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第0章 第1話 こんなはずじゃなかったのに

2021年 3月21日(日) 16:58




「こんなはずじゃなかったのに」



 卒業式が終わり、一人家に帰った俺は、気づけばそう言葉を漏らしていた。



 高校3年間、友だちゼロ。部活はやってないし、当然彼女もいない。かと言って勉強をがんばったわけでもなく、進学先は中の下の大学。



「なんだったんだろうなぁ……俺の高校生活は」



 高校生って言ったら人生で最も楽しい時期のはずだ。そうでなければあんなに漫画やアニメで舞台になるはずがない。



 そんな夢のような時間を、俺は無為に過ごした。何の意味もない日々だった。つまらなく、退屈で、無意味な3年間だった。



「もう一度……やり直せたら……」



 投げ捨てたバッグから飛び出た卒業アルバムが同級生の笑顔を映し出す。この当たり前のみんなの中に俺も入れていたら。きっと今頃はクラスメイトと打ち上げにでも行って、過去を偲んだり、未来に希望を抱いたりしていたのだろう。



「まぁいっか……」



 そんなこと考えるだけ無駄だ。どうせ過去になんて戻れやしないのだから。



 さて、大学が始まるまでの短い春休みのことを――



「――が、っ、ぁ……!?」



 なんだ、これ……心臓が……痛い……!



「ぐっ、ぁ……!」



 とても立っていられず、自室の床に倒れ込む。尋常じゃない痛みだ。身体は動かないし、呼吸もできない。一度骨を折ったことがあるが、その痛みを数十倍に凝縮し、体内で爆発させられたような感覚だ。



 もしかして俺、死ぬのか――?



「は、はは……」



 なぜだか笑みが零れる。なんだこの人生。全部無駄だった。何も楽しいことはなかった。何も成し遂げられず、誰にも気づかれずに死んでいく。



 まぁいっか。どうせ俺が死んでも悲しむ人はいない。両親は既に死んでいるし、唯一いる妹も普段から俺に死ね死ね言ってるんだ。何の問題もないだろう。



 目が霞んできた。もう本当に駄目なんだろう。でも後悔はない。どうせこのまま生きてても意味なんてないんだし。せめて妹が見つけた時にショックを受けないよう綺麗な体勢で――。



 そんな時、卒業アルバムが目に入った。もがいていた時に捲ってしまったのだろう。さっきまでとは別のページが俺を嗤っていた。



 何もない白紙のページ。本来であればクラスメイトの寄せ書きでいっぱいになっている最後のページが開かれている。



 その白紙は俺の人生を表しているようで。



 やっぱり悔しくて仕方なかった。

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