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ロストハーツ〜月の姫と心を喰らう魔剣〜  作者: 四季山 紅葉
第三章:忍の少年セツナ
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第十四話:月詠一族の隠れ里


 逃げてから数十分は経っただろう。

 ステラを抱えながら走るレイン、そして殿を務める様に最後尾を敢えて走るグラン。

 二人は逃げている間も、ずっと背後を気に掛けていた。

 

 何故なら、隠密ギルド――忍から逃げる時は、本当に遠くまで逃げなければならない。

 連中は諦めが悪く、任務への執着が強いのが理由だ。

 だが案内人のセツナ、ステラを背負っているレイン、多くの荷物を持っているグランも息は乱れていなかった。


 特殊な訓練をしてきたセツナはこの程度は容易であり、道中、レイン達を気遣って休憩を挟むつもりだったが、その必要性がない事に驚きを禁じ得なかった。


――凄い……鬼血衆と戦った後なのに、ずっと隠密ギルドの僕と同じ速さを保っていられるなんて。これが四獣将なんだ。


 セツナは速さに自信があった。それは速度だけに限らず、持久力もだ。

 そんな自分に容易に合わせている二人、まだ余力を残している様子にも尊敬の念すら抱く。

 一体どうやったらここまで鍛え上げたのか、余裕があれば聞いてみたいものだとセツナが思っていると、やがて目的の場所たどりついていへ辿り着いていた。


「ここです」


「ここって……言われても何もないぞ?」


「森のどこか……ですよね?」


 到着した場所、そこは何の目印もない森のどこかだった。

 疑いを持ちたくはないが、ここに来て仲間を待機させてからの襲撃も視野に入れ、レインはステラを下ろすが、彼女の一歩前に立ち続けた。


 すると、セツナはその場所で手を結び始める。


「すぐに()()()()()――“解”!」


 印を結び、セツナがそう唱えると、目の前の景色が歪み始めた。

 まるで溶けるように景色を変え、やがて()()は現れる。


――“月詠”……そう記された巨大な門に出迎えられ、活気に満ちた街がそこにあった。 


「もしかして、これは“結界”の類ですか……?」


 魔法に精通しているだけあり、ステラはセツナが解いたのが結界だと分かった。

 景色を変えたり、ある物を見えなくする不思議な空間魔法の“亜種”である結界魔法。

 その取得も種類も未だに謎が多い魔法故に、ステラは驚きを隠せない様子で聞くと、セツナは頷いた。


「はい、これは月詠の秘伝の結界です。――そして、ようこそ皆さん! “月詠一族の隠れ里”へ!」


 歓迎の言葉と共に三人が里に入ると、そこにある街並みは三人を驚かせる。


 瓦で出来た屋根の独特な木造建築、街並み飾る桜の木々、活気に満ちている商人、亜人達。

 どれもこれもが新鮮なものばかりだった。


「驚きました……!」


「噂には聞いていたが、これが隠密ギルドの隠れ里か」


 隠密ギルドの拠点――通称『隠れ里』

 話は誰でも聞くが、その場所を知っている者は少ない。

 アスカリア中を回っているレインとグランでさえ、来たのは始めてだが、里を見回すと明らかに一般商人らしき者達も混ざっている。


「一般の商人、そして亜人も普通にいんのか? 一体、ここはどういう隠れ里だ?」


「ここは月詠一族を柱とし、16の傘下と長い歴史の中で築き上げた隠れ里です。そして、あの商人や亜人の方々は僕達が信用できると判断し、里に入る事を許した人達なんです。――隠れ里って言っても、流石に日用品も、多少は買わないといけないですから」


 グランの疑問へ、セツナは苦笑して答えた。

 流石に忍も世間との繋がりを絶って行ける筈がなく、閉鎖的なイメージは間違いだからだ。

 食料や武器などは作れるが、やはり他の日用品など全て作れるわけがなく、こうやって外の商人から買う必要があった。

 また、よく見ればアクセサリー等も売っており、娯楽系も充実している事にグランとステラは、興味を惹かれる様に見渡していた時だ。


――レインだけは、別の点に興味を抱いていた。


「しかし……月詠一族か」


「知っているんですかレイン?」


「いや知らん」


 意味深に呟く割に知らないのかと、ステラとセツナは少しズッコケそうになる。


「ハハハ……まぁ、隠密ギルドである以上、そこまで有名になろうとしてないですから僕達の一族は」


 アスカリア国内にありながら、四獣将のレインにも知られていない事実に、セツナは困った様に苦笑して説明するが、レインの表情は真剣そのものだった。


「だからこそだ。――“名のある影より名無しの影”……それが隠密ギルドへの真の評価の筈だが?」


「!……よくご存知ですね」  


 その言葉を聞いたセツナの表情は、驚愕に染まった。


――“名のある影より、名無しの影”


