第5話
ミナトは、ギルドのカウンターに向かい歩みを進めると、ふと、自分がまだ丸腰なのに気付く。
「流石に、これからクライマーになるってのに、丸腰は無いよね……」
そう一人で呟くと、ステータス画面を開き。アイテム欄を見る、ジンから貰った剣のほかに、ショートソードと弓と矢が十本、初期装備としてアイテムリストに入っているのを確認すると。
ミナトは、早速ショートソードと弓矢を取り出し装備する。剣を下げる剣帯と弓筒が付いており、それを使い装備していく、弓を持つとそれらしい格好になる。
改めて、カウンターに向かうと、一人の受付嬢が笑顔を浮かべて。此方を見ていた。
「あの、クライマーの登録をしたいのですけど、こちらで良いのでしょうか?」
「はい、登録手続きは、こちらで出来ます。まずはこの書類に、必要事項を書いてください。」
受付嬢は、一枚の紙をミナトに差し出す。そこには名前、年齢、種族などの記入欄がある、ミナトはカウンターに置いてあるペンを手に取ると、空白を埋めていく。
「書き終わりましたら暫くお待ち下さい。クライマーカードの作成に少しお時間を頂きます。その間にクライマーについて、簡単ですが説明させて頂きますね」
受付嬢はカウンターから離れ、対面相談用のスペースに移動すると、ミナトも移動し、受付嬢の正面に座る。受付嬢はにこりと微笑み挨拶をしてくる。
「私の名前はシルエルティ・ナクスと申します。シルとお呼び下さい」
「あっ、僕はユ、ミナト・ユウキです。」
ミナトは頭を下げ挨拶する、顔を上げるとシルエルティの、優しげな表情を正面から見ることになる、白金の髪に綺麗な翠の瞳、優しげな目元は安心感を与えてくれる。細身でそれを包む淡い青の制服がとても似合っていた。その姿に少し見とれていると、シルエルティはコホンと咳払いをする、ミナトの不躾な視線に気付いたのだろう。慌てて視線を逸らすとミナトは俯く。
「それでは、簡単にクライマーの事を説明させて頂きますね」
シルエルティは、そんなミナトを微笑ましそうに見つめると、少し悪戯心が出たのか、俯いているミナトに話しかける。
「ユウキ君、見つめられるのは女性としては嬉しいのですけど……露骨な視線に女性は敏感ですから。注意してくださいね」
からかうように、ミナトにそう言うと。シルエルティは微笑む。
その言葉に顔を赤くするミナト、舞い上がってしまったのか、つい言わなくても良い事を口に出してしまう。
「そ、それはシルエルティさんが、とても綺麗だったから……つい見蕩れてしまって……」
「えっ……」
ミナトの余りに素直すぎる言葉に、シルエルティも不意を突かれてしまう。徐々にその白い頬が赤く染まり遂にはシルエルティは俯いてしまう。
ミナトはそんなシルエルティの様子に気づくと。今、自分の言った言葉を思い出し。首まで赤くなって俯いてしまう。
二人は赤い顔をしたまま俯き合い、暫く沈黙が流れる。
「こほん、そ、それでは説明を続けさせてもらいますね」
どうにか動揺から立ち直ると、シルエルティは、頬をまだ赤くしたまま話し始める。一つ息を吐き、姿勢を正すと。ミナトもどうにか顔を上げ。話を聞く体制になる。それを確認すると。シルエルティは話し始める。
「まず、クライマーになると、職業について貰う事になります。戦士、盗賊、魔法使い、神官、猟兵の五つの職業の中から一つ選び、その適正試験に合格すると晴れてその職業になる事が出来ます……ここまでで何か質問はありますか?」
ミナトは首を横に振る、それを見てシルエルティは話を続ける。
「今言った、五つの職業は、下位職業でLVの高さやクエストよって、さらに上位の職業になる事も出来ます……上位職業に関しては、かなりの数が発見されていて、今でも偶に新職業が見付かったりするので、ミナトさんも頑張って探して見るのも良いかもしれません」
「下位職業は、その五つ以外はないのですか?」
ミナトは、不思議に思った事をシルエルティに質問する、その問いに少し思案顔になると、シルエルティは答える。
