月下美人
月下美人:月明かりの下にいるときだけ美人でいられる
『〝艶やかな美人„という言葉は、きっと彼女のためだけに存在するのだろう』
とは、私の友人が彼女の容姿を喩えた際に言った台詞である。
正直、最初に聞いた時は、どんな姿なのか皆目見当がつかなかった。
艶やかさとは何なのかが、私にはよく分からなかったからだ。
だが、友人の紹介で彼女と初めて会った時、その意味がやっと腑に落ちた。
それと同時に、私も思ってしまった。
『〝艶やかな美人〟とは彼女のような人のことを言うのだと』
今こうして振り返ってみると、私が彼女の事を、愛着と敬慕の念を込め、〝月下美人〟と呼ぶようになったのはその頃からだったのかもしれない。
〝月下美人〟と聞くと、月明りの下にいない時は美人ではないという印象を受けてしまうが、彼女の場合は、私が知る限りで、唯一の例外だ。
美しさに磨きがかかる、とでも言えば良いのだろうか。
彼女の持つどこか刺々しい一面が、その時だけは、すっかり姿を隠してしまう様に思えるのだ。
それが、私が彼女の事を〝月下美人〟と呼ぶわけでもあり、友人から〝艶やかな美人〟と称されるゆえんでもあるのだろう。
⁂
彼女と初めて出会ってから、もう何か月も経った。
何かと理由をつけては彼女のいる店に通い詰めたので、友人の行きつけでしかなかったあの店も、今ではすっかり私にとっても馴染みの店になってしまっている。
そして今日、私は一つの決意のもと、彼女のいるあの店へと足を運んだ。
いつもは彼女の姿を遠目で眺めつつ、店長と世間話を咲かせている私だが、今日は違う。
遂に、彼女を自分のものにするのだ。
今思えば、私の一目惚れだったのかもしれない。
サボテン科・クジャクサボテン属に分類されるという、着生サボテンの一種。〝月下美人〟に、私はどうやら恋心を抱いてしまったようだ。
月下美人:サボテン科・クジャクサボテン属に分類される着生サボテンの1種。
〝艶やかな美人〟の花言葉を持つ。
なお、棘はないそうです。