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第35話

 夜の街を照らしていた篝火も大分小さく、少なくなった夜の街を、ミナトはリーフを背負いながら歩く。


「そろそろ降ろしてくれて良いよ、私塔の都(ストーバ・トルレム)に戻ってから、ログ・アウトするから、ミナト君は此処でログ・アウトするんでしょう?」


「うん、明日――もう今日だけど……フレと約束があるから……待ち合わせ場所の近くで落ちるよ」


 ミナトの言葉にリーフは頷くと背中から降りる。少し名残惜しそうに背中を見つめると、ミナトとの目指す道とは、反対方向を指差す


「私は、こっちだから此処でお別れですね……」


「そうなんだ……リーフ、今夜は誘ってくれて本当にありがとう。とても楽しかったよ……リーフは大変だったけどね……」


 ミナトは苦笑を浮かべながらそう告げると、リーフも同じ様に苦笑を浮かべる。


「そうですね……でも、楽しい夜でした。いっぱい泣いて、いっぱい驚いて、そして沢山の事を知れた時間でした」


 リーフはそう言って優しく微笑むと、ミナトに手を振りながら反対の道へと走っていく。途中で走るのを止め振り向くと大きな声で叫んだ。


「ミナト君! 今夜は本当にありがとう! とっても楽しかったです」


 笑顔を浮べるリーフにミナトも大きな声で返した。


「うん、またね!! リーフ!!」


 ミナトは手を振りながら夜道を駆けて行く・リーフの姿が見えなくなるまで見送り続けた。



 リーフと別れ、図書館前広場まで来ると、ミナトは広場の端の誰も座りそうも無いベンチに腰をかけると。ウィンドウを開きログ・アウトボタンをタッチする

 目の前の光が収まると、皆人は目を開ける。室内は暗く、枕元に置かれたデジタル表示の時計は、深夜の二時半を指し示している。

 spirt worldのカプセルの蓋を開けると、皆人は暗い室内で着替えると、足音を忍ばせながら玄関から外に出る。


「今日は一日EOTCに篭る事になりそうだし、今の内にランニングを済ませておかないとね」


 夏の夜、特有の空気を吸い込みつつ皆人は走り出す。何時ものランニングコースに向かうと、街灯の明かりが走る皆人の足元を照らす。その明かりはランニングコースに沿う様に並び、ミナトは明かりに困る事無く走り続ける事が出来た。

 何時ものコースを走り終えた皆人は帰り道はゆっくりとした速度で歩いた、途中のコンビニで飲み物とサンドイッチを購入するとそれをぶら下げながら、夜の散歩気分で歩く


「流石に夜だと涼しいね……」


 そう呟きながら夜空を見上げながら歩く、自宅へ帰り着くと静かに玄関の鍵をを開け、風呂場を目指し静かに進む。皆人はシャワーを軽く浴びて着替えると自室に戻ってくる。


「約束の時間までは、まだ結構あるなぁ……」


 コンビニ袋からサンドイッチを取り出すと袋を破り食べ始める。そのコンビニ袋を見ると昼間の出来事を思い出しのか、皆人は財布からGod Worldに付いてきたアイテム引換券を取り出す。


「確かパスワードを登録すると、アイテムが貰えるって話だけど……」


 改めてカードを眺めると、パスワードらしき数字が並んでいる、登録法方に目を通すと、早速皆人spirt worldを起動させ、EOTCの公式ページにアクセスした。


「えーと……コラボキャンペーン実施中、これだね」


 皆人は公式ページのコラボキャンペーンのパスワード入力画面で、カードに書かれた数字を入力していく。最後にOKボタンにタッチすると登録終了の文字が出る。皆人はそれを確認すると満足気に頷く。


「そういえば僕、公式ページを見るの初めてだなぁ……攻略に関係なさそうで面白そうな事、何か載ってないかな?」


 公式ページを見ていると、関連サイトの一覧に“EOTCタブロイド”と言う、関連ページを見つける


「タブロイドか……何か面白そうな事が書いてあるかな……」


 そのページを開くと、大々的な見出しが出ている『図書館広場に突然現れた歌姫! 大衆を魅了』


「ゲホっ!? これって……もしかしてユズリハさんの事かな……?」


 皆人は、タブロイドの記事をゆっくりと読んでいく。


『去る八月四日の朝方、図書館前の広場で一人のプレイヤーが、嬉しい事でもあったのかハミングしながら歩いていた。その行為自体珍しいものではないので、最初は誰も気にも留めていなかったが、しかし、そのプレイヤーのハミングが歌に変ると、一気に広場の雰囲気が変えてしまった。一人の少女の歌声にプレイヤーNPCに関わらず、皆、足を止めその歌に聞き入った。その歌声は広場に響き。このたった五分弱の短いコンサートで、図書館広場に居た百数十人人の人々を魅了してしまった。その女性プレイヤーは歌い終わると意味深なウィンクを一つ残すとログ・アウトしていった。これ程多くの人が居たのその姿を、画像に残した人はおらず、幻の歌姫としてEOTCの関連サイトの幾つかで紹介されている。我々はこの幻の歌姫の行方を今後も追うつもりだ』


