15 大泉のおせっかい①
学園祭も終わり、六本桜大学にはすっかりいつもの平穏が戻っていた。祭りなど一時の夢に過ぎない。
『何でもないようなことが幸せだったと思う…』
と歌っていたのは誰だったか? まさにその通りだ。それなのに、祭りの日ばかりに生き甲斐を求める人の多いこと…。
あれを歌っていたのは、確か、虎舞竜と言うバンドだったと思う。確か、兄貴達がよく聞いていたはず…。私みたいに、平穏こそ、幸せと思える人がもっと増えればいいのに…。
学園祭が終わると、急に冷え込み出して、私は慌てて冬物のコートを出した。九州では十一月中旬までコートやジャンパーのたぐいはいらない。東京はやっぱり冬の訪れが、少しばかり早い。
一足早い冬の訪れに、私は冬のぬくもりを楽しむ。ふとんやこたつのぬくもりが楽しめるこの時期が、私は本当に好きだ。
「悠ちゃん、ちょっと相談があるんだけど、ちょっと軽く食べて行かない?」
「大泉君でも…悩むことがあるんだね。珍しい…」
「何で、そんな言い方をするかな…。俺だって、悩み事の一つや二つぐらいあるよ!」
「女性関係で?」
「もう、悠ちゃん…。違うから…。友人のこと…」
「それなら、園村君か…矢島君か…どっちかと話しなよ。私と話しても意味ないって…」
そんなやり取りをしていたら、大泉は突然、私の手を引っ張って行こうとする。私はあまりにも急なことで体が固まってしまった。
やっぱり、大泉はいつもゴーイングマイウェイ…。こう言う強引な所があるから、彼女が途切れることなく、常に続くのだろう。それにしても、引っ張られて続けるのも何なので、ついて行くから手を離してくれ…と彼に伝える。
ようやく、大泉が手を離したので、私は自力で彼に続いていく。行き先は大学の目の前にある、某ファミレスであった。
「悠ちゃん、誰か、好きな人でもいるの?」
「えっ、特にいないけど…」
まさか、大泉も平尾さんみたいなことを言い出すのか? まさかね…。私はいささか不安を覚えた。
「園村のこと、どう思う?」
「どうって言われても…。彼を友達してしか見ることできない…」
「何で…だよ」
「えっ、何で…って言われても…」
「あいつは俺と違って、本当に一途なんだよ。入学してすぐの頃は一緒によく合コンに行っていたのに、今では他の大学の学園祭に行くのも断るほどだ…。俺には全く理解できん! でも、それだけ、悠ちゃんに一途な証拠なんだ!」
「ちょっと、一つだけ、確認させて…。もしかして、園村君に頼まれたの?」
「そんな訳ないだろう。もう、何か見てられなくてさ…。おせっかいを承知で、勝手に動いているだけだから…。」
やっぱり、そうだったのか…。平尾さんといい、大泉といい、園村はみんなに心から愛されていることが改めて分かった。しかし、みんなに愛されているからと言って、意中のひとからも同じように愛される訳でもない。
それが恋愛の難しい所であろう。どんなに周りが世話を焼いても、どうにもならないこともあるのだ。




