1 全ての始まり②
しばらく歩くと、真新しいスーツに身を包んだ三人の青年が見えた。もしかしたら、私と同じように入学式会場に向かっているのかもしれない。あれこれ考えている場合ではない。
さっきから全く人気がない路地でようやく発見した人物である。ダメ元で声をかけるしかない。この三人以外頼れる人がいないのだから、無視されても食い下がらないぞ。
どうせ、もう二度と会うこともないだろうし、駅まで連れて行ってもらおう。背に腹は代えられない。そのためなら、わざと胸元を強調しても構わない。私の数少ない武器を使おう。
まあ、小さな島での巨乳の称号なんて、大都会ではたががしれているだろうけど…。どうせ、もう二度と会わないんだから、恥はかなぐり捨てる。まずは都会の迷路から出ることが先決だ。
私は小走りで彼らを追い抜いて、すばやく彼らの前に回り込んだ。そして、気持ちばかり腰を屈めて、両腕で胸を挟みながら三人の青年に道を尋ねた。もちろん、上目遣いで見つめることも忘れなかった。
ただ、あまりにもわざとらしかったのか、三人はチラッと見ただけで、私を無視して歩き続けた。これではあまりにも間抜け過ぎる。ましてや、痴女扱いでもされたら大変だ。
急に恥ずかしくなって、顔がとても暑くなってくる。きっと、真っ赤になっていたと思う。当然だが、鏡で確認する暇はない。このままではいけないのだ。
私はすごい勢いで走って、再び彼らの前に立ち止まる。そして、今度は素通りされないように、両手を広げて三人を通せんぼした。さすがに三人は立ち止まる。
「あのー! 私、道に迷ってしまったんです。どうにかして、駅に戻りたいんです…」
三人は顔を見合わせながら、肩をすくめ合っていた。そのうちの一人がどこの駅へ行こうとされているんですか?…なんて聞いて来る。もう、面倒くさい。都会は駅が多すぎる。
地元だったら、JRしか走っていないから、駅と言えば通じるのに…。まあ、御所浦島からだと、船と車で二時間ほど離れた三角半島の先端にある三角駅まで行かないと駅はないけど…。
「ええっとですね…。ちょっと、待って下さい」
私は入学式の案内をバックから引っ張り出そうとして、バックの中身をぶちまけてしまった。ああ、最悪だ…。すると、三人が一斉にかがんで、バックの中身を拾うのを手伝ってくれた。思ったよりもこの三人は冷たい人ではなさそうだ。