異世界の化物
順にお話ししましょう、と鉄仮面の男が言ってからタイミングを見計らったかの様に獣が咆吼したかの様な聞いたことのない鳴き声が聞こえ、ツキジは思わず耳を塞いだ。
「ぎゃっ、な、なに」
「下がっててください」
それを着て、とツキジが抱えているロングジャケットを指差し、男は慌てる様子もなく拳銃を構え、ツキジを守る様にして目の前に立つ。
言われるがまま、ツキジは大慌てでロングジャケットを羽織って立ち上がる。
下着も何も身につけていない上からロングコートを羽織ったものだから、どこかの露出狂にでもなった様な気分になり、ツキジは少し落ち込む。
ーーーーこれで見知らぬ人の前でファサッとコートの前を開ければ、変態の出来上がり。・・・・っていや、そんな事考えてる場合じゃない。
「いまの鳴き声は何ですかお兄さん・・・・っていうか今更ですが、お名前を聞いても!?」
「申し遅れました、私はあなたを護衛する為の兵士a-0756です」
「まさかの番号・・・・え、名前はないの?」
ありません、と言いながらa-0756(とりあえずこう呼ぶ事にする)は11時の方向に向かって迷うことなく銃を発砲させた。
その瞬間先ほどよりも耳をつんざく様な咆哮が聞こえ、ツキジは恐怖のあまりにa-0756にしがみつく。
「なに、なにがいるのおお!?お化け?怪獣?クマ?」
「離れて下さい。・・・・ヴァルガと呼ばれる瘴気から産まれた化け物です。あれは人間の命力を餌としています」
ーーーー日本語なのに何を言ってるのかわからない。
頭の上にたくさんのクエスチョンマークを浮かべている間にツキジはついに化け物の姿を目の当たりにした。
霧のような靄で最初は全く見えなかったが、森の奥深くからズゥン、ズゥン、と巨大な体を揺らし、ツキジ達の前に姿を現したそれは、見たのことのない生物だった。
鱗のような皮膚に怪物の様な鋭い爪のある巨大な手。そして、全身は黒煙に覆われたかの様に真っ黒だった。目や鼻は見えず、牙の生えた口元だけが見えていた。
「お、お化けじゃん・・・・いや怪物じゃん・・・・!!え、なに、あれ、やだ、怖い、怖いよ!」
「そうですね、怪物の様なものです。わかったならあなたも戦ってください。・・・・貴女は狼狽える事しか出来ないのですか」
「なんでそんなキツイ事言うの!ていうか今、戦えって言った!?」
無理に決まってる、といった様な目でツキジはa-0756を見つめると、彼は銃の標準をヴァルガに当てたまま「焚き火近くに、貴女の剣があります」と冷静に話し掛ける。
「け、剣?」
「月光の剣です。命力を持たない貴女は瘴気から身を守る為にその剣を肌身離さず持っていないといけません。詳しくは後で話します。・・・そして、その剣は月光の戦士に選ばれた貴女になら使いこなせるはずです」
「よくわからないけど、とりあえず剣は持っていないとダメなんだね!?でも、使いこなすのは無理だからね!?」
ツキジはヴァルガという化け物と訳の分からない状況に目に涙を浮かべながら、焚き火近くに戻り、剣を探す。
剣はツキジの元着ていたびしょ濡れの服の下に潜んでいた。暗闇でよく見えないが、ゲームやアニメの世界でよく見る剣を目の当たりにし、少しだけ興奮する。
まるでファンタジー世界の主人公になった気分。世界を救う勇ましい勇者の姿が頭の中に浮かぶも、すぐに今はそんな場合ではないと首を振り、a-0756に向かってツキジは大声を張り上げる。
「はい、はい、剣とりましたぁ!あんなのに勝てっこないから、早いとこ逃げましょう!?」
「っ、大声を、上げるな!!」
「へぇええ!?」
a-0756に怒鳴られて萎縮した瞬間、ヴァルガの顔がぐるりとツキジの方へ向き、唸り声を上げた。
「・・・・、ひっ・・・・!?」
ヴァルガの顔に目はないが、しっかりとツキジの姿を捉えているのが分かった。あの怪物は今、確かにツキジを獲物として見つめている。
手汗握る手で剣を両手で持ちながら、カタカタと震えるツキジは恐怖のあまりその場から動けなくなる。
「月光の戦士様、剣で応戦してください」
a-0756に指示を出されるも、ツキジはブンブンと首を振り、「で、できなぃい・・・無理だ・・・・死ぬ・・・こわい・・・・・」と小声で呟き、その場で立ちすくむ事しか出来なかった。
先程までヴァルガを引きつけていたa-0756は怯えるツキジの様子を見ると、ヴァルガの足止めする為、足をすぐさま銃で狙い撃ち、ツキジの元へとすぐさま走り出した。
巨大な手に比べて細い足をしているヴァルガは、足を打たれた瞬間奇声を発して体のバランスを少し崩す。
「・・・・・ァ・・・・・グゥ・・・・・!!」
足を打たれた恨みは目の前のツキジに向けられた様で、無いはずの瞳がツキジを睨みつけ、巨大な手をブンと一振りすると真っ赤な炎が槍の様になりツキジの体めがけて飛んでいった。
「いっ、いやああああああああああ!!!」
炎の槍が飛んでくると同時に緑色の風が後ろから自分の体を包んでいくのをツキジは気づく事が出来ず、喉が枯れるんじゃ無いかと思うくらいに絶叫した瞬間、ツキジは手に持つ"月光の剣"に満月の光が反射してキラリと光るのを見る。・・・・・そして、
ーーーーー落ち着け、情けない声を出すな。・・・・・大丈夫だ、お前は私が選んだのだ。
そんな声が頭の中で聞こえるのと同時に、ツキジの手足が風を切るかの様に素早く動き、両手に持っている剣で目の前に迫る炎の槍を一刀両断したのだ。




