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私は近くの街路樹に隠れながら、日が沈むのを待たなければいけませんでした。少女と鉢合わせをする訳にもいきませんでしたし、できるだけマンションの住人と会わないようにしなければいけません。住人に怪しい人間だと、警察に通報されれば、私の覚悟は無に帰する事になります。できるだけ慎重に事を運ぶ必要がありました。
私は少女が出てくるのを待ちました。
少女が出て行った後に敷地内へ入ってしまえば、鉢合わせる事がないと考えたのですが、正直に言いますと、ぼんやりとしか分からなかった少女を一目見たかったのもあります。ですが、待てども待てども少女は出てきませんでした。そうこうしているうちに、優しい日差しは夕闇の色彩へと変わり、先ほどのように手をかざしてみても、もの淋しげで、孤独を浮き彫りにするような淡いオレンジ色にしかならず、私を不安と焦燥においたてました。
このままでは夜になってしまう。
私は意を決し、マンションの敷地内へ入る事にしました。
“こうなれば少女と鉢合わせてしまっても仕方がない、最悪マンションの住人の振りをしてやり過ごし、他のトラブルに出会っても何か対策を考えればいい。”
意を決して敷地内へ入り、遠くでしか眺めていなかったマンションを近くで見ると、建てられてから日が浅いのだと分かりました。白いコンクリート造りの外壁は汚れがありませんでした。白い外壁には、木や枝についた葉が風でゆらゆらと揺れ、夕闇の薄暗さも手伝い、まるで黒く焼き付いている闇が、蠢いているようでした。
この木だと思ったと同時に、少女の姿が見当たらない事に気づき、マンションの敷地内をぐるりと見渡しましたが、やはりどこにもいませんでした。彼女はどこにいったのだろうと疑問が頭をもたげました。マンションの出入り口は、一箇所しかなさそうでしたので、尚一層に不思議に思いました。私が見落としたという事は決して無かったはずです。