 それは、隠密ギルドの真の力を示す言葉。

 隠密ギルドは“影”だ、決して日の前に現れず闇に紛れて任をこなす真なる影。

 凄腕の隠密ギルドは自分達の痕跡を一切残さず、目撃者も出さない為に存在を隠し、名も残る事はない。

 故に、鬼血衆の様に悪行が広まっているよりかは、名の知られていない隠密ギルドの方が怖い。


「それに弱小のギルドならば、こんな里を作る事も傘下が16も入る事はない。――現に、お前の腕も悪くなかった」


「!……あのレインさんにそう言って頂けて光栄です」


 レインに、そこまで評価されるのは本当に嬉しくもあったが、同時にセツナは、レインの感情のない瞳に、自分の器の全てを見通された様な感覚を抱いてしまった。


――底が知れない人だ。 


 セツナは平常を保ちながらも、額から冷や汗を流していた時だった。


()ぁ~!」


 周りを見るレイン達の前方から、顔は隠していないがセツナと同じ黒装束の者達が走ってくる。

 

「サスケ! ハンゾウ! 皆も!――いま戻ったよ! 客人も一緒だ!」


 自分達へ向かってくる者達へ、セツナも叫んで応えると、その者達は、セツナとレイン達へ頭を下げた。


「頭領から詳しい話は聞いております、どうぞ、このまま若と本家の屋敷へ」


「若……?」


 黒装束達はそう言うが、レイン達からすれば聞きなれない単語だった。

 恐らくだが、該当するのはセツナであり、自然とセツナの方を向くと、当の本人も気まずい表情を浮かべていた。


「はい、それは僕の事です……僕の名前はセツナ・月詠。今年で16になりますが――月詠一族の後継者って事になっています」


「はぁ~そりゃあ納得だ。次期当主ともなれば、その年齢でそこまで鍛えてるのも当然だな」


 グランは、腑に落ちた様に頷いた。

 セツナの年齢で自分達の目に止まる程の実力も感心したが、どうやらセツナが特別だったからだ。

 しかし、次期当主である事に思う事があるのか、セツナはどこか申し訳なさそうな表情をしていた。

 

