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ダンジョンマスターが公爵令嬢を拾った話

公爵令嬢はダンジョンマスターに拾われる

作者: 羽狛弓弦

インスピレーションがビビッときて、パパッと書いたのでいろいろおかしな所もございますが、お読みになっていただければ幸いです。

ある指摘をいただいたので、前半を改稿しました。ついでに中盤のエピソードを一つ増やしました。

 ああ…ああ…私はなんて馬鹿なんだろう。

 どうして彼の事を信じていたのだろう。

 一時の気の迷いと、すぐに私の元に戻ってきてくれると。

 私は彼の為にたくさん努力したのに。

 彼の支えになればと思い、辛くても泣き言を言わずに努力してきたのに。

 その結果がこれか。


『GYAGOOOOOOOO!!』


 目の前の竜から響き渡る咆哮。

 私は死を覚悟した。




 ー▽ー



 私の名前はエイラ・セラフィス。

 公爵家であるセラフィス家の長女です。

 私には幼い頃より婚約者がいました。

 このラビリンス王国の第二王子のハルディオン様です。

 婚約者として引き合わされたのは、まだ七を数える前でした。

 初めてお会いした彼の金の髪に陽光が降り注いで、まるで輝くようでした。

 私はどうも単純なようで、一目惚れでした。



 それ以来、彼の婚約者として恥ずかしくないように、また彼の支えになれるようにとたくさん努力しました。

 辛い時もありましたが、それでも私は幸せでした。



 あの女が来るまでは。



 マリア・ルクセリア。

 ルクセリア男爵の庶子で最近男爵家の一員となり学園に編入してきた女。

 彼女は男爵家、しかも庶子にもかかわらず高貴か方々に近づき、あろう事か第二王子であるハルディオン様にまで近づき、非常に馴れ馴れしい態度をとりました。

 本来、不敬だと取られても仕方のない態度でしたが、ハルディオン様や他の方々、さらには義弟までもがその態度を珍しく思ったのか逆に彼女を気に入ってしまいました。

 それから時が経つにつれてハルディオン様は私では無く、あの女と過ごすようになりました。

 ハルディオン様の御心が私から離れていくのを感じ、気が気ではありませんでした。

 しかし、私達は婚約しています。

 結婚は両親が決めた事であり、私やハルディオン様の一存でどうこうなるものではありません。

 一時の気の迷いだと自分に言い聞かせてどうにか心の静寂を保っていました。



 そしてある日、私はハルディオン様にデートに誘われました。

 この時の私は非常に舞い上がっていました。

 やっと目が覚めたのかと、やはり一時の気の迷いなのだと。

 ちゃんと私を見てくれたのだと。


 私はデートに備えて目一杯オシャレしました。

 おそらく近年で一番気合いが入っていたと思います。


 そして、デートの日。

 私達は護衛を伴って近隣の町に出かけました。

 王都ではありきたりだから別の町でデートしようと言われ。

 

 ワクワクしながら馬車に揺られていましたが、そのワクワクは長くは続きませんでした。

 外の景色を見た時に街道から外れている事に疑問を持つべきだったのです。

 いえ、馬車に乗った時点で既にダメだったのでしょう。


 馬車が止まり、外にだされます。


「えっと、ハルディオン様? 隣町に行くのでは?」


 そう、隣町に行くはずです。

 そこにあるのは町の外壁ではなく、人里離れた場所にある巨大な塔。


 しかし、ハルディオン様はそんな私の疑問を無視して、


「エイラ・セラフィス!! 貴様との婚約を破棄する!!」


 そう言い放ちました。


「え?」


 突然の宣言に私は固まっていると、ハルディオン様と塔のかげからあの女と彼女の取り巻きと化している義弟や他の方々が現れました。


「貴様には失望した。貴様のした所業は我が愛しきマリアより聞いた。そのような者を我が妃にする事はできん!!」

「わ、私が彼女に何をしたというのですか!?」

「貴様は己の罪すら認めないというのか!?」


 それから彼は、私がしたとされる悪事を話します。

 全く身に覚えがない出来事を淡々と話す彼。


 一つの悪事毎に、後ろのマリアは思い出したかのようにつらい顔をする。

 それにいちいち反応してマリアを心配するハルディオン様達が滑稽に見えてきます。


 本当にこの方はハルディオン様なのでしょうか?


 全く身に覚えがない事なのですが、全て私のせいにされています。

 唖然としている私に、王子の後ろでマリアが不敵な笑みを浮かべる。

 それで確信しました。

 嵌められたと。


「という事だ。そのような所業をする者など我が妃にする事はできない!! よって貴様との婚約を破棄し、新たにマリア・ルクセリアと婚約を交わす!! 受けてくれるねマリア?」

「はぃ〜、マリア、嬉しいですぅ〜」


 そういってくねくねしながらハルディオン様に抱きつくマリア。

 そして嬉しそうに抱きしめるハルディオン様。

 これは、何の三文芝居なのでしょう?


