プロローグ
全体的に区切って見ました。ユニークも90突破しました。ありがとうございます!('ω')ノ
嘗てこの世界は【人間・魔物・亜人・精霊】が共存し、世界のバランスを創っていた。
人は、文明を築き魔法や技術、そして世界に【秩序】を。
魔物・亜人は、独自の生態系を築く事により住処である【自然】を。
精霊は、人や魔物以外、花や虫等の小さな命にも【恩恵】を。
これがこの世界のルールだった。
この中の何かが欠けても世界のバランスは維持できず、一つでも欠ければ生命は衰退する。
この世界に住むものならばそれは誰も知っている事実……だった。
秩序を作っていた人間は技術の向上により力を持ち、やがて邪悪な考えを抱いてしまう。
自分達こそが世界の支配者に相応しいと思い、魔物達から自然を奪い、自分達の領地を広げ始める。
その行為は自然を汚し、自分達以外の命を軽視する行動で、精霊はこれに怒り、人間への恩恵を止めようと警告するが彼等が聞く事はなかった。
――人だけの時代が始まる。それが全てを制した人の答え。
けれでも、人間の文明は滅んだ。それも呆気なく突然に。
人の力が弱まった事で再び世界は元の美しさを取り戻し始め、精霊達は生き残った人間達に一つの誓いをさせる。
『もう二度とこの様な惨事を起こさないと誓うならば人間の今までの罪を許し、また共に世界の命として生きる事を許そう』
人間達は、精霊の言葉を受け止めて、二度と過ちを起こさないと誓った。
それによって、人は再びこの世界の命として共存する事を許された。
過ちは消え、ここから再び世界は歩き出すのだと誰もが疑うことはなかった。
▼▼▼
しかし数百年以上の時が再び世界に変化を促す。
【クライアス】
この世界がそう名付けられるとクライアスは嘗ての様な景色は消え、新たなバランスが生まれた。
精霊、魔物も新たな役割を得た。竜も亜人も、そして勿論、嘗て精霊から誓いをさせられた人間も例外ではない。
竜と、彼等を守る龍人が住む聖域の山【ドラゴンマウンテン】
エルフやドワーフ達、亜人の国【スタリア】
また妖精を筆頭に独自の文明を築く者達もいる。
そして人間が最も存在する三つの勢力。
【アスカリア王国】・【ルナセリア帝国】・【アースライ連合国】
人々はこの三つの大国と言う船に乗り、新たな技術や魔法を得ながら命の旅をしていた。
――しかしクライアスは戦いの渦に呑まれ始めていた。
大国同士の戦争、犯罪ギルドの介入、新種の魔物。
そんな数々の傷跡を残しながら進むクライアスの命の旅。そんな人々が再び過ちを繰り返そうとする世に“彼等”はいた。
アスカリア王国・国王が認めた最上位騎士。
アスカリア王国の国旗に記されている四匹の獣である【狼・牛・鳥・獅子】を二つ名に与えられた四人の騎士将軍を味方は英雄とし称え、敵は脅威として恐れた。
そして、そんな彼等を人々はこう呼んだ。
――『四獣将』と。
これはその四匹の獣の内の一匹である”黒き狼”の物語。
♦♦♦♦
【クライアス】に君臨する三大国家が一つである【アスカリア王国】
長い歴史の中で存在するアスカリア王国は、貴族優遇のあり方“貴族主義”を撤廃した<賢王サイラス・テル・アスカリア>が治める国であった。
純粋な力・権力。それを貴族だけに優遇された世が消え、平民からも騎士や政治に関わる者が現れた。
また騎士家系の貴族も多く、国色は個の能力が高い”武”の国でもあった。
その影響は魔法にまで現れ、魔法を武に活かす方向に発展し、更に武を磨き続ける。
――魔力の斬撃・魔力を込めた衝撃波などが良い例だ。
そして平民から貴族の様に、その逆のパターンも現れ始めた。
貴族がパン屋・絵描きになるなど選択の自由が生まれた事で、文化も大国の名に恥じない程に発達を遂げる事になる。
しかし、全ての者がそれを受け入れた訳ではない。
その変革の代償に現アスカリア王と貴族主義派の間に深い溝が生まれ、そんな新たな火種を抱える事になってしまった。
♦♦♦
――そんなアスカリア王国の辺境。
整備されてもいない獣道を、二人の青年が走っていた。
一人は息を乱して汗を拭う暇もなく必死で走り、もう一人は余力を残す様に涼しい様子で後を追う。
「ハァ……ハァ……!――待て! 逃がさないぞ!」
「……」
先を行く青年は綺麗に整えられた金髪と服装を纏い、手に持つ綺麗な装飾が施されたレイピアを持ちながら走っていた。
ただし、誰が見ても高貴な人物な装備であるからか、その動きは若干だがぎこちない。
一方、その青年を追う様に後ろを走っている綺麗な黒の長髪・黒マントを纏う青年は、マントが枝に引っ掛からないよう器用に動き、金髪の青年の後を見守る様に追っていた。
