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actual world&spirit world Ⅳ

 暖かい日差しが街を優しく照らす午前。塔の都(ストーバ・トルレム)の大通りを歩く。ミナト、ユズリハ、キッカ、リーフの四人は、塔の祭壇を目指し、急ぎ足で歩みを進めている。

 その中で、キッカが好奇心一杯の表情を浮べながら、問いかけた。


「精霊って、どんな感じなんだ? 可愛いのか? それとも強そうな感じなのか?」


 キッカが、かなりの速度で歩いているのにも関わらず。息も切らさず気軽な感じで言葉をかけた。その質問に、三人はそれぞれが自分の精霊の事を思い出しているのか。三者三様、微妙に違う表情で答えていく。


「うーん、ちょっと厳しいお姉ちゃんって感じかな? ボクの精霊は……」


「私は、仲の良い友達みたいな感じです。でも、凄く気分屋なので……」


「……お姫さまかな?」


 三人のそれぞれ言葉を聞くと。キッカは戸惑いの表情を浮べながら言葉を紡ぐ。


「何か、すごく個性的な感じなんだな……精霊って……」


「…………」


「…………」


「…………」


 その言葉に三人は返す言葉も無く。無言で答えたのだった。四人は、そんな事を話しながら、塔に向かっていく。

 街は、朝に比べると人通りも増え。賑やかな喧騒に包まれている。大通り並ぶ露店に視線を向けると。

彼方此方の店の軒先や、オープンスペースにプレイヤーが集まり、話をしながら盛り上がっているのが目に入る。ミナトが、辺りの様子に気付く頃には、ユズリハがいち早く、その状況を察し、理由を伝えてくる。


「お昼過ぎ位に、運営から何か発表があるみたいだね。それについて話してるんだと思うよ」


 ユズリハはウィンドウを開きながら、リストで情報を集めている。


「世界変換と言われる。今回のアップデートの内容が発表されるって噂で持ちきりです」


 リーフから補足説明が入る、こちらもユズリハと同じ様にウィンドウを開きながら、情報を集めている。主な情報源は掲示板の書き込みようだ。


「世界変換?」


 ミナトは聞き慣れない言葉を疑問に思い。それを思わず口に出す。その声に気付いたリーフが、簡単に説明を口にする。


「今回の大型バージョンアップの目玉として発表されている。EOTCの大規模アップデートだと言われていますけど、どんな内容なのかは、未発表のままです」


 リーフは、ウィンドウを操り情報収集しながら説明する。その言葉に続くように、ユズリハも言葉を重ねる。


「そうなんだよね、一ヶ月も待たせた割りに、実装されているのかさえ。公式から発表されてないんだよ。対応が良いと評判のロイ・カーにしては、珍しい位にごたついてる感じを受けるね」


 ユズリハはリストにある。複数の掲示板を流し読みしながら、情報の取捨選択を行なっている。その速度は速く、ミナトは感心する様に見つめた。

 二人の言葉から事情を、ある程度掴むと、ミナトは少し考え込む様な顔をしながら言葉を口から出した。


「それじゃあ、大型アップデートは、まだ済んでいなかったって事?」


「そう言う事ですね……それが、今日の十三時に公式から発表が出ると言う事で、とうとう新要素のお披露目か! という事でプレイヤー達が盛り上がっていると言うのが、答のようですね……」


「昨日の緊急メンテも、最終調整の為だった。遂に今回のアップデートの全貌が明らかになる! そんな事が、実しやかに囁かれてるね」


 二人は一通り調べ終わったのか。ウィンドウを閉じると一息吐いた。ミナトは改めて回りを見渡すと。聞いた話の通りに、彼方此方で色々な話が囁かれている。


「世界変換って名前からすると、フィールドマップの大幅増強だろうな。色々な町や村が出来て。塔だけじゃなく。これからはフィールドやそういう小さな町や村も、重要な探索場所になるに違いない」


「いや、塔の百階層に街が出来るんだよ。そこから、また、塔の新しい攻略が始まるんだって」


「違うよ、海外サーバーとの統合だって! 噂によると、海外サーバーそれぞれで、塔の構造や、街の作りが違うって話だから、実は一つだと思っていた塔が、サーバーの数だけ塔があって、それを世界中のプレイヤーと一緒に攻略していくのさ! かぁ~~! 燃えるな!」


