16 12月のインフルエンザ③
そこまで言われると、無下に追い返す訳にもいかない。何より、私自身お腹が空いて仕方なかった。ここはとりあえず、おかゆを作ってもらって、園村の気持ちに応えることにしよう。玄関を開けると、彼は真っすぐに台所へ向かい、おかゆを作り始めた。
「悠ちゃん、気にしなくていいから、ゆっくり休んどいて!」
何で…私のうちなのに…と思ったが、無理して起きたためか、体がとてもきつく感じられる。このままではまたぶり返してしまうので、ここはお言葉に甘えよう。
そのまま、私はベッドに倒れ込む。鍋からグツグツと煮える音が、耳に心地よく響く。それから、明太子のにおいが鼻を優しくくすぐった。
おかゆの煮えた香りと混ざり合って、病気で弱った胃を優しく刺激する。足音がこちらに近づいて来た。
「さあ、おかゆができたよ。どうぞ。まだ、熱いから、よく冷ましてから食べてね。悠ちゃんは猫舌なんだから…」
「園村君、本当にありがとう…」
私はよく冷ましてから、明太子のおかゆを少しずつ食べた。園村はそれを見て満足そうにしている。それにしても彼はどうして、ここまで私に尽くしてくれるのか? どんなに尽くされようとも、彼の気持ちには応えられないのに…。
彼とは仲のいい友達でいたい。おかゆでお腹が満たされると、私の心はいつになくチクチクと痛み出した。間違っても、彼の思いを自分の都合のいいように利用するような真似はしたくないのに…。
どうすれば、彼は私に特別な思いを抱かなくなるだろう。入学してすぐの頃みたいに、ただの友達でいられたら、どんなに幸せだろうか…。
私はうっすらとした意識の中で考える。そんな気持ちが伝わったのかよく分からないが、食べ終わったのを見届けて、園村は何も言わずに帰って行った。