加えて、その姿は洗礼された動きであり、金髪の青年よりも戦い慣れており、必死な金髪の青年と同じ状況下でも、彼へ心配する様に声を掛ける事も出来た。
「……アルセル。無理をするな」
「はぁ……はぁ……えっ? い、いや……僕は大丈夫だよ。――ごめんレイン」
アルセルと呼ばれた青年は、自分を呼んだ黒髪の青年――レインへ息を乱しながら答えた。
けれども、その言葉とは裏腹に明らかに無理をしている様で汗も多く流し、呼吸も大分乱れている。
だからレインも、アルセルが嘘を付いているとすぐに分かった。
「だがアルセル……獣道にお前は慣れて――」
レインはアルセルが獣道、または整備されていない自然の道に慣れていない事は知っていた。
それはアルセルの豪華な装備の理由かつ、その立場が原因。
だからレインは、彼へ注意する様に言おうとしたが、それよりも前方に大きな黒い影が横切った。
「ッ!? 見つけたぞ。あいつだレイン!」
横切った大きな黒い影、それは二人が獣道を走っている“理由”だ。
その為、アルセルは黒い影を追う様に獣道から飛び出した。
すると幸運にも、飛び出した先は人の手が入った道。獣道から出る事が叶ったが、そんなアルセルの目の前には目標の黒い獣が待ち構えていた。
『グルルルッ……!』
日が照らされて黒い影の姿が露わになる。
大きさは大の大人よりも大きく、毛と瞳は赤ワインの様に赤黒く染まっている四足歩行の獣型の魔物。
しかも魔物は牙を剥き出しで、威嚇する様に唸り声を鳴らし完全にアルセルを敵と見なしていた。
「う、うぅ……!」
命の危機を感じる威圧感を受けた為、アルセルは思わず下がってしまったが、自身の震えている身体に鞭を打ってレイピアを構えた。
「こいつが近隣の村を襲っている魔物……! 恐れるなアルセル……僕一人でも戦える事を皆に示すんだ」
己に言い聞かせるように呟くアルセルは、大きく息を吸って落ち着きながらレイピアを魔物へ向ける。
すると、その行動が完全な敵対行動となってしまい、魔物もアルセルへ向けて大きく咆えた。
『ガアァァァッ!!』
影が獣へと変貌した様な真っ黒な姿から、その名を『シャドウファング』と名付けられた魔物が、獲物を殺す為の殺気を放ちながらアルセルへと飛び掛かった。
「う、うわぁぁぁぁッ!!!」
その迫力にアルセルは気圧されると、尻餅を着き、恐怖でレイピアをめちゃくちゃに振り回す。
叫び声だけ言えば魔物以上の大声だ。けれども、その大声が相手をシャドウファングを刺激させてしまい、怯むどころか興奮しながら牙を剥き出しにしてアルセルへと迫った。
――瞬間、黒い斬撃が両者の間に割り込んだ。
「――魔狼閃!」
黒い狼の様に見える斬撃。
それは飛び掛かるシャドウファングを直撃し、斬撃の肉を切る音と共にシャドウファングは地面を二、三回バウンドして跳ね、最後にその動きを止めた。
「……無事か?」
「あっ……レイン」
自分を呼ぶ声にアルセルは我に返えると、獣道から姿を現したのはレインだった。
レインは己の武器である“黒刀”を抜いており、それからは微かに魔力の残り香が感じられる。
その為、先程の斬撃を放ったのがレインなのだと分かる。
「対処が遅れた、すまない……」
怪我をさせた事に表情を険しくしながらレインは刀を鞘へ戻し、懐から青い液体が入った瓶を取り出しながら謝罪しながら駆け寄った。
何故なら、レインはアルセルの護衛だからだ。
「はは……ごめん、レイン。僕じゃ勝てなかったよ……」
「謝罪するのは俺だ……」
護衛として謝罪するレインへ、逆に情けないと言うような笑みを浮かべるアルセル。
けれどもレインは冷静な口調で答え、一般に売られている薬『ヒール薬』と呼ばれる回復ドリンクのアイテムを手渡した。
「……ありがとう、レイン」
内心でレインの足を引っ張っていたと自覚出来た事で、少し暗い表情をしながらヒール薬を受け取ってアルセルは一気に飲み干す。
さっぱりした喉ごしと仄かな甘みが口に広がり、彼の手足の擦り傷が静かに癒される。
また、いつまでも尻餅をついているアルセルにレインは手を差し伸べる。
「御手をどうぞ―――殿下」
レインはアルセルへ“殿下”と呼んだ。
即ち、この【アスカリア王国】――アルセルはその“王子”だ。
だから彼は“騎士”であるレインの手に自分の手を重ね、引っ張られる様に立ち上がった。
「いつもごめん、そしてありがとう……レイン」
「これが俺の役目だ……アルセル」
手を掴まむアルセルを、そのまま引っ張り上げるレイン。
過程はどうであれ、目的の魔物は退治できた。
これで一つの問題が解決したが、これがお互いの運命を狂わせる始まりである事を二人はまだ知らない。