 様々な憶測とも推測とも呼べない、儚い希望とも取れる妄想が、彼方此方でプレイヤーの口から溢れている。


「色々な予想がされているね……実際はどういう感じだと思う?」


 ミナトは、自分よりプレイ暦の長いユズリハとリーフに問いかけた。二人は苦笑を浮かべると、それぞれの予想を口にする。


「うーん、世界変換って証してるからには、それなりの事が起きるのだろうけど……さっき耳にした。海外サーバーとの統合ってのは、良い所を突いてるかも……日本の他に稼動しているサーバーは。実はそんなに多くないし。統合するだけなら。アメリカ、ロシア、ドイツ、フランス、スペイン、イングランドの六カ国で済むからね」


 ユズリハはそう言いながら、リーフに視線を向ける。話のバトンが渡された事に頷くと、リーフは自論を話し始める。


「私も世界変換の名前からの推測ですけど……このEOTCには世界設定的に()というモノが、今の所、明確に定義されてはいないのです。そこを考えると、EOTCの国や文化などと言ったモノの新たな設定がアップデートのメインになるのではないかと思っているのですが……」


 リーフは自分の言葉にあまり自信が無いのか。発言の最後の言葉には力が無かった。ミナトは二人の言葉を聞くと、納得したように頷く。


「なるほど、ユズリハさんもリーフも、EOTCの世界が広がると言う事に関しては同意見なんだね」


「そうだね。実際の所は分からない。けど、何があっても大丈夫なように、色々と準備しておかないとね」


「その意見には賛成です。準備を怠る事が無ければ、何が起きても、それなりに対処出来る筈ですから」

「了解、それじゃあ、僕達に出来る準備を着々と進めて行こう」


 ミナトはそう言って話を締め括ると、もう目の前に見えて来た。塔の入り口を目指し駆け足で進む。昨日と同じ様にギルド職員に祭壇の使用状況を聞く。ユズリハとリーフの二人が、手早く申請を済ますと、四人は塔の中へと足を進めた。

