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偽りの歌姫は月光の戦士となる  作者: 明日最わたる
第一章
12/16

名前の意味



「なぜ嘘をついたのです?」


ライノスに説得され、止むを得ない様子で一度了承したツキジは「とりあえず少し休みたい」と言ってベッドで横になり、すぐにスヤスヤと眠りについた時だった。


ライノスがツキジの濡れた服を外に干していると、いつの間にか背後にいたa-0756から下らない質問を投げかけられ、ライノスは心の中で舌打ちをした。


ーーーー感情の無い殺人兵器らしく、黙って従っていればいいものを。


「嘘って何の事さ」


すっとぼける様にライノスが言うとa-0756が即座に無感情な言葉で言い放つ。


「先程月光の戦士様を元の世界にお返しする、と仰った事です。我々に協力するとなればあの方は・・・・」


「嘘は言ってないよ。ちゃんと元の世界には返すからね」


ライノスはツキジの服を干し終わると、自覚のある嘘臭い笑顔でa-0756の方を振り向いた。


「・・・・例えあれがどんな姿になっても、しっかり元の世界には返してあげるよ」


それを聞いたa-0756は相も変わらず無表情で一体何を思っているのかライノスには分からなかったが、怒りだす様子も批判する様子もなかったので、彼を無視してそのままツキジの眠る家へと戻る事にした。



「テアザントの村はこの家からそう遠くない、二日ほど歩けば問題なく辿り着く。けど村に近付けば近付く程瘴気はどんどん濃くなっていくからね。ツキジ、あんたは命力がないんだから月光の剣を絶対に離すんじゃないよ。・・命力が宿るその剣はあんたを瘴気から守ってくれる。必ず肌身離さず持つこと」


ライノスにそう言われ、未だ眠い目をこすりながらツキジはこくりと頷くと月光の剣を背中に背負い、胸に残る不安と共にライノスの家を出発した。


・・・・昨晩ライノスに「瘴気というものがどういうものかを見てほしい」と説得され、渋々承諾した途端に激しい疲れと眠気に襲われたツキジはそのまま気絶した様にベッドで眠ってしまい、目が覚めた時には朝になっていたのだ。


目が覚めても体の疲れは一向に取れておらず、二度寝しようとしたツキジにライノスは手のひらから水の噴水を浴びせてきたのだ。


おかげでツキジは朝から最悪の気分だった。


・・・・村へと向かう支度をしている際、ツキジの着ていた服は目立つからとライノスが異国の服を貸してくれたが、着慣れていない為に落ち着かず、着疲れしてしまう始末。


・・・おまけに肌身離さず持つ様に言われた月光の剣はかなり重く、持っているだけで体力を消費してしまったツキジは出発してからすぐに息が上がってしまっていた。


「・・・ぅううう・・・重い・・・少しだけ休憩しない?」


「まだ出発してから30分程しか経っていません。もうしばし辛抱してください」


「ツキジってほんとに体力ないんだね。そんなんじゃ村につくのは一年かかるよ」


ケラケラと笑うライノスにツキジがムッとすると、「ごめんごめん」と平謝りされる。


「でも月光の戦士に選ばれた人間なんだから、体力ぐらいはあると助かるんだけどねぇ」


「・・・そんなの知らないよ。っていうか、そもそも何でライノスは私が月光の戦士だって分かったの?」


ツキジが不機嫌そうに聞くと、ライノスは自分の持っている杖を取り出してツキジに見える様に掲げてくれる。


「この杖であんたを呼び出したからだよ。・・・この杖でセーフィティアから呼び出せるのは月光の戦士に選ばれた人間ただ一人、という契約をこの杖に結んでいるのさ。あんたの前の月光の戦士がね」


「ふぅん・・・?でも、なんでわざわざセーフィティアの人間である私を月光の戦士に選んだんだろう。どうせならヌアザティアの人間を月光の戦士に選べば良かったのに」


その言葉を聞いたライノスは持っている杖でツキジの頭を軽くコツンと叩く。


消して痛くないように叩いてはくれたが、小突かれた事でライノスの持つ杖も月光の剣と変わらないくらいの重量がある事が分かり、それを平然と持って歩いているライノスは結構な力持ちなんだとツキジは驚いた。


「そりゃお前、セーフィティアの人間の方がヌアザティアとセーフィティアが一つになるのを防ぐのを守ろうって気持ちが強くなるだろ?なにせ自分の世界が瘴気に覆われるかもしれないんだから。・・・ヌアザティアの人間だと、むしろ瘴気のない場所が増えるからって意地でも協力しない可能性もあるでしょ」