 いえ、それよりも誤解を解かなければなりません。

 私は彼女にそんな事をしていませんし、第一、婚約は私達の一存でどうこうなるものではありません。


「待ってください!」


 と言うが、ハルディオン様遮られる。


「安心しろ。貴様はここで突如現れた異常モンスターに襲われ、私達を守り死んだ事にする」

「義姉上、ご心配なく。お父上にもそのように伝えておきます」

「貴様は未来の王妃を害した罪では無く、私達を守った名誉ある死として逝ける事を光栄に思うがいい」


 ハルディオン様達がそう言うと、後ろに控えていた護衛達が私を拘束します。


「やめて! 離しなさい!!」


 ジタバタと抵抗しますが、相手は騎士、私は令嬢です。

 どうする事も出来ません。


 近くでは他の護衛が数人がかりで塔の扉を開きます。


「まあ、元とはいえ我が婚約者だったのだ。貴様にチャンスをやろう。知っているだろうが、この塔は難攻不落のダンジョンとして知られている。もし、攻略に成功したのなら貴様の所業を許してやっても良い」


 その言葉を最後に私は塔の内部に放り込まれます。

 閉まり行く扉の隙間から見えたのは、ハルディオン様とマリアのとても醜く歪んだ顔でした。



 ー▽ー


 この塔は『練武の塔』というダンジョンです。

 公爵令嬢である私でも知っているくらいある意味有名なダンジョンです。

 難攻不落のダンジョンで、攻略に成功した者はいません。

 それどころか名前以外の情報は誰も知りません。

 何故ならダンジョンに入った者は誰も生きて帰ってこないのだから。

 その理由は入って直ぐにわかりました。

 内部に放り込まれた瞬間に転移されます。

 そして、転移先はボス部屋です。

 暗闇の中、手前からボスのいる奥に向かって明かりが灯されていくという話に聞いたボス部屋特有の現象が起こったので直ぐにボス部屋だとわかりました。

 ボス部屋に入ればボスを倒すまで外に出る事は出来ません。

 そして、このボス部屋のボスを倒した者はいません。

 それはそうでしょう。


『GYAGOOOOOOOO!!』


 響き渡る竜の咆哮。


 目の前にいるのは虹色に輝く宝石竜。

 戦闘能力が皆無に近い私では奇跡が起きても勝つ事はできません。



 ああ、ここで死ぬんだ。



 婚約者を奪われ、それでも信じていた婚約者や義弟に死を望まれ、嵌められた。


 神はいないのでしょうか。


 どうして私がこのような目に遭わないといけないのでしょうか。

 何か罪を犯したのでしょうか。

 ハルディオン様を愛した事が罪だったのでしょうか。


 ドシン、ドシンと音がします。


 虹の宝石竜は私を戦うべき敵ではなく、餌と思ったのかゆっくりと口を開けて私に近寄ってきます。

 もうすぐ私はこの美しい竜に食べられて死にます。

 ああ、最後にお父様とお母様に会いたかった。


 そう思いギュッと目を瞑ります。

 その瞬間、


「はい、ストップ」


 人の声が聞こえました。


 恐る恐る目を開けると、そこには黒髪黒目の男性と私を食べようとしていたドラゴンが頭を伏せた光景が目に映りました。


 どうしてここに人がいるのでしょうか?

 彼は誰なのでしょうか?

 私を食べようとしていたドラゴンは?


 などと様々な疑問が頭の中に浮かびました。


「もう、大丈夫だ」


 大丈夫。

 その言葉を聞いた瞬間、私の意識は沈みました。



 ー▽ー



 目が覚めます。

 どうやら私は生きているようです。


「目が覚めたようだな」


 声のする方を見ると、私を助けてくれた? 男性がいました。

 そのお姿は珍しい黒髪黒目で非常に整った顔立ちをした凛々しいお姿でした。

 彼を見た瞬間、ドクンと心臓の跳ねる音が聞こえた気がしました。


「いきなり気絶したからビックリしたけど大丈夫そうだな。念のため聞くけど自分の名前とか分かるか?」

「え、ええ、私の名前はエイラ・セラフィスです。あまり状況をつかめていないのですが、あの時、ドラゴンに食べられようとしていた私を助けてくださったのは貴方ですか?」


 あの時、ボス部屋にいたのは私とドラゴンとこの方です。

 だとしたら私を助けてくださったのはこの方でしょう。


「ん、まあ、助けたと言っちゃあ助けたかな」

「そうですか、ありがとうございます。失礼ですが貴方様のお名前は?」

「俺か? 俺の名前はメイズ・ラビリンスだ」

「え?」


 ラビリンス?

 それは、この国の名前。

 王家にしか許されない名前では?

 もし、勝手にラビリンスを名乗れば不敬罪のはずです。


「聞き間違いですかね? えっと、ラビリンスと言いました?」

「聞き間違いじゃねーよ。俺は今も昔もメイズ・ラビリンスだ」


 嘘を言っている様子はありません。

 どういう事なのでしょうか。

 あの状況で私を助けた事といい、ラビリンスを名乗る事といい。


「それよりも、なんで公爵令嬢のお前がボス部屋になんか入ったんだ?」


 この方、メイズ様ですね。

 メイズ様の疑問にスイッチが入ったのか私はペラペラと喋りました。

 ハルディオン様の事、あの女…マリアの事、婚約破棄の事。

 出会ったばかりにもかかわらず不思議と話してしまいました。


「あー、それで『練武の塔』にいたのか」

「ええ、本当に助けていただいてありがとございます」

「いいよいいよ。にしてもその第二王子は本当にどうしようもないな。バールハイトの奴に言っておかないと…」


 バールハイトの奴……おそらくバールハイト陛下の事でしょうか?

 ラビリンスの名前といい本当何者なのでしょうか?


