14 秋桜祭②
「あら、悠ちゃん。一人で何をやっているの?」
「あっ、平尾さん、お久しぶりです。卒論はどうですか?」
「どうですかって…言われてもね…。まあ、ぼちぼちよ。悠ちゃんは?」
「私は生物資源科の出店準備が嫌で、ここへ逃げてきました」
「そっか…。理学部はそう言うこと盛んだから。文学部の方はサークルにでも入っていない限りは、そう言うのと関わらなくていいから楽だけど…。そっか…、悠ちゃんも苦手なんだね…」
話しながら、平尾さんが慣れた手つきでソファーに腰を下ろす。そして、ソファーから外の景色を眺めていた。平尾さんは暇さえあれば、いつも外を眺めている。私には何が楽しいのかさっぱり分からない。外にはただ殺風景な四車線の道路が見えるだけだ。何も面白くない…。
「もうすぐ、しし座流星群の時期よ。悠ちゃん…」
ああ、そうだった。平尾さんはいつも空しか見ていないのだろう。きっと、殺風景な道路なんて、全く視界に入っていないのだろう。
「そうですね。今年はちょうど学祭の時期と重なりますけど、どうしましょうか?」
「そうね。騒々しいのは、星を見るのにふさわしくないからね。家に望遠鏡を持っていこうかな…」
「それいいですね。私もご一緒していいですか?」
「悠ちゃんなら、大歓迎よ。でも、学祭はいいの? ちょっとぐらい出といたら…。学科で参加しているなら、ある程度やっておかないと、後で過ごしにくくかも…」
「いや、私、そう言うの、本当に苦手なんです。どうしても、出ないといけない時以外は出たくないぐらいに、人が集まる行事が苦手で…」
「そうか。わかった。じゃあ、私と全く同じだね。まあ、そう言うのは必要最低限、やっておけばいいの! 後はイズミンとか遥ちゃんみたいな祭り大好き人間にでも、お願いしておけばいいよ」
平尾さんと話して、少しだけ不安が落ち着いた。平尾さんのようタイプが同じ世界にいると言うだけで、どれだけ生きる事が楽になる事か…。
価値観を共に分かち合える自分のようなタイプが同じ世界にいると言うだけで、どれだけ楽になれただろう…。そんな事を考えながら、家路につくのであった。




