小さな天国で育った攻略対象者異母妹の自覚なき恋心
※「天才悪役令嬢は攻略対象者である美少女王子に溺愛される」シリーズの番外編です。他の話を閲覧頂いた方がより理解できますが、単品でも問題ないと思われます。
「おかーさま、おかーさまはおとーさまとどうして結婚したの?」
「ふふ、そうねえ……お父様と一緒に居たら、幸せでいられると思ったから、かしら」
「幸せなの?」
「ええ、とっても幸せですよ」
「そっか!」
私譲りの少し垂れ気味の赤い瞳が、小さい頃の自分と重なりました。
きっと、あの頃の私もこんな風にキラキラした瞳を夫に向けていたのでしょう。
私が初めて夫クロード・アルノーに出会ったのは、私が僅か5歳の頃でした。
小さい頃の王宮は最悪な雰囲気でした。
お母様なんて怖い顔をしていた思い出しかありません。
けれどある時、少しだけピリピリした空気が緩んだのです。
疑問に思って私にも優しくしてくれる侍女に事情を聞いたところ、王様になるべきだと言われている、私とはお母様が違うお兄様が爵位の低い人と婚約したと教えて下さいました。
それでどうしてピリピリでなくなるのか分かりませんでしたけれど、そのお兄様がその令嬢と婚約している間は今のままで居られるということは理解致しました。
ですから隙を見て、そのお兄様に会いに行くことに致しました。
婚約を続けて欲しいとお願いしようと思ったのです。
そうして一生懸命、道を探しました。
出来れば誰にも見つからずに行きたかったから。
何故か知られたらいけないとそう思ったのです。
そうして何日も何日も探しまくって、ある日ようやくある所に出ました。
「あ、待て、ヨアンっ! 卑怯だぞっ」
「はははっ、悔しかったら捕まえて見ろ」
「このっ……ミュリエル! 挟み撃ちだ! そっちから行けっ」
「うんっ、逃がさないよっ」
「あ、こら、クロード! ミュリエル使うとか卑怯だぞ!」
「知るかっ! ミュリエル、絶対逃がすなよ!」
「任せてっ」
そこは天国でした。
皆笑顔で、楽しそうで、人目を憚らず声を上げて笑っていて、スカートを翻しても礼儀とかそんなことで怒られることもなくて、ただただ幸せだけがそこにありました。
ここは本当にあそこと同じ王宮内なのか、本当に私達と同じ人達なのかと混乱致しました。
「君はセシル姫かな?」
「!!」
見つかった!
ビックリしましたけれど、そこに居たのはとっても可愛い女の子でした。
「え、えっと……」
「怒るつもりはないから、緊張する必要はないよ。でも一人でここまで来るなんて、何か用でもあったのかい? それとも、迷子かな?」
このとっても可愛い女の子は誰なんでしょう。
可愛いのに、なんか変な喋り方ですし、大人の人みたいですし……もしかしてこの子も姉妹なのかもしれません。
どうしましょう。もしこの子がお母様側だったら、絶対怒られます。
「……ふむ。然るに、中に混じりたいんだな。ちょっと待ってな」
何かよく分からないうちに遊んでいた1人がこっちにやってきたかと思うと、手を取られました。
「よし、今日からお前も俺達の友達だ! 来いよ」
「え? は? きゃっ」
意味が分からなかったけれど、気付いたら思いっきり笑っていました。
産まれて初めて心から声を上げておりました。
初めての感覚で、気付いたらクロード様とミュリエルちゃんが帰る時間になり、私も慌てて戻ったけど大目玉を食らってしまいました。
お陰で数日抜け出すことが出来ずに、あれは夢だったのではないかと思ってしまうくらいでした。
けれど、数日後に行ったそこで3人共歓迎してくれて、また楽しく幸せな時間を送ることが出来ました。
あのとっても可愛い女の子が遅くなりすぎない時間に帰るよう言ってくれるお陰で、怒られることなく遊ぶことが出来たのです。
私はすっかり目的も忘れて、遊ぶことに夢中になっていました。
それから数年も経つと、あのとっても可愛い女の子もといフレデリックお兄様が王位を望まれている、私のお母様の敵で、フレデリックお兄様ととっても仲の良い物静かな女の子が婚約者なのだと理解しました。
勿論悩みました。
クリストファーお兄様は確かにお母様に王となることを望まれていて大変そうです。