「失礼ですが、貴方様は何者なのでしょうか?」

「え? だからメイズ・ラビリンスだと」

「名前ではなく、いえ、名前もそうですね、ラビリンスといい、私を助けた事といい」


 どうしても、この方の事が気になってしまい、失礼を承知で聞いてしまいました。


「あー、そうだな……この国の建国の話を知っているか?」

「ええ」


 元々は荒廃した土地だったこの場所に流れ着いた初代国王フィロキセラがその地に住まう神と契約を交わし、豊穣の大地に変え、この地に国をつくられたというお話ですね。


「ちょうどその時の話をしようか」



 ー▽ー



 この国より西にとある国があった。

 その国の公爵家にフィロキセラという男がいました。

 彼にはそれは美しい妹がいました。

 そして、その妹はその国の王子と婚約していました。

 彼と妹は幸せに生きていました。

 しかし、その幸せはとある存在によって壊されました。

 当時、フィロキセラと妹と王子はその国の学園に通っていました。

 ある時、その学園に男爵家の庶子が入学してきました。

 男爵家の庶子は天真爛漫に、その実狡猾にその学園に通っていた高貴な身分の方々近づき、さらには王子にまで近づきました。

 彼らは甘い言葉で近寄ってくる男爵家の庶子を気に入り、愚かにも競う様に愛を囁きました。


「実際に逆ハーする方もする方だし、その一員になる方も愚かだね。それと、フィロキセラも言い寄られていたようだけど見向きもしなかったらしいよ」


 メイズ様曰く、逆ハー状況にあったそうです。

 そして、ある時、フィロキセラの妹が寄ってたかっていわれもない罪で断罪されました。

 曰く、未来の王妃を傷つけたからと。

 身に覚えのない罪を責められ、最後には婚約破棄を告げられたフィロキセラの妹はショックで倒れました。

 彼女はその日以来目を覚ます事はありませんでした。

 最愛の妹を助けるためにフィロキセラはあらゆる手を尽くしましたが妹は一向に目を覚ます事はありませんでした。



 そんな時、フィロキセラはとある噂を聞きつけました。


 東の荒廃した地にどんな物でも手に入るダンジョンがあると。


 藁にもすがる思いでフィロキセラはその国より東の前人未到の地にあるダンジョン、『深淵の大迷宮』に向かいました。

『深淵の大迷宮』はたくさんの宝箱がありました。

 伝説級の武器や防具。

 あらゆる者が欲しがるであろう物が大量に手に入りました。

 しかし、フィロキセラの欲しい物は手に入りません。

 それでも諦めずにフィロキセラは探索を続けました。

 そして、フィロキセラは最奥でダンジョンマスターに出会いました。

 フィロキセラとダンジョンマスターの戦いは三日三晩にも及びました。

 その死闘の果てにフィロキセラは体力が尽きて倒れました。

 しかし、フィロキセラは死ぬ事はありませんでした。

 フィロキセラを気に入ったダンジョンマスターはフィロキセラを殺しませんでした。

 そして、目を覚ましたフィロキセラにダンジョンマスターはこう聞きました。


「お前は何故ここまでする?」


 何を思って三日三晩も死闘を演じたのか、どうしてそこまでするのかをダンジョンマスターは聞きました。


「妹を救うためだ」


 フィロキセラはその為に来たのだとダンジョンマスターに伝えました。

 ダンジョンマスターは家族のためというありふれた目的の為に人でありながらこの地にやって来たフィロキセラを気に入りました。

 そして、ダンジョンマスターはフィロキセラに提案しました。


 妹をここに連れて来いと。

 そうすれば妹を治してやると。


 フィロキセラはダンジョンマスターの提案に乗りました。

 ダンジョンマスターによってダンジョンの入り口に送られ、さらには物資と特別な馬を貸し与えられました。

 フィロキセラは急いで国に戻りました。


 フィロキセラが国を離れていたのは一月。

 その一月の間に国は様変わりしていました。

 国王が倒れ、当時の王子が国王になりました。

 そして、妹が倒れた元凶である男爵家の庶子が王妃になっていました。

 王妃は国王にプレゼントを強請り、国王も国庫を使って王妃にプレゼントをしました。

 みるみる減っていく国庫を補充する為に国王は重税を課しました。


 フィロキセラは様変わりした国に驚きました。

 どうすべきか悩んでいると、両親に妹が助かる手段を見つけたのならさっさと行けと諭されました。

 フィロキセラは国の事を両親に任せ、妹を連れて再びダンジョンに向かいました。

 ダンジョンに入るとすぐさまダンジョンマスターがやってきて、フィロキセラが目覚めた部屋に連れて行かれました。

 ダンジョンマスターがフィロキセラの妹を診察し、薬を与えました。

 すると、妹は目を覚ましました。

 痩せ細り、肌は荒れていましたがその瞳は綺麗なままでした。

 フィロキセラは涙を流しダンジョンマスターに感謝しました。


 フィロキセラの妹の体力回復と様子見の為に、二人はしばらくダンジョンにとどまりました。

 その間にフィロキセラとダンジョンマスターは語らい合い、親友となりました。

 そして、ダンジョンマスターはフィロキセラの国の惨事を知り、一つ提案しました。



 ここに国をつくらないか?



