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actual world&spirit world Ⅲ

デネブ・アルゲディを後にした。五人はpolestar(ポーラスター)に戻ってきていた。


「もう少しで、出来上がるから……お待ち下さいね……」


琴はそう言って。ミナト達が座るテーブルの上に、お茶菓子を出していく。

ズッシリとした重さのある。鹿の子を、人数分菓子皿に並べると、琴は頭を下げると。一旦、店の奥に消えていく。


「しかし、VRって凄いな、お菓子の味まで完璧に再現してるなんて」


「ボクも最初は驚いたよ。ここまでハッキリとした味覚を再現してるゲームは、他にないからね」


「何より、いくら食べても太らないって言うのが、素晴らしいです」


 女三人寄れば姦しいとは良く言ったもので。ユズリハ達はお茶菓子をつまみながら、お喋りに興じている。

 ミナトも、流石にその話の輪に入ろうとする程の、チャレンジャーでは無いのか。一人店内の武具を見て回っていた。

 琴が茶器を持って戻ってくると。テーブルの上にお茶を並べていく。緑茶の爽やか香りが店内に漂い。 それに合わせる様に。ユズリハ達の姦しさも一段落する。

 しかし、それも僅かの間で、琴が新しい和菓子を出した事によって、また華やかに賑わっていく。

 ミナトは注いで貰ったお茶を手に持ちながら、店内を回っていると。無造作に剣が置かれている一画がある事に気付く。


「何か、この一帯だけ乱雑な印象を受けるけど……」


「そこはヒトツネと私が作った武具の失敗作が並べられているのです」


 背後から声をかけられ、ミナトは声の主に顔を向ける。其処には急須を持った琴が立っていた。


「失敗作?」


「はい、EOTCでは現実(リアル)では決して真似の出来ない製法で、武具を作る事が出来ます。その反面、アイディアが先行して、全く使えない物が出来上がったりする事が多いのですが……その失敗作を教訓と戒めの意味を篭めて、店内に置いているのです」


 琴は、そう言って微笑むと。ミナトの茶碗に急須からお茶を注ぐ。

 暖かくなる茶碗を掌で感じながら、その失敗作に目を向ける。


「興味がおありですか? それなら自由に手に取って見て下さって構いませんよ」


 琴は無造作に置かれた一本の小太刀を、ミナトに手渡して来る。茶碗を脇にある小さなテーブルに置き。琴から小太刀を受け取ると、ミナトは驚いた表情を浮べる、それを悪戯が成功したような顔で、琴が見つめる。


「これって……凄く軽く出来てるんだ」


「驚いた……?」


「うん、通常の小太刀の、三分の一以下の重さだね」


「筋力の足りない、もしくは職業によっては装備できない武具を、どうすれば装備出来る様になるか考えた結果……武具の重さと言う結論に達して、出来得る限り軽くしたんの……」


