第4話
大助は呆れながらも、ミナトにステータス表示の仕方を、レクチャーする。
「ステータス表示のさせ方は二つ、一つは簡単。声に出して言えば表示される。やってみな?」
ミナトは、大助の指示に従い大きな声でステータスと口に出す。するとミナトの目の前にステータスウィンドウが現れる。それに目を輝かせるミナトを大助はジト目で睨む
「お前は加減というものを知らないのか? こんな人の多い通りで、あんな大声出しやがって……」
周囲に居たプレイヤー達は、ミナトの大声に驚いていたが、どうやら初心者へのレクチャーだと分かると、微笑ましげな表情で二人を見て。
「懐かしいな」
「俺も最初は分らなかった」
などの声があちこちから聞こえてくる。そんな周囲の様子に、大助は頭を抱えると、ミナトの襟首を掴み、ギルドの中に入っていく。
ミナトは画面に夢中で。大して気にする様子も無く、大助に引きずられるままになっていた。
「外は駄目だ。悪目立ちする…皆人……一回こっちを見ろ!」
画面に夢中で。話を聞いていないミナトに、大助は強めの口調で意識を向けさせる。その声でミナトは漸く、ステータス画面から顔を上げる。
「ああ、ごめん……つい夢中になっちゃって……」
ミナトは素直に大助に謝ると、仕方ないなという顔で、大助はミナトを見つめる、
大助は、初めてこのゲームを始めた時は、何もかもが珍しく色々な事に一々感動していたなぁと。そんな昔の事を思い出していた。
「まぁ、色々な事が物珍しいのは分かるが、まずは落ち着いて俺の話を聞いてくれ、さっさと済まして早くこの世界を体験して、色々試して見たいだろお前も?」
ミナトにそう言うと、大助は辺りを見回し、ギルド内に設置してあるスツールに座ると。ミナトもそれに腰を落ち着ける。
話を聞く体勢になったのを確認すると。おもむろに大助は話始める。
「まずは、このゲームでの基本的なルールを説明するな、まずはキャラ名で名前を呼ぶ事、これは今更言う事じゃないかも知れないけど一応な? 俺はそこまで気にしないけど、中には凄く厳しい人も居るから……」
大助は、そういう人に心当たりがあるのか一瞬渋面になる。ミナトはその様子に気づいたが、突っ込んでは聞かない事にした。
「じゃあ、これからは大助の事は、ジンって呼ぶことにするね。確かに声は大助でも外見は違うしね、ちょっと変な感じはするけど」
ミナトは、ジンのアバターを見ながら苦笑する、普段の大助を知るミナトはそのアバターを見て、大助の理想は男らしい男なのだなと思った。
筋肉質な体、日焼けした肌に、短く刈った黒髪、厳つい顔だが優しげな表情、リアルの彼を知るミナトにしてみれば違和感がないのはその口調だけだった。
「ふん、どうせ似合わないアバターだと思ってるんだろう? 良いんだよゲームの中の俺は男の中の男なの!!」
大助は、ミナトの視線で何が言いたいのかを察したのか、声を強くしながらミナトに言ってくる。
その姿は普段の大助と変らず少し子供っぽい、そこで改めて、この厳つい男の中身が、自分の知る大助なのだと感じて、何か可笑しくなる。
「あはは、そういうところは、此処でも変らないね大助?」
ミナトのその言葉で、ジンは何が言いたいのかを理解すると、顔を顰めながら口に出す。
「むぅ……当たり前だ、中身は同じだからな……男の中の男を目指すのは、険しい道のりだな……」
少し落ち込むジンに、ミナトは苦笑を作りながら、見た目は厳ついが気の良い男に向かって言葉を紡ぐ
「男の中の男は、そんな細かい事は気にしないものだよ? それに目指す道が険しいほど。燃えるのが真の男の在り方でしょう?」
その言葉に衝撃を受けた様にジンは目を見開く、ワナワナと体を震わせるといきなり立ち上がる。
「真の男!! 険しい道ほど燃える、これこそ正に男の目指すもの!! 確かに俺は細かい事を気にしすぎていた!! よしこれからの俺は器の大きな男を目指すぞ!!! ありがとうミナト!!」
「! マークが多すぎるけど、参考になって良かったよ……」
ミナトは若干引き気味に、ジンを見ていると、その呆れた様な視線に、素早く気付くと、コホンと咳払いをして、落ち着いた物腰で席に戻る。
その顔が赤く染まっていたのは、彼の名誉のために心に仕舞っておこうと思うミナトだった。
「さて、次はステータスについてだ、このゲームの仕様で、基本的には自分のステータスは他人には見せれない……しかし、MMOでは他人のステータス、アビリティ、スキル、それに装備は気になるものだよな?」
ジンは仕切り直すと、また説明を始める、その問い掛けにミナトは少し考えてから頷く。
「さっきも言った通り。基本的には見せれないんだけど…ある程度、その制限を緩ませる事ができるんだ。それが同一ギルドに所属して、フレンドリストにお互いを登録する事。そうするとステータスだけは。互いに確認できるようになるんだ、これは大規模戦闘や複数PT同士の戦いの時に、どうしても必要になる事だから。規制するわけにもいかないんだよ」
