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ロストハーツ〜月の姫と心を喰らう魔剣〜  作者: 四季山 紅葉
第五章:アスカリアの闇
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第二十七話:果実伯爵カージュ

完結まで、まだまだがんばるぞ~!


 セツナが運転する馬車に乗り、すぐ近くにあるカージュ伯爵の領地にレイン達は向かっていた。

 ライトランの衰退。その理由を知っていると思うが、ここまで何故黙っていたのも気になる所だと、レインは考えていた時だ。


「!……あれは」


 不意に何かに気付いた様にセツナが馬車を止めた。

 

「どうした?」


 レインは正面の窓を開けてセツナに問いかけながら前方を見ると、カージュ伯爵の屋敷に繋がる道。

 その入口付近に松明の列が並んでいた。しかも暗くなってはいるが、それでも十人近い男女の姿がある。 


「なんだアイツ等は?」


「分かりません……武器らしい物を持ってますけど、見た目は市民みたいです」


 不審そうに言うセツナだが、確かにスコップやナタ等、手に入れやすそうな道具で武装している。

 だが見た目は明らかに市民にしか見えず、夜盗が変装しているとも思えず、レインは宿屋の話が脳裏に過った。


「宿屋の者が言っていたな……住人の一部が伯爵の屋敷に行っていると」


「あの人達がそうだと……?」


「他の理由がないが敵意を感じる……だが伯爵の屋敷に行くにはここを通るしかない。――セツナ、慎重に進め」


「はいアニキ……」


 セツナは頷くと馬車を動かし、それに合わせてレインはグランに視線を送ると、話が聞こえていたらしくグランは静かに頷く。


「俺は入口に待機する……ステラを頼んだ」


「おう、任せろ」


 何事も無ければいいが、ライトランの廃村化と前方の者達から感じる敵意が気になる。

 そもそもライトランの住人がカージュ伯爵の領地内にいて、しかも陣取っているのがまず異常だ。

 レインは万が一の事を考え、影狼に手を添えて入口で待機していると――。 


「そこの馬車止まれ」


「おっと……」


 若い男の声が聞こえ、セツナも馬車を止めたようだ。

 だが急ブレーキと馬の鳴き声も起こっている。

 恐らく村人達は馬車の前に立って、止まらざる得ない状況にしていたとレインは予想した。


「僕達はカージュ伯爵に用があるだけだ。だから、そこを通してもらいたい」


「駄目だ! まずはこっちの質問に答えろ!――まず用ってなんだ? 馬車には誰を? それか何を積んでんだ?」


 セツナが穏便に話すが、若い男はそれを却下してこちらの事を探って来ると、周囲からも男女の責めるような声も聞こえてきた。


「伯爵に何の用事があるんだ! まさか、何か高価な物でも買っているんじゃないのか!」


「金銭でもそうよ! あるなら私達に渡しなさいよ!」


 その話を聞いてレインはグランとステラに顔を向けた。

 何やら変な内容だ、二人もそう感じたのか困惑気味に、こっそりと窓から外の様子を確認し始めた。

 それを見てレインも確認しようと近くの窓に近付くが、それと同時に足跡が馬車の周囲から聞こえてくる。


「……囲まれたか」  


 ライトランの住人達が馬車を取り囲んだようだ。

 まるで検問の様なやり方に、いよいよレインも危険だと判断し、入口に手を掛けて待機。

 その間にもセツナが何とか説得を行っていた。


「金銭も高価な物もありません! ただカージュ伯爵に会いたいだけなんです。――それにあったとしても、なんであなた達に渡さないといけないんですか?」


「当然だろ! お前はライトランを見たか!? あぁなったのはカージュが俺等の税金と領地の金を持っていきやがったからだ!」


「だからアイツが使おうとしている金は私達の物になるのが普通でしょ! 私達は自分達や街の為に正しい事をしているのよ!」


 熱が入っているの感情的な言葉に周囲も同調し始め、そうだそうだと、周りの者達も騒ぎ始めた。

 けれど、レインはその話に疑問を感じていた。


――()()カージュ伯爵が税金と領地の金を?


