13 秘密基地、手に入れました②
何となく、私は話の流れにブレーキをかけた。夏の一件以来、園村が何か誘う時には、警戒せずにはいられなかった。何しろ、周りの状況なんか気にせず、平気で告白するような人である。何かあって恥ずかしい思いをさせられるのは私だ。
「わかったよ。悠ちゃんのために簡単に説明するから…」
いつの間にか、園村も私のことを悠ちゃんと呼ぶようになっていた。チャラい感じの大泉はともかくとして、園村からは今まで東雲さんと呼ばれていたので、とにかく違和感を覚える。
「今回、俺が出るのは馬場馬術、障害飛越競技の二つよ」
「馬場馬術って何よ。障害何とかは、何となく分かるったいね…」
「遥ちゃん、馬場馬術とは、馬をいかに性格かつ美しく運動させるかを競う競技だよ」
「それって、空手の演武とかフィギュアスケートみたいなもの?」
「さすが、イズミン! その例えはいいね…」
「なるほど…」
大泉の分かりやすい例えに、思わず驚きの声を上げる。矢島や遥もウンウン頷いている。
「ただ、操作をするのは人間だけど、まるで馬が自らの意思で動いているかのように見せる事が大切…って大原さんが言っていたよ」
「大原さんって、誰だよ」
「矢島、大原さんは馬術部の先輩だ」
「そんなの分かるか!」
矢島の突っ込みに思わず、吹き出してしまった。私だけでなく、ほかの四人も笑っている。それにしても、矢島にしては珍しく鋭い突っ込みだったな...。こう言うのはギャップ萌えとでも言うのだろうか?
まあ、そんなことはどうでもいい。
どうやら、園村は一年生にして、すごい大役を任されたようである。障害飛越競技も馬をいかに上手に操って、馬に障害物を乗り越えさせるかで評価されるらしい。
また、競馬と馬術は全く異なる物であり、似て非なる物だと園村は言っていた。例えるなら、警察官と警備員のような関係とのこと。
園村にここまで説明させておいて、私一人だけ駄々をこねて見に行かないと言うのはさすがに大人気ないと思った。仕方なく、他の三人に合わせて、一緒に園村の馬術部新人戦を見に行くことにした。
当日、大泉、矢島、遥、私の四人は園村に言われた通り、大東京農大の会場に着いた。会場には人よりもたくさんの馬が集まっていて、遥は熊本名物である藤崎宮秋の例大祭のようだとつぶやいていた。
「遥ちゃん、秋の例大祭って何?」
「イズミン、熊本の祭りよ。藤崎八幡宮で毎年九月に行われて、最終日の敬老の日にはドーカイ、ドーカイ…と声をかけながら、街の中心部を馬と一緒に練り歩くと。熊本の秋の始まりを告げる祭りよ。ねえ、悠ちゃん」
「ねえっ…って言われても、私は天草だから、市内に出るまでが大変たいね。だから、一度も実物ば見た事ないったいね」
「でも、テレビでは見た事あるでしょう?」
「そうね、テレビでなら、東京に出て来るまで毎年見とったけど、やっぱり迫力が違うんでしょう? 実物とは…」
「えっ、僕、そんなの見た事ないし…」
「矢島君、当たり前でしょう。地方の祭りをわざわざ全国ネットで流すわけないでしょう? そんなもの、熊本のローカルニュースでしか流れないから…」