 フィロキセラはその提案に乗りました。

 ダンジョンマスターはその力を使い、フィロキセラと相談しながらダンジョンの周囲を人の住みやすい地に変えていきました。

 家を建て、道を整備し、豊穣のなる大地に変え、畑を整えて、作物を実らせる。

 それらを僅かな時間でダンジョンマスターは成し、準備を整えました。

 そして、フィロキセラは移民を募る為に国に戻りましたが、国はさらに酷い状態に陥っておりました。

 国王や側近は王妃の側に侍りろくに仕事もしない。

 王妃は男漁りやプレゼントに夢中。

 国庫は傾きに傾き、重税は極め、圧政が敷かれる様になりました。

 フィロキセラは急ぎ移民を募り、公爵家の者や縁のある者達と移動をしました。

 大量の人を失ってしまう危機に瀕したこの国はそれを防ぐ為に軍隊を派遣しました。

 しかし、まともに機能しなくなった軍隊。

 フィロキセラや援軍としてダンジョンマスターより送られたドラゴン達によって撃退されました。

 そして、ダンジョンの近くに人が住み始め、国として機能し始めた頃、フィロキセラ達が元いた国は内乱によってあっけなく崩壊しました。

 それと、入れ替わる様にフィロキセラが国王となり目覚ましい発展を遂げる国が現れました。



 国の名前はラビリンス。



 ー▽ー



「元々俺に名前なんてなかったんだよ。それでフィロキセラが俺に名前を付けたんだ。"メイズ"と。そして俺は対等の証として共通の名前を付けた。それが"ラビリンス"。だから俺は今も昔もメイズ・ラビリンスだよ」


 メイズ様から聞かされた話は1000年もの昔の建国の話。

 初代国王フィロキセラ・ラビリンスとメイズ・ラビリンスの話。


「つまり、貴方様は……」

「お前達には初代国王フィロキセラの盟友にしてこの地を守護する者と言った方がいいかな」


 この方のお話は全て真実でしょう。

 誰も知らない真なる建国の話。


「そのようなお話私にしてもよろしかったので?」

「ん? ああ別に構わないよ。バールハイト…国王とか他にも何人かは知っているしな。まあ、一応超国家機密だからあまり口外しないで欲しいけど」


 そのような話を私なんかにしないで欲しいです。

 ……聞いたのは私ですけど。


「それでどうする?」

「どうとは?」

「帰りたいなら帰してやるし、残りたいなら残ってもいいぞ」


 突然の選択。

 帰ればまたハルディオン様とマリアに会ってしまう。

 今はお父様もお母様も外交でこの国にいない。

 そんな状態で彼らに会えば今度こそ殺されてしまう。



 ……いえ、自分を偽るのはやめましょう。

 私はこの方ともっといたいと思ってしまっている。

 この方をもっと知りたいと思ってしまっている。

 裏切られ殺されかけたとはいえ、つい先ほどまで別の殿方を愛していたのに、今はこの方が気になってしかたがない。

 心の移ろいやすい女。

 なんて浅はかな女。


「ここに残らせてください」


 私はメイズ様の優しさにつけこんでそう言ってしまいました。



 ー▽ー



 私は一室を与えられ、お世話係として一人の侍女を付けられました。


「リビングドールのリーナと申します。どうぞよろしくお願いします」


 メイズ様の配下のモンスターのリビングドールであるリーナ様はとても洗練された物腰です。

 仕事も完璧でこれほどの仕事をできる侍女はこの国にどれほどいるだろうかというほど素晴らしいものでした。


 リーナ様はメイズ様に仕える最古参の一人であり、リーナ様からメイズ様の話をたくさん聞くことができました。

 普段は淡々とした性格でいらっしゃいますが、メイズ様の事を語る時はその畏敬の念を隠そうともせず嬉しそうに語ります。

 余程メイズ様の事を尊敬していらっしゃるのでしょう。


「こいつらは俺を神か何かのように敬うからな、お前は普通に接してくれ」


 メイズ様はどうやら過剰に敬われるのが少し苦手なようで、それが人間味を帯びていて親近感を覚える事ができました。




「それで、メイズ様は何をしていらっしゃるのですか?」


 メイズ様はモニターという物に向かってにらめっこしています。


「ああ、『試練の大迷宮』の構造の微調整をしているんだけど……」


『試練の大迷宮』とはこの王都に存在するダンジョンの一つで騎士や兵士達の訓練場としても使われます。

 どうやらメイズ様はダンジョンマスターの力を使って『試練の大迷宮』の構造を少しいじっているようです。


 メイズ様はそれから脱線して様々なお話を聞かせてくれました。

 王都、というよりこの国に存在するダンジョンは全てメイズ様のお創りになったダンジョンだそうです。

『試練の大迷宮』はもちろん、あの『練武の塔』もメイズ様がお創りになったそうです。

 メイズ様曰く、『練武の塔』はボス部屋しか存在せず、メイズ様のお創りになった全てのダンジョンの最後のボスがランダムで出現するそうです。

 しかも、10連続。

 メイズ様曰く、ボスラッシュだそうです。

 ちなみに、私が遭遇したドラゴンは小国なら一体で滅せるほどの強さを持つそうです。

 何ていうダンジョンに放り込まれたのでしょうか。

 第二王子とマリア。

 ああ、思い出しただけでも腹が立つ。

 いつか仕返しをしたいものですね。

 本当に、どうしてくれましょうか。



 ー▽ー


 私がメイズ様のお世話になってから早数ヶ月が経ちました。

 メイズ様はお話が好きなのかいろんな話を聞かせてくれます。

 どれも世界の常識を覆すようなものばかりで、私のような者が知ってもいいのだろうか? と思うような内容の話を聞かされて何とも言えないような気持ちになったりもしますが、私には話しても良いと思っているのかと思うと嬉しくもあります。