 レインも何度も会っているからカージュ伯爵の性格を知っている。

 合理的とかは関係なく、困っている人がいれば手を差し伸べる程にお人好しであり、しかもその場だけではない。

 今後も食って行ける様にと、環境を整えられる程に優れた手腕を持っている優れた人間。

 そうでなければライトランが発展する事もなかった筈だ。


「住民の話とカージュ伯爵の人格が合っていない……」


 何かがおかしい。

 レインがそう思っていた時だ。まるで蹴破るかの様な勢いで、馬車の入口が叩かれ始めた。


「何をしているんだ!?」


 セツナの焦った声が響き渡る。

 だが、それと同じぐらいの住人の声も響いた。


「何もねぇのかは俺等が決める!」


「隠しているに違いないわ! 奪うわよ!これも私達の物なんだからぁ!」


「そうだ取り返せ!!」


 声が荒々しい。それだけ余裕が無いのか、けれど住人達の動きが速すぎる。

 まるで手慣れた感すらある動きに、レインは確信した。


――既に()()()()()()()()()


 恐らくは一度や二度ではない。

 もうこの手段で何度も結果を得てしまったのだろう。

 一線を越えれば一般市民ではない。


――ならば守るべき者でもない。


 レインの纏う雰囲気が自然と変わる。

 研ぎ澄まされた様に、窓に映るその瞳は感情が篭っていないガラス玉の様に見えたが関係ない。

 レインは指で影狼を鞘から僅かに出し、飛び出そうとした時だ。

 セツナの立ち上がる音が聞こえた。


「待ってください! そんな事をしては駄目だ! それじゃ罪人に――」


「おっと! 黙っとけや坊主」


 住人の声と一緒に金属の音が聞こえ、レインはそっと前方の窓を覗くと、セツナが数人の男女に農機具や包丁を巻き付けた棒を向けられていた。


「そんな……んっ?」


 その時だ。本来は対処できるセツナだが住人だからと戸惑った様子だが、不意に何かに気付いて一人の男に視線を向けていた。

 それに気付いたレインもセツナの視線の先の男を見てみると、その意味に気付く。


――あの男、雰囲気が違うな。


 暗く、服装も住民と一緒で気付かなかったが、観察すると分かる。

 セツナのを囲む一人の男。その男が纏う雰囲気、佇まい、身体の作り。

 それは明らかに戦いを生業としている者のそれだ。


「……そういうことか」


 レインは腑に落ちた。

 どうやら切っ掛けを作っている連中が紛れ込んでいたらしい。

 ならば対処もしやすいと、レインは出て行こうとした時だ。


「……流石にマズイか」


 窓の外から大きな斧を持った男が近付いて来る。

 何をする為かなんて聞くまでもなく、男が入口の前に立つと同時にレインは入口を蹴ると、静かに馬車から降りた。


「うがっ!? な、なんだお前!?」


 扉の開いた衝撃で地面に倒れた男を見上げられながら、レインが降りると周囲の者達から視線を向けられる。

 困惑、怒り、それぞれの感情を込めた目だが、自分の姿を見た事で一部の者の雰囲気が変わったのをレインは見逃さなかった。


「意外と多いか……」


 隠れていたのか、最初は10人程度と思っていたが、降りて見ると20人はいたらしい。

 そして分かった。何人が()()()()()()()()()()


 そしてレインは他に何人いるか観察していると、不意にバンダナを巻いた男が近づいてくる。


「ヘヘ……お前そのマント、もしかして騎士か?」


 その言葉に周囲の一部がざわつくが、それを止めるかのように男は叫ぶ様に話し始めた。


「いくら騎士でも俺等は善良な市民だぜ!? 寧ろ助けてくれよ! 俺等は伯爵に接収される側だぜ!?」


 どの面でほざくのか。明らかに善良な顔でもなく、やっている事も善良とはかけ離れている。

 だが男の言葉を聞いた周囲は、自分が騎士と言う事にオドオドしていたのに、今では乗っかってそうだそうだと騒ぎ始めた。

 主体性が無く、すぐに流される危険なタイプにレインは何となくだがカージュ伯爵の件も納得できた。


「伯爵の悪行……それは誰から聞いた?」


「だ、誰って……マキアゲール男爵が教えてくれたんだ。色々な証拠を見せて、ライトランが経済的に困窮してるって!」


「男爵は誠実だよ……私達に頭を下げて、自分の力不足だって言ってくれたんだから」


 あんな滅茶苦茶な税を課す男爵のどこが誠実なのかは分からないが、レインは伯爵へのヘイトの出処に納得する。

 これで一つの疑問は分かったレインは、次にはバンダナの男の方を向くと、男はまだニヤニヤと笑っていた。

 