「ですが……僕では、まだその名は分不相応です」


 彼なりの考えがあるのか、セツナは迷っていた。

 確かに今の実力では、16傘下の大型ギルドの当主としては力不足でも、まだセツナは若い。

 伸びしろを考えれば十分その器にはなるとレインは思っていたが、サスケとハンゾウと呼ばれた者達が、熱い雰囲気で首を振った。


「何をおっしゃるのですか若! 若は既に当主として相応しい方です!」


「そうですぞ! 既に秘伝の術の多くも取得――そうだ若……結界はいかがでしたか?」


 人望もあるのか、気合を入った様子でセツナを認める二人だったが、ハンゾウは何やら思い出した様子でセツナに問いかけると、周りの雰囲気も緊迫した様に張りつめた。


「僕が行く前に既に解かれていた。やっぱり、頭領の言う通り里内に……」


「……そうですか。――ではその事は我等にお任せを」


「拙者達は、このまま鬼血衆を何とかしきますので、若と皆様方は屋敷へお急ぎを」


 そう言ってサスケとハンゾウ達はその場を後にし、レイン達とは逆に森の中へと消えていってしまう。


「いきなり雰囲気が変わりましたけど……何かあったのでしょうか?」


「……問題を抱えているのか?」


 ステラとレインは話から察し、この里に何かあるのかと気になったが、セツナは静かに首を振って否定した。


「いえ……そう言う訳ではないんですが、鬼血衆以外にも少しだけありまして」


「おいおい、まさか頭領さんの話と関係してんじゃねぇよな?」


 助けてはもらったが、状況からして不用意に人助けをしている暇なんてない。

 何かあった時は利があれば協力しても良いとは思うグランだが、その問いにもセツナは否定した。


「いえ、ギルドのゴタゴタに、皆さんを巻き込むつもりはありません」


「……だが、俺達だからこそ頭領は話を聞くつもりだろ? 名乗ってはいないが、俺達の素性を知っている様だな。――つまりは俺達の使命と関係していると見るぞ?」


「……確かに僕達は皆さんが四獣将・ルナセリア王女であるのを知っています。ですがそれだけで、頭領が何を話したくて皆さんを呼んだのかは分かりません」


 レイン達の言葉にセツナは肯定も否定もせず、本当に知らない様子だった。

 そして、それ以上は黙ってしまいてしまい、レインもこれ以上は無意味と判断する。

 ただ、グランに万が一の時を目で合図し、その後に屋敷へと向かった。



♦♦♦♦


 里の一番の奥に、その屋敷はあった。

 広く立派な和風屋敷。威厳すら感じるその姿を見て、ステラは子供の様に瞳を輝かせながら入って行く。


「あっ……ここから先は靴を脱いでください」


 入口に入ると、セツナからそう言われたレイン達。

 隠密ギルドは変わった文化があるとは聞くが、まさか家に入るのに靴を脱がされるとは思ってもみなかった。

 しかし、取り敢えずは里のルールには従う事にし、三人は靴を脱いで屋敷に上がると、セツナの案内で奥へと導かれた。


「……不思議な御屋敷ですね」


 その道中でステラは思わず呟いた。

 木の床と自然の良い香り。

 それに心が落ち着かせる様な雰囲気もあるが、同時に背筋が伸びてしまう様な厳しさもある。

 

「アスカリアでもルナセリアでもなく、エルフやドワーフ族とも違う作りだな、こりゃ……」

 

 独自の文化に新鮮さを味わうステラとグラン。

 すると三人を案内していたセツナが、ある障子で締められている部屋で足を止めた。


「ここです」


 そう言ってセツナは、障子の向こうにいる人物へ声を掛ける。


「頭領、言われました通り、御三方をお連れ致しました」


『――うむ、入りなさい』


 部屋の向こうからでも分かる優しい口調、そして威厳も混じった男の声。

 レイン達も疑う事無く理解する、この声が頭領と呼ばれる男だと。

 

 すると、セツナが戸を開け、レイン達は中の部屋へと招かれた。


「どうぞ……」 


 戸を開けたセツナは横へと移動し、三人を先に部屋へと入れると、まずはステラが先に入り、一歩後ろに下がって左右にレインとグランが続いた。


 その部屋は広く、畳が敷かれて良い匂いと雰囲気に満ちていた。

 部屋の奥にも、一枚の掛け軸が掛けられており、それには“月と黒猫”が記されていた。

 そして、その掛け軸の前で、二人の男女が座っている。

 

――あれが月詠一族の頭領と……妻か?


 それぞれが着物を身に付け、黒短髪の男は瞳を閉じて真正面に座っていた。

 女性の方はセツナの様に長く綺麗な茶髪で、妙に色っぽさを醸しながら落ち着いた様子で座っている。


 そして、三人が頭領達の前まで来ると、そこに三枚の座布団が敷かれており、頭領と呼ばれた男は目を開いた。


「まずは腰を下ろしくだされ」 


 頭領の言葉に三人は腰を下ろすとセツナも到着し、頭領とレイン達の真ん中辺りにある座布団に腰を下ろした。

 

「……()


「失礼致します……」


 頭領の声に合わせ、その横の戸から入って来たのは一人の少女だった。

 肩まで伸ばした黒く美しい髪、スリットが入ったやや露出もある装束。


――隠密ギルドの女性員か。


 変わった服装だが、今更驚く事でもないとレインは視線は外した。

 すると鈴と呼ばれた少女の持つお盆には、お茶と茶菓子を乗せており、三人の前にそれ等を置いていく。


「前、失礼いたします。――どうぞ粗茶ですが」


「ありがとうございます。……あれ?」


 お礼を言って出された物を見たステラだったが、湯飲みや皿も美しい装飾が施されていた。

 お茶も綺麗な緑茶で湯気も漂い、お菓子も華の様で目でも楽しめる素晴らしい物。


――これで粗茶なのでしょうか?


 粗茶と呼ぶには、あまりにも上質過ぎる。

 ステラは分からずに首を傾げると、察したグランがそっと耳打ちをしてあげた。


(隠密ギルドの中には、何故か謙虚に振る舞う所もあるそうだ。だから粗茶ってのも、そんな感じだと思うぜ?)