 キッカは初めて間近で見る塔の大きさに圧倒され、口を大きく開けながら、辺りを見渡している。


「大っきいなぁ……これを登るのか……ご飯とオヤツは、沢山持って行かないとダメだな」


 キッカのその素直な感想に、三人は微笑ましそうに顔緩める。祭壇までの道のりを、ほのぼのとした気分で歩く四人。そうして、しばらく歩くと目的地に到着する。


「ここで、精霊を召喚するんだ……どうすれば良いの?」


「祭壇の中央に立って、意識を集中すれば良いだけだよ」


「分かった、それじゃあやってみるね」


 キッカは祭壇の中央に立つと。目を閉じて意識を集中し始める。祭壇に刻まれた文様が光を放ち始める。その時、キッカの口から精霊の名前が告げられる。


「シュネー」


 その声と共に、精霊が召喚された。小さい体に銀色の髪、青色の綺麗な瞳、真っ白なゆったりとした服に身を包んだ可愛らしい精霊が。キッカの目の前に現れた。


「わたし、シュネー。あなたの名前をおしえて?」


 突然、話しかけられ戸惑うキッカ、ジッと精霊を見つめると。にこりと笑顔を浮べ、元気な声で答える。


「お……あたしの名前はキッカ! これからよろしくな、シュネー!」


『キッカ……りょうかい。これから、よろしくね』


 無事に召喚を終えるのを見届けると。ミナトはユズリハに話しかけた。


「これで一通りの事は済んだみたいだし。運営の公式発表を聞きに行こうか? 場所は何処でも良いのかな?」


「リストに書いてあるのを見る限り、何所でも聞けるみたいだ、折角だから雰囲気を味わう為に、塔の前で聞いていこうよ」


「そうですね、一種のお祭りみたいなものですし。そういう気分に浸るのも悪くないと思います」


 ユズリハとリーフの言葉に頷くと。ミナトは精霊と楽しそうに話しているキッカを呼んだ。


「おーい、そろそろ運営からの発表があるから行くよー」


 その声に頷くと、キッカはシュネーの手を力強く握る。そして手を離すと大きく手を振る。


「もう行かなくちゃ行けないから……これから、よろしくな!」


『うん、分かった。何時でも呼んで。わたしはいつもキッカの事、見守っているから』


 そう言って、シュネーも小さく手を振ると、その姿は光の粒子と共に消えていく。最後に笑顔を残すと、その姿は完全に見えなくなった。

 それを見届けると、キッカはミナト達の元に駆け寄って来る。四人は祭壇を後にすると、塔の入り口を目指し、少し歩く速度を速めた。


「急いだ方が良いかも知れない。今頃、塔の前はかなりの人で溢れているだろうからね」


 ユズリハは、塔の前の人混みを予想したのか、困った顔をしながら軽く溜息を吐く。その姿を見たリーフが、苦笑を浮かべながら言う。


「誰しも考える事は一緒と言う訳ですね」


「そうだね。僕達も、そんなプレイヤーの中の一人だし」


 ミナトはそう言って笑うと、隣のリーフを見つめて、同じ様な苦笑を浮かべる。そんな年上の三人の様子に、今一歩状況を理解していない、キッカが不思議そうな顔で尋ねてくる。


「何が始まるんだ? 楽しい事か?」


 その言葉に三人は頷くと。目の前に迫った塔の出口を潜り抜けながら。大きな声で言った。


「「「世界が変るのさ!」」」


 この言葉が、これから始まるEOTC未曾有の事件を、最も端的に言い表しているとは、知る良しも無い。

ミナト達だった。




 塔から出ると、広場には大勢の人が集まっている。ミナト達は、その人数に圧倒されながら、広場の隅の比較的人の少ない場所を目指し移動した。


「凄い人数だね……」


「多分塔の都(ストーバ・トルレム)に居る、殆どのプレイヤーは、今は攻略を止めて、この画面にに見入ってると思うよ」


 ユズリハはウィンドウを開き。リストの公式掲示板に設置された画面を食入るように見つめながら、ミナトに話し掛ける。


「ユズリハさんも、流石に気になるみたいだね」


「そうだね。これからの活動にも少なからず影響はあるだろし」


「システムに新しい要素が加わったら、それにも慣れなければいけません」


 ユズリハの言葉を引き継ぐようにリーフが問題提起をする。それに頷きながらミナトは時計を見ると、発表の時間が迫っていた。


「キッカ! あまり離れちゃ駄目だよ」


 ミナト達から少し離れて、キッカは彼方此方見回す。その姿に声をかけると。慌てた様に三人の側に戻ってくると頭を掻きながら謝って来る。


「ごめん、何か圧倒されちゃって……」


「気をつけて。はぐれたら大変だからね」


 リーフがそう声をかけると、用心の為かキッカの手を握った。ミナトは周囲に目を向けると、三人に声をかけた。


「もう少し人混みから離れよう」


「うん、そうだね。盛り上がりすぎて何か起こるかもしれないし、注意はしていた方が良いかもね」


「分かりました。キッカちゃん手を放さないでね」


「ありがとうリーフねえ」


 四人は広場から少し離れた場所にある、備え付けのベンチに腰を落ち着けた。そして時計を見ると、十三時まで残り十五秒を切っていた。

 ミナト達はウィンドウを開き画面を見つめている。時計の表示が十三時まで十秒を切ると、集まった大勢のプレイヤーが声を合わせ。自然とカウントダウンが始まった。

 その声は広場中に響き。一種異様な雰囲気を醸し出している。カウントが残り五秒になると、声が更に大きくなった。四人はその様子を見つめながらも画面を見つめている。カウントが終わる。

 その時ミナトは何故か。大事な約束をした人達の事を思い出していた。


「五!」


「四!」


「三!」


「二!」


「一!」


 カウントダウンが終わると同時に、ミナトの目の前が七色の光に包まれる。EOTCに接続する時に感じるの数倍の光が瞼を突き抜け、直接瞳を照らした。

 その次の瞬間。目の前の景色がブラックアウトしてしまう。意識はあるのに体への認識が曖昧な事に気付くと、ミナトは恐怖を感じる。まるで精神だけが肉体から離れてしまった様な感覚に叫び声をあげそうになった。

