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Lady Devil  作者: アキラ
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第14話

「か、圭織さん・・・。」


しかし、そんな私の表情は思ったよりも不自然だったのだろう。

龍聖君の顔はさらに申し訳なさや罪悪感で一杯のように変わっていく。


彼は多分、優しい人なのだろう。

それこそホストなんて似合わない程に。


もしもこの表情が私を騙すための演技だとしたら、それはもうその辺にいるような役者さんレベルではなく、テレビに出てもおかしくはない。そんな風にすら思う。


「ふふ、そんな顔をしなくてもいいのよ。私の失敗なんだから」


そして、そんな顔をされてしまったら、少しでもいいから安心させたくなってしまって、

私はさっきのぎこちない笑顔ではなく、普通の笑みを見せるべく口角をあげる。


「か、圭織さん・・・・・。」


しかし、そんな風に笑いかけても、ますます龍聖君の表情は暗くなっていく。

むしろ、虚勢を強めたように見えてしまったのだろう。


龍聖君はふとチラチラと辺りを見回す。


「え、なに、どうかした?」


そんな突然の行動に面を食らってしまう。

落ち込んでいたかと思えば、何かを探すようなそんな視線。


「あ、あった!!あの、圭織さん、ここで少しだけ待っていてください」


そしてそんな私の問いかけとほぼ同じ瞬間に目当てのものを発見したのか、そんな言葉だけを残して走っていく龍聖君。


(え、な、なに、なんなの!?)


若干、パニック状態だ。

さっきまで隣にいたはずの龍聖君の姿はもう遠い。



「圭織さん、お待たせです。」


数分後、龍聖君はコンビニ袋を引っ提げて戻ってきた。

急いだのか、その吐息は荒く、頭頂部から汗が顔を伝って落ちていた。


「え、だ、大丈夫!?」


「だ、だ、大丈夫ですよ。それよりこれを・・・。どうぞ!!」


どう見ても全然大丈夫そうではない龍聖君。

肩で息をしているようにぜぇはぁぜぇはぁ言っている。


だけど、その手から私の手に渡されたビニール袋。

どさりとした重みを感じる。


どうやらこの袋の中身を買いに走っていたようだ。


中身はもちろん気になった。

いつもの私であれば、すぐにこの袋の中身を覗き見るだろう。

まあ、こんな風に渡されることなんて今までの人生でなかったわけではあるけど。。。


「は、はぁはぁ。」


しかし今優先すべきはそっちではない。


「龍聖君、ちょっと、こっち来て」


私は龍聖君の手を取ると、彼を休ませるべくベンチへと歩いていく。

その間、彼はここまで走ってきたせいなのだろう。

顔を赤くして、今にも倒れてしまいそうなほどにフラフラしていた。


「ん、座って」


「は、い」


龍聖君は渋々といった様子でそのベンチに腰を下ろす。

夜風が冷たいせいで、その体がブルッと震えている。


「これで汗拭いて、風邪引いちゃうよ」


とりあえずハンカチを渡した。


「え、い、いや、そんな大丈夫ですから」


「いいから。風邪なんか引いてお店に迷惑をかけたらどうするの!!」


しかし、龍聖君は頑なに渡したハンカチを使おうとはしない。

汗がまたポタリポタリとその額から顔、そして落ちていく。


何やら顔も先程赤くなっているようにも見えたし、戸惑っているようにも見えた


「もう、しょうがないなぁ・・・。」


私は未だに汗を拭きとられないハンカチを自分の手に戻す。


「優しく拭くからじっとしていてね」


そう言いながら、ハンカチを彼の顔に当てていく。


「え、ち、ちょっと」


「しゃべらない」


龍聖君は私の行動を制止しようとするも、それを遮るように顔を拭いていく。

恥ずかしそうにする彼。


(そんなにも拭かれるのが嫌なのかな)


そうは思っても、このまま放っておいたって彼は拭くことをしないだろうと思う。

やや強引にではあったが、こんな些細な事でも風邪になってしまう事もある。


私のせいで風邪に掛かったりなんてしたら、少なからず心が痛んでしまう。


ふと彼の顔を見ると、やっと観念したのだろうか。

口を閉じ、なぜか目も閉じて、為すがままになっていた。


(なんだか可愛いな)