説明しながらジンは難しい顔をする、ミナトは、そんな様子のジンに向かって、素朴な疑問を聞いてみた。
「でも、どうしてステータスが見れない仕様なの? 別に見られても困る要素なんか殆どないよね?」
「ああ、現に一年半前までは問題なく表示されていたよ……でもある事件が原因で見れなくなったのさ……詳しい事は時間もかかるし今は省くな? 知りたければ自分で調べて見れば直ぐに分かるから……」
ジンは苦い顔をしながら思い出したくないのか、それ以上の事は口に出さなかった。ミナトはジンの言い分に納得はしなかったが、その辛そうな様子に、これ以上の話を続ける事が出来なかった。
「つまり、このゲームでは、ステータスの事を必要以上に聞くのは、マナー違反って認識で良いの?」
「ああ、それで構わない……悪いな……俺たちのギルドも、事件に無関係じゃなかったからさ……あまり言いたくないんだ。すまないけど詳しい事は教えてやれないし、聞かない方が良い。
当事者の意見ってのは偏る事があるからな……事件の事は、自分で調べた方が良いと思う……」
ジンは申し訳無さそうに言うと、ミナトは気にするなといって手を振って答える。
暫く沈黙が続き、ギルドの喧騒が二人の間に流れる、その重い空気を破ったのはミナトだった
「それでジン、他には注意する事ってないの? 僕は、そろそろ行動したくて堪らないんだけど」
ミナトはいかにも、我慢が出来ませんと言う感じで、ジンに話しかける。ミナトが気を使ってくれたのを、察したジンは苦笑を返しながら言った。
「じゃあ、最後に一つ……VRと言っても仮想現実だって事を忘れるな! 以上!!」
「何、当たり前の事を言ってるの? そんなの分かりきったことじゃない?」
ミナトはジンの突然の言動に、訝しげな表情になり、その顔を見たジンも苦笑しながら言葉を返す。
「そう当たり前の事なんだけどな…EOTCに長い間居るとこっちが現実で、向こうが仮想なんだって思っちまう奴も出てくるって話……幾らリアルでも、此処はゲーム世界だって事を忘れるなって事を言いたいだけだ。それにお前は、変に感情移入し易いから注意しとけって事、先輩からの暖かい助言だと思って受け取ってくれ」
ミナトは、納得顔をすると強く頷く、その姿に、苦笑してジンはミナトに一振りの剣を、アイテムストレージから実体化させる、それをミナトに向かって差し出す。その行動に、ミナトは苦笑して首を振る。
「僕が、そういうの受け取らないって知ってるでしょう? やっぱり最初は自分の力だけで始めたいからね……」
「俺が、そういうお前だって知らないわけないだろう? 受け取れ友人からのお守りだと思ってな、受け取るだけで良い、使うか使わないかは、お前が判断すれば良い、アイテムストレージには余裕があるだろ?」
ジンは、ミナトの言葉に被せる様に言葉を発すると、苦笑しながら言ってくる
「本当に大した物じゃない……知り合いの鍛冶師に打ってもらった初心者用の武器だよ……お前の得意武器になるはずだから……受け取ってくれ」
差し出した剣を引っ込める事も無く、差し出したままのジンに、ミナトは折れ、剣を受け取る。
「本当に使うかどうか分からないよ? でも、ありがとう……大事にするよ」
「おう、それで構わない、本当にお守り代わりだと思ってくれればそれで良いから」
ジンは嬉しそうに笑い、ミナトは苦笑しながらも剣を、アイテムストレージに仕舞う。
「まぁ、本当はもっと色々教えてやりたいんだけど……お前は、一刻も早く行動して見たそうだからな」
「うん、ありがとう。取りあえず経験しながら憶えて行くよ、痛い目にあって憶えないと、本当に物は憶えられないって祖父ちゃんも言ってたし、痛い目に会いながら頑張っていくよ」
ミナトは笑いながら結構大変な事を言っている。自覚が無いのか、そんな友人の姿に呆れながらも、何処か感心した様な面持ちで、ジンはその姿を見つめる
「フレンドリストに登録しておくから、何か困った事があったら、遠慮なく連絡をしてくれ」
ミナトのステータス画面が開き、ジンからのフレンド申請にYESのボタンを押すと、フレンドリストの一番上にジンの名前が表示される。それを互いに確認し合うと。
「じゃあ、ジン、ありがとう、直ぐに追いつくからちょっと待っててよ」
ミナトはふざけた調子でジンに言うと。
「おう、期待しないで先で待ってるぜ……この世界を楽しみな」
ジンも嬉しそうな顔で答える、ミナトがギルドの受付に向かう姿を確認すると、ジンはギルドを出て、外で待っていた仲間ともに歩き出す。
空は綺麗に晴れ渡り、遠く彼方に、天にも届くほど高い塔の姿が見える。一人のクライマーが、今またこの世界に生まれようとしていた。
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