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死んだ心を引き連れて、私は心の療養とばかりに、近所を散歩していました。空を見上げると、日差しが雪のように、ふわふわと落ちてくるような気がして、何かを捧げるように、両手をかざしました。日を受けた手の平があたたかくて、それはもうあたたかくて、このまま溶けてしまえばいい、このまま埋もれて死んでしまえばいい、それとも太陽をつかめたらこんな私も救われるだろうか、そんな優しい春の日差しかと勘違いするような冬の日で、まるで季節外れだなと思いました。
何かが私の目を通り過ぎて、違和感を感じ、その場所へ目を戻しました。道なりにあるマンションの玄関のある段差に、少女がしゃがんで、何かを見ていました。少女は真っ黒な出で立ちなものですから、気付いてしまえば、否応無しに目が引きつけられました。真っ黒な格好をした少女が不自然に座って何かをしているのです。私は少女の事が頭から離れなくなりました。
「何を見ているのだろうね」
突然、でした。明らかに私に向かって声をかけられたので、私は体がかたまりました。声のする方に顔を向けると、すぐ隣で男が立ち止まり、少女を見ていました。ジーンズはよれ、コートには穴が空いてボロボロで、ホームレスではないようでしたが、ドラッグでもしているような出で立ちでした。一目見た私は、こんな男に関わりたくないと、卑しい差別の嫌悪が心をもたげ、何も答えずに気づかなかった振りをして通り過ぎようとしました。あたたかな心が急速に、タールかヘドロでも被ったように、真っ黒になって死んでいきました。そんな、私のアクシデントや心模様にかかわらず、一度惹かれてしまったものは無視をする事はできず、数歩、歩くごとに、少女を意識してしまいます。温かな日差しとはいえ、今は冬で、風はするどく冷たい空気が、頬を、コートとニットの間を切り裂くように通りすぎていきます。こんな寒い中で、ただ座って何かを見ているのです。少女は日差しをいっぱいに受けながら、肩を落として悲しそうですらありました。
本当に少女は一体何をしているのだろう?心にボロボロの男と、少女が交互に浮かんでは消えていきます。
一筋心に線が入るように、何かが起きるような予感がしました。見ると、少女はマンションの敷地内にある、入り口付近の木の根元に歩いて行き、ゴソゴソと、何かをしていました。手の動きや状況から、私は何かを埋めているのではと思いました。
「気にすることはない、埋めていると思うのは、私がそう願っているだけで、本当は何か下らない事をしているだけ、たいした事ではない」
と、ものぐさな心が、私に言い聞かせようとしましたが、マンションが見えなくなる頃には、私は決意を固めていました。引き返して何をしていたのか暴いてしまおうと考えていたのでした。