男の人にこんな気持ちを抱いてしまうのは失礼な事なのかもしれないけど、どうしてもそう感じてしまう。

その汗を拭きとるたびに、どんどんと自分の中に庇護欲のようなものが生まれては募っていく。



「ん。終わったよ」


彼の汗を拭き終えた私はそのままの感覚でその頭へと手を伸ばして、場でてしまう。

それはさながら幼い男の子に年上の女の子がするようで・・・。


「え?あ、あの・・・・・。」


「あ!!ご、ごめんなさい!!」


真っ先に聞こえてきたのは龍聖君の戸惑っているような狼狽えるようなそんな声で、急に自分がひどく恥ずかしいことをしていることに気付き、さっと撫でていた方の手を離す。


龍聖君はまだ驚いているのか、ポカンとしている。


そうなるのもおかしくはないだろう。

だってまだ会って話をして間もないお客の女性に頭を撫でられたのだから。


ホストとはいえ、こういう対応には不慣れなのかもしれない。

私はまだ残っている龍聖君の髪の感触を残し、彼の次の行動を待つことにした。


「・・・・・/////」


しかし、彼はそのまま何かに悶えているような顔をする。


どうしてか、その表情を見ていると自分の中に”もっとこの目の前にいる男の人の頭を撫でてしまいたい”というおかしな想いが募っていく。

下ろしていた手がもう一度頭に触れたいと言わんばかりに疼いてしまう。



「あ、あの・・・」


お互いの間に恥ずかしいという想いからの沈黙が訪れる中、龍聖君が口を開く。

その表情はなんだか赤い。


「ありがとうございました///」


「あ、う、うん、いいよ」


それはどことなく照れ混じりの感謝だった。

”可愛い”そんな感情が頭に沸いてしまう。


そんな風に思っちゃいけないことなのだろうけれど、そんな風な表情と素直な感謝を伝えられてしまっては思わない方が無理、


私の手のひらはまた無意識に彼の頭を撫でてしまう。


「/////」


龍聖君はさっきと違って狼狽えるでもなく、驚いているわけでもなさそうだ。


(いいのかな?このまま撫でていても)


私は彼の髪の毛を優しく撫でていく。

何も言われないし、妙に撫でる度撫でる度にどんどんと安心している表情をしていく彼に、私はすっかり、辞めるタイミングを逸していた。



プルルルルプルルルル


電話の音が鳴り響いて、やっと私は撫でるのを辞めた。

あれから何分間過ぎたのだろうか、自分では分からない。


その着信音は龍聖君のものだったようで、彼はそのポケットからスマホを取りだすと、画面を見る。

よほどさっきの撫でるという行為で安心させてしまっていたからだろうか、その目は眠そうにとろんとしている。



しかし・・・・。


「あ、やばっ・・・。オーナーからだ」


そんな声とともに龍聖君の意識ははっきりとしたかと思えば、さっと顔が青ざめていく。


余程、怖い人なのかもしれない。

龍聖君はスマホの画面と私をチラチラともてくる。どうやらこの着信を取りたいが、私がいるからどうするのがいいのか悩んでいるのだろう。


「あ、いいよ。電話に出て。」


彼の気持ちを察した私はそう声を掛ける。


まあ、おそらくは駅まで送っていく予定で出ていった彼がいつまで経っても戻ってこないから連絡をしてきたのだろう。

ホストクラブの従業員も普通の会社員と同じで、就業時間内での勝手な行動は許されないのだと思う。


ピッ


私に感謝するように微笑み、応答ボタンをタッチする彼。

その指先は心なしか小刻みに痙攣していた。



「「龍聖!!!今、お前、どこにいるん??」」


その声は辺りが静かすぎたせいもあるのだろう。

今のこの雰囲気とは場違いに大きく、それでいて怒りの感情が透けていた。


「あ、すみませんすみません!!」


そして、それに対して目の前にその人はいないのに頭を下げる龍聖君。


「「どこで油を売ってるのかは知らねぇけど、早く帰ってこい!!!」」


「は、はい!!!すみません!!!」


ピッ


電話の向かい側にいる人は龍聖君を捲りたてるかのように怒号を発し、電話を切った。


(あ・・・。)


そのためからなのだろう。

龍聖君は見るからに落ち込み、なんだか泣きそうな感じだ、


「・・・・・。大丈夫?」


恐る恐る声を掛ける。

さっきまで気持ちよさそうに撫でられていた彼の顔は嘘のように暗くしぼんでいる。


「は、はい、ま、まあ、いつものことなので」


彼はあからさまに作り笑顔だとわかる笑みを浮かべる。


(なんだか悪い事をしちゃったな)


申し訳なさが胸中に溢れてくる。

龍聖君が怒こられた原因は絶対に私のせいだった。


龍聖君の頭を撫でていなければ・・・・・。

落ち込んだ顔を見せて、彼をコンビニまで走らせていなければ・・・。

星斗さんの口車にまんまと乗せられて、散財しなければ・・・。


もっと言えば

私がホストクラブについていかなければ・・・。


彼がこうしてお叱りを受けて落ち込むこともなかっただろう。


考えれば考えるほどに後悔が積みあがっていく。


二人して暗い顔。

龍聖君も私も帰らなければいけない場所があるのに、その足は止まったまま。


(私から声を掛けた方がいいのかもしれないな・・・。)


このまま龍聖君がお店に戻るのが遅くなれば、彼はますます怒られてしまうだろう。

その結果、落ち込んでいる様も容易に想像できる。


最悪、解雇されることだってないとは思えない。


どうにか、何とか、声を掛けて、この場所から歩き出そう。


「・・・・・・・・」


そんな風に思ってはいても、分かってはいても、どうにも龍聖君のその落ち込んでしまった顔を見る度に何の言葉もかけられない空気感になってしまう。


(このままでは・・・。)



そんな風に感じた矢先のことだった。


「もしかしてお前、圭織か??」


そう声を掛けられたのは・・・・。


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