「・・・そう、なるのかな・・・」


実際、ツキジも自分の世界が瘴気に覆われるという事を聞いて協力せざるを得ないのかもしれないという気持ちにほんの少しだけなっている事は事実。


だからセーフィティアの人間を月光の戦士に選んだという事は理解できたのだが、それよりもなぜ、よりによってツキジという人間を月光の戦士に選んだのかが未だに不思議で仕方がなかった。


「私を月光の戦士に選んだのは、既に他界してる前の月光の戦士なんだよね?」


「うん。・・・ああ、昨日は言ってなかったね。前の月光の戦士の名前は"エオル"って名前なんだ。そいつがあんたを月光の戦士に選んだのさ」


「エオ、ル・・・」


前の月光の戦士だという人の名前を聞いても当たり前ながらピンと来ない。・・・その人は何を基準に私を選んだのだろう。


ツキジが思い悩んでいるのを見てか、ライノスは「あーー・・・」と、話すか話すまいか少し迷ったかの様な声を出し、頭をガシガシと掻いてからやがて決意したかの様に話し始めた。


「・・・エオルは死ぬ前に言ってたんだ。"ヌアザティアとセーフィティアはやがて一つになってしまうかもしれない。けれど私はもう手助けできない。だけど、次の月光の戦士は私が見つけて選んでおくから安心しろ"・・・そう言ってあいつは死んだのさ。これから死ぬってのに、どうやって見つけるんだって思ってたけど・・・実際こうやってちゃんとツキジが選ばれてヌアザティアに来たんだから、驚いたよ」


幽霊にでもなってあんたを選んだのかね、と言って見た事ない程の優しい笑顔で笑うライノスを見て、ツキジは思わずライノスの顔をじっと見てしまう。


・・・きっとライノスは、エオルって人の事をとても大事に思っていたんだろうな。


昨日会った時からツキジに対して当たりが強く、脅しの様な言葉ばかりかけてくるライノスが怖かったのだが、こういう一面もあるのだという事を実感し、少し人間味を感じてツキジはホッとした。


「あんたはあいつが選んだんだから、自信を持っていいんだ。きっとセーフィティアを救う事が出来るよ」


「・・・それはまだ了承できないけど」


ツキジの言葉に先程まで穏やかだったライノスの顔が険しくなり、わざとらしい舌打ちをした後、「そこは頷くところだろうが」とドスの効いた声で小さく呟くのが聞こえてツキジはヒッと声を上げた。


「・・・まーいいや。それよりあんたさ、a-0756に名前を付けてあげてくんない?昨日はあんたが寝ちゃったから先延ばしになっちゃったけど・・・呼びにくいったらありゃしない」


「え・・・そもそもの疑問なんだけど、a-0756って一体何の番号なの?最初囚人の番号とかと思ったんだけど・・・」


「私は囚人ではありません」


先程まで無口でいたa-0756は相変わらず感情の無い自動音声の様な響きの声でそう言うものだからツキジは「ご、ごめんなさい」と言ってすぐに謝った。


ーーーーこの人、やっぱり人間味が無くてなんか怖いんだよな・・・


ツキジが引きつった顔でa-0756の事を見るも、彼はそんな事を気にするはずも無く構い無しにそのまま自己紹介を始めた。


「・・・月光の戦士様。私は限りなく兵器に近い戦闘力を持つ人間として育成された"teo nuem konz"プロジェクトの兵士の一人、No.a-0756と申します。この番号は兵士につけられる番号なのです」


「へ・・・兵器!?あとごめん、プロジェクトの名前聞き取れなかった・・・日本語でも英語でもなかったよね?」


「アデリノア語です。こちらの世界ではこの言語が主流ですので、月光の戦士様も早くマスターして下さい」


「・・・やっぱこっちじゃ日本語通じないよね・・・」


ツキジが苦虫を噛み潰したような顔をしながら言うのを見て、ライノスが「とーぜん」と言って愉快そうに笑う。


「まあ、私らが一緒にいる時は翻訳してやるから安心しなよ。・・・とは言え面倒だから早く覚えては欲しいけど」


ライノスにそう言われ、ツキジは「そんなに長い間こっちに居るつもりはないし・・・・」と口ごもりながら、こちらの言語とやらを覚える事をやんわりと拒否する。


ツキジは元々何かを学ぶという事自体は嫌いではないのだが、スパルタで厳しい父が居た為、やるからには全て完璧にしなくてはいけないと思ってしまう故に勉強や何かを覚える事には未だにプレッシャーが伴う。


