笑顔の少女
「この森を抜ければテアザントに着くよ」
歩き始めて二日ちょっと(野宿含む)、足が棒の様になってツキジが何度も弱音を吐く度ライノスに思い切り背中を叩かれて気合を入れさせられるのでいろんな意味でツキジはすっかり疲労してしまっていた。
昨晩は結局、ツキジが試しに剣を持ってみてもエオルがツキジに憑依する事はなく、嫌だと言ったのにクロウに気絶させられて無理やり剣を持たされてもエオルが現れることはなかったという。
一体何が条件なのかわからないまま、テアザントの村へと到着するのはもう間近となっていた。
もしもヴァルガに襲われた際にはクロウがいるから大丈夫だとライノスが言うが、一匹ならまだしもあの怪物に五匹ぐらいに襲われたとしてもクロウ一人で太刀打ちが出来るだろうかとツキジは不安に駆られていた。
*
「・・・ツキジ、大丈夫ですか」
クロウの無機質な声がツキジに心配する言葉を発する。
永遠と同じ景色が続く森をひたすら黙々と歩くのは体力と共に精神も削られていき、ようやくテアザントに到着する頃にはツキジは一言も言葉を発する事が出来なかった。
もしかしてこの森を一生抜けれないのではないか、と思うほどに変わらない森の景色を延々と歩いたのは初めてで、まるで悪夢を見ている様に感じた。
「だい、じょうぶ・・・。とり、あえず、座り・・・ったい・・・」
「ツキジは体力も無いんだねぇ。剣も長く振れないし、筋力すらもないんだからせめて体力はどうにかしなきゃね」
ーーーー私じゃなくて貴方達の体力がどうかしてるんです。
そう言いたかったのに、もう声すら出せないほど疲れ切っていたツキジは心の中でライノス達に文句を言った。
これでもツキジは仕事柄、体力は人並みよりはほんの少しぐらいあるはずなのだ。筋力はそんなにないにしろ、体力作りの為に毎日の習慣で走ったりストレッチなどは欠かさず行っていたのだから。
けれどさすがに休憩がほとんどないまま二日続けてぶっ通しで歩き続ける程の体力はあいにく持ち合わせていない。その上、言い訳続きにはなるが慣れない野宿で疲れも取れていないのだ。
・・・それなのに、ライノスとクロウはどれだけ歩いても涼しい顔して平然としているものだから、ツキジに体力がないというよりもこの人達が異常なのだとようやく気付いた。
疲れでフラフラとよろけながら歩くツキジの肩をライノスはガシッと掴み、そのまま前に押して無理やり真っ直ぐ歩かせる。
「フラフラしないでよ。ほら、もう村の目の前だよ。多分宿があるはずだからもうすこし頑張ってよ。・・・ツキジ?」
けれどツキジの足はとうとう限界がきてしまったらしく、そのままその場にヘナヘナと座り込んでしまう。
「も、む、り・・・」
「ちょっと!!こんなところで座らないでよ!ほら立って!」
ライノスは怒鳴りながらツキジの腕を引っ張って何とか立たせようとするが、ツキジはもう足に力が入らず座り込んで俯いたまま、動く事がもう出来ない。
「ああもう、仕方ない。クロウ、こいつおぶってやっ・・・て・・・」
ライノスの言葉が突然途切れ途切れになり、何事かと顔を上げると座り込んでいるツキジの視線に合わせてしゃがみ込んでいるつぶらな瞳の少女がいつのまにか目の前におり、ツキジは思わず目を見開く。
「え・・・」
「・・・taolia to ta?」
少女はツキジに向かって心配そうに何かを話しかけた後、自分の持っていた水筒らしきものをツキジに渡す。
ツキジは無意識にその水筒を受け取り、少女の顔を見たままぼんやりとしていると、少女はニコリと無防備な笑顔で微笑んだ。
「ひな、た・・・?」
気が付けば、ツキジはある"少女"の名前を呟いていた。この子の笑顔はツキジが大切に想っていた"少女"・・・"日向"によく似ていたのだった。
ーーーーーーーこの少女との出会いが、ツキジの運命を大きく変えることを当然ながら、ツキジはまだ知らなかった。