 そして、ある日。


「エイラ、ここの生活も慣れてきた?」

「ええ、実家よりも快適です」

「それはよかった。ところで見せたいものがあるんだ」

「見せたいもの?」


 メイズ様はコクリと頷き、歩いていかれるのでついて行きます。

 そして、扉がたくさんある部屋に着き、そのうちの一つの扉を開け、メイズ様と共に入ります。


「わぁ……綺麗」


 扉を抜けた先に映る光景は、この世のものとは思えないほど美しい光景でした。

 そこは、洞窟のような場所。

 しかし、薄暗いのではなく、宝石の様に美しく光る鉱石によって明るく内部を照らしています。

 近くには水が流れ、七色に光る鉱石の光を反射し、神秘的で幻想的な美しい光景が広がっています。


「メイズ様、これは…?」

「『永虹の洞窟』。光と鉱石と水をテーマにした芸術的なダンジョン。ついさっき完成してな。どうせだから見てもらいたかったんだ。どうだ?」

「すごく……綺麗です」


 言葉では言い尽くせないほど綺麗です。

 こんな光景は見た事ございません。


「ふふん。かなり時間かけて創ったダンジョンだからな。鉱石や水の配置や光の反射を綿密に計算して……って今は解説はいいな。すごいのはここだけじゃない。まだまだ序の口だ」

「本当ですか!?」


 これで序の口なんて。


「ああ、もっと奥に進むぞ」

「はい!!」


 そのままメイズ様にエスコートされ、奥へと進みます。

 進めばメイズ様の言う様にさらに神秘的で幻想的な光景が目に映ります。


 宝石の如く光る光景は見る者の目を楽しませ、水の流れるせせらぎは心を落ち着かせます。

 どんな芸術品よりも美しい光景を私は目の当たりにしています。


 全てが思わずうっとりしてしまいます。


 その日はメイズ様に連れられてこの美しいダンジョンを堪能しました。

 今日見た所だけでも一部だそうで、後日他の場所にも連れて行ってくれるとの事です。

 その時が今から楽しみです。



 そして、1日が終わり、寝る直前にある事に気がつきました。



 ーーもしや、これはデートだったのでは?ーー



 そう思うと、顔が火照り、心臓が激しく鳴り響きます。

 それと同時に、『永虹の洞窟』の光景に目を奪われ、この事に気付けずメイズ様とのデートと意識を持って堪能出来なかったのが悔やまれます。

 それでも興奮してしまい、この日はなかなか寝付けませんでした。



ー▽ー



「よーし、出かけるぞ。準備しろ」

「え、出かけるってどこに?」


 デート? から数日後、メイズ様から突如準備しろと言われます。

 まさか、また、デ、デ、デ、デートなのでしょうか?