 しかし、その時、暗闇の中に青い綺麗な光が、僅かに見える事に気付くと。ミナトは、その光に必死に手を伸ばし掴み取ろうとする。青い光に指先が届いた瞬間、浮遊感と落下感が同時に襲って来る。遠く空の上から、青い綺麗な星に向かい落ちていく光景を見ながら。ミナトは意識と体が繋がっていくのを感じた。

 ゆっくりと目を開け、周囲を見渡すと、先程と変らない風景に安堵の息を吐く。ミナトは頭を軽く振ると、隣のユズリハに声をかけた。


「ユズリハさん、今、何か接続障害みたいな事起きませんでした?」


 隣にに顔を向けると、そこには目を閉じたまま微動だにしないユズリハの姿が見える。そして漸く。ミナトは周囲の異変に気付く。


「なんでこんなに静かなんだ? さっきまではあれだけの声が響いていたのに……」


 ミナトは改めて周囲を見渡すと、隣のユズリハと同じ様な状況のプレイヤー達が立ち尽くしている。広間を埋め尽くすほどの人の姿があるのに、聞こえて来るのは。ミナト自身の呼吸音と、早鐘の様に脈打つ心臓の鼓動だけだった。


(落ち着け! 結城皆人! まずは仲間の様子の確認、それから皆を安全圏に運ばないと……)


 ミナトが落ち着きを取り戻し、ユズリハを抱きかかえ様とすると、側から声が聞こえて来る。


「ミナト……何か変な事が起こった……何だったんだ? あれ……」


 キッカが意識を取り戻し。半分寝惚けた様な声音で話しかけてくる。ミナトは安堵の息を吐くと、状況を告げる。


「ユズリハさんとリーフの意識が無い、周りも似た様な状態の人ばかりだ、何かシステム的なエラーかもしれない……取り合えずベンチに寝かせよう。キッカはリーフの方をお願い」


 ミナトは落ち着いた声で、キッカに指示を出していく。ユズリハを抱きかかえるとベンチに寝かせる。キッカも苦労しながらリーフを支え、ベンチに横たえた。


「ミナト、一体何が起こってるんだ? カウントダウンが終わったら、目の前に光に包まれて……それから……どうしたんだっけ?」


「僕も詳しくは憶えてないけど、何かとんでもない物を見せられた気がする……でも、そんな事より、ユズリハさんとリーフの事が心配だ。一回家に戻った方が良いかも」


 ミナトはこれからの事を考えながら、ウィンドウを開く。リストを開くと、其処には変らず動画のプレーヤーが表示されたままだった。


「こんな大事になっているのに、運営からの報告は何も無しか……何か嫌な予感がする」


「ミナト! ユズねえが気付いたみたいだぞ!」


 キッカの声にウィンドウを閉じると、ユズリハの側に行き声をかける。


「ユズリハさん! 大丈夫? 何処か痛い所とかない?」


「ユズねえ、大丈夫か?」


 ミナトとキッカは、心配そうに声をかけると、ユズリハは手を振りながら、弱弱しい声だがハッキリとした返答を返した。


「わた……ボクは大丈夫。一体何が起こったの?」


 額に手を置きながら、ダルそうに聞いて来るユズリハに、ミナトは何度目かの安堵を息を吐くと、分かったいる状況だけを告げていく。


「それは、未だ不明だよ。周りのプレイヤーも意識が無い状態、運営からの報告も無し、それにリーフの意識が、まだ戻らない」


「ボクはどの位、意識を失っていたの?」


「そんなに時間は経っていないと思うけど……僕が目を覚ましてから、五分経っていないと思うか……ら!?」


 ミナトは、カウントダウンの時にも見ていた時計を見て愕然とする。時計の針は十三時三十五分を示している。


「ユズリハさん、あのカウントダウンから既に三十分経過しているみたい……」


「何それ? ちょっとしたホラーだね……つまりボク達は、強制ログ・アウトも起動せずに、此処で三十分間意識が無いままだったって事?」


 ユズリハは、ベンチから起き上がると周囲を見渡した。どうやら他のプレイヤー達の中にも、意識が戻った者達が居るらしく、ミナトが最初に目を覚ました時の様な、空間が凍り付いたような静寂は無くなっていた。


