第4章 第10話 ゲンメツヒーロー
2018年 12月20日(木) 12:32
「悪いな、樹来。いきなり呼び出して」
真昼間に学校に到着した俺は、金間たちと昼食をとっていた樹来を中庭に連れ出した。暦祭ではうざいくらいに生えていた雑草がめっきり数を減らしている。業者が刈り取ったからか、冬になったからなのかはわからないが、時間の流れを感じさせられた。
「……いや、構わないよ。こうなることはわかってたからな」
俺なんかの呼び出しを素直に受けた樹来の表情にはどこか陰が見える。それはそれでイケメンなのが腹立たしいが……だからこそ。
「お前、今までなにやってたんだよ」
暦祭から2ヶ月。訪れた悲惨な現状に怒りが隠せない。
「芽依たちは付き合えず、月長に至っては学校に来ていない。俺、託したよな。全部、お前に」
暦祭最終日。合宿所で頼んだんだ。自分を犠牲にしてでもみんなを救ってあげてくれって。樹来になら。俺が知っている樹来ならそれができるから。
「なんで何もやってくれなかったんだよ。わかってるだろ、今がよくない状況だって!」
「俺も最初は色々したけんだどな。でも無理だった」
「んなわけないだろ! お前が本気でやったなら必ず救えたはずだ!」
樹来はヒーローだった。俺はクラスの端で見ていることしかできなかったが、その分わかっていた。樹来がどれだけ凄い人間かということを。
「今日の放課後、月長の家に七海と一緒に行くことになってる。俺があいつにひどいことを言うからぶん殴ってくれ。体育祭の時と同じだよ。お前がヒーローになってくれれば……!」
「いいや、断る」
「は……?」
なんだこいつ、俺に遠慮でもしてるのか? だがこれしか方法がないんだ。ちょうど俺は月長に嫌われている。フったから。きっと俺に恨みを持っているはずだ。それを利用すれば全て上手くいくのに。
「むしろ逆の方がいいんじゃないか? 俺が悪役を引き受けるよ」
「いやそれは……意味わかんないだろ……」
樹来が泥を被る必要はない。というかできない。樹来がそんなことする奴じゃないことくらい誰だってわかるんだから。
「そもそも樹来じゃなきゃ助けられないんだよ。そんなかっこいいことできる奴、樹来くらいしかいないだろ」
「そうか? オリエンテーションで文を助けたのも、体育祭で水菜を助けたのも全部お前じゃないか」
「はぁっ!?」
なに、言ってんだ、樹来。そんなどうでもよさそうな顔して。
「七海の時は溺れただけだし、月長の時なんてただボコられただけだろ俺は……!」
「どうかな。両方とも俺は降ってきた手柄を拾っただけだ」
「そうじゃ、ないだろ……! 俺はお前がいたから無茶できただけで……!」
「じゃあ暦祭のことはどう説明する? お前は中途半端だった出し物を成立、いや成功させ、孤立していた十六夜さんに友だちを作った。俺は何もしていないが」
「そ、れは……」
「それにリルさんとも仲良くしてるしな。全部俺にはできなかったことだ」
それらを説明するには、俺がやり直しをしていたことを告げなければいけない。なんとかごまかさないと。
「俺は特別何もやってない。ただみんなが上手くやってくれただけで……」
「そのみんなをやる気にさせるのも才能だと思うけどな」
「お前の方が、上手いだろ……」
何が言いたいんだ樹来は。俺なんかを持ち上げたところで意味なんてあるわけないだろうに。
「二つ、言っておく」
何を言えば樹来を納得させられるか考えていると、樹来が言う。
「俺もがんばった。水菜の家にももう行ったし、芽依たちの仲もとりもとうとした。だが無理だった。言っただろ? 俺は普通の人間なんだって」
そんな、はずはないんだ。樹来はいつだって全部上手くやるヒーローなんだから。それなのに。
「俺はヒーローになりたかった。顔もいいし、他の人より要領もいい。だからできると思っていたんだ、全部。お前と出会う前は」
それなのに、なにを、言っているんだ……!
「俺はお前よりも優れている。全てが。全てにおいて俺はお前に勝っている。そう思っていたのに、そうじゃなかった。俺にはどうしようもないことも、お前は解決してきた。なぜかはわからないが、いつだって……。だから俺は――」
こんなことありえない。樹来が、あの誰にでも優しい完璧人間が。
「――お前が嫌いだ」
俺なんかに嫉妬しているなんて。