「それは着いてからのお楽しみってやつだ。リーナ、頼むぞ」

「お任せを」


 メイズ様の出かける宣言によってリーナ様におめかしされました。

 どこかのパーティにでも行くのかといった感じにです。

 何故か髪の色も変えられました。


「あの、メイズ様」

「……」

「メイズ様?」

「え、ああ、似合っているぞ」


 その言葉にドキリとしてしまいます。

 自分の格好を褒めてもらえるのがこんなに嬉しいとは。

 第二王子はこのような事一言も言ってくれませんでしたので知りませんでした。


「よし、行くか」


 そして、メイズ様に連れられて向かった先は王城です。


「え、ここは……」

「見ての通り王城だ。今日は第一王子の誕生パーティが開かれるからな。それに出るぞ」


 メイズ様は手に持つ二枚の招待状を私に見せます。


「バールバイトから貰ってきた。今夜、このパーティで面白い事が起こるからな、一緒に参加するぞ」


 そう言ってメイズ様はニヤリと嗤いました。



 ー▽ー



 パーティは王族の誕生パーティに相応しく、それは煌びやかで華やかなものでした。

 参加者が第一王子殿下にお祝いを述べたり、ダンスを踊ったりしていました。

 顔見知りどころか友人もたくさん参加していらっしゃるのに、誰も私に気付きません。


「髪の色とか変えているし軽く認識障害の魔法をかけているからな」


 との事ですが、少し寂しくも感じます。

 まあ、バカ共(第二王子達)に見つかって騒がれても迷惑ですのでこれで良いのでしょう。


 そのバカ共ですが、第二王子とマリアは嬉しそうにダンスを踊っていて、他の者たちはそれを嬉しそうに見ています。

 見ていて本当に滑稽ですね。


 それで、第二王子ですが、数ヶ月前に新たな婚約者として、フォルモンド伯爵家のユーリ様が選ばれたそうです。

 当然と言えば当然ですね。

 マリアは男爵家、しかも庶子です。

 いくら私がいなくなったからって新たな婚約者に選ばれるはずがありません。

 しかし、相変わらず第二王子は婚約者を無視してマリアに夢中と。

 本当に愚かですね。

 私はこんなののどこに惹かれていたのでしょうか。



 ー▽ー


「ユーリ・フォルモンド!!」


 パーティも中盤に差し掛かった時、突如バカ(第二王子)が会場全体に響き渡るような大声をあげます。

 ……何かするようですね。


「さあ、茶番の始まりだ」


 隣でメイズ様がボソリと呟きました。

 茶番……ですか。


 第二王子の声に会場中の人の視線が第二王子とユーリ様に向きます。


「なにか?」

「ユーリ・フォルモンド、貴様のような悪女を我が妃にする事は出来ない!! よって貴様との婚約を破棄し、新たにマリア・ルクセリアとの婚約を宣言する!!」

「「「我らもマリアを支える事を誓います!!」」」」

「きゃー、ハル様ぁ〜、みんなぁ〜!!」


 バカ共の宣言に周りの人々が動きを止め、一瞬の静寂の後にざわつきが起こる。


「……婚約破棄の事はさて置き、悪女と罵られるような謂れはない筈ですが?」

「黙れっ!! 貴様のした所業は調べがついている!!」


 曰く、ユーリ様がマリアに暴言を吐いたり、虐めたり、挙げ句の果てには階段から突き落とそうとしたり。

 何処かで聞いた事と同じ事を第二王子から述べられました。


「……私はそのような事をしていませんが」

「嘘です! 私、何回もハルディオン様に近づくなと脅されて、ドレスも破られて、階段を落とされそうになった時なんて……本当に怖かった」

「ああ、なんて可哀想なマリア。これからはこの俺が君を守ると誓おう」

「「「我らもマリアを守ると誓います!!」」」

「ハルディオン様、みんな」


 第二王子がマリアを抱きしめて、取り巻き達が臣下の礼をして、マリアがそれを見てうっとりとしています。


 ああ、確かに茶番ですね。

 それにしても、彼らは私だけでなくユーリ様まで傷つけようというのですか。

 そう思うと我慢ならず、飛び出ようと思ったらメイズ様に止められました。


「もうちょっと待ってて、大丈夫だから」


「これは、何の騒ぎだ」


 その時、騒ぎの中心に第一王子のオラクル様がやってきました。


「あっ、オラクル様っ! オラクル様まで私の味方になってくれるのですね。私、本当に怖くて…。でも、オラクル様がついてくれるなら安心です」


 マリアがそう言いながらオラクル様の手を取ろうとするが、払われました。


「私の名を許可なく呼ばないでいただきたい。それに、何を勘違いしているんだ。私は君の味方でも何でもないよ」

「え?」


 オラクル様が一瞬、マリアに侮蔑の視線を向けてから第二王子に向き直りました。


「それで、これは何の騒ぎなんだい?」

「そうです、兄上! ユーリが未来の王妃であるマリアを虐めたり罪の断罪を!」


 ここで第二王子はとんでもない事を言いました。

 今の言葉は自分が未来の国王であると宣言したのも同義です。

 この国の王太子はまだ決まっていません。

 側室腹ですが長男の第一王子派と正室腹の第二王子派に派閥も分かれています。

 にもかかわらず、第二王子はオラクル様の前で自分が未来の国王だと言ったのです。


「……未来の王妃を虐めた罪なんて無いし、そもそも君は王太子じゃないだろう。まあ、それは置いておくとして、ユーリ嬢がそこのマリア嬢を虐めた? 呆れて物も言えんな。ユーリ嬢がそのような事するのは不可能だよ」

「は?」

「ユーリ嬢はね、ここ数ヶ月学園に行かずに王城で宮廷魔術師として働いていたのだよ、」


 ユーリ様は魔法の天才で学生ながら既に宮廷魔術師としとの地位を確立しているのは有名な話です。

 そして、彼女が学園に行っていないのならどうやってマリアを虐めるのでしょうか。


「自身の取り巻きに命令してマリアを虐めてたのでしょう!!」

「君は本当に愚かだね。エイラ嬢を消してまでそこのマリア嬢を婚約者にしようとして、さらにユーリ嬢にまで罪を被せる気かい?」

「それは違います!」


 突如オラクル様に反抗したのは義弟です。


「義姉上はハルディオン様を庇って亡くなったのです!」


 庇ってなんかいませんし、そちらに殺されかけたのですがね。


「ああ、確か近隣の町に行く途中、魔物に襲われたとか。遺体も無く、護衛が付いていたにもかかわらずエイラ嬢だけ亡くなったと。そして、ハルディオンは命を賭してまで己の命を助けてくれたエイラ嬢の死を嘆くことなく、マリア嬢にべったりと。君も君でエイラ嬢の死を嘆いていないみたいだね」

「我らがいつまでも義姉上の死を嘆いていては命を賭した義姉上に失礼に当たります。なので、我らに出来る事は義姉上の死を嘆くのではなく、前を見る事です。義姉上もそう思っているでしょう」


