生体コンピュータ
宇宙人はいるのか?もし、存在するなら、どのような生き物だろうか?このような疑問を持ったことはないだろうか。その答えはもちろんわからない、人類の誰もがおそらく宇宙人に会ったことはないからだ。だが、宇宙人が、どのような形状をしているのか、これは多くの議論がなされた。ここでは、一つの面白い仮説を紹介しよう。
地球人類は炭素でできている。高校の化学で勉強したであろう「C」という記号であらわされる元素。この炭素に加え、水素だとか、酸素だとか、あとは少量のリン、硫黄などなどで出来ている。だが、炭素が我々のベースなのだ。その理由は、炭素は地球に多かったことと、反応に関わる腕が四本くっついていること、これらがヒトを作り上げるのに都合がよかった。
では、炭素以外に四本の腕がある元素はないのだろうか?答えは、「ある」だ。それは、もう見たくもない人間もいるかもしれないが、メンデレーエフという人物の考えだした周期表、それに記載される炭素の一段下に存在する。それは、ケイ素、「Si」であらわされる。そして、ケイ素も化学反応に関わる四本の腕を持つ。
ならば、炭素よりもケイ素の多い天体であれば、ケイ素ベースの生物が存在することが有り得るのでは?これが宇宙人の見た目を想像する仮説の一つである。
ケイ素には大きな特徴がある。非金属と金属の中間の性質を持ち、特定の条件下で電流を通しやすいということだ。これは実はとても都合がいい。
地球の動物界に属する種は、神経を持ち、伝達に電気伝導性を用いるが、これは中央処理機構たる「脳」から末端の「四肢」などへと情報を伝えるのに高速で、緊急の問題への対応が可能となる。つまり、脳から手足を素早く動かすことができ、危機を素早く脱することができるということだ。ホモ・サピエンスも電気伝導性という性質を利用して、神経を刺激し、脳を動かし、思考をしているが、その機構は精緻だが極めて複雑でエラーも多い。
ケイ素ならば、電気伝導の機構はより効率的で、伝導の条件のコントロールも容易である。つまり、炭素生物よりも高度で、思考速度が速く、上位の存在だ。宇宙人が常に地球生物よりも、高度な文明を持つとは限らないが、ケイ素生物はどうやら高いポテンシャルを秘めているらしい。君が出会う可能性が高いのは高度な文明を持ち、遥か銀河の彼方から恒星間を移動を可能とする科学力を持ち得るケイ素生物ということだ。すなわち、宇宙人はケイ素生物だろう。
さて、先ほど人類の誰しもが宇宙人に会ったことはないと伝えた。だが、近しい存在、ケイ素型宇宙人の原型とでも言うべきモノに我々は常日頃触れている。君の目の前のもの、コンピュータだ。地球人が触れているコンピュータは、ノイマン型と呼ばれ、これまた宇宙人のような(!)天才的な頭脳を持ったフォン・ノイマンというヒトが今日のコンピュータの原型を作った。コンピュータの中央演算処理装置、脳にあたる部分はCPUと呼ばれ、ケイ素をベースとした物理媒体を基にし、電気信号によって制御を行っている。まさに、ホモ・サピエンスの脳のようではないか。
炭素ベースとケイ素ベースの類似性は、これだけではない。コンピュータの仕組みは基本的に、「ある」と「ない」を無数に組み合わせて構築されている。論理演算というやつだ。これがコンピュータの正確性を生み、曖昧さを排除していると一般に理解されている。
だが、実はこの仕組み、真核細胞、つまり地球の動物種の基本単位でも同じ仕組みによって成り立っている。機構はとても複雑だが、いわゆる「機械的」な「ある」と「ない」の条件を組み合わせによって動いている。炭素で構築された細胞は、細胞膜を持つが、この膜外と膜内でどのような行動を起こすかは、水車のような仕組みのポンプによって行動が決定されている。それは内外に、例えばナトリウムイオンが多く存在「する」とか「しない」とか、つまり「ある」「ある」や「ある」「ない」で動きの程度が決まる。そこに、思考といったものは介在せず、実際にはただの現象として起こっているのだ。
つまり、炭素生物も最も小さな単位においては、コンピュータとの差異はなく、そのネットワークが膨大かつ複雑に絡みあっているために、人間を生み、個性を生み、感情を生んでいる。誠に遺憾だが、コンピュータはまだ、人間として認められるほど、規模が大きく複雑ではないのだ。
ここまでで、炭素生物とケイ素生物の類似性をケイ素生物の原型であるコンピュータを通して語った。じゃあ、発想を逆転させるのはどうだろうか。炭素ベースのコンピュータの存在だ。ホモ・サピエンスが非常に複雑で優れた処理能力を持つのならば、それを上手く制御すればとても優秀なコンピュータになる。
そんなことが可能か?例えば、君たちの脳の表面、大脳新皮質の計算野を電極を用いて活性化し、それ以外を不活化、上手く管理すれば少し大きな計算機になるだろう。でも、脳幹の機能はそのままだ、電源が落ちては困るからね。あとは、グルコースといくらかのミネラルを与えれば機能維持は容易だ。
倫理的に許されない?なに、君らがコンピュータに対して行っていることと大差ない。少し複雑か否か、どちらにしろ周期表の6番目と24番目の元素が基盤という違いしかない。
最後に、もしこの炭素コンピュータが動かなくなったらどうするか。その対処には君たちの英知がある、昭和時代から続く伝統的な電化製品の動かし方があるだろう?
家電製品の右斜め45度の角度から、平手で適度な勢いで、強く叩くのだ。非人道的で、非合理的、つまり「ひどい」って?なに、ある東洋の集合社会、連合体では、生体コンピュータより高度なはずのホモ・サピエンスを過剰な使用や酷使により、故障に追い込んでいるじゃないか。それに比べれば、良心的なものさ。
「ここをこうやって叩くと直るんだよ」と、君らも電化製品にやっているだろう。じゃあ、僕も叩いてみるとしよう。おや、壊れてしまった。炭素ベースのコンピュータは酷使でも、叩いて直すにも、壊れやすくて機械としての利用には向かないようだ。挙句、お互いに干渉しあってしょっちゅう壊しあうか、自壊プログラムを作動させる。全くもって、非効率的と言わざるを得ない。ケイ素ベースのコンピュータよりも複雑で精緻なつくりをしているのに、なぜそんな動かし方をしているんだい?
どうやら、僕らにとっては君たちを征服し、利用する価値を見出せないようだ。君たちももう少し、自分たちが何に向いて、どう自分を利用するか、もう少し考え直してみるんだね。利用価値があるようになったら、またここに来てみよう。
では、また。
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