けれど、シルヴァンお兄様は私がヨアン達と遊んでいることを知っているようで距離を置く必要はないと、フレデリックお兄様が王になっちまえばいいと、そう言ってくれました。
ですから、勉強のお陰で時間は減っていたけれど、遊びに行くことは止めませんでした。
皆も遊びまわるより勉強したりお茶をすることが多くなっていましたけれど、それでも通い続けました。
だって、そこでなら心から笑えましたし、とっても幸せだったのです。
「今俺はクロードとミュリエルの婚約者候補を探しているんだが、何か意見はあるか?」
少し前に王宮が揺らぎました。
お母様がずっと躍起になっていた王位継承にようやく決着が着く出来事が起こったのです。
クリストファーお兄様は旅立つことになりましたし、シルヴァンお兄様は隣国に留学に行くことになりました。お母様も王宮から離宮に住まいを移すことになり、正妃の座はそのままですが王宮内での権力はないに等しい状況となりました。
結局クリストファーお兄様は被害者でもあるらしいですけれど、処罰は免れられなかったということのようです。
ただ姉妹である私にまで波及はしないらしく、私はいつも通り過ごしていました。シルヴァンお兄様曰くフレデリックお兄様に任せておけば悪いようにはならないそうですから。
そんな私の元にフレデリックお兄様から呼び出しが掛かったのです。
「婚約者候補、ですか?」
こんな時に何故2人の婚約を世話しているのでしょう。
相変わらずこのお兄様は意味が分かりません。
シルヴァンお兄様が早々に諦めたのも理解出来ます。
「クロードとミュリエルの姉は俺の婚約者だ。俺の婚約者ということは次期王妃だ。次期王妃の実家の者に婚約者が居ないと荒れるだろう。だから俺の立太子発表前に婚約させる。だが、下手な奴を付けたくないからな、お前等なら親しいだろう。誰が良いとか意見を聞かせてくれ」
「こんな候補者なんて要らないよ。ミュリエルの婚約者なら相応しい奴がここにいるじゃないか」
ヨアンが即座にそう言います。
まあ、ヨアンがミュリエルを好きなのは周知の事実でしたし、こう言うのも分からなくはありません。
「王族の婚約者の妹が王族と婚約するのか?」
「そ、それは……」
そう。初めからその恋は成就しないのです。
そのようなこと誰もが分かりきっていました。
ミュリエルも、だから決してヨアンの恋心に気付かないふりをしているのを知っています。
「ふ。冗談だ。お前ならそう言うと思ったよ。ほら、この条件で良いなら俺はお前の恋を応援してやろう」
「!! ほんとか!? ありがとう、フレデリック兄さん! よっし、フレデリック兄さんが応援してくれるなら大丈夫だっ」
「喜ぶのは良いけど、ちゃんと自分で手に入れろよ」
「勿論さ。こうしちゃいられない。作戦を――」
「ちゃんと目を通せ。お前以外にも候補者は居るんだ」
「必要ないだろ!」
「選ぶのはミュリエルだ。お前の恋は応援するけど、大事なのはミュリエルの幸せだろう? そこを履き間違えるな」
そうですか……ヨアンはずっと好きだったミュリエルと、両想いになれるのですね……。
………………羨ましいです。
「セシル」
「あ、は、はいっ」
「セシルもまずは目を通してくれ」
「……はい」
ミュリエル。
本当の妹のような、誰よりも親しい親友のような、そんな子。
フレデリックお兄様のあの物静かな婚約者の妹とは思えないくらい明るく朗らかな子。
私と同じように、いえ、私以上に過酷な環境で育ったにも関わらず、その面影は全く見えない。
あの子ならどこでも笑っていそうだし、誰とでもきっと幸せになれるのでしょう。
クロード様。
私の方が1つ年上だけど、皆の兄として私達を引っ張ってくれていた、とてもしっかりした人。
とても優秀な姉が居る反動で、本人も優秀なのにも関わらず平凡だと思い込んでいる少し謙遜の過ぎる人。
過酷な環境を耐え抜きはしたものの、原因である姉に救って貰ったお陰か未だに姉に囚われている少し不憫な人。
けれど笑顔が素敵で、彼と居るといつだって幸せな気持ちになれる。
彼ならきっと誰とでも素敵な家庭を築けるのでしょう。築けるのでしょうけれど……このもやもやした感情はなんなのでしょう。
「え?」
