第12話
「あ、それじゃあこの席に」
龍星くんが手で席を指している。
それは黒に赤が少し混じったようなソファに、小さなテーブルが前にあった。
私はその席に座ると、鞄を隅に置いた。
「あ!!」
そんな自然な所作を取っただけなのに、龍星くんはなぜか申し訳なさそうにしている。
「ど、どうかした??」
そんな顔を見せられたら、どうしたのか聞かずにいられない。
「ごめんなさい・・・。手荷物は俺が持つべきでしたのに・・・」
(え?そんなことで?)
「だ、大丈夫だよ・・・。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
沈黙の時が訪れる。
どうやらさっきの私の態度のせいで怖がっているのだろう。
なぜかびくついて、一言も話そうとしない。
(どうしよう・・・。このまま帰ろうかなぁ)
あまりにも退屈な時間に、席を立とうと思った。
その時・・・。
「はぁ~」
深いため息が聞こえてきた。
その声の主はすぐに分かった。
というか、あれほど鋭い眼光でこちらを睨みつけているので、すぐにその存在に気付いた。
眼鏡をくいっとしながら見ている。
(何か怖い人だな・・・。)
そんなことを思わず思っていると、まるでその声が聞こえていたかのように
こちらへ向かって歩を進めてくる。
その歩き方は異常なほどに洗練されていて、目が離せない。
「龍星・・・。お前という奴は。」
彼はいつの間にか私と龍星くんの側に来たようで、龍星くんはその声に驚いている。
「そこで見ておけ。」
その言葉と共に彼は私の向かい、龍星くんの隣に腰を降ろした。
「レディ。君の名前はなんというんだ?」
低音ボイスが私の耳の中を駆け巡り、頬に熱が溜まってしまう。
「か、神埼 圭織です///」
「そうか。圭織か。いい名だな。」
初対面の相手に下の名前で呼ばれた。
本来であれば嫌なはずなのに嫌じゃない。むしろもっと呼んで欲しい。
「俺の名は星斗だ。よろしくな。圭織」




