騎士よ、森を探索せよ!
時は少し遡る。
少年と異形が森に現れた同時刻でとある場所が騒がしくなった。
そこには何人、何十人、何百人と老若男女問わず同じ服装の大勢の人が巨大で透明な一つの水晶を前にして座り込んでいた。
人々は脂汗を垂らしながら何かをしているようだ。
よく見ると人々の周りは空気が揺れ動くように見えない何かが有った。
その何かを目の前の水晶へと繋がっていた。
そしてその後水晶は淡く輝いていた。
そしてその群衆の中で一人だけ立っていた者が居た。
服装も他の者とは違い何か特別な存在だと思わせる雰囲気が有った。
その者は言葉にならない声で何かを叫んでいた。
「ーーーッ!!!」
その何かを言い終えたのだろう。
水晶の光の強さが増し目を開けられないほど輝いた後、唯一立っていた者へと光線を浴びせた。
光線は熱くは無いのだろう。
少なくとも光線を浴びた者の表情には苦悶の様子は見られない。
眼を閉じ何かに集中しているようだ。
「やはりか」
一言、そう呟いたかと思うとその者は消えてしまった。
そう、跡形も無く、一瞬の出来事だった。
後に残ったのは同じ服を着た大勢の気絶した人々と巨大な水晶のみであった。
ーーーーー
場面はとある部屋へと変わる。
その部屋には二人の男が机を挟み対面していた。
片方は椅子に座り片方は直立不動で立っていた。
「お前を呼んだのは他でもない。
あの森の事だ。
………分かるか?」
座っている男は肘を机に置き組んだ手を額に当てた姿勢で鎧の男に問いかけた。
「はい、承知しております、閣下。
あの森から大きな魔力波を感じます。
………また出たのでしょう」
鎧の男は自身の感じた力を答えた。
その様子はどこか慣れたような感じもあった。
「そうだ、出たぞ。
しかも今回は大物だ。
なんせクリバラ教からのお達しも来てるからな」
座っいる男は机の上の水晶を恨めしそうに見ながら言った。
「それは………確かに大物です」
鎧の男は目を見開いた後、ゆっくりと目を閉じて答えた。
座っいる男は鎧の男の様子を見て決意を固めたように言いだした。
「お前には、お前たちには森の偵察を行ってもらいたい。
『勇者』が到着するには最低でも一月は掛かる。
その間にどんな情報でも良い。
森の異変についての情報を集めて来い。
そして生き残れ。
これは至急命令だ」
座っている男は鎧の男にそう命令した。
鎧の男は噛みしめるように命令を聞きそして片膝をついた。
「御意。
我ら『バタンダ領騎士団』にお任せ下さい。」
そう厳かに鎧の男は答えるとスッと立ち上がり部屋から出て行った。
「あぁ、生き残って帰って来い。
ラーンよ。
ハバラタイ様、どうかお力添えを」
座っている男は誰にも聞こえない言葉を口にした。
そして今から森に入る騎士団の命運を自身が信じる神に祈るしかなかった。




