表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狩人と農夫と獲物  作者: あまやま 想
第15章 大泉のおせっかい
55/64

15 大泉のおせっかい①

 学園祭も終わり、六本桜大学にはすっかりいつもの平穏が戻っていた。祭りなど一時の夢に過ぎない。


『何でもないようなことが幸せだったと思う…』


と歌っていたのは誰だったか? まさにその通りだ。それなのに、祭りの日ばかりに生き甲斐を求める人の多いこと…。


 あれを歌っていたのは、確か、虎舞竜と言うバンドだったと思う。確か、兄貴達がよく聞いていたはず…。私みたいに、平穏こそ、幸せと思える人がもっと増えればいいのに…。


 学園祭が終わると、急に冷え込み出して、私は慌てて冬物のコートを出した。九州では十一月中旬までコートやジャンパーのたぐいはいらない。東京はやっぱり冬の訪れが、少しばかり早い。


 一足早い冬の訪れに、私は冬のぬくもりを楽しむ。ふとんやこたつのぬくもりが楽しめるこの時期が、私は本当に好きだ。


「悠ちゃん、ちょっと相談があるんだけど、ちょっと軽く食べて行かない?」


「大泉君でも…悩むことがあるんだね。珍しい…」


「何で、そんな言い方をするかな…。俺だって、悩み事の一つや二つぐらいあるよ!」


「女性関係で?」


「もう、悠ちゃん…。違うから…。友人のこと…」


「それなら、園村君か…矢島君か…どっちかと話しなよ。私と話しても意味ないって…」


 そんなやり取りをしていたら、大泉は突然、私の手を引っ張って行こうとする。私はあまりにも急なことで体が固まってしまった。


 やっぱり、大泉はいつもゴーイングマイウェイ…。こう言う強引な所があるから、彼女が途切れることなく、常に続くのだろう。それにしても、引っ張られて続けるのも何なので、ついて行くから手を離してくれ…と彼に伝える。


 ようやく、大泉が手を離したので、私は自力で彼に続いていく。行き先は大学の目の前にある、某ファミレスであった。


「悠ちゃん、誰か、好きな人でもいるの?」


「えっ、特にいないけど…」


 まさか、大泉も平尾さんみたいなことを言い出すのか? まさかね…。私はいささか不安を覚えた。


「園村のこと、どう思う?」


「どうって言われても…。彼を友達してしか見ることできない…」


「何で…だよ」


「えっ、何で…って言われても…」


「あいつは俺と違って、本当に一途なんだよ。入学してすぐの頃は一緒によく合コンに行っていたのに、今では他の大学の学園祭に行くのも断るほどだ…。俺には全く理解できん! でも、それだけ、悠ちゃんに一途な証拠なんだ!」


「ちょっと、一つだけ、確認させて…。もしかして、園村君に頼まれたの?」


「そんな訳ないだろう。もう、何か見てられなくてさ…。おせっかいを承知で、勝手に動いているだけだから…。」


 やっぱり、そうだったのか…。平尾さんといい、大泉といい、園村はみんなに心から愛されていることが改めて分かった。しかし、みんなに愛されているからと言って、意中のひとからも同じように愛される訳でもない。


 それが恋愛の難しい所であろう。どんなに周りが世話を焼いても、どうにもならないこともあるのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