何かに取り組む際には父が側にいなくとも、あの頭が割れる様な怒声がツキジの脳内で延々と鳴り響く。・・・・それがツキジにはなかなかの苦痛だった。


「それより・・・a-0756が、そのなんとかなんとかっていうプロジェクトの兵士ってのは分かったけど、兵士の番号じゃない普通の名前は無いの?」


「・・・前にヴァルガと対峙した時にも言いましたが、元より名前はありません。私は名前をつけられるより前に捨てられた捨て子だったのです。"teo nuem konz"プロジェクトはそういった捨て子や孤児が集められて兵器にも匹敵する様な兵士を作ったのです」


「えっ・・・」


a-0756の言葉を聞いてツキジは顔面蒼白となる。聞いてはいけない事を聞いてしまったと罪悪感を感じ、思わず口を抑える。


出会った時からa-0756という番号で自己紹介され、番号のみで表されたその名前はまるで囚人の様だと本人を前にして何度も口にしてしまった事をツキジは深く反省した。


ーーーーなんと私は愚かな。この人がなぜ番号の名前でしか呼ばれず、そ自らもそれを名乗る意味を考える事もせずに・・・。


「ご、ごめんなさい。そんなこと知らずに囚人みたいだ、なんて言って・・・。本当にごめんなさい」


a-0756に対して頭を下げて必死で謝るツキジの姿を見て、a-0756は不思議そうに首を傾げた。


「・・・なぜ謝るのです?貴女は私に何か謝る様な事をしたのですか」


「だって、無神経な事を言って傷つけた・・・」


「いえ、何も。傷付いてはないですし、何か謝る様な事を言われた覚えはありません」


ツキジに気を使ってそう言ってくれているのかと思ったが、a-0756の様子を見る限り本当に何とも思っていない様で、未だに首を傾げてキョトンした顔を見せていた。


彼がどこか人間らしくない雰囲気を持っているのは、生まれた時より最強の兵士としてひたすら戦闘力のみだけを上の人間に求められてきたからなのだろうか。・・・ただの憶測なゆえに断定はできないが、その可能性は高そうだ。


a-0756の反応に戸惑っていると、ライノスがツキジの肩をポンと叩いて「まあまあ」と宥める。


「本人が気にしてないと言ってるんだから、もういいと思うよ。・・・ツキジは素直なんだねぇ」


そういう訳じゃ、と反論しようとするもそのままライノスに「ほら早く名前付けてあげて」と話を遮られてしまう。


「・・・そもそも会ったばっかりの私に名前付けられるの嫌じゃない?いいの?」


「月光の戦士様に付けられるなら光栄です」



ーーーー全くそう思ってない様な棒読み。


・・・いや、彼はこんなにも人間臭さが感じられないのは訳があるのだ。兵士としてずっと育てられたと言っていたのだから仕方ない、とツキジは納得する。


悪い様に思ってはいけない、とツキジは首を振って改めてa-0756に向き直り、彼の姿をまじまじと見る。


暗闇に溶けてしまいそうな真っ黒な髪に黒い瞳。けれどやはり日本人の顔立ちとは違う、異国の顔。・・・着ている服までも黒だから、遠くから見れば黒い影が動いている様だ。


黒い影か・・・。a-0756は兵士だから、きっと身軽で素早い身のこなしをするのだろう。だとすれば・・・


あ、とツキジの頭に一つの生き物が浮かぶ。


「・・・クロウ」


素早く身軽で頭が良い。けれど少し怖くて不気味な存在、からす。・・・何となく英名の方が彼には似合う気がした。


ぽつりと呟いたツキジの言葉にライノスはへぇ、と言って口角を上げて笑う。


「セーフィティアにいる鳥の名前だね。・・・確かに似合うかも」


「ど、どうだろうか」


ツキジは不安な顔をしながら恐る恐るa-0756の顔を見る。


もしも彼が気に入らなければ、もう一度考えなくてはいけない。・・・センスが無いとあの淡々とした声で言われたら心が折れる。もう一度考えるにはプレッシャーでかなりのエネルギーを消費してしまいそうだ。


ごくりと唾を飲み込みながらツキジがa-0756の返事を待っていると、彼は無言のままツキジの顔をじっと見つめ、おもむろに懐に手を掛けた。


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