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こんなはずじゃなかったのに。~ボッチだった高校生活をやり直します~  作者: 松竹梅竹松
第1章 高1春・オリエンテーション

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第1章 第9話 青春の始まり

2018年 4月3日(火) 21:57




「悪い、待たせたか?」



 その日の用事が全て終わった夜。俺は芽依に呼び出され、共同コテージの裏に来ていた。こんな所に来る人はいないのか全く整備はされておらず、大きな石が転がっていて歩きづらい。



「ううん、わたしも今来たとこ」



そんな中、月明かりに照らされた芽依はたった一人立っていた。光源が空とコテージから洩れる明かりしかないので見えづらいが、とても真剣な表情をしているのがわかる。



「……それで、何の用?」



 芽依の前に立ち、訊ねる。少し声が上ずったのがわかった。めちゃくちゃ緊張してるんだ。



 その理由はわかりきっている。夜、人気のない場所、女子と二人きり。ありえないとわかっているが、どうしても意識してしまう。



 もしかしてこの子、俺のこと好きなんじゃないかって。



 いやいや本当に可能性はゼロなんだ。一目惚れでもない限り出会って数日で告白されることなんてありえない。



 それでも。お風呂上りで湿った髪。火照った頬。シンプルな寝間着。プライベート感の出る眼鏡。こんな女子の姿を見て平然としていられる男なんてこの世に存在しない。



「その……ちょっと……なんて言うか、さ」



 芽依は顔を俯かせ、前で組んだ手をもじもじとさせる。そして一度深呼吸をすると、意を決したように口を開いた。



「もう指示出すの、やめてくれない……かな」



「……え?」

「今まで色々あったけどさ、その……あんまり楽しくなかったっていうか……ただ指示通りにしてただけだから……。もう仲良くなってきたし、素を出してもいいかな……って思ったの」



 やはり告白ではなかったが、それ以上に最悪なお願いをしてきた芽依。まだわかっていなかったのか。



「その仲良くなれたのも俺のおかげだろ。……まぁ全部が全部俺の手柄ってわけじゃないけど、俺の指示があったから芽依は今リア充グループにいられてるんだぞ」

「うん、本当に感謝してる。ありがとう……。でもみんないい人たちだし、計算で接するのは間違ってるんじゃないかなって……」



 馬鹿かこいつは。どれだけ仲が良くたって、みんな少なからず必ずどこかで計算をしている。それを放棄することは自分の意見だけを押しつけるにも等しい傲慢な行為だ。



「わかった、少し調整しよう。でも大まかな部分は従ってくれないと……」

「だから! それをやめてほしい……って言ってるの。もうわたしは大丈夫だから……」



 ……ちょっと待て。芽依のやつ、完全に俺から離れる気か……? それはまずい……!