 皆人は記事を読み終えると、溜息を吐きながら思い出す。


「結構話題になってるね……確かにあの時のユズリハさん凄かったからなぁ……」


 ユズリハの歌っている姿を思い出すと、皆人は、また溜息を吐いた。


「この記事を書いた人は、ユズリハさんの事を探しているみたいだし、何かトラブルにならない様に注意しないとね」


 皆人はページを閉じると窓の外を見る。明るくなり始めた外を暫く見つめると、不意に眠気が襲って来る


「約束の時間まで、仮眠を取ろう……」


 起きている事を諦めると、目覚まし時計と携帯のアラームをセットすると、皆人はspirt worldに横になると、カプセルを閉める。ゆっくりと閉じて来るカプセルを見ながら、目を閉じると皆人は短い眠りについた。



 目覚ましの音がカプセル越しに鈍く響いているのに気付くと、皆人は寝惚けながらカプセルを開け、目覚ましを止める。まだ、はっきりとしない意識でspirt worldのベッドに座っていると、今度は携帯のアラームが鳴り響く。アラーム解除の操作をしていると目が覚めてきたのか、皆人はコンビニ袋からグレープフルーツジュースを取り出すと、温くなったそれを一気に半分ほど飲む。


「どうにか寝坊しないで済んだ……」


 皆人は体を伸ばす様に解しながら、部屋を出るとしたの洗面台へと向かう。顔を洗いリビングに入ると、朝食と一枚のメモがテーブルの上に乗っている。


『急な呼び出しで出かけなくていけなくなりました。凪沙も朝練でもう出かけています。帰りも夕方過ぎになると言っていたので、お昼は適当に済ませておいてね。お留守番お願いします。』


 メモを読み終えると、テーブルに乗っている朝食を見た。

 食卓にはハムエッグとポテトサラダが乗っている、台所に行き食パンを取り出し、それらをおかずを全部パンに乗せるともう一枚のパンに挟むと、皆人はかぶりつく。


「海深母さんも凪沙も夕方までは帰らないのか……」


 皆人は朝食を食べ終わると、冷蔵庫から氷を取り出しコップに入れると、それを持って部屋に戻る。

 残ったグレープフルーツジュースをコップに注ぐと、皆人はspirt worldを起動する。


(今日も暑くなりそうだからな、部屋の空調も入れて置こう)


 タイマーでエアコンをセットすると、皆人はspirt worldのカプセルを開け横になる。枕もとのデジタル時計で時間を確認すると、約束の時間が迫っていた。コップの中のジュースをあわてて飲み干すとカプセルを閉じる。皆人はカプセルが閉じると同時に言葉を発した。


「ダイブスタート!」


 何時もの軽い落下感と共に目の前の光が収まると、数時間前にログ・アウトした広場の端のベンチにミナトはログ・インする。


「さて、ユズリハさんは入ってるかな?」


 ミナトはウィンドウを開き、フレンドリストを確認するとユズリハが既にログ・イン状態なのが分かった。


「通話アプリは入れてないみたいだから、メールしたほうが良いかな」


「その必要は無いよ、ミナト君……」


 少し機嫌が悪そうな顔をしながら、広場の方からユズリハが声をかけて来る。その表情に少し気まずげな顔をしながらミナトは挨拶をした。


「おはよう、ユズリハさん……何かあったの? 機嫌があまりよく無さそうだけど……」


「おはよう、ミナト君……ちょっとね、何故か僕のカード残高が金貨五万枚程増えていてね……」


「アハハ、フシギナコトモアルモンダネ」


「凄く不思議だったよ! ポーションを買い足そうかと思って、残高確認した時に思わず変な声がちゃったよ!! ミナト君!! これってどういう事! ちゃんと説明なさい!」


 ユズリハは座るミナトに詰め寄ると正面から睨みつけてくる。その顔を気まずそうに見つめ返すと、溜息を吐きながら観念したように話し始める。


「クエスト達成の報酬だよ。新職業は二人で協力して見つけたんだし、それにこの新職業探し(クエスト)を始める時に言ったじゃないか、これは二人で挑むクエストだって……それなら報酬も山分けなのは当たり前でしょう? それに普通に渡そうとしても絶対受け取らないと思ったから、あんな手を使って渡したんだよ?」


「あの、カードの支払い機能を教えていた時にしつこく、私に相手をさせたのはこれの為だったんだね……」


 ミナトの言葉に、ユズリハは納得が行かなさそうな表情を浮べながら言い募る


「それでも、実際に新職業を見つけたのはミナト君だし……私はそれに少し協力しただけだし、幾らなんでも賞金の半分は貰い過ぎだから」


「良いんだよ、これから塔に登り始めるんだ、資金は幾らあっても困らないでしょう? それにもう一つの賞品は分けるわけにもいかないから、完全に公平に半分って訳じゃないし気にしないで」


 ミナトは気軽そうに言う、その様子にユズリハは観念したのか不承不承頷くと溜息を吐いた


「はぁ。そういう事で一応は納得しておくよ……確かにこれからの事を考えれば資金はあって困るものじゃないから……でも、本当にこんな大金貰っても良いの?」


「それは、ユズリハさんの正当な報酬だよ、だから気にせず受け取ってくれて良いよ」


「分かった、ありがたく貰って置くね」


ユズリハは笑顔を浮べると、ミナトの正面から退くと、始まりの都(インゼル・ヌル)の南を指差しながら、ミナトに言った。


「それじゃあ行こうか、EOTCのメイン舞台塔の都(ストーバ・トルレム)へ!」

漸く、復帰出来ました。

これからもよろしくお願いします。

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