少年よ、騎士と遭遇せり。
少年が声のする方に駆け寄って行く。
異形に整えられた道を少年は走る。
そして少年に抱き着いた異形も引き摺られて行く。
「あ、ルドルフだ!
ルドルフがたくさんだ!
そらをとんでる!」
「ーーー!!」
少し進むとそこには同じ鎧を着た者達が空中で暴れまわっていた。
よく見てみると黒い縄のような物が鎧を着た者達の腕や脚、胴体などに巻き付いて宙吊りにしているようだ。
そして幾つかの毛玉がいたる所に浮かんでいた。
他にも大人の大きさをした毛玉が幾つか空中に浮かんでいた。
どうやら、この者達は異形の髪の毛に囚われてしまったようだ。
そして、少年には異形の髪の毛は見えていないようだ。
因みにルドルフとは少年の大好きな『ルドルフのだいぼうけん』という平日の夕方に放映されている幼児向けのアニメーションの主人公である。
内容はルドルフというタコが伝説の鎧を纏いモンスターを倒すというものだ。
少年の中では鎧を着た人とは全てルドルフという名前に変換されてしまうのだ。
「ーーー!」
「ーー!?」
「ーーーーー!」
まだ異形の髪の毛に囚われていない鎧を着た者が少年の姿を見て叫んだ。
その叫び声は悲鳴のようでどうやら少年の背中に乗っている異形に驚いてしまったようだ。
その叫び声で鎧を着た人達に少年が居ることに気付かれたようだ。
初めに叫んだ者以外も口々に話し始めた。
しかし、少年には一つの単語さえも分からなかった。
「あれ?
はなしがわからない。
がいこくのひと?」
少年は相手と言葉が通じない事に気が付いたようだ。
言葉の通じない相手に戸惑いを隠せない少年の顔を異形がその異様に大きな手で挟み込んだ。
「ーーーぶか!」
「おい、あんな魔物見た事あるか!?」
「なんでこんな所に子供が………」
「そんな訳があるか!?」
「隊長が………。」
すると、どうした事だろうか。
少年は今まで理解不能だった言葉が分かるようになったのだ。
一度理解出来たら大丈夫なのか異形は少年の顔から手を離すとまた少年の身体に抱き着いた。
少年は言葉が分かるようになった事から安心したのか笑顔で名乗り始めた。
「こんにちは!!!
ぼくのなまえは、おそれがみ、みたま、です!!」
元気な声で挨拶をした。
しかし、鎧を着た者達はそれどころではなかった。
なんせ、仲間の殆どが訳の分からない罠に嵌り空中で吊るされ毛玉と化して行く姿を見て。
初めて見る異形を恐ろしい魔物の一種だと思い。
そして少年というには幼い男の子がこの危険な森に居るはずが無いと思い込んで居るのだ。
そんな意味不明、理解不能な状況で少年の挨拶に応える余裕は無かった。
「退却だーーー!!!」
その鶴の一声で鎧を着た者達が一目散に少年と異形から逃げて行った。
「あ」
その場には幾つかの毛玉と少年と異形だけが残された。
宙吊りにされていた者達も毛玉へと変わっていた。
しかし、少年には毛玉も異形も見えないようで寂しそうに下を向いた。
「もっと、はなしたかったな」
その言葉に異形が反応したのだろう。
髪の毛が逃げた鎧の者達を追うように伸びて行き、幾つかの毛玉が解れて中から鎧を着た者達が現れた。
やはり、異形に囚われていたらしい。




