表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狩人と農夫と獲物  作者: あまやま 想
第1章 全ての始まり
1/64

1 全ての始まり①

 私は道に迷ってしまった。入学式の時刻は刻々と迫っていると言うのに…。入学案内の中に入っていた会場地図を見ながら、会場へと向かっているはずなのに…。


 だいたい、都会はビルや人が多過ぎていけない。その上、地下鉄やら私鉄やらが複雑に入り組んでいる。九州は熊本の田舎である御所浦島から、上京して三日目の人間が、会場最寄り駅まで迷わず電車に乗って来られたことだけでも大したものであろう。本当に心の底から自分をほめてやりたいぐらいだ。


 ああ、もう面倒くさい…。別に入学式を休んでも何のペナルティーはない。それにしても、どうして大学構内の大講堂とかを使わないのか。こう言う時のための大講堂ではないのか。


 六本桜大学も名門私立とかぬかす割には、案外しょぼいものだな…。大学なら入試や入学手続きで何回か行ったことがあるから、御所浦島と言う熊本県にある小さな島の出である私でも何とか通えたのだが…。御所浦島と名前だけ聞くと大層に聞こえるが、大層なのは残念ながら名前だけだ。


 かつて、天草郡御所浦町であった頃は熊本県で唯一県本土と橋で結ばれていない離島の町だった。今は天草市の一部となってしまったため、離島の町ではなくなったが、島の方は相変わらず県本土と橋で結ばれていない。そんな離れ小島で育った人間に東京の町はとことん冷たい。


 島なら道が数えるほどしかないし、家の数もたがが知れているから迷うことなんてまずないのに…。もう、ビルとか人とか多すぎるからいけない。よし、もう帰ろう。


 帰ろうと思って道を引き返したが、どうやって駅からここまで来たのか、全く覚えていない。これでは引き返すこともできない。近くに交番でもあれば、道を尋ねることもできるだろうが、交番もない。


 住宅地に迷い込んだのか、人通りもない。さっきまで、たくさんビルがあったと言うのに…。まあ、人通りがあったとしても、都会の人は道を尋ねようと近づいただけでも、さりげなくかわして足早に去って行く。何でこんなに冷たいのか理解に苦しむ。


 ただし、歳を召されたご老人だけは別だ。おじいさんもおばあさんも、これはこれは丁寧に道を教えて下さる。そうか、都会ではご老人以外みんな忙しくて余裕がないのだろう。小さな子どもだって、塾のはしごで忙しいと聞く。


 大自然で生まれ育った私にとっては狂気の沙汰としか思えない。そんなことを考えながら、私はとりあえず前へ歩き続けた。どうにかして、人通りの多い通りに出られるように念じながら…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