彼の名はクロウ
「・・・へ?」
間抜けな声を出した瞬間、ツキジの視線はa-0756の手元に映る。・・・なんと彼の手には銃が握られているのだ。
ーーーーなんで、なんで銃!?名前気に入らなかった!?それだけで打つつもり!?
突然銃を持ち出したa-0756にパニックになってしまったツキジは"降参"のポーズで彼にに向かって「もっかい、もっかい考えるから命だけは許して」と必死に訴える。
けれどツキジの言葉は届いていないのか、a-0756はそのまま無言で銃口をツキジに向けて突き付ける。
そんなにカラス嫌いだったの、と怯えながら問いかけようとした瞬間、a-0756はツキジに達に向かって怒鳴り声を上げた。
「・・・伏せろ!!」
a-0756の声にすぐさま反応したライノスがすぐにツキジの背中を強く押してそのまま地面へと倒れさせた。
ツキジとライノスが地面へと倒れ込むと同時に銃声が鳴り響き、ツキジは訳もわからずその音にびくりと体を震わせる。
「なに!?どういうこと!?」
「・・・後ろにヴァルガがいたみたいだねぇ」
ツキジの怯えた声に対し、ライノスは能天気な声で答える。
ーーーーなるほど、a-0756がツキジに対して突然銃を突きつけたのはヴァルガがツキジ達の背後に居たからなのか。・・・名前が気に食わなくて殺そうとした訳じゃなくてよかった。
ツキジがホッとしたのも束の間、a-0756の打ち込んだ銃弾だけではヴァルガは死ななかったようで耳がつんざくような咆哮をあげる。
「!!いっ、いやぁあああ!!またあの化け物・・・怖いぃいい」
「・・・なにぼさっとしてんの。ほら、あんたも戦いなよ」
無理だよ!!とツキジが涙目になりながら怒鳴るといつのまにか目の前にa-0756がツキジ達を守る様にして立っており、ギャンギャンと騒ぐツキジを無表情に見下ろす。
「・・・こいつは昨日のヴァルガよりは小さい。これなら命力を使わなくとも倒せるでしょう。月光の戦士様の力を借りるまでもないので問題ありません」
「あーいや、単純に見たいんだよね。ツキジが月光の戦士・・・エオルに憑依されて戦うところをさ。てなわけでエオル呼び出して戦ってよ」
ライノスの言葉にa-0756は頷き、「では、私は最低限の援護のみを行います」と了承の言葉を言う。
「え、え!?ど、どうやってエオルさんを呼び出せばいいの!?名前呼んだら来る!?」
「いやペットじゃないんだから・・・。昨日は呼び出せたんでしょ?昨日みたくやればいいんじゃないの?」
ライノスとa-0756曰く、昨日ヴァルガと対峙した際には、ツキジの体にエオルの魂が憑依してヴァルガを難なく倒してしまったらしいが、ツキジは憑依された記憶も戦った記憶も全くないのでそれが本当なのか未だに信じられない。
「い、いや途中で気絶しちゃったみたいだし、覚えてないよ・・・無理だよぉおお・・・」
「ああもう、情けない声を出すな。ほらとにかく剣持ってさ、とりあえずヴァルガに立ち向かって見れば出てくるんじゃない?」
「それで出てこなかったら私、死ぬのでは?」
ライノスはツキジの弱音を無視してツキジの背負う剣を勝手に鞘から抜き、そのまま無理やりツキジの手に持たせようとする。
・・・けれど、ツキジは剣を持つ気も戦う気持ちもさらさらないのでライノスが持たせようとする剣を全く握ろうとしない。
何度もスカッ、スカッ、と剣から逃げる様に手を動かすツキジにライノスはとうとう苛立ちを露わにし、「いい加減にしなよ」と大声を上げた。
「どのみち、これからヴァルガや人間と対峙することなんて山ほどあるんだよ。今の内にエオル呼び出して戦うのに慣れておかないと困るでしょ」
「嫌なもんは嫌だ!怖いもんは怖い!」
ツキジとライノスの怒鳴り声に反応し、先程までa-0756と向き合っていたヴァルガがツキジ達の方を振り向き唸り声をあげる。
「!!」
すぐさまa-0756が命力を放ち、緑の風が二人を守る様にして包み込む。
ヴァルガの唸り声に驚いている間、油断していたツキジはいつのまにか月光の剣を握らされており、ツキジは「え、え、何これ」と動揺の声を出した。
「ほら、a-0756が風の命力で体はガードしてくれてるから大丈夫だよ。ちょっと剣振ってみ?」
ツキジを盾にする様にして後ろに隠れているライノスがそう言うと、ツキジは「いやなんであんた隠れてんの!」と叫び声を上げる。
「だって私ツキジの戦うとこ見たいもん」
「だから戦えないってば!!」
そう言ってやけくそに剣を放り投げようとするも、いつのまにかヴァルガの巨大な手がツキジに迫っている事に気が付き、ツキジは思わず持っている剣でそれを弱々しく受け止める。
