少年よ、森の中を彷徨え!
少年は小ぶりの木の枝を大振りに振りながら森の中をどんどんと進んでいく。
「たんっけんったんっけんっだー!」
木に抱き着く事に満足したらしく今度は森の中に好奇心が刺激されたようだ。
少年は木の枝振りながら森の中を探索するようだ。
そして驚いた事に少年の上を追随するように木漏れ日も動いていくのだ。
そう、奇跡のように木漏れ日が少年に当たっていたのでは無かったのだ。
あの人の姿をした異形が関わっていたのだ。
異形の髪の毛が異様に伸びて束となり木の枝や葉をどかして強引に木漏れ日を作っていたのだ。
その異形はと言うと少年の頭に顔を乗せ異様に大きな腕で少年を覆い隠すように抱き締めたままの格好で少年に引き摺られている。
その少年の後頭部には異形の豊満な胸が形を崩していた。
少年は異形の事など気にしないかのような足取りであった。
いや、実際に気にしていないのだろう。
自身の倍のある異形を引き摺って移動する程、少年は怪力ではないのだから。
となると異形には少年に対して重さを感じさせていないのだろう。
現にその異形の異様に大きな足を引き摺った跡が森に残っているのだから。
しかし、その跡でさえも異形の自由自在に動く髪の毛によって最初から無かったかのように巧妙に隠されているのだが。
ある意味平和な光景だがほれは少年の周囲だけである。
この異世界には魔物と言う存在が居る。
魔物は様々な姿をしているが共通の特徴がある。
それはどの魔物も体内にとある宝石を蓄えている事。
そして可笑しな事に人だけを襲う事だ。
魔物は邪悪な神が作り出した者で悪意と害意によって人を襲い、人を喰らうと大半の人は信じている。
実際に魔物は人を襲うがそれは悪意によってではない。
大半の魔物は人を唯の餌として認識しているだけなのだ。
餌の内容は魔物によって違うのだが
それでも人を襲う事には変わりない。
また、邪悪な神が作り出したと言われているがそれは定かではない。
そう言われているだけである。
さて、その魔物だがこの鬱蒼とした森にも居るのだ。
人の匂いに釣られて少年の周囲へと集まっているのだ。
魔物は人を襲う。
そらはこの森の魔物も同じである。
巨大な毛だらけの顔に直接手脚が生えた魔物。
胴の両方に頭が付いている蛇の魔物。
大きな蟲の魔物。
鏃のような鋭い嘴をもった小鳥の魔物。
様々な魔物が少年を襲おうと近づいて行く。
しかしある一定の距離まで少年に近づけた魔物は居ない。
そこには黒い塊しかないのだから。
その黒い塊は徐々に縮まっていき最後に解けるように糸状の黒い物へと変わる。
それはよく見ると異形の髪の毛と同じ色であり、まるで蜘蛛の巣のようにいたるところに張り巡られていた。
その光景は蜘蛛が巣で獲物を捕らえじっくりと溶かしながら喰う様子を彷彿とさせた。
そう、まさに異形は魔物を捕らえて喰らうようだ。
少年の進行方向の魔物を髪の毛で捕らえて喰う。
少年に近づいた魔物を髪の毛で捕らえて喰う。
少年を遠距離から攻撃しようとした魔物を髪の毛で捕らえて喰う。
一度捕らえられれば音をも通さぬほどの毛玉と化し喰われているのだ。
異形が魔物をどのように喰らっているかは分からないが。
まさに蜘蛛のような異形の捕食方法である。
少年はその光景を目にせずお気楽に森の中を歩いて行くのだった。