 澄んだ瞳で、ミナトの持つ小太刀を見つめるが、次の瞬間には、溜息を吐き首を振る。


「でも、出来上がった小太刀は使い物にならなかった……その軽さのせいで、全くと言っていい位、攻撃力が出なかった……」


 悲しげな瞳で顔を伏せる琴に、ミナトは小太刀を返すと、苦笑を浮かべ、躊躇いがちに言葉を口に出した。


「武器の重さは攻撃力に比例するからね……」


「着眼点は悪く無かったと思いたい……その後も試行錯誤して色々試作しましたが、結果は……まぁ、見ての通りです」


 店の一画に置かれている武具の数に、ミナトは半笑いの表情を浮かべながら、失敗作と言われた数々の武具を見つめる。


「でも、面白そうな物も有りそうですね……」


「気になる物があれば……格安でお譲りしますよ?」


 琴はそう言って微笑むと、小太刀を元の場所に戻す。そして、お茶の注ぎ足す為に、店の奥に向って行った。


「取り合えず、少し見せて貰おうかな……」


 ミナトは失敗作の並ぶその場所で、興味を引くものを片っ端から手に取って行った。

 主に剣を中心に見て周っていると、真っ黒な鞘に収められた一振りの日本刀に目が止まる。

 特殊な文様が描かれた刀掛台に、一振りだけ置かれている剣に興味が湧き。ミナトはそれを手にかけ、持ち上げようとして、思わず驚きの声を上げた。


「重っ!?」


 片手で持ち上げようとしていたミナトは、その重さに驚き、今度は両手で日本刀を持ち上げる、かなり苦労しながら、漸く、刀掛台から降ろす事に成功する。

 慎重に扱いながら、鞘から刀身を抜くと、黒い刀身で沸出来の直刃。重さとは反対に薄い刀身は不思議な力強さを放っている剣に、思わず感嘆の声を上げた。


「綺麗な刀だな……」


「気に入りましたか? その日本刀は、私が理想とする武器の条件を詰め込んて、打った物なんですよ」


 店の奥から現れたヒトツネが、刀を手にしているミナトに優しく声をかけた。その声に振り向くと。そこには一振りの刀を手にして、優しく微笑むヒトツネが立っている。

 ミナトは慎重に剣を鞘に収めると。ヒトツネに向って頭を下げる。


「今回は無理を言ってしまい……申し訳ありません」


「いいえ、先程も言いましたが、これは鍛冶師……職人としての当然の義務を果たしたまでですので……気に為さらないで下さい」


 ヒトツネは変らぬ優しい声で言うと、ミナトに出来上がった剣を手渡す。それを受け取ろうとするが、今、持っている日本刀の置き場所に困っていると、脇から手が伸びてくる。そちらに視線を向けると、琴が刀を渡すように言って来る。


「お預かりします。どうぞ新しい剣の出来を、確めて下さい」


「でも、琴さん、これ凄く重いんだよ……大丈夫?」


「大丈夫です。これでも私……高LVプレイヤーですから」


 そう言われて納得すると、ミナトは、琴に日本刀を手渡すと、まるで重さを感じさせない動作で受け取り、にこやかに笑う。

 それを見ていたヒトツネが、日本刀をミナトに渡すと、職人の顔になり感想を聞いて来る。


「どうぞ、お確かめ下さい。何か不満な点があれば、遠慮なく申して下さい」


 受け取った日本刀を見つめながら、ミナトは剣を鞘から抜く。真っ白な鞘から現れた刀身の地金は銀色に輝き放ち、広直刃の刃紋は剛健な印象を抱かせた。


「凄く抜刀しやすいですね、あと長さも丁度良いです。重さは少し物足りない様な感じはしますが……気になる程では無いですし。注文通りの素晴らしい刀です」


「そう言って下さると、鍛冶師冥利尽きます。重さに関しては、少し中注文より軽くなってしまいした……それは抜刀のし易さを考慮した為なのですが……」


「それは抜刀した時に感じました。長さと重さ、それと鞘走りを考えたら、これ以上の重さは返ってバランスが悪くなりますからね。その辺りを考慮してくれたのでしょう?」


 ミナトの言葉に、ヒトツネは驚きながらも、感心したように頷く。


「凄いですね……抜いただけで、其処まで分かるなんて……もしかしてユウキさんは……」


「はい、一応、十年、剣の修行は積んでいますから。それに真剣も扱った事もありますし」


「そうなんですか……そんな人に認めて貰えるなんて嬉しいです」


 ヒトツネは嬉しそうな笑顔を浮べると、一息吐く様に大きく息を吐いた。ミナトは剣を鞘に収めると、先程放った言葉の意味を、ヒトツネに尋ねた。


「あの剣が、ヒトツネさんの理想ってどういう意味ですか?」


「はい……あの剣は、あらゆる意味で武器の理想を追い求めて打った剣です。決して折れず、曲がらず、歪まない。切れ味鋭く、刃毀れしない。そして常に最大の切れ味を誇る……そんな夢の様な剣を目指した物なんです…………結局、その内の半分しか叶えられずに、ただの扱いにくい。重い剣になってしまいましたが……」