(なるほど……そう言う事なんですね)


 何か試されているかもと思ったが、どうやら謙虚に振る舞う文化なようだとステラは理解した。

 現に自分達と同じ物を頭領達にも配っており、鈴と呼ばれた子が最後にセツナにも茶と菓子を渡していた時、ステラはちょっとした事に気付く。


「はいどうぞ……冷ましてあるからね?」


「ハハ……ありがとう」


 セツナのお茶にだけ湯気がなかっただが、お茶を出す鈴はからかう様に笑い、セツナも恥ずかしそうに頬を掻いていたのだ。

 まるで互いを理解している様なやり取りを見て、ステラは思わず優しく見守っていた時だ。

 

「どうぞ、遠慮なく召し上がり下さい」


 頭領がそう言って茶を飲み始め、鈴も会釈をし、その場を後にした。

 そして、礼儀としてレインを除いた二人が茶に手を付けようとするが、横に置いてあった、ある物に気付いた。 


「……銀食器か」


 銀の棒とフォークなどがあり、それをグランが手に持って頭領へと見せると、向こうも予想通りの様に反応する。


「その方が安心するでしょう……口でも言いますが、毒は入れておりませんよ?」


 毒の警戒を無くす為の気遣いか、それとも馬鹿にしているのか。

 わざわざ銀食器まで用意した割に、頭領の様子は平常心。

 何も後ろめたい事はないという様に頭領は茶菓子を口にし、隣の女性とセツナも茶を口にしていた。

 だが、レインは茶を楽しむために来た訳ではないと、唯一手を出さなかった。


「茶飲み話がしたければ他を当たれ――何の為に俺達を招いた?」


「いきなり本題ですか……」


「隠密ギルドの中には“義”で動く者達もいると言うが、それでも利が無ければ動くことはない。わざわざ、隠れ里の場所を教えてまで一体なにが目的だ?」


 レインは敵意がなくとも完全に信用していない。

 

 そもそも、隠密ギルドは完全に信用するのが難しい分類。

 味方に入れば深い所まで知る割に、裏切る時は呆気なく裏切る。

 その理由に関しても依頼人からの不義、信頼関係、自分達の誇りを傷つけられたと、色んな理由があって扱いが困難だからだ。


 だから何を企んでいるのか分からない以上、レインは座ってからも礼儀知らずと思われようが、茶や菓子に手を付ける気はなかった。。

 寧ろ、マントで隠しながらも、ずっと左手は影狼に添えている程だ。


「これでは安心できませぬか……二つ名の如き、強い警戒心ですな」


 それも頭領は把握しているのだろう。

 自分と一番近いステラへの意識は最低限しか向けず、レインにばかり意識の大半を向けているのが証拠だ。


「……まずは遅くなった自己紹介を。隠密ギルド・月詠一族9代目ハヤテ・月詠と申します」


「妻のカグヤ・月詠でございます」


 頭領――ハヤテ、妻――カグヤ。

 どちらからも感じる強者の気配、お茶をしていても隙を全く感じさせないのが、その証拠だった。


――強ぇな……!