「これで分かってくれたかい騎士様よぉ!? 俺等を助けてくれよ!」


 必死な感じを装う男だが、その手にはダガーが握られている。

 どうやら下手な探りを入れる必要はないようだ。


「雇い主は誰だ?」


「……えっ?」


 男の表情が変わる。目が泳ぎだすが、必死に誤魔化そうと嘘を考える目だ。

 もう幾度と見て来た目でもあった。

 この反応する大多数が、()()()()()()()()としか思っておらず、そして粘る割には大した情報を持っていない。


「さ、さぁ……()()知らねぇな。ただの市民に意味の分からない話は勘弁だ」


――俺は……そして()()()()()か。


 口を滑らすのも早く、そして嘘も下手。

 レインは男の持っているダガーに目を向けると、それが全てを物語っていた。


――赤黒く、まだ斬って間もない跡が。


「どれほど斬った?」


「えっ! い、いや……俺は別に――」


「動物か魔物ではないんだな?」


「!」


 男の顔から血の気が失せる。

 変な汗も流し始めて明らかに動揺している。

 そして遂に限界が訪れたのか、男は突如レインに襲い掛かった。


「死ねぇぇ――」


「そうか」

 

 ダガーを向けて来るが話が早い。

 レインは影狼を抜いてそのまま男に振り下ろし、男を正面を斬り伏せた。

 

 男はそのまま絶命したらしく、声を出す事もなく倒れ、そのまま自らの血の海に沈んだ。


「う、うわぁぁぁ!!」


「人殺しぃ!!」


 周囲の者達が騒ぎ出したが、レインは気にも止めなかった。

 騒ぎに乗じて近づいて来る者達がいる。


「うおぉぉぉ!」


「クソ騎士がぁ!!」


 斧を持っていた男と、木刀と思わせての仕込み武器を持った青年が背後から迫るのが分かった。

 だが背後だろうが間合いには違いない。


「魔狼閃――円月」


 レインは振り返る事もなく影狼を振るった。

 そして男達は音も聞こえず、その刃も見えなかったのだろう。

 先程同様、何も発さず糸が切れた様に地面に倒れた。


「うわぁぁぁ!? 助けてくれぇぇ!!」


「誰かぁぁ!!?」


 周囲の者達が更に騒ぎ出すが、突然の事で武器も落としている。

 その方が市民と分かりやすく、ずっと騒いでもらっても構わなかった。

 

 しかし、そんな光景に何か思ったのか、馬車の窓からステラが身を乗り出していた。


「レイン!? あなたは何をしているのですか!」


「待て待て! 落ち着けステラ!?」


 市民を斬っているとでも思ったのか、ステラからは怒りを感じるが、察している様子のグランがそんな彼女を馬車へ引っ込めようと必死だ。

 

――実際、危険だ。馬車で大人しくいて欲しいものだ。

 

