5 2012年の天体ショー②
それから、二週間ほど経った六月六日、今度は金星の太陽面通過と言う天体ショーがあった。こちらは十一年ぶりで、見られる時間も六時間もあり、金環日食ほどの関心の高さは見られなかった。
ただ、前々回にさかのぼれば一三〇年ぶり、次回は一〇五年後なので、そんなに頻繁に起こる現象でもない。やはり、金環日食の時と同じように、平尾さんは最初から最後までひたすら写真を撮り続けていた。
このような人こそ、天体マニアと呼ばれるにふさわしい人である。私なんて、大イベントで目がくらんだだけの天体ミーハーに過ぎない。
そして、金星の太陽面通過に関しては、他の多くの学生と同様に、大泉・遥・園村・矢島の四人とも無関心であった。金星の太陽面通過はいつも通りの「天体ファンの、天体ファンによる、天体ファンのためのイベント」であった。
やはり、金環日食や皆既日食と言うのは、天体イベントとしては別格なようである。それこそ、生きている間にどうにかして皆既日食を見たいと、わざわざ大枚を投げ打って見に行く御仁もたくさんいると、たまたまニュースでやっているのを聞いたことを思い出す。
私は思わず、何が平尾さんをそこまで天体のとりこにしているのか聞いてみた。彼女曰く、二〇〇九年当時に親の仕事の関係で中国の杭州にいたらしい。
そこで皆既日食を見たことがきっかけとおっしゃっていた。この皆既日食は、二十一世紀の日食の中で皆既日食の継続時間が最も長く六分半も続いたらしい。
この時の皆既日食は日本でも奄美諸島や屋久島、種子島の一部で見られるはずだった。この年はいつになっても梅雨が明けず、悪天候のために全く見られなかったと話題になった二〇〇九年七月二二日の皆既日食である。
皆既日食や金環日食と言うのは地球のある地点を帯のように結ぶ形で見られるものである。そのため、皆既日食や金環日食と言うのは時間の差はあれども、同じ日食帯に入っていれば、同じ日食を見ることができる。
ただし、地上の天気によって左右されるので、どうしても見られる地点と見られない地点が出てくる。それが二〇〇九年の皆既日食である。
天文同好会の二〇〇九年度会報によれば、この時の天同のメンバーは奄美大島の奄美市名瀬に遠征に行っていたらしいが、雨天のため見られなかったとある。ただし、皆既日食の間は空がにわかに夜のように暗くなったのは感じられたことが記されている。
また、空が暗くなった時、鳥達が一斉に飛び立つなどの不思議な行動が観察されたとも記録されていた。なるほど、確かに本物を一度でも見てしまえば引きつけられるだろう。一方で私のように、一度見たからもういいやと思う人もいる。この違いはどこから出て来るのだろうか。実に不思議なものである。