 グランすら感じ取る力の気配。

 自分では分不相応。そうセツナは言っていたが、両親がこれではそう思うのも仕方なかった。

 この大所帯のギルドを支える二人だけあり、並みの強さでは引っ張る事ができないのだろう。


 しかし、それぞれが集中する中、今度はステラが別の事に意識を向けていた。 


「……ってことは、セツナくんのご両親なんですね!」


「えっ?――えっと……はい、そうです。僕の両親になります」


「やっぱり! 目はお父さん似で、髪や顔つきはお母さん似ですね! そっくりですよ!」


 まるで、間違い探しのクイズを最初に正解した様に喜ぶステラ。

 その無邪気な姿にセツナも困惑気味だったが、空気が軽くなったのを感じ、ハヤテとカグヤの表情にも笑みが現れた。


「ハハハハハッ!――流石はルナセリア帝国の姫君と言うべきか、場の空気を感じ取ったのですかな?」


「いいえ……これがステラ王女の持つ純粋な良さなんじゃないかしら?」


「……?」


 考えての天然発言なのか、場を察して考えた言葉のかは本人以外は分からない。

 けれど、それで空気の重さがなくなったのは事実。

 ステラの明るさで場が軽くなり、ハヤテは柔らかな表情で再びレインを見た。


「仕切り直しましょうか黒狼殿?」


「あぁ、ではもう一度聞く。目的はなんだ?……どうやって俺達の素性を知った? アスカリア国内ならば、俺とグランを知っていて不思議ではない」


――だが。


「ステラはルナセリアの王女だ。その王女がアスカリアに、そして四獣将の俺達といる事は普通ならばありえない。顔を知っていても、疑問を抱くのが先だ」


 鬼血衆・月詠一族。

 彼等が自分達が共に行動し、ここにいる事を知っている前提が、そもそもおかしいと、レインは気になっていた。

 グラウンドブリッジから落ち、湖の森に着いたのは偶然。

 なのにルート上仕方なく地図にはない森へ入ってしまえば、そこにはステラ襲撃の依頼を受けた鬼血衆と、素性を知った月詠一族までがいた。


 疑うというよりは最早、一体なにが起こっているのかが知りたかった。

 

「まずは何故、我々が皆さんが共にいる事を知っているのか、そして疑問を抱かないのか。――ハッキリ言いますと、()()は出来ていたのです。恐らく“和平”に関する事で両国が動いている事を」


「なんだと?」


「おいおい、どういう意味だ? いくら情報収集が得意な隠密ギルドでも、この和平に関しては両国とも慎重に動いていた筈だぞ? そう簡単に調べられる筈が……どうなってんだステラ?」


「分かりません。実際、サイラス王とのやり取りもかなり複雑にし、第三者が介入しても情報は得られない様にしていました。ですので、情報が漏れるとは思えません……」


 信じられないと言った表情を浮かべるステラ。

 実際、レイン達もステラの事を知らされたのは任務を命じられた当日。

 それ程の情報を規制していたにも関わらず、月詠一族は独自で調べ上げたと思ったが、セツナが冷静に否定した。


「いえ、あくまでも()()していただけです。 独自に集めた情報を元に、アスカリアとルナセリアが和平に動いていると」


「だが、予想といえど、そう出来るものなのか?」


「はい……実を言えば現状を察しているのは我々以外の隠密ギルドもです。我々は『妖月戦争』から今日に至るまで、ずっとアスカリア・ルナセリア・アースライの三大国家。その主要と呼べる者達の動向を監視していたのです」


「えぇぇぇぇっ!?」


 ハヤテの口にした衝撃の告白にステラは驚きの声をあげ、レインとグランの表情も険しくなる。

 

――監視の対象や規模。


 話が本当ならば、自分達が四獣将に就任した時から対象になっている筈だが、そんな気配は感じた事はない。

 しかし、実際に自分達がここにいる以上は情報を得ていた、つまり監視はしていたのは事実。 


――どうやら最初から全て、暗殺側の予定通り。その可能性が高いか。


 レインは、既に情報のピースが各地に存在している事に懸念を抱くが、王女といえど年頃の女子であるステラは別の心配していた。


「監視っ!? どの程度の監視をしていたんですか!? まさかプライベート!? それ以上の事とかもですか!!?」


「い、いえ……監視と言っても最低限の動きを把握する程度で、そこまで本格的にはしておりません。まぁ、あくまでも我等はですが……!」


 一体なにがあるのか、ステラは鬼気迫る勢いでハヤテに迫って追求すると、顔に傷がある強面のハヤテも気押されてしまった。

 けれど、それを聞いて安心したのか、ステラは溜息を吐きながら冷静さを取り戻した。


「ふぅ~それなら良かったです……もしかしたら、あの事を見られていたのかと」


――一体何をしてたんだ……?


――分かってんのか? あくまでも月詠一族はそこまでしてねぇけど、他の連中がしているかもって事を。


 二人はステラの様子に心配するが、ここで言っても、碌な事にならないと判断し、見て見ぬふりを決め込んだ。

 けれど、グランにはまだ疑問があり、ハヤテへそれを聞いてみた。


「だが、なんでんな事を? 確かに戦争となればギルド勢も無視はできねぇが、情報を早めに得て、武器にでもする気だったのか?」


「……いえ、我等は寧ろその逆です。我等は戦争を……阻止したいのです」


 その言葉にレインとグランは互いに目を合わせ、疑いの視線を彼等へと向けるのだった。



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