 レインがそう思っていた時だ。


「やばい!?」


 セツナを囲んでいた内の一人が逃げ出したのだ。

 それを見たレインはセツナの名を呼んだ。


「――セツナ」


「はい!」


 セツナは意図を察していた様で、そのまま飛び上がって逃げた男の後頭部に強烈な蹴りを入れた。


「がはっ!?」


 そして情けない声を出しながら転ぶ男をセツナが取り押さえるのを見て、残りの者達は武器を捨てて一斉に逃げ出し始める。


「殺されるぞ!?」


「人をよべぇ!!」


 騒ぎながらライトランの方へ逃げて行く者達は放っておき、レインはセツナが取り押さえた男の下へと向かった。

 男は苦しそうな表情をしながらも、セツナは取り押さえ続けていた。


「アニキ……どうしますか?」


「依頼人を吐かせる……どうやら伯爵は面倒に巻き込まれている様だ」


 傭兵かどうかは分からないが、少なくとも斬った者達は人を殺めている者達。

 それが市民に混ざっているのは異常であり、レインは男の傍で膝を付いた。


「答えろ……依頼人は誰だ?」


「ぐぅ……ガハッ!」


 問いに対して男は依頼人の名を呼ばなかった。

 口から血を吐いて白目を向き、そして死んだ。

 それを見たレインとセツナはすぐに離れると、後ろからステラ達もやって来る。


「二人共! 一体なにをしているのですか!」


 怒った口調で近付いて来るステラだったが、目の前で死んでいる男を見て足を止めた。


「こ、これは……!」


 ステラは言葉が詰まってしまうが、セツナが自分を見ている事にレインは気付いた。

 確認したいことがある、そう感じさせるセツナにレインは頷くと、セツナは男の遺体を調べ始め、そして原因が分かった様だ。


「毒を飲んでます……それも即効性の」


「ど、毒!?」


 ステラが驚くが、レインは毒を呑んだ事でそれだけの黒幕がいる事を悟る。

 この事はグランにも伝えるべきだと判断し、レインは振り返って見ると、グランは先程斬った男の死体を見ていた。


「どうしたグラン?」


「……おう、レイン。ちょっとこいつを見てくれよ?」


 そう言ってレインが傍に行き、グランは男の腕に付いたバンダナを外すと、男の腕には“刺青”が彫られていた。


「なんですかこれは? 」

 

 ステラやセツナも覗き込んでおり、結局は全員で見る事になった刺青。

 

――それは銭袋を担ぐ道化師の刺青だった。


「これは『欲望師(アンスタンズ)商会』のギルド紋……!」


 真っ先に気付いたのはセツナだ。

 刺青を知らずとも、その名だけはあまりに有名。


「欲望師商会って……確かクライアス中にお店を出しているギルドのはずでは?」


「だが同時に奴等は『栄光の星を持つ者(レジェンドギルド)』……そして黒い噂もある」


 ステラの言葉を聞いて思い出す限り、欲望師商会は確かにクライアス中に品を流し、庶民でも切っても切れない関係になっている程だ。

 だがレインは人身売買を始めとした黒い噂も聞いており、星付きもあって嫌な予感を抱いた。


「つまり伯爵の一件は連中が関わっているって事かよ?」


 グランの問いにレインは頷くしかできない。

 現に連中の構成員が市民に紛れ、煽っていたのだから。


「だが何故だ、何の目的で連中が介入する?」


 連中は商人だ。得が無ければ動かず、伯爵が何かを持っているのか、それとも伯爵を抑えたいのか?

 レインはいよいよ話を聞かなければと思っていた時だった。

 伯爵の屋敷の方から馬の足音が聞こえてくる。


「アニキ……あれは」


「今度は誰も手を出すな……」


「手を出したのはお前だろうがレイン?」


 グランが呆れた様に言ってくるが、今度はそう言う事ではない。

 伯爵家の象徴色であるオレンジ色の鎧を着た騎士を見れば、敵とは思いたくない。


「貴殿達……これは?」


 到着した騎士達も周囲の様子に困惑するが、レインとグランのマントを見てアスカリア騎士だと分かった様で、最初から敵意は感じない。


「貴殿達も騎士なのか? だが一体何があって――」


「それは屋敷で聞かせてもらおう……」


 騎士の話を遮り、騎士達の奥からウマに跨って前に出て来たのは、貴族服を着た灰髪の貫禄ある男性だった。

 その男性はレイン達を見て、ステラの姿もあると分かると納得した様に頷いていた。


「何か訳アリだなレイン……グランよ。そしてステラ王女も」


「ご無沙汰しております、カージュ伯爵」


 ステラが一礼するとレイン達も一礼し、カージュ伯爵も頷いた。


「話は屋敷で聞こう。おそらく、こんな所で話せぬ内容であろう?」


「はい」


 レインは頷くと、カージュ伯爵は案内する様に屋敷へと先導し、レイン達は屋敷へと入って行った。


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