 ヒトツネは自嘲気味にそう言うと、琴の持つ剣を手に取ると、申し訳なさそうな声で、語り掛ける様に言い、手の中の剣を見つめる。


「理想を追い求めたが故に、この刀は、剣として振るわれる事が無くなりました。鍛冶師としての理想が強すぎて、使い手の事を考えなかった為、この刀は武器として振るわれる事の無い失敗作になってしまった。これも偏に、私が未熟だったせいですね」


「……とても綺麗な刀でした。鍛冶師の理想が篭められた……確かに、その重さは、使い手を選ぶかもしれませんが、EOTC(此処)ならきっと、使いこなせる人が現れますよ」


 ミナトは笑顔でヒトツネにそう告げる。

 その言葉に少し目元を潤ませ、それを隠す為に、手に持った刀の事を詳しく話し始める姿に、ミナトは微笑を浮かべる。


「こ、この刀は、本来なら十振り以上は作れる金属を使用しました……魔法と鍛冶の技術を惜しみなく使い。鍛造しましたが、重量はある程度しか、軽くする事が出来ませんでした。重さを軽減する魔法を刻む事が大変困難だった為です。」


「魔法を刻む?」


「魔法の武器を製作する時、効果を付与する為に魔法を文様として刻むのですが……魔法の強さに比例して、刻む文様が複雑微細になるんです。この刀を通常の物と同じにするのは、現時点の私と須弥のスキルLVでは不可能なのです」


「その刀は、アマノさんと須弥さんの合作なんですね……」


「はい、この店にある、魔法の付与された武具は、私と須弥か、琴と須弥の合作ばかりですね。須弥は腕の立つ魔法使いでもあり、優れた魔工士でもあるんです。性格は変ってますけどね」


そう言ってヒトツネは笑う。ミナトは先程知り合った須弥の事を思い出し。思わず同意の苦笑を浮かべるのだった。


「良い子なんですけどね。ちょっと素直じゃない所があるものですから。琴は何かと心配して、良く様子を見に行っていますね。須弥の頭の上がらない人物の一人ですからね」


 隣で自慢げに胸を反らしている琴の頭を撫でながら。ヒトツネはもう一方の掌で寂しそうに剣を撫でると、ミナトに問いかける様に聞いてくる。


「ユウキさんなら……この剣を使えませんか?」


 突然の言葉に驚くが、その瞳からは懇願する様な光が見えると、ミナトは少し考えてから言葉を返す。


「使えない事は無いと思います……でも、使いこなす事は、まだ(・ ・)出来ないでしょうね」


 ミナトの、その答えに微笑を浮かべると、ヒトツネは隣の琴に耳打ちする。それを聴くと、静かに頷いて店の奥に入って行く。


「その言葉を聞いて安心しました。()は、使いこなせなくても、何時か、その時が来るという事ですよね? それなら是非この剣を持っていって下さい」


「本当に良いんですか? 実際に使える様になるのは、かなり先になると思いますけど……」


「良いんです。この剣もpolestar(此処)に居るより。きっとユウキさんに持っていて貰った方が、嬉しいと思う筈ですから」


 ヒトツネは剣をミナトに渡して来る。それを神妙な顔で受け取ると、改めて、手の中にある剣の重さにヒトツネの理想を感じたのか、ミナトは幼い子を抱くような手つきで剣を優しく握る。

 暫くすると、琴が店の奥から出てくる。その手には真新しい剣帯が乗っている。


「これは、その剣を作った時に、一緒に作った魔法の剣帯です……ある程度重さを軽減する魔法と、耐久値を上げる魔法がかかっています。これなら……その剣を差しても大丈夫だと思います」


