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彼女の餌食

あっと言う間に放課後になって、俺と如月は生徒会室へ向かっていた。



「ふんふーん」



如月は、軽い足取りで口笛を吹きながら進む。

如月がいるおかげで随分と楽だが、それでも俺は全身ガッチガチである。


如月も呼ばれていることから、白河さんは別に俺といやらしいことをしたいわけではないのは分かっている。しかし、そもそも白河さんに呼ばれて会いに行くという行為そのものがとてつもない緊張を生むのだ。



「なにそれ。あなた右手と右足同時に出してるわよ?やることいちいちベタなのよねぇ。もっと面白いことできないの?」



そう言いつつも、如月はくすりと笑った。ぱっと場の雰囲気が華やぐ。美人は得である。俺の緊張も、少し緩和された気がする。



「如月は、どうして白河さんとそんなに親しげなんだ?」



「ああ、琴莉と私、幼馴染だから。幼稚園のころからずっと一緒よ」



知らなかった。どちらも綺麗だが、タイプが全然違うため、結びつかなかったのだ。



「幼稚園児のころからあんなに可愛いのよ、琴莉って。しょっちゅう子役のスカウト受けてたし。おまけに聡明でね。私はバカだったから公立の小学校に進んだけど、あの子は有名私立小学校に進学した。そこで私と琴莉はあまり会わなくなったんだけど、晴れて高校でまた一緒になれたの」



「へぇ……。でも如月は如月ですごいじゃんか。スポーツめちゃめちゃできるし」



「それがなかったら今頃は……」



如月は何かを呟いたが、よく聞こえなかった。



「生徒会室なんてあるんだな」


「うん。新校舎に一つと、旧校舎に一つ。実際使われてるのは新校舎の方の生徒会室ね」



この星黎学園には旧校舎と新校舎がある。旧校舎といっても、築十年くらいである。果たしてそれを旧と呼んでいいものなのか。



「じゃあ新校舎に向かうのか?」



「バカね。琴莉は正規の生徒会なんかに興味はないわよ。向かうのは旧校舎。教室を拝借してるだけよ」



「拝借ぅ?教室借りて、如月たちは何をしてるんだ?」



「そうね、強いて言うなら……」



話しているうちにいつの間にか到着した生徒会室の扉を開け、清々しく如月は言い放つ。



「あやしいことと、いやらしいことと、楽しいことかな。ね、琴莉」



「あ、せらちゃん!おかえりー!」



そこには、可愛いうさぎさんのフードをかぶった部屋着姿の白河さんがいた。なんという破壊力!如月を見るや否や、幼い弾けるような笑顔を見せてくれた。

……可愛い……!!

前髪を全て上げて、だらけモードな感じも、きりっとした印象を全て取り去っただぶだぶの部屋着も、めちゃめちゃ可愛い!

何よりも、だぶだぶの部屋着から覗く胸の谷間が神々しくて、俺は危うく鼻血を出すところであった。

うさぎさんの耳をひょこひょこと動かしながら白河さんは如月に話しかけていた。確信犯かどうかは分からないが、相当似合っている。

しかし一体どうして……?完璧でどちらかというと硬派な人だと思っていたが。白河さんはどういう人なのだろう。



「ああ!朝の方!大変失礼致しました。せらちゃんが来て嬉しくて。そういえば、まだお名前を聞いていませんでしたね」



「佐藤 千春です」



そう言うと、白河さんは小さな肩をぷるぷると震わせて言った。



「パーフェクトです!!この平凡な容姿と声でありながら名前は何故か可愛い!受け確定ですね!」



「こら、琴莉……。佐藤になんてことを」



なんか今、一万年に一度とかそういうレベルの美少女の口からBL用語が出てきたような気が。幻聴だろう。最近耳鼻科に行っていなかったんだよな、俺。

平凡な容姿と声で受け確定とか、けなされまくっていた気もするけど幻聴なんだよな、きっと。



「朝出会ったとき、平凡受けにぴったりな容姿だと思ったんですよねぇ。でも声かけるタイミング掴めなくて、ぶつかってみちゃいました」



「あんた琴莉……!自分から佐藤にぶつかったの!?やるわねぇ……ぶつかってみちゃいましたって……。琴莉レベルの可愛い子じゃないと許されないわよそれ」



やばいぞ。イマイチ状況が把握できない。


結局、俺はなんのために呼ばれたんだ?ぶつかってみちゃいました……!?



「よろしくお願いします、千春くん」



恭しく頭を下げられる。たまらなく可愛いのだが、手放しに彼女の可愛らしさを褒め称えるわけにはいかないらしい。



「じゃ、佐藤、改めて……


今日からあなたは、晴れて白河琴莉のおもちゃです。おめでとう、佐藤ー!」



「いやいやぁ、どうもどうもー!……ってそんなわけないだろ!!おもちゃってなんなんだよ!!」



「佐藤、やっぱりあなたやることベタね。なんなのよそのベタ中のベタみたいなノリツッコミ」



いやノリツッコミできる余裕があったことを寧ろ褒めてもらいたいくらいだ。

だいたい、餌食だの平凡だの受けだのおもちゃだの、いったい人のことをなんだと思っているんだ!




「あ、それでは、私から説明しますね。とりあえず、中へお入りください」



歩くたびうさぎさんの耳がひょこひょこ動く白河さんが俺たちを生徒会室(?)の中へ招いた。

白河さんに夢中で気がつかなかったが、部屋の中はここが学校であるということを忘れるくらいに改造されていた。

まずレースがたっぷりと付けられ、巨大なリボンでとめられた淡いピンクのカーテンに目が行く。絨毯もふわふわした淡いピンクの生地だ。ところどころ白と赤のハートのクッションが置かれていて、とてもファンシーな空間である。

中央には王宮を連想させるアンティーク調のテーブルが置かれ、その上にはミルクティーの入ったうさぎさんのマグカップ。

そこで笑顔でうさぎさんのフードをかぶった白河さんが笑顔で手招きしている。


ここはどこなんだ。夢の国か。童話の世界か!?少なくとも、俺が今まで住んでいた世界とは全く違うということは確かである。



「ここはお客さんをお出迎えする部屋なんです。私たちのプライベートルームはこっち」



驚いたことに、部屋はここで終わりではなく、まだドアがあった。

ドアの向こうには、衝撃的な世界が広がっていた。

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