。私服の若い大柄なイケメンが声をかけてきた。



「その制服……暦学園高校のだよね。こことはは結構距離があると思うけど」



 まずい。完全に怪しまれている。言い訳。とにかく言い訳を考えないと……!



「実は友だちがこのアパートに住んでて……出てくるの待ってるんです」



 ここで下手に嘘をついてばれたら最悪。なので限りなく真実に近い嘘をつくことにした。具体的にはアパートに住んでいるのと、友だちなのが嘘。いやさすがに俺と月長は友だちか……? 記憶がないとこういう時困る。



「……でも君さっきまでずっとボソボソ独り言言ってたよね。本当に友だちを待っているのかな? ちょっと署まで来てもらおうか」



 それ以前の問題かよ……! くそ、ここで変な揉め事を起こしたら月長に迷惑がかかるかもしれない……!



「いやほんと友だち待ってるだけなんで大丈夫です……!」

「言わなかったけど、このアパートワンルームなんだよね。高校生が暮らすところだと思うかい?」


「家庭環境にもよるんじゃないですかね……」

「じゃあちょっとその友だちに連絡してもらえるかな」



 だめだ逃げ切れない! なぜだかよく職務質問は受けるが、歴代一のしつこさだ。しかも今俺は生徒手帳を持っていない。これ、本格的にやばいんじゃ……!



「お待たせしましたーっ!」



 一か八かの逃走を図ろうとしていると、2階の階段から綺麗な女性の声が聞こえてきた。その子はバタバタと音を立てながら階段を降り、俺の腕に抱きついてきた。



「もしかして先輩職質中ですかー? もう、いい加減独り言言う癖治した方がいいですよー?」

「リル……!」



 ナイスすぎるフォローを出してくれたのは、実体化したリル。しかもいつもの純白セーラー服ではなく、暦学園のブレザーを着用している。俺の危機を察して助けてくれたんだ。



「この子が待ってたっていう……」

「そう! そうです! おい遅いぞリル! お巡りさんを困らせちゃっただろ!」

「えへへごめんなさーい! じゃあ私たち、これから学校に泊まらなきゃいけないんで失礼しまーすっ」



 この時間に外出することへのフォローも入れながら、リルは俺の腕を引いてその場を立ち去ろうとする。しかし警察官はそれを許さなかった。



「……ちょっと待ってもらえるかな」

「まだ何か……?」



 なんだこの警官……。さすがにしつこすぎるぞ……! 恐る恐る警官の目を見てみるとその瞳は、



「君、どの部屋から出てきたの?」



 深い闇を想起させる黒に染まっていた。



 まだ俺たちを疑っているのか。はたまた別の理由があるのか。とにもかくにも、普通じゃない。



「最近この辺りに暦学園の制服を着た不審な女性が出没しているんだよ。ちょっと詳しく話を聞かせてもらっていいかな」



 180を遥かに超える体格の警官が、俺たちを睨みつけるように見下ろす。とてもじゃないがその話が真実だとは思えない。あるいは真実だとして、ここまで疑いの目を向けるものだろうか。



 第一電車通学なんて普通だし、そもそもここは自転車でギリ通える地点。暦学園の生徒がいてもおかしくないが……。



 いや、待て。よく思い返してみれば違和感はあった。なぜ宍戸さんは後輩の彼氏の家にここまで詳しい……? 勉強は苦手そうだったし、初見の俺が迷うことなく辿り着けるほどの地図を書けるなんて変だ。



 警察官……宍戸さん……月長……。一体何がどうなってるんだ……!



「これ以上の話なら学校の方を交えてみるのはどうでしょうか?」

「……いや、そこまで大ごとじゃないよ。呼び止めて悪かったね」



 結局リルの第三者を入れるという提案を嫌がった警察官は、すぐに俺たちを解放した。これ以上ここにいるわけにもいかないので、仕方なく俺は家路を辿ることになった。



「悪いことは言いません。この件から手を引いた方がいいです」



 警官が離れたのを確認したリルは、開口一番そう発言した。いつになく真面目な表情。リルがここまで言うなんて……。



「そんなにやばいのか……?」

「それに加え、旨みがないんですよ。水菜さん一人にこだわるより、他の方々と仲良くなることに集中した方がいい。ほら、二人三脚を練習するよりリレーの練習をした方がクラスに貢献できるでしょう? そういう話です」



 ……リルらしくない。よほど話したくないのだろうか。でもそれで納得するわけにもいかない。どんな決断を下すかは置いておくとして、聞かなければ話は始まらない。



「月長はいたのか?」

「……いました。ですが詳細については話す気はありません」


「それは天使としての判断か?」

「……いえ。同じ女性としての心遣いです」



 そういう話かよ……くそ……!



「……気が変わりました。ここで中途半端に隠す方が彼女の名誉を穢すことになりそうです。いいですか、これは決して彼女が望んでしたことではありません」



 そしてリルは嫌悪感を隠そうともせず、口早に月長の状況を伝えた。



「目隠し、ボールギャグ、首輪、手錠、足枷、鎖、縄……。これがほんの一部です」



 なるほど、確かに束縛がきつい彼氏だな――



「――くそが」

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