「取り合えず、強制ログ・アウトが起動しなかった事から考えると、あまり危険性は無いのかも知れないね」


「そうか……人体や精神に著しい負荷が掛かると、強制的にログ・アウトしちゃうんだよね……」


「取り敢えずは、リーフが目を覚ますのを待とう。ボクも目が覚めたばかりで、まだ良く頭が働かないから……」


 ユズリハは軽く頭を振り。意識を失っているリーフを心配そうに見つめた後、ウィンドウを開き情報収集を始めた。


「何が起こってるのか調べないとね……眠気覚ましには丁度良いから、ミナト君とキッカは、リーフの様子を見ていて。何か変化があったら教えて」


「了解。しばらく様子を見よう。キッカも側を離れちゃ駄目だよ?」


「分かってる、流石にこの状況で無茶はしないぞ……」


 キッカの神妙な返事に頷くと、ミナトは意識の戻らないリーフを心配そうに見つめる。その間にも、続々と目を覚ましたプレイヤー達の声が周囲から聞こえ始める。


「うおっ!? 何だ何が起こったんだ?」


「ちょっと起きてよ! 冗談はやめてよ!」


「静かに! まだ、意識が戻らない人も居るんだ!」


 混乱するプレイヤー達の声に混じり、同じ様な言葉が聞こえて来る。それは瞬く間に広がり。ミナトの耳にも聞こえて来る。


「ログ・アウト出来ないぞ!?」 


「ログ・アウトボタンが反応しない!」


「何よ、これ……どうしてログ・アウト出来ないの!!」


 その言葉に、ミナトは嫌な予感を憶えつつ、ユズリハに声をかける。


「ユズリハさん、聞こえてた?」


「聞こえていたよ……今、確めた所……確かにログ・アウト出来ないみたいだね」


「そんな……」


 ミナトはユズリハの言葉に愕然となるが、直ぐに気を落ち着けると考え始める。


(原因不明の緊急事態。その場合の対処は二つ。救助を待つか。それとも自分の判断で行動するか、正しいのは前者だけど……)


「運営が、この事態を把握していない事なんてありえないけど……三十分以上何も連絡が無いのは、何かしらの理由があるだろうね……暢気に救助を待っていて良いものか……かと言って、ボク達に出来る事なんてないし……」


 ユズリハの言葉に、ミナトは冷静さを取り戻す。三人の仲間の様子を見つめると。一つの判断を下した。


「ユズリハさん、此処に居ると、混乱したプレイヤー達と何か問題が起こるかもしれない。一旦、僕達の家に戻ろう」


「……そうだね、リーフもちゃんとした所で休ませてあげたいし、此処じゃないと出来ない事があるわけでも無いしね」


 ユズリハは頷くと立ち上がる。ミナトは、まだ目の覚めないリーフを抱かかえようした時、薄らと目を開けたリーフと視線が合った。


「ミナト君……私……」


「良かった! 意識が戻ったんだね、しばらく休んでいた方が良いよ」


「リーフねえ! 良かった目が覚めたんだ」


「リーフの意識が戻ったの?」


 意識の戻ったリーフを囲んで、ミナト達は安堵の声を上げる。周囲の喧騒も激しくなり始めている。意識を失ったプレイヤー達の多くが目を覚まし。口々に不安と不満を辺りに撒き散らしている。

 この状況は、あまり良くないと判断すると、ミナトは、まだ朦朧としているリーフを抱かかえると、ユズリハとキッカに声をかけた。


「二人とも、何か不味い雰囲気だから、此処から離れるよ!」


ミナトは、そう言うと、駆け出そうとする。キッカも慌ててそれに追走しようとすると。ユズリハの鋭い声が二人を呼び止める。


「待って!! リストの動画プレーヤー画面に、誰か映ってる……」


 ユズリハはウィンドウを見つめる。ミナトも抱えたリーフを降ろすと、慌ててウィンドウを開く。

 その時、広場の空一杯に一人の男が映し出された。男はにこやかに笑うと開口一番言う。


『ようこそ!! もう一つの世界。スピリット・ワールドへ――』


 この言葉と共に、少年と少女達の冒険が始まったのだった。

 長くて短い、遠くて近い、楽しくて哀しい。そんな約束の世界での冒険が……

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