 いえいえ、そんな事思っていませんよ。

 今は貴方達の事は地獄に落ちろくらいにしか思っていません。


「ふ、ふ、ふ、ふはははははははは!!」


 突如、メイズ様が堪えきれない様に笑い出しました。

 皆様の視線がメイズ様に向きます。


「何だ貴様は!?」


 メイズ様は第二王子を無視して彼らの元に歩き出します。

 私を伴って。


「あーあ、久しぶりに笑った。もう少し見ていたかったけど我慢出来なかった。本当にお前達は愚かだな」


 くつくつと嗤いながらメイズ様は第二王子達を見ます。


「貴様! この方が誰なのか分かっているのか!!」


 メイズ様の態度に我慢出来ないといった風に義弟がメイズ様を怒鳴りつけます。


「知っているよ。この国の第二王子でエイラ・セラフィスの元婚約者。そして、彼女を『練武の塔』に放り込んで殺そうとした者の一人」


 ビクリと彼らは震えます。


「で、デタラメを!!」

「デタラメなんかじゃないさ。なあ、エイラ」


 メイズ様が私の名前を呼んでパチンと指を鳴らします。

 すると、私にかかっていた認識障害の魔法が消え、髪の色が元どおりになりました。

 皆様の目に映っているのは死んだはずのエイラ・セラフィスそのものでしょう。


「な、エイラ……死んだはずじゃ!?」

「ごきげんよう。お久しぶりですねハルディオン様」


 私はにっこりと微笑んで第二王子に挨拶する。

 どうやらメイズ様は私に復讐の機会を下さったようです。

 この機会、無駄にはしません。


「まあ、ハルディオン様、それに皆様、そんな幽霊を見たような顔をしないでください。私はこの通り生きていますよ」

「ば、馬鹿な!?」


 バカ共は信じられないような顔で私を見ています。

 ふふ、面白い。


「た、確かにエイラ嬢ですね。貴女は死んだのでは?」


 オラクル様まで私を見て驚いています。

 オラクル様は私が生きている事は知らなかったみたいですね。


「いえいえ、死んではいません。ですが、彼らに殺されかけましたね」


 そして、私は語る。

 彼らに『練武の塔』に放り込り込まれた事を。


「そして、私は死にかけたのです」


 メイズ様の事も話したいところですが、話していいのかわからないのでここで止めておきます。

 話終えると、彼らは顔面蒼白になっています。

 私が生きてこうして話している事こそが彼らの罪の証明になっていますからね。


「なんで、なんで、あんたが生きているのよ!!」


 マリアが金切り声をあげながら私に突っかかってきます。


「それは俺が助けたからだ」


 メイズ様はそう言うと、まるで神のように神々しく浮かび上がります。


「我が名はメイズ・ラビリンス。フィロキセラの盟友にして、この国を守護する者」


 皆様はメイズ様の神々しいお姿に目を奪われます。


「バールハイト」


 メイズ様が国王陛下を呼びかけると、陛下はメイズ様の元に来ます。


「己が欲望の為、罪なき者に罪を被せ、処分しようとする者に王たる資格が無いと思うがどうだ?」

「はい、その通りでございます」

「なら、わかるな?」


 陛下はこくりと頷き、そして、


「今をもって第一王子オラクルを王太子とする!! そして、ハルディオンの王位継承権を破棄し、廃嫡とする!! エイラ嬢及びユーリ嬢を害そうと共謀した者達には追って沙汰を言い渡す!! 衛兵、罪人達を捕らえよ!!」


