9 天草への帰省③
お盆が明けた頃、同じく阿蘇に帰省していた飯倉遥から
『もしよかったら、熊本市内で会わない?』
とメールが来たので、私は御所浦島から五時間ほどかけて、熊本市の繁華街である下通まで出た。遥は阿蘇から親に車で送ってもらったらしい。
あちらは一時間半もあれば余裕で出て来られるのでうらやましい限りである。熊本で大学の同期と会うのは何か変な感じがしたが、しばらくするとすぐに慣れた。
東京ではできるだけ熊本弁を使わないようにしている遥が、バリバリの熊本弁で話して来るのでなぜかホッとした。私も同じようにバリバリの熊本弁で返した。
ただ、同じ熊本弁でも阿蘇と天草ではかなり違うため、時々通じないこともあった。でも、熊本弁であることには変わりない。昼前から話していたのに、夕方になってもまだ話足りないほどだった。やっぱり、同郷に大学の同期がいると言うのはいい。
「悠ちゃん、誰か好きな人でもおると?」
「いや、今はおらんけど…」
「じゃあ、園村君と付き合いなっせよ。今なら、まだ間に合うって」
「まさか、遥…。そう言う軽いノリでイズミンと付き合ったんじゃないと? だから、一方的に…」
「もう、悠ちゃん、相変わらずきついな…。そう言う所、もっと直していかんとね」
「だって、そうでしょう。あの頃、ずっと泣いていたよ…」
「もう、止めてよ。確かにそぎゃんだけど、付き合ってみないと分からんこともたくさんあるし…。それにせっかくチャンスが来たのに、チャンスをつかまないなら、わずかな幸せの可能性もなくなるよ」
「確かにそうたい。でも、それでも私は、もっと慎重に事を進めたいと!」
「そう言うところ、やっぱり、悠ちゃんらしいね…」
この日、遥と話した事を思い出しながら、私は帰りのバスに揺られていた。次第に眠気が襲って来て、うつらうつらと意識が遠のいて来た…。