「ん? 何かな、セシル」
「あ、いえ、あの、私が……」
クロード様の婚約者候補の書類を捲っていると、私の書類がありました。
「ああ。当然だろう? セシルはクロードと1つしか歳が違わないんだ。人格にも教育にも問題はないのだし、候補になるのは当然じゃないか」
「……………………」
私が、クロード様の、婚約者候補…………。
クロード様の、お嫁さんに、私がなる……可能性が、ある…………。
何でしょう。
それは、凄く、素敵なことに思えました。
結局、私は自分の書類を抜くことはありませんでした。
「やあ、セシル」
「こんな夜にどうか致しましたか? フレデリックお兄様」
ある日、フレデリックお兄様が夜遅くにやってまいりました。
「念の為に伝えておこうと思ってね。クロードが君のことを気にしているようだよ」
「……え?」
「婚約者候補のことさ。クロードも急いで検討しているところだからね、君ももしクロードに何か言いたいことがあるなら、ヨアンみたいに直接出向いてクロードと話をすると良いよ」
フレデリックお兄様はそれだけ言うと帰って行かれました。
私はどうしたいのでしょう。
ドキドキしてよく眠れませんでした。
翌朝、ふわふわした気持ちのまま、朝食を食べてすぐに出掛けました。
家まで行くのは初めてです。
けれど、躊躇など全くしませんでした。行くのが当たり前のように思えたのです。
流石にアルノー家の応接間まで来るとドキドキと緊張しました。
何を話せば良いのでしょう。
クロード様は何と思っているのでしょう。
「お待たせして申し訳ありませんでした、セシル殿下」
「クロード様! 急に押しかけてこちらこそ申し訳ありません。お会い出来て嬉しいですっ」
「いえいえ、セシル殿下にお越し頂けるなど光栄でございます」
クロード様とミュリエルは大きくなるにつれ、人目があるところでは特に砕けた口調で話すことはなくなっておりました。
それが少し寂しいけれど、2人と友人関係で居られる為に必要な措置であることも理解しています。
でも、こうして改めて見ると、小さい頃とは体つきも大分変わっており、男性であることを意識させられました。
「本日は何の御用でいらっしゃったのですか?」
どうしましょう。
何も考えていませんでした。
ただ行かないとと思ってしまったのです。
「その……ミュ、ミュリエルとヨアンが、婚約したと聞きました」
「……まあ、そうですね……」
不満な様子を見せたのは、妹への親愛でしょう。
分かっているのに、親友であるはずのミュリエルが酷く羨ましいと思ってしまいました。
「く、クロード様も婚約者をお選びになっているところなのですよね? その、フレデリックお兄様から伺っております。時間がないから急いでいると」
「ええ、まあ……そうですね。フレデリック殿下の立太子が発表されたら、ステファニー姉様が次期王妃ですからね。次期王妃の実家となるアルノー伯爵家次期当主の私に婚約者がいないのは要らぬ騒動が起きる可能性もありますから、どうしてもフレデリック殿下の立太子発表までには婚約を成立させる必要があるのです」
「え、ええ……そう伺っております」
「ヨアン殿下とミュリエルが婚約するのも、ミュリエルが余計な騒動に巻き込まれないようにする為だと考えれば理解は出来ます。我が家の姉妹が2人共王族と婚約させて頂けるのはええ、とても光栄だと思っておりますよ。ですが、ヨアン殿下だって次期国王の弟です。選り取り見取りなのにうちのミュリエルとわざわざ婚約して下さる必要は果たして本当にあるのでしょうか。フレデリック殿下ももう少し政治的に物事を考えて下さる方かと思っておりましたが、私は少々フレデリック殿下を誤解していたようです。私としてはミュリエルに――」
他に言える人が居ないからか、一度話し始めたら止まらなくなったのか、クロード様は流暢に、けれど王族に対して致命的な不敬を申さない程度に愚痴を言い始めました。
クロード様もヨアンの恋心を分かっていながらも成立するはずがないと知らない振りをしていた一人です。
だから、少しはヨアンを祝福する気持ちはあるのでしょう。
ただ、それ以上にミュリエルへの親愛が勝っているのだと推測します。
