15 大泉のおせっかい②
「園村君、どうしたら、私のことを、あきらめてくれるかな…」
「もう、悠ちゃん…。そうじゃないんだよ! あーあ、どうしたら、うまく伝わるかな…」
どうやっても、園村と私の間の溝は埋まらないだろう。世の中はうまくいくことよりも、うまくいかないことの方が圧倒的に多いのだ。ちょっとでもうまくいけば、儲け物である。
「前にさ、園村と矢島の三人で、それぞれの恋愛観を一言で説明するなら…って、話をしたんだ。俺は狩人で、園村は農夫、矢島は獲物…と言うことになった。それぞれの特徴をよく捉えているだろう?」
私は思わず笑ってしまった。大泉が自らを狩人と言ったことや、矢島が獲物と言うことは本当に的得ている。しかし、園村の農夫とは一体何だ?
「ねえ、狩人とか獲物と言うのは、俗に言う肉食男子、草食男子のことでしょう? だから、何となく分かるけど、農夫と言うのがさっぱり分からん…」
「まあ、俺みたいに、次から次に彼女を変えていくのはいかにも狩人だし、矢島みたいに恋愛にとことん消極的で自分から動きそうにないのは獲物。それは分かるだろう?」
「うん」
「で、農夫と言うのは、自ら作物を育てていくから、それと同じように恋愛をゼロから育てていくことを表しているらしい…」
「恋愛を狩るか、狩られるかの視点でなくて、育てていくものと考えているんだね…。彼は…」
「何か、恋に恋する女子みたいな発想よね…。園村君って、かなりロマンティスト…」
「女の子の発想かどうかは分からんけど、かなりのロマンティストであることは確かかも。そして、とにかく真っすぐ。こちらが痛くなるほど…」
私は思わず、ため息をついた。どうして、私の思いは伝わらない…。誰も好きな人がいないことはそんなに変なことか?
好きな人がいないから、思ってくれている人を好きになれ…とはずいぶん乱暴な論理である。園村の気持ちは痛いほど分かるけど、その気持ちを理解することと、応えることは全く別物だ。そのことが目の前のチャラ男には分からないらしい。本当に困ったものである。
「しばらく、時間をもらえんかな? もう一度、じっくり考えてみるよ」
「もちろん!」
「じゃあ、私、帰るね…」
そう言うと、私は大泉の方を振り返ることなく、早足でファミレスを後にした。今日のところは、分かったふりで逃げるのが正解だろう。