「流石に、腰に差せない様じゃ困りますからね、特別に作っておきました」


ヒトツネはそう言って笑い、琴も優しい微笑を浮かべながら剣帯を手渡す。それを受け取ると、ミナトは剣と一緒に、アイテムストレージに仕舞った。


「ありがとうございます。大事に使わせて貰いますね」


 ミナトは新しい剣を腰の剣帯に差し。アイテムストレージに収まった剣の名前の上を指で撫でる。

 白い鞘に収まった少し長めの剣は、黒い服に良く映えた。ミナトは満足そうに頷くと。懐からギルドカードと、この前貰ったポイントカードを取り出すと、琴に渡した。


「支払いをお願いします。ポイントカードは使った方が良いんですよね?」


 カードを受け取った琴は、小さく頷くと微笑んで言った。


「はい、ポイントカードはお得です……是非使って下さい。それでは会計を致しますので、しばらくお待ち下さい」


 琴はカウンターに入って会計を始める。少し手持ち無沙汰な時間を過ごしていると、ユズリハがミナトに話しかけてくる。


「ミナト君、買い物は終わったの?」


「あとは会計を済ますだけだよ」


「そっか、これからの予定を決めたんだけど、聞いてくれるかい?」


 ユズリハは、ミナトの傍に来ると今後の予定を話し始める。他の二人は、テーブルでお菓子を食べながら、楽しそうにお喋りを続けている。


「楽しそうだね」


「うん、楽しいよ。リーフは真面目で一直線な性格っぽいから、からかい甲斐があるよ。キッカは天真爛漫で物怖じしない性格みたいだから、誰とでも直ぐに仲良くなれそう。二人とも良い子だから、仲良くやっていけそうだよ」


「リーフをPTに誘うつもりなの?」


「うん、まだ正式には頼んでいないけどね……まぁ、その辺りは、また相談するとして、これからの予定なんだけど……精霊を召喚しに塔に行こうと思ってるんだ」


 ユズリハは、キッカを見つめながら言うと、ミナトに確認を取る。


「それは良いけど、装備はどうするの? 初期装備のまま?」


「それに関してはもう済ませたよ。ミナト君が買い物している間に、リーフと相談して決めちゃったから、後は品物を受け取るだけ」


「素早い……でも、ごめんね。僕が連れて来た仲間なのに、何から何までお世話になりっぱなしで……」


「良いの良いの、ミナト君が選んだら、性能重視でちっとも可愛くない物を選ぶに決まってるんだから。女の子の服の事なんて分からないでしょう?」


「はい……」


 ミナトはそう言われると何も言えなかった。ユズリハは可笑しそうに笑うと。纏める様に言った。


「これで取り合えず、キッカのスキルと装備に関しては解決したから、あとは精霊を召喚して、午後になったら塔に入ろう。いよいよ本格的な冒険が始められるね!」


「色々あったけど、漸く、EOTCのメインの舞台で冒険出来る様になるのかぁ……」


 ミナトは感慨深そうに呟くと、改めてユズリハと笑い合う、二人は随分と遠回りした様感じられ。

窓から見える塔を見ながら感慨深そうな視線で互いに送りあった。

 二人が澄んだ声で笑い合っていると、カウンターから。琴の呼ぶ声が聞こえて来る。


「ミナトさん、会計の手続きが済みましたので、お手数ですが確認をお願いします」


「はい、分かりました」


 ミナトとユズリハは、琴の居るカウンターに行く。そこには笑顔を浮べ。琴が伝票を持って待っていた。


「それではご注文頂いた、日本刀の会計を致します。諸経費込みで金貨八百枚になります」


「随分と安い様に感じますけど……」


 そんなミナトの言葉に、ヒトツネが苦笑を浮かべながら答える。


「LV1のクライマーが払える値段じゃないんですけど……普通なら。それにご注文が。低LVでも装備出来る仕様と言う事でしたので、レア素材をそんなに使用しなかったため、多少お安くなっていますけど……」


