異形は草原を駆ける。
壁の上から森の方に何か異変が無いか見張っている者達が居た。
森から魔物が襲撃した時、いち早く気付く為の措置である。
その者達のある一人が一部の森の異変に気付いた。
「森が割れた?」
そう、一部の森が突然黒い物に覆われたと思えばそこに生えていた樹々が無くなっていたのだ。
そして出来た森の割れ目から何かの影を見張りの者が見つけたのだ。
「ありゃ、なんだ?」
遠くから何かが来るが遠目で分かり難いが普通の人には見えない。
黒い者と黒い玉のような物を引き摺ってくる何か。
それだけしか分からなかった。
「おい、グロップ!
森から何か来るぞ!」
異変に気付いた者は近くの同業の者に声をかけた。
「分かってる!
う〜ん、ありゃ、魔物か?
………見た事ないな。
それに子供が捕まっている?
おい、フレッド!
迎撃隊に連絡しろ!
足の速さからしてもうすぐで町に到着するぞ!」
声をかけられた者もその前に気付いていたのだろう。
何やら筒状の物を目に当てながら声をかけてきた者にそう返した。
そしてその黒い何かに何時でも矢を射抜けるように準備を始めた。
背負っていた自身の背と同じくらいの巨大な弓を黒い何かへと構えたのだ。
町は少し騒がしくなった。
ーーーーー
少年は草原を走る。
いや走っているのは少年では無い。
少年は空中で足をバタバタと動かしているだけに過ぎないのだ。
その後ろの異形が異様に大きな手で少年の身体を持ち上げ走っている。
少年がよろめいて倒れそうになった時に異形が少年の身体を持ち上げたのだ。
少年は必死のあまり自分が中に浮いている事も分からなかった。
異形の足は速かった。
優に時速100kmは超えているだろう。
異形の進行方向にも何体かの魔物が居たが全て異形が抜き去りその後、異形の髪の毛に喰われた。
少年は必死のあまり目を瞑ってしまっているので魔物の姿を見る事はなかった。
風圧やらで少年に影響が出そうな物だが不思議な事に何もないらしい。
「止まれーーっ!!!」
「うわ!?」
森と壁の半ば、3分の2まで来た所で大きな声が聞こえた。
少年はあまりの大きさに驚いて足を動かすのを止めた。
異形は少年が足を止めた事に気が付いたのか少年をそっと地面に降ろした。
「お前達は何者だーーーっ!!!
町に何をしに来たーーーっ!!!」
どうやら壁の方から誰かが叫んでいるようだ。
少年は息を吸い込み声を張り上げた。
「たすけてーーーっ!
もりでーーーっ!
ひとがーーーっ!
たおれたーーーっ!」
叫び声の答えにはなっていないが少年は答えた。
ドシャっ!!
するとその少年の大きな声に異形が反応したのだろう。
後ろで引き摺って来た毛玉を解放した。
何名もの騎士が一斉に地面に落ちた音が響いた。
「あ、きしのひと!
ここまでおいかけてきたんだ」
少年は音で後ろを振り返りそう呟いた。
すると壁の方が騒がしくなった。
「あれは……『バタンダ領騎団』じゃないか!?
おい、救護団を呼べ!」