その気持ちは私も分かるのです。
でも、そんなに卑下しないで欲しいです。
アルノー伯爵家は確かに王族と比べると爵位は低いです。王族と婚姻を結ぶにも最低限の爵位と言えるくらいに低いです。
ですが、だからと言って人として劣っているわけではありません。
クロード様は幼い頃の過激な教育のせいで、どうしてもその辺りの自己批判が過ぎるのです。
理由は分かっていますが、その言い様はクロード様と私の婚姻は絶対に有り得ないと言われているかのような気がしてきました。
「……クロード様は、王族との婚姻は不幸の元だと思われているのでしょうか」
お話を遮るのはマナー違反だと思いましたが、気付けば口からその疑問が出てしまっていました。
「え……?」
「例え愛があっても、ステファニーお義姉様は、ミュリエルは王族と婚姻を結ぶと不幸になってしまうのでしょうか」
そういうことを言っているのではないことは分かっています。
クロード様が愚痴を言うことが出来る相手として選んでいただけたのですから、ここは黙って同意を示すところです。
だけれど、止まりませんでした。
「もしそうなら、私は誰と婚姻を結んでも、幸せになれないのでしょうか」
クロード様の傍に居ると、いつも幸せでした。
その笑顔を見るとホッとしました。
ここなら大丈夫だとそう思えました。
ずっとずっとそれは変わらないと思っていたのです。
でも、クロード様から否定されたら、私はこれからどうしていけばいいのでしょう。
もう二度と幸せな気持ちになれないのではないでしょうか。
私はやはりクロード様達とは違う人間なのではないでしょうか。
あの天国のような空間に、私の居場所はないのではないでしょうか。
「あー…………」
困ったように考え込むクロード様に、絶望が押し寄せてきました。
「……無自覚かよ。あの美少女王子め」
ぼそりとよく分からないことを呟いたクロード様が顔を上げたかと思うとにっこりと微笑んで下さいました。
「では、私と確かめてみますか?」
「はい?」
「お話は私の方からフレデリック殿下に通しておきます。後日、私が王宮に出向きますので、お時間を頂けますでしょうか」
「?? 分かりました」
何故だか良く分からないけれど、クロード様は悩みが晴れたかのようなスッキリした顔をしていましたので、言葉を挟むのは失礼に思えて止めておきました。
また会えるのならばその時に聞けば良いと思ったのです。
数日後、クロード様が王宮にやって来ました。
指定された場所はあの初めて会った庭でしたので、少し久しぶりに足を向けました。
私が学園に上がってからあまり来られなくなっていたことと、最近の騒動でクロード様達も王宮に近寄ることすらなくなっていたことで間が空いていたのです。
そこで既に待っていて下さったクロード様と2人で庭を散歩することになりました。
侍女達にも下がって貰っているので本当に2人きりです。
何だか、ドキドキしました。
「昔、セシルがここを天国みたいって言ったの覚えているか?」
「はい。今でもそう思っておりますから」
「そうだな。ここに居る間は俺達は何も考えずに守られていれば良かった。フレデリック殿下やステファニー姉様がいつだって見守って、俺達に及ぶ悪意を全て事前に排してくれていたから、ただ笑っていられたんだ。
……楽しかった。幸せだった。世界が明るく見えた」
そう。ここに来る時間さえ確保出来ていれば、他の時間がどれだけ灰色でも耐えられました。
ここに来る為だけに私は生きていられたのです。
「いつまでもこの小さな世界に居たいとそう願った」
いつまでもあるとそう思っていました。
「だけど、俺達はもう巣立たなければいけない。フレデリック殿下とステファニー姉様はもう俺達だけを庇護して居られる立場ではなくなるんだ。俺とミュリエルの婚約はそういう意味もある」
巣立つ?
それは、どういう意味なんでしょう。クロード様までお母様達のように居なくなるのでしょうか。
「ミュリエルはヨアンと共に行くことを選んだ。そうするとセシル、君が一人残ることになる」
残る……一人ぼっちになる、ということでしょうか。それは……
「だからセシル、俺と一緒に来るか?」
「え?」
クロード様と、一緒に?