 第二王子、いえ、元ですか。

 元第二王子とマリアを筆頭に、義弟やその他のマリアの取り巻きが衛兵によって捕らえられます。


「くっ!! やめろ!! 父上、どうしてその様な得体の知れない者の言う事を聞くのです!?」

「この方が仰ったではないか。この方は初代国王フィロキセラ様と盟約を交わしたこの地に住まう神である」


 陛下がそう言うと皆様は慌ててメイズ様に跪きます。

 メイズ様が名乗った時はよくわからなかったのでしょうが、陛下がメイズ様の存在について述べた事で、メイズ様の重要性がわかったようです。


「だからってこんな!!」

「最初にエイラを殺そうとしたのはお前達だろう?」

「違うのですっ!! 私、エイラ様に虐められてて。それを、みんなに相談したらこんな、事に。私は悪くないのです。メイズ様なら分かっていただけますよね?」


 マリアが甘ったるい声で取り巻き達を切り捨ててメイズ様に無実を訴えます。

「マリア!?」「そんなっ!?」「君が考えた事じゃないか!?」とか取り巻き達から聞こえてきます。

 マリアはそれらを無視してメイズ様に「メイズ様なら信じていただけますよね?」と再度メイズ様に言います。


「……ああそうか。それか」


 メイズ様は地に足を着けて、マリアの側まで歩いていきます。

 マリアはメイズ様に近寄られて頬を赤く染めます。

 まあ、メイズ様はとても美しいですものね。


 メイズ様はマリアの胸元に手を伸ばし、彼女が身につけていたネックレスを引きちぎりました。


「「「え?」」」


 その瞬間、マリアから光が放たれたかと思うと、そこから出てきたのは醜い女性でした。


「"美貌のネックレス"。身につけた者の容姿を美しく、あるいは可愛らしくするネックレス。どこで手に入れたかは知らないけれどそれが、お前の正体というわけか」


 マリアは自分の本来の容姿に戻されて信じられないような顔をしています。

 そして、マリア以上に彼女の取り巻き達が信じられないような顔をしています。

 それはそうでしょう。

 自分達が愛を囁いていた相手の本当の姿はとても醜いのですから。


「か、返して!!」


 マリアがメイズ様に取り掛かろうとしますが、衛兵に押さえつけられます。


「無様だな。ほら、エイラ、最後に何か言いたい事があるなら言ってやれ」


 本当にこの方は……。


 私は押さえつけられているマリアの元までいきます。


「エイラ・セラフィス!!」

「私ね、貴女に感謝しているんですよ。貴女のお陰でメイズ様に出会えましたから」


 マリアに向けて私は最高の笑顔を見せます。

 私がする、彼女達への最高の復讐。


「貴女のお陰で私は今幸せです」


 それは、絶望のどん底にいる彼女達に自分の精一杯の幸せを見せつける事。

 幸福や喜びといった、彼女達がこれから期待出来ずに欲しがるものを見せつける事が出来るのだから。


「エイラ・セラフィスぅぅぅ!!」


 マリアは怨の声をあげながら私を睨みつけます。

 そうすればするだけ、彼女は私との幸福の差を思い知り、絶望するだけです。

 もう、彼女にかける言葉はありませんね。

 ……ああ、一つだけありました。

 メイズ様が教えてくださったとっておきの言葉が。


「ざまぁ」


 もう一度だけ、彼女達に笑顔でそう言いました。



 その後、マリアは私に襲いかかろうとしましたが、またもや衛兵に押さえつけられ、そのまま取り巻き達と共に連れていかれました。




 ー▽ー



「今回のパーティは、第二王子の排除と第一王子を王太子にする為にバールハイトと考えた茶番だよ」


 パーティからの帰りの馬車でメイズ様から聞かされます。


「ユーリはこの様な結末になるってバールハイトから知らされていてね。報酬として研究費を増額すると言ったら喜んで第二王子の婚約者役を受けてくれたみたいだよ。第二王子は第二王子でマリアを婚約者にする為にユーリを排除するってわかってたからね。それを防ぐ為に学園に行かず王城に留まってもらった。」


 聞く限りではどう転んでも元第二王子は排除されるみたいです。


 馬車が揺れ、窓から流れる夜風が気持ちいいです。


 ……。


「どうしてメイズ様は私にここまでしてくれたのです?」

「あー、それはだな……」


 しかし、メイズ様の口からその後の言葉が続きません。

 何か言いにくい事があるのでしょうか?


「いい加減言ったらどうなんですか?」


 突如、馬車の中にリーナ様が現れます。

 びっくりした。


「エイラ様がティア様にそっくりだって」

「おいリーナ!!」


 ティア様?

 誰でしょうか?

 まさか、奥様?

 一度もお会いした事はございませんが、メイズ様ならいてもおかしくございません。


 そう思うとズキリと胸が痛みます。


「お前……言う時は言うな」

「お褒めにあずかり光栄です」

「褒めてないんだけどな。……エイラ」

「は、はい」


 名前を呼ばれたのでメイズ様を見ます。

 その目は見た事もないくらい真摯なものでした。


「フィロキセラの妹の事覚えているか?」

「はい」


 確か、メイズ様が救ったフィロキセラ様の妹ですよね。


「あいつの名前はティアと言ってな。俺はティアと結婚した」


 結婚……。

 ズキリと胸が痛みます。


「だけど、あいつはとうの昔に死んでしまった」

「え?」

「そしてお前があのダンジョンのボス部屋に現れた。最初はあいつと瓜二つのお前が死ぬを見たくなくて助けた。それだけだった。だけど、お前と過ごす日々がいつしか掛け替えのないものになった」

「……」

「俺はエイラ、お前が好きだ」

「え?」


 好き?

 私が?


 メイズ様から放たれたその言葉によって私の心臓はこれ以上ないくらいドキドキしています。


「ティアに重ね合わせてしまっているところもあるんだろう。過去の女性の幻影を追ってしまっているんだろう。それでも俺はエイラを好いてしまった。こんな男でも良ければ、人間ですらない男で良ければ結婚してくれないか?」


 メイズ様から差し出される手。

 突然のプロポーズ。


 私は混乱の極みにありました。

 でも、私の心は一つの感情に満たされていました。


「はい。私もお慕い申しています」


 私はメイズ様の手を取ります。



 ああ、私はなんて幸せなのでしょうか。

メイズ・ラビリンス:両方迷宮とかの意味の名前。自我を持った時からダンジョンマスターになっていた。とある世界のとある国の知識だけは何故かある。


エイラ・セラフィス:メイズに助けられたので惚れてしまった。とても良い娘。エイラビシ○ップって強いよね。え? わからない? わかる人にはわかる。悪行を許さないハゲこそが本当に許されないと思う今日この頃。


第二王子:アホ


取り巻き:アホ


第一王子:優秀


国王:歴代国王は王太子となった時にメイズと会っている。今回はメイズが表舞台に出てきてしまった為にメイズの存在について説明するのに苦労する。苦労人。


エイラの両親:海外にいるため本編に登場せず。帰ってから娘の安否に喜び、メイズに感謝する。


マリア:偶然容姿の変わるネックレスを手に入れた事で調子にのる。最後はざまぁされる。二度とビッチにはなれないだろう。超ブサイク。


『練武の塔』:通称ボスラッシュ。ゲームなんかでよくあるあれ。ボスラッシュの塔はダサいので練武の塔に。

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― 新着の感想 ―
[一言] ネックレスの影響で取り巻きがアホになった ダンジョンマスターと即惚れヒロインもアホであるw
[良い点] すごく面白かったです。 基本形はいわゆるざまぁ物のテンプレながら、そこから一ひねりも二ひねりも工夫された展開が「なるほど、そうくるか」と新鮮でした。 美貌のネックレスを取られてオークな姿を…
[一言] ええまあ、確かにエイラビシ〇ップは強いけど 私は御旗〇イヤル使いなのであまり苦戦した思い出はないですなぁ
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