「いえ、そういう意味じゃなくて、剣、二振り分の値段にしては安いって事なんですけど……」


 その言葉にヒトツネは納得する。ミナトの言い分は、二振り合わせた値段としては、安すぎると言う事を言いたかったのだと、ヒトツネは理解した。


「失敗作を押し付けたのですから、代金を頂く訳にはいきません」


「いえ、あの剣は可能性を秘めた名刀です。今はまだ、使いこなせる人が居ないだけで……」


「それでしたら、使いこなせる様になったら、その剣の価値に見合うだけの代金を、支払い来て下さい。それまでは、まだ、未完成の剣のままという事ですから……代金を受け取る訳にはいきません。何せ未完成品ですから」


 ヒトツネは言葉を遮るように言って。優しく微笑みを浮べた。その笑顔を見て。何を言っても無駄だと悟ると、ミナトは一つ大きく息を吐くと頷いた。


「分かりました。僕が剣を使いこなせる様になったら、必ず代金を支払いに来ます。それまで、あの剣を預からせて頂きます」


「はい、それで構いません、その剣の事、お願いします。ユウキさん」


 ヒトツネはそう言って、にこやかに笑って頭を下げる。その姿は我が子を送り出す。母親の様に見えた。

 ミナトは提示された代金を支払い。深々と頭を下げる。その姿に二人は優しい顔を浮べながら頭を下げか下げ返す。暫くその体勢が続きどちらとも無く顔を上げる。

 その様子を見守っていたユズリハが、笑顔でカウンターにギルドカードを置く、それはキッカの装備の代金の支払いをする為だった。琴はギルドカードとポイントカードを受け取り支払いを済ませる。

 ユズリハは琴から装備を受け取ると。テーブルでお喋りを続けるキッカに声をかけた。


「キッカ、これを着てみて。サイズに問題はないはずだけど、ペナルティが付くか確認して欲しいの」


「分かった、これを着れば良いんだな? 少し待ってて」


 ユズリハから装備を受け取ると。キッカは試着室に入って行く。それと入れ替わるように、リーフがミナトに声をかけてくる。


「ミナト君達は、これから精霊の祭壇に行くのでしょう? 私も行って良いかな?」


「それは全然構わないけど、リーフは良いの? アマノさんや琴さんと予定とかあるんじゃ……」


「今日は特に予定がある訳じゃないから。ヒトツネは、この後も武器の制作があるって言うし。琴さんも店番に忙しいでしょうから、私が此処に居ても役に立てる事は無さそうだから」


 リーフは申し訳無さそうに、琴とヒトツネに視線を送る。その視線に気付いた二人は笑顔を浮かべ。慰めるように言った。


「リーフは、私達と違って、クライマーが本業ですからね、生産系のスキルも修得してないですし、私達と居るより、ユウキさん達と一緒に居て、冒険していた方が、後々の為になるでしょうから、お邪魔でなければ、是非一緒に連れて行って上げて下さい」


「そうだね……塔に行くのも、私達が素材を集めに行く時だけだから……LVもそんなに上がってないし、ミナトさん達に付いて、少し頑張った方が良いかも」


 ヒトツネと琴はそう言って、ミナト達に視線を向ける。三人は頷き合うと、答えを待つリーフに言葉をかける。


「本当なら僕達から頼むべき事だったんだけど……先に言われちゃったね」


「そうだね、リーフさえ良ければ、しばらくボク達と一緒に冒険してみない?」


 二人はリーフを見つめながら、手を差し出す。その手を急いで握ると、リーフは笑顔を浮かべ、元気な声で言った。


「お世話になります、リーフ・フォリア。種族はエルフ、職業は魔法使いです。よろしくお願いします!」


「なんだ、リーフねえも仲間になるのか?」


 そんな声と共に、試着室からキッカが出てくる。緑色のローブ纏い、金属製のロッドを右手に携え。腿まであるロングブーツを華麗に履きこなしている。その綺麗な金髪を纏める様に、青色のカチューシャが、小さな頭にのっている。