「昨日の質問。王族と婚姻を結んだら幸せになれないのか。そんなのは俺にも誰にも分からない。だけど、幸せになろうと努力することは出来る。セシルが俺と一緒に幸せになれるよう努力してくれるのなら、俺の手を取れ。
俺はステファニー姉様と違って何でもは出来ないけど、凡人は凡人らしく努力するよ。それでも良ければ俺と幸せな家庭を作ることを、ここのような小さな天国を作ることを一緒に夢見てみよう」
幸せな家庭。小さな天国。
私にそんなもの作れるでしょうか。
自信はありません。
でも、クロード様なら、クロード様と一緒になら作れる気がします。
だって、クロード様の傍はいつだって幸せですから。
だから私は……
建国パーティーで、フレデリックお兄様の立太子が宣言されました。
フレデリックお兄様は見違える程に大人の男性のようになられていて、皆さんとても驚かれておりました。
私も初めて見た時はとてもとても驚きました。双子ではないかと疑ってしまったくらいです。
ステファニーお義姉様はいつも通り無表情で大した反応は見せていませんでしたので、知っていたのかもしれません。
お陰様で私とクロード様、ヨアンとミュリエルのペアで入場したことは忘れ去られたかのように思えました。
後でクロード様から聞いた話ですと、“フレデリックお兄様のステファニーお義姉様への溺愛が転じて弟妹に王族をあてがった説”と“ステファニーお義姉様の実家の権力が弱いので弟妹を王族と婚約させることで補強した政治的判断説”が主に囁かれていたらしいです。
ですが、そのような噂が私の耳に入らないくらいにはフレデリックお兄様の見た目の変わりようが話題をさらっておられました。
女性は美少女派と美青年派とどっちも最高派に別れてはおりましたが、概ね良い反応でした。
しかし、男性方はかなり悲壮な空気を纏っておられ、少し怖かったです。
ある程度歳を重ねられた方々はむしろ安心した空気を纏っておられましたので対比が凄かったです。
本当にフレデリックお兄様は何をされても、とても影響力のある方だと再認識しました。
翌年にクロード様が入学して来た時も、もっとクロード様の周りは人が集まるかと思っていたのですが、クロード様曰くそんなことは有り得ないそうです。
フレデリックお兄様がステファニーお義姉様と自分以外の誰一人とも踊らせないくらい独占欲が高いことも溺愛していることも皆分かっているので、不興を買う方が恐ろしいという空気になっているそうです。
「巣立つ覚悟だったけど、フレデリック殿下もステファニー姉様も優秀過ぎて、俺達程度の庇護は息をするくらい当たり前にやってしまうんだ。多分俺達は一生あの2人の庇護下で生きていくんだろうな」
何だか、悲しそうな、それでいて嬉しそうな、複雑な表情でクロード様は笑いながら言いました。
「俺達とクリストファー殿下の違いは、天才が兄妹を気に掛けて自発的に手を伸ばす人だったかどうかだろうな。ステファニー姉様が優しく愛情深い人で本当に良かったよ」
私はクロード様と婚約しても、ステファニーお義姉様と話したことはありません。
だからステファニーお義姉様がお優しい方なのかどうかはよく分かりません。
勿論、色々と手回しをしていることはクロード様から聞いていますが、実際に見たことがないのでよく分からないのです。
ですが、クロード様とミュリエルが本当にステファニーお義姉様を尊敬し、そしてステファニーお義姉様からあらゆる意味で離れられないことは理解しています。
けれどいつか、クロード様がステファニーお義姉様から離れられた時も私はクロード様の傍に居られるでしょうか。
クロード様と共に笑い、幸せな日々を送れているでしょうか。
あの王宮の小さな庭には久しく行っておりません。
もうそれぞれ忙しく過ごしているからです。
けれどいつかまたあの小さな庭で、皆と思いっきり笑える日が来ることを信じております。
リクエスト頂いた悪役令嬢の弟と第三王女の恋模様です。
弟視点は書いたので王女視点で書こうとした際、これまでとちょっと変えたくて天然ぽやぽや箱入り娘にしてみました。
最後まで恋心を自覚していないという弟君頑張れな関係です。
まあ、弟君なら上手くやるでしょう。
因みに弟君はフレデリックがわざわざ手を回して第三王女とくっつけようとしていることに気付いた為にあっさり婚約に踏み切ったのです。
王女視点だと上手く本編に組み込めなかったので反則ですがここにこっそり記載させて頂きます。