表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こんなはずじゃなかったのに。~ボッチだった高校生活をやり直します~  作者: 松竹梅竹松
第1章 高1春・オリエンテーション

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/126

第1章 第12話 無意味じゃない人生

「……ん?」



 身体に張り付く布の不快感を覚えて目を覚ます。しかも下はゴツゴツとした岩場。寝床としては最悪だ。なんで俺がこんなところで……。



「……七海!」



 思い出した。俺は七海を助けるために川に飛び込んで、一緒に溺れたんだった。慌てて辺りを見渡すと、



「うええええええええんっ、恐かったよ紅ぉぉぉぉっ」

「ああ、よくがんばったな。もう大丈夫だ」



 少し離れたところで服をぐっちゃりと濡らした樹来に抱きついていた。なるほど、樹来が俺たち二人を助けてくれたのか。



「溺れた人間二人を助け出すなんて人間では無理ですよ」



 俺の考えにすぐさま返してくれる声。リルが思考を読み取ったんだ。……あれ? リルって……。



「俺の前に出てこないって……」

「おっと振り向かないでくださいね。人間如きに見られようと何ら問題はないのですが、恥ずかしいものは恥ずかしいのです」



 声がした背後を向こうとすると、後ろから両頬を抑えられて前を向かされた。チラッと見えたけど髪や服が濡れていた。



 まさか実体化して俺たちを助けてくれたのか。ていうか天使でも下着着ける痛い痛いっ! 正面どころか首が一回転するほど力が強くなったっ!



「なんで助けてくれたのに殺そうとするんだよ……!」

「勘違いしないでくださいね。あなたには死んでもらいたいですが、それは最終的にです。こんなところで死なれても文字数が埋まらないじゃないですか」


「ツ、ツンデレ……!」

「いやマジな話です。それとさっき見たのは忘れてください」



 そんなに下着見られたのが痛い痛い痛いっ! ほんとに死ぬっ!



「それともう一つ。さっきの事故は元々発生していたものです。七海文さんが足を捻ってしまって流される。それを樹来紅さんがかっこよく助ける、っていうのが元々の歴史です」

「なるほど、俺のやったことは完全に無駄だったってわけか……ほんとどうしようもないな」

「そうですね。どうしようもないし、無駄でした」



 思わず自嘲の笑みが零れる。そんな中、俺の頬を強く抑えていた手の片方がお腹を包み、もう片方が優しく俺の頭の上に添えられた。



「それでも、無意味ではないはずです」



 水に濡れて潰れた髪の下に、柔らかな感触が伝わってくる。慈愛。普段のリルからは想像もつかない言葉だが、想像する天使のような慈愛の心が俺を包み込んできた。



「意図したつもりはないでしょうが、あなたのその行動によって確実に運命は変わりました。それはほんのちょっとかもしれません。一言お礼を言われるくらいの、本当にちょっとした変化でしょう。それでも行動を起こしたから未来は変わったのです」



 別にお礼を言われたかったわけではないし、言われたところでどうとも思わない。どうせ俺には過ぎた言葉だ。



「そうですね。でもそういうちょっとした変化の連続が運命を変えるものです。私はそんな行動をした主水さんを尊敬しますよ」



 尊敬、か。でもリルにされてもな。リルに何を思われても俺の死は変わらない。でも死ぬまでに胸の感触痛い痛い痛い痛い痛いっ!



「ほんっとにわからない人ですねっ! 無駄な言い訳はいいから素直に受け止めなさいっ!」

「わかったわかったから首から腕を放してくださいまじで死ぬ」

「君、ちょっといいかな?」



 リルによるチョークスリーパーを耐えていると、追いついた月長たちに七海を任せた樹来が近寄ってきた。びしょ濡れなのに、いやだからこそイケメン度が高まってる気がする。自分ではわからないが、間違いなく俺とは大違いだ。



 それにしてもまずいことになったな。リルの姿を見られた。こんなところに普通の人間がいるわけがない。どうにかして言い訳をしないといけないが、俺はまだ首を絞められていてちょっと待ってマジで気絶しそう。



「助かったよ、一緒に引き上げてくれて。お礼がしたい。よかったら名前を教えてくれないかな」



 すごい、初対面の女子に話しかけてるのに全く淀みがない。さすがは樹来ってところだな。それに対してリルは、



「通りすがりの美少女JKです。覚えておかなくて結構です。それじゃっ!」



 俺の首から腕を放すと、しゅびっ、って感じで森の奥に駆けて行った。



「あぁっ、待って!」

「ふー。危ない危ない、主水さんと遊んでる場合じゃありませんでした」



 樹来が追いかけようとすると同時に、天使体になって俺の元に帰ってきたリル。服はすっかり乾いていて痛い痛いまだ何も言ってない! ていうか腕だけ実体化とかできるのか。



(でも本当に危なかったな。実体化は控えた方がいいんじゃないか?)

「誰のせいで実体化したと……! いえ、というか、」



 リルを追いかけて森の中に入っていった樹来が帰ってくる。走ったのか顔がわずかに紅潮した樹来を見て、リルはつぶやいた。



「もうまずいことになってしまったのかもしれません」

「? どういう意味?」

「そのうち説明しますよ。もっとも、そのうちが来るまで未来を変えられなかったらの話ですけど」



 そうだった。明日の午後1時半に俺は元の世界へと帰る。



 そして未来が変わっていたら生き残り、変わっていなかったら死が待っている。



 過去に戻るチャンスは卒業アルバムに載っている俺の写真の枚数。10回だと言っていた。つまり今回を逃してもまだあと9回やり直すチャンスがある。



 それでも。やり直すのに一番都合のいい入学直後に何もできないのだったら、これ以上の変化は無理だろう。



 全ては芽依にかかっている。卒業式の日に一緒にいてほしい。その願いが叶っていることを祈るしかない。



 だがまだ一日ある。行動すれば未来が変わる。リルの発言が本当なら、俺は。



 もう一度、がんばってみるか。



 陰キャらしくない行動を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