託された歌は『月の路』
‥‥歌が聞こえる。
瞳の中が眩しい光で支配されたツキジは聞こえてきた歌の方角へと顔を傾ける。
その歌は頭の中で心地よく響き渡り、ツキジはある記憶が蘇る。
‥‥静かな病棟の片隅の小さな部屋に、か細くも芯の通った美しい、天使のような歌声が響き渡る。
その歌声にツキジは聞き惚れ、この地球という場所からこの空間だけ切り離されたような不思議な感覚に陥っていた。
「この歌はね、"月の路"っていう名前にするの」
歌が終わりを迎えると、いたずらっ子の様にクスクスと笑い、まるで絵画から飛び出したかの様に美しい少女、日向はツキジの手をギュッと握りしめた。
「つきの、みち?」
「そう」
日向は頷くとツキジの手を自分の頬に当てて、「月の路・・・・ツキジ。あなたの曲」と愛おしそうに呟く。
「私が作った、あなたの曲」
忘れないで、と言って日向はツキジの瞳を優しく見つめた。
「この歌に私の命の力を全て吹き込んだ。・・・・私が居なくなっても、この歌をあなたが歌うことで私はずっと生き続けることが出来る」
そのまま消えてしまうのではないかと思うくらいに弱々しく微笑む日向を見て、ツキジは思わず握られている日向の手を強く握り返した。
「歌にはね、歌う人の命の力を分ける力があるはずなの。・・・その人が生きようとする意思を持ち続ける限り、きっと無限に」
「歌う人の、命の力・・・・」
「歌い続けてツキジ。どうか、この歌を・・・・・届けて」
ツキジはその日、"月の路"という日向の命の力を吹き込んだ大切な歌を授かった。この歌を人々に届ける事が自分の役目だと信じ、歌手になる事を決意した日だった。
ーーーーーーーーその数日後に日向は病院の屋上から飛び降り、自殺した。