「大丈夫なわけないだろ! 俺たちとあいつらは根本的に違うんだっ!」

「おんなじだよっ! おんなじ、高校生。リア充とか陽キャとか……そういうので区分する方が間違ってる」



 そんな綺麗事を言って何になる。実際は違うだろ。俺と樹来が同じだとしたら、今の俺はなんだ。なんで俺はこんなことになってるんだ。



「リア充になりたいだろ……? 俺がいれば絶対に……!」

「……じゃあいいよ。わたしはリア充にはなりたくない。ただみんなと一緒にいられればそれでいいから」



 それをリア充って言うんだろ馬鹿が。自分がどれだけ高望みな発言をしてるかわかっているのか。



 わかっていない。根本的に、わかっていないんだ。この世界のどうしようもない理不尽を。



「俺たち陰キャが這い上がるには計算しかないんだよっ! いいから黙って俺の言うことを聞いてろっ!」



 パチン、という優しい音と、小さな痛み。



 俺の頬を、芽依がはたいた。



「芽依……?」

「わたしはあなたみたいなクズとは違う。一緒にしないで」



 眼鏡の奥の瞳にわずかな涙を滲ませた芽依は、それっきり何も言わないで帰っていった。



 あいつらの元に。棲む場所が違う、リア充たちの世界に。



「――ああ、そうだよ。お前は俺とは違う」



 誰もいない闇にそう伝え、俺はその場に腰を下ろした。ゴツゴツとした岩が突き刺してくる。ただ座るだけでもこの厳しさ。本当に生きるのに向いていない。



 芽依は元々カーストトップにいたんだ。俺の助けがなくても自力であの中に入っていける。



 でもそうしたら俺はどうなる。芽依という協力者を失った俺は、どうすればいいんだ。



 確実に芽依に嫌われた。当然だ。勢いとはいえ最低なことを言ってしまった。コミュ力が低すぎたせいだ。



 俺は俺のことが嫌いな人とは一緒にいられない。自分のことがかわいいから。傷つきたくないから。



 だからあのグループにはいられない。でも他のグループに今さら入れるわけもない。



 そうしたらどうなる。またボッチに逆戻りだ。せっかくやり直したのに。



 俺は、一人っきりで、死んでいく。



「――嫌だ」



 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。もう死にたくない。あんな痛みはもう二度と味わいたくない。本当に痛いんだ。耐えられないんだ。辛くて辛くてたまらないんだ。




「くそ――」



 どうしようもなく涙が溢れてくる。どうしてこんなことになったんだ。俺は何か間違ったことを言ったか? 言ってない。正しかったはずだ。間違ってるのは芽依の方だ。俺は何も悪くないんだ。



「リルっ!」

「はい。どうしましたか?」



 木の陰から微笑を浮かべたリルが現れる。こうなったら手段を選んでいられない。何としてでも生き残ってやる。



「俺に協力しろ。実体化して芽依の前に現れるんだ。あいつはリルに憧れてたみたいだし、リルから言えば……!」

「言いましたよね? 私、あなたに死んでほしいって。なるべく派手に」



 リルの顔が月明かりに照らされ、くっきりと浮かび上がる。楽しそうな顔だ。心底楽しそうに、笑っている。



「ずっとこうなるのを待ってたんですよ。あなたが失敗するのを。全部思い通りなんてつまらないじゃないですか」

「……俺は間違ってない……!」

「そうですね、間違ってない。あなたの言っていたことは概ね正しいです。でも神から目線で正論を言ったってその通りに動くわけないじゃないですか。この世界に神様なんていないのだから」



 じゃあ。



「じゃあ俺はどうすればいいんだよ……! もうがんばったんだよ……! 俺なりに、がんばったのに……!」

「そんなのわかりきってるじゃないですか。もっとがんばるんです。運命を変えられるくらいに」


「だから、もう俺は……!」

「まだできることはたくさんありますよ? そもそも主水さん、全然自分から行動してないじゃないですか。私に言われた通りに美容院に行って、芽依さんを使って友だち作り。もっと自分から行くんですよ。みんなやってる、普通のことです」



 普通って……。普通がどれだけ難しいことなのかわかっているのか。



 俺は人より劣っている。全部が全部。みんなの普通が高すぎる壁なんだ。



「じゃあ諦めますか? 別に私は構いませんよ。まだ替えは利きますし」

「…………」



 諦める。つまり、死を受け入れる。やり直しても直せないと逃げ出してしまう。



「それは嫌だ、けど……!」

「まぁどちらにせよ、残り三日猶予があります。これからの時間、私が姿を見せることはありません。自分から行動して失敗するか、そのまま何もせずに失敗するか。自分で考え、自分で決断してください。もう二度と、やり直すことはできないのですから」



 遠くからそれだけ言うと、リルの姿が透明になり景色と同化してしまう。今この場にいるのは俺一人。



 いつだってそうだった。いつも一人で考えて一人で決断してきた。逃げの行動を。



 でももう逃げ出すことはできない。逃げたら死んでしまう。立ち向かわなければならない。



「くそ――!」



 これ以上ここにいたら凍えて死んでしまう。



 否が応でも、俺は立ち上がるしかなかった。

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