「うん、完璧。ボク達のコーディネイトに間違いは無かったみたいだよ、リーフ」


「そうですね、元が可愛いから何を着ても似合うとは思ってましたけど。本当に可愛らしいです」


 ユズリハとリーフの二人は、キッカの姿を絶賛している。その手放しの褒め言葉に照れたのか、キッカは、顔を赤くしながら俯く。


「ほら、ミナト君も何か言ってあげなよ、唯一の男の子なんだから、気の効いた事言ってあげないと」


 ユズリハはそう言って、ミナトの背中を軽く叩いた。改めてキッカの姿を見つめると言葉を紡ぐ。


「凄く似合ってるし、可愛いよ。こんな言葉しか出て来ないんだけど……駄目かな?」


ミナトは感想はハッキリと告げるが、その後は情けない声を上げると、ユズリハとリーフを見つめる。その視線に苦笑を浮かべると、二人は頷き合い、ミナトの肩を叩きながら言った。


「まぁ、その位が限界かもね。それでも照れないで、可愛いと言った事に関しては。褒めて上げましょう」


「そうですね。女の子は何時だって、そう言って欲しいものですから。それをハッキリと口に出した事は評価に値しますよ」


二人はそう言って笑うと、照れて俯いているキッカの側に近付いた。顔を赤く染め。視線を迷わせるその姿に、ユズリハとリーフは頷き合うと。声をかけた。


「良かったね、ミナト君が似合ってるってさ」


「お、あたし……可愛いなんて、あまり言われた事ないから、凄く嬉しいぞ」


 キッカは照れた笑顔で言うと、纏っているローブを彼方此方触りながら聞いて来る。


「ありがとな。こんな高そうな物……この装備のお金、ミナトとユズねえが、出してくれてるだよな? ……それにスキルや、飛行船の代金とかも、全部払って貰ってるし……」


 キッカは申し訳無さそうに呟くと。何か決意を固めた表情をして、力強く宣言する。


「だから! これから、すごく、すごく。一生懸命頑張って、強くなるぞ! そしたら。ミナトとユズねえに恩返し出来るよな」


 その力強い言葉に感心するように、ミナトとユズリハは笑顔で頷く。


「色々、しっかりしているね……恩っていうのは大袈裟な様な気がするけど。キッカがそう思って、そう行動したいって考えてるなら、僕はその意思を尊重するよ」


「確かに受けた恩って言うのは、何か仰々しいけど、ボクは好きだよ。そういう考え方!」


 ミナトとユズリハは、出来の良い妹を褒めるように言葉をかけると、その小さな頭を優しく撫でた。

 リーフは三人を微笑ましいそうに見つめると。声をかけた。


「そろそろ行きましょう。祭壇が混むかもしれないし、速めに行動した方が良いわ」


「そうだね。それじゃあ改めて、お世話になりました。アマノさん、琴さん」


「お世話になりました。またよらせて貰うね。琴ちゃん。お菓子とお茶美味しかったよ」


「琴先輩、須弥によろしく言っておいて。ヒトツねぇさん。またな!」


 三人はそれぞれ、ヒトツネと琴に挨拶をしていく。それに笑顔で答えながら手を振って見送る二人に、少し、申し訳なさそうな顔のリーフが言葉をかける。


「それじゃあ、行って来ます。琴さん。ヒトツネも後の事はよろしくね。夕方には戻ると思うけど、遅くなるようなら連絡するから」


「分かっています。無理をしないで下さいね」


「リーフ、頑張って……」


 その答えに笑顔を浮べると、リーフは三人と共にpolestar(ポーラスター)の正面扉を開けると。明るい日差しが照らす。塔の都(ストーバ・トルレム)の街へと駆けて行った。

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