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夢が叶うなら!   作者: 柏木よる
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夢で全裸に会ったなら!

 風鳴りの音は聞こえず、一定音に響く車輪の音、動いているはずなのに振動は全く感じない。吊りランタンのオレンジ色の光に照らされた車内には、幾人かが歩いて汚れたことを感じさせる木目板がはめ込まれ、朱色の1列シートが向い合うように並んでいる。

 シートには、振動が無いはずのこの場所でふわふわとゆらめく黒モヤが3つ。窓の外はただただ暗い世界が広がり、それを眺める女がぼんやりと浮かぶ。


 少し吊り目気味の勝気を感じさせる黒い瞳と肩まで伸びたベリーショートの明るめの茶髪。良く見ると前髪から見えるおでこに小さな傷跡があり、見た目通りの活発な少女だったのだと思わせる。しかし、肌は白人のように白くシミや日焼けは一切無い。もう少しだけ、鼻が高ければモデルと言っても通じるだろう。


 ん、これ私じゃね?と思った時、意識が急激に目覚める。今日も変わらないこの世界の始まりに私は、


「だから、辛気臭いんだよ!!」


 おおっと、思わず耳を塞いでしまった。こんなに声が出ると思わなかったからびっくりだわ。せっかく新品のジェラートピ〇のルームウェアで寝たのに最悪の目覚めだ。


「んー、おはようございますスピカさん。

 あなたの馬鹿声と違って今日は随分可愛らしいですね」


 背後から、優しげな声と裏腹に笑いをこらえたような声が聞こえる。

 ああ、もう目覚めたのかよ


「うるさい桃李!!今日は無いって聞いてたから油断してたの」

「スピカさん、それは無いですよ。昨日の演目者の顔見ました?笑いながら言ってましたよ?

 スピカさんのことからかっていたに決まっているじゃないですか。」


 育ちの良さを感じさせる知的な顔だが、ワックスを着けたまま寝てしまったのであろうか、髪がてんやわんやしている。


「あいつぅぅぅぅぅぅぅ、というか、桃李はスーツのまま寝たの?せっかく綺麗な金髪もボサボサじゃな い。」

「口説きたい女性がいるのなら、別ですがここにいるのは自分の声で耳を塞ぐ馬鹿女ですからね」


 手櫛で髪を整えながら無駄に良い顔の無駄に良い笑顔で桃李は返す。

 見られていたのかよ。後悔してももう遅い。


「とにかく後2人起こすわよ」

「2人ともうるさいのです。

 せっかく気持ちよく寝ていたというの.....」


 近くに合った黒モヤが薄く広がるように消えながれ色づきを取り戻す。黒モヤが完全に消えるとワンピースタイプのネグリジェを着た女の子が現れた。

 条件反射のごとくスピードでスピカはハグをしていた。


「シュリちゃんおはよー

 ごめんねー馬鹿のせいで起こしちゃったわね」


 腕にすっぽり収まる身長にピンク色のネグリジェまるで、どこかの国のお姫様みたいだ。桃李が何か言ってるけど無視だ。今大事なのは、可愛いシュリちゃんを愛でることだ。


「だから、なんでハグするんですか。

 良い加減このやり取りも飽きないのですか?」


 呆れ顔のシュリちゃんを見る。ほんとに可愛い。飽きるわけが無い。サファイアの用な瞳に産毛一つない肌にぷにぷにのほっぺ、艶やかに煌く銀髪、ハグすると広がる香りがたまらなく好きだ。


「だから、なぜまたハグするんですか」


 っっはあぅ、欲望に抗えない体が思わず動いてしまった。遠くから見れば完全やべーやつだけど、この欲求には抗えないわ。


「そろそろ良いでしょうか。もう一人も起こしましょう。この騒ぎでも全く起きないようですし。」


確かに桃李の言う通りだ。このままだとこの列車はもう着いてしまうかも知れない。その前に起こさないのは何かとまずい。


「桃李起こして。」

「嫌です。起こした人にグーパンされて以来起こしたくありません。」

「あれはお前が悪い」

「とにかく嫌です。」


 車内の隅で目覚めたときから、変わらずふわふわとゆらめいている黒モヤに近づきます。

 黒モヤに向かって声を掛ける。反応無し。

 黒モヤに手を突っ込み揺らす。反応無し。

 先ほどより強く揺らしてみる。反応無し。


バン!!


 桃李があーやっぱりみたいな顔してるのがイラっとする。けど、まずはこっちだ。ようやく黒モヤがシュリちゃん時のように霧散し現れたのは、



全裸だった。



バン!!


「いったああああああああああああ」


 有無を言わさずもう一発殴った衝撃でシートに座っていた男が床に崩れ落ちる。


「うるせぇ!殴った私の拳も痛いんだ!むしろ乙女の心を傷つけたお前の罪の方が重い!!」

「理不尽!なんたる理不尽!」

「まずは服を着ろ!服を!」

「その服が無いんだよ!」

「はいいいい」


「良ければこちらのジャケットをどうぞ」


 桃李が自分の着ていたジャケットを差し出す。


「ありがとう......」


 全裸の男がときめいているのが分かった。

 初対面の女に殴られ、何もかもが分からない状態で、唯一優しくしてくれたイケメン、映画のワンシーンのような雰囲気だ。


男はジャケットを着て立ち上がる。


バン!!


「何も変わってないわ!むしろ、変態度が上がっただけだろうが!!」


 上半身はジャケット下半身丸出しなんてどこの世界であっても通報案件以外の何もでもない。後ろで桃李が爆笑している、あいつ絶対分かっていてやったわ。


「桃李、パンツ脱いで」

「はい?」

「パンツ脱げぇぇぇぇ」


ここだけ、切り取れば私も痴女以外の何もでもない。しかし、状況が状況だ。

まずは、何より桃李からパンツを剥ぎとらねば!!

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