「ひぃいい!!い、いやぁ!来ないでぇっ!!」
ツキジが泣き叫びながらヴァルガに掴まれた剣をぶんぶんと振り回すも、筋力が備わっていないツキジの腕はすぐに限界に達し、剣を持つ力も徐々に無くなっていく。
その隙をついたヴァルガのもう片方の手がツキジの体に襲いかかるも、a-0756の放った風のガードのおかげでツキジの体には傷がつかない。
「!!」
ーーーーなるほど、この風のガードはツキジの体のみを守っているらしく、剣にはガードがかかっていないから体は守られたまま攻撃が出来るという訳か。
それならば、とツキジがもう限界にきている腕をもう一度ぶんぶんと振り回し、なんとかヴァルガの手を剣から離すことができた瞬間、剣を真上に振り上げなんとかヴァルガに攻撃をしようと仕掛ける。
・・・だが、
「はりゃっ!?あっ、あっ・・・あれぇ・・・」
剣を振り上げた瞬間、ツキジはぐらりとバランスを崩し、真横に傾いた体をぴょんぴょんと片足をジャンプさせてなんとか倒れない様に踏ん張る無様な格好となってしまう。
・・・もはや剣の間合いにヴァルガがいない程に離れてしまった。これではこちらが体制を立て直す前に先にヴァルガに攻撃されてしまう。
ーーーーとゆうかそれより、こんな無様な格好にはなってしまったけれど一応はヴァルガに立ち向かおうとしたというのになんでエオルさんは私に憑依してくれないんだ!?前みたいに気絶しないとダメなの!?
「えっ、エオルさんっ・・・!早く憑依して・・・っ」
ツキジの恐怖心に追い打ちをかけるかの様にヴァルガの巨大な手がツキジの体を全力で引っ掻く。けれども風のガードではじき返され、ヴァルガはギィイイイイイ、と悔しそうな不気味な鳴き声をあげる。
ヴァルガの攻撃を二度もくらった風のガードは心なしか最初よりも薄くなってる様に見え、ツキジは焦りと恐怖で完全にパニック状態となり、月光の剣を力なくブンブンと横に振り回す。
「ひぃいいいいっ!?今です、エオルさん!ていうか今しかないです!!出てきてぇっ!!」
ギィイイイイイ、と再びヴァルガの不気味な鳴き声が聞こえ、ツキジに纏う風のガードを壊そうと再び巨大な手を振り下ろそうとした時だった。
パァン!!と銃声が聞こえた途端、動かなくなったヴァルガはそのままツキジの方に倒れ込んできた為、ライノスはツキジの服を掴んで自分の方に引き寄せ、ツキジがヴァルガの下敷きになってしまうのを防いだ。
「う、うわぁ!!し、死んだ!?」
「死んだねぇ。ていうかエオルが出てこないとか以前にあんたほんとに戦えないんだねぇ」
だからそう言ってるのに、と言おうとした瞬間にa-0756が「お怪我はないですか」とすぐさまこちらに駆け寄る。
「だ、大丈夫・・・!ていうか、やっぱりエオルさん出てこなかったじゃないか!昨日の話は嘘だったの!?」
「いえ、嘘ではありません。昨日は確かに貴女に月光の戦士様であるエオル様が憑依して戦っておられて・・・そういえば、エオル様は"憑依できるのは何か条件があるみたいだ"と仰っていた様な・・・」
「それもっと早く言っておくれよぉ!」
ヴァルガに襲われそうになった事が怖かったあまり、思わず強い口調で文句を言うと、a-0756は「申し訳ございません」と言って深々と頭を下げるので、ツキジはビクリとする。
「ご、ごめん。強く言いすぎた。・・・あ、ていうかa-0756はさっき私が付けた名前が気に入らなくて銃を向けてきたのかと思ったけど、そうじゃないんだよね?」
恐る恐るツキジがそう聞くと、a-0756は顔を上げて「いえ」と首を振る。
「とても良い名前だと思います。わざわざ付けて頂きありがとうございます」
「あ、良かった。じゃあこれからクロウって呼ばせてもらうね。・・・ちなみにどの辺が気に入ったの?」
「三文字で短い所が良いと思います。あまり長いと書類を書く際に時間がかかりますし、助けを呼ぶ際にも短い方がすぐに伝わって効率が良い。・・・もっと欲を言えば二文字の方が良かったのですが」
「・・・・・・」
ーーーーもうやだこの人。
自分の名前ですら効率がどうのメリットがどうので考える神経が分からない。名前ってそういう理由から付けるものではないし、そもそも・・・
「・・・いいや、気に入ってくれたならそれで良い・・・」
諦めた様に溜息を吐いたツキジの肩をライノスがまあまあと宥める様に叩いた。
その瞬間、肩に入っていた力がドッと抜け落ち、ツキジは膝から崩れ落ちて脱力した。