「下位職業に関しては。今まで新しい職業が発見された事はありません……というより新しい職業を探す。という事すら無かったと思います……」
「なるほど……もしかしたらあるかも知れなし、無いかも知れない……でも下位職業に就かないまま新しい職業を探す事は危険を伴う……だから今まで探す人は居なかった……」
ミナトは考え込むと、シルエルティにさらに質問を重ねる
「下位職業に就かないままで、どの位モンスターと戦えますか?」
「それは、能力次第としか言えません……しかしかなり危険を伴う行為でしょう、なぜなら職業に就かないとスキルを修得できませんから、一般スキルと言われるものは別ですが、戦闘系スキルに関しては職業に就かないと……」
シルエルティは難しい顔でミナトに視線を向けると、もしかしてと言う顔で聞いて来る
「ユウキさんは、ひょっとすると新しい下位職業を探すおつもりなんですか?」
「今、それを悩んでいるです……確かに未だに誰も見つける事の出来ていない職業を発見出来たら嬉しいですけど……新しい職業があるとは、限らない訳ですから……」
口を閉ざして、ミナトは考え込む、その姿にシルエルティは心配そうに聞いて来る
「ユウキさんは、五つの職業の中に就きたいものが無いから、新しい職業を探したいのですか?」
「いえ、そう言う訳ではないんですけど……」
問い掛けには。肯定的な言葉を返すが、もう既に新職業を探すつもりらしいミナトの感情の動きを察した。シルエルティは強い視線で見つめると。
「それならば、無理をする事はありません! 今ある職業の中からお選び下さい! 駆け出しのクライマーは決して無理をしてはいけないのです!!」
シルエルティは、強く言い聞かせるように言葉を紡ぐ、その言葉には本当にミナト事を心配する心情が見て取れる。
「シルエルティさんの意見は最もです。駆け出しどころか。全くの初心者の僕が、何を無謀な事をと思っても仕方ないとは思います。でも、少しでも可能性があるなら。試したくなるのが男の子なんですよ」
そう言って笑うミナトに、シルエルティは何も言えなくなってしまう。それでも一縷の望みを託し言葉を紡ぐ。
「本当に危険なんですよ……しかも、新職業のヒントも無いまま、闇雲に探すなんて……無謀もいいところなんですよ?」
「分かってます、だから、時間的制限をつけようと思います。僕も延々と新職業を探して行動するつもりもないですし、三日探して駄目なら諦めます」
ミナトはシルエルティの心配を鑑みて、時間的制限を設ける事で、自分の行動に納得してもらうために制限を付ける。シルエルティは、ミナトの提案する条件を思案すると渋々ながらも納得する。
「我侭を言って、申し訳ないですけど、暫く、僕に時間をくれませんか? やらないで後悔するより、やって後悔したほうが納得が行く様な気がするんです」
頭を下げるその姿に、シルエルティは溜息を吐き、確認するように言って来る。
「期限は今日から三日間。それが過ぎたら、素直に既存の職業に就いて貰います。約束を破ったら酷いですよ……」
何気に怖い目で、此方を睨んでくるシルエルティに、若干汗を滲ませながら、ミナトはコクコクと頷く。
「ユウキさん、当ても無いまま探し回るのは効率的ではありません……まずはこの都にある。図書館に行って見て下さい。何かしらのヒントが見付かるかも知れません」
何だかんだ言いつつも、応援してくれるシルエルティに。ミナトは頭を下げ礼を言う。
「ありがとう! シルエルティさん! 早速行ってきます」
「最初に言いましたけど、私の事はシルで良いですよ、ユウキさんもくれぐれも無理をしないで下さいね」
シルエルティは、やんちゃな弟を送り出す姉のような心境で、ミナトを見送る、そんなシルエルティに向かって大声で告げる。
「はい、ありがとうございます。シルさん!、あっ!僕の事はミナトで良いですよーー」
そんな言葉を残すと、ミナトはギルドから駆け出していく。その後姿を、シルエルティは溜息を吐いて見送った。