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第34話

 試合を見ていたリーフは、俯くミナトに向かって大きな声で叫んだ。闘技場に響き渡るほどの声は、俯くミナトにも届く。

 その声に顔を上げ、その姿を見つけると、リーフが手を振りながらミナトに告げる。


「ありがとーーー! ミナト君!! 凄く格好良かったよーーー!!!」


 その声を皮切りに、観客から拍手と歓声が沸きあがる。闘技場は一気に盛り上がり、実況席のシンシアもそれを煽るように、声を張り上げる


「完全決着!! PvP勝ち抜き戦は、ミナト・ユウキ選手の勝利で幕を閉じたーーー!! その戦果はなんと! 参加者十二人の内、九人を一人で倒すという離れ業を成し遂げての勝利です!!! ここに新たなる英雄(ヒーロー)の誕生だーー!!」


 シンシアの声で、益々盛り上がる闘技場の中央でミナトは呆然と立ち尽くしていると、闘技中、閉じていた扉が開かれる。それに気付くと扉を目指し歩き出す。観客の歓声と拍手に包まれながら、ミナトは扉を潜り闘技場を後にした。

 リーフは観客席から立ち上がると、急いでミナトの元に向かう。階段を駆け下り、通路を走り、闘技場の受付まで来ると、何やらミナトはフレンドと通話をしている様子だった。リーフは通話の邪魔にならないように、視線だけ向けると、それに気付きミナトは笑顔を浮かべ手を振ってくる。


「うん、それじゃあ、面倒かけるけど、よろしく」


 通話を終えるとミナトは、リーフに向かって告げる


「約束通り、勝ったよ……」


 その言葉に、リーフは瞳から涙を零しながら頷くと、ミナトの手を取り両手で包み込む様に握る。


「ありがとう、本当にありがとう……」


 ミナトはお礼を言い続ける。リーフの頭を撫でながら、苦笑を浮かべる。


「リーフは泣き虫なんだな……でも、良いか……悲しくて泣いているわけじゃないものね」


「うん……嬉しくて、感謝で胸がいっぱいだから……涙が出ちゃうんだよ……」


 二人は暫くそうやって、周囲から見たらくすぐったくなる様な会話をしながら、互いの労を労っていると、リックが現れイラついた声で言ってくる。


「お前! 初心者なんて嘘だろう!! そうでなければギドーがあんなにあっさり負けるはずがない!!」


「いきなり現れて、その言い草はどうかと思うよ?」


「うるさい!! お前の戦いぶりは初心者のものじゃない!! どうせ金に物を言わせた、高LVプレイヤーの複アカなんだろう!! 運営に報告して、お前のアカウントを削除してやる! いいや、その前にP殺しててやる! フィールドと塔に登るときには注意するんだな!!」


 リックは聞く耳を持たずに、ミナトに食って掛かる。


「別に報告なんて幾らでもして貰って構わないです、それより後半言葉は完璧な脅しですよ?」


「うるさい! お前は違反者だ、違反者には何を言っても良いんだよ!!」


 リックは興奮して、自分がどれ程、馬鹿な事を言っているのかに気付いてない。

 ミナトは溜息を吐くと、無駄とは思いつつもリックに確認する。


「あと約束は守ってもらいますよ。今後一切、僕達に関わらないで下さい」


 ミナトの言葉に、リックは顔を真っ赤にして怒り、喚き散らすように言い返えしてくる。


「そんな約束は無効だ!! 汚い手を使って人の獲物を横取りした、お前との約束なんて、誰が守るものか!! これからも付きまとってやるからな、それが嫌ならリーフ……分かってるだろう?」


 嫌らしくリーフを見つめる。その視線から庇うように前に出ると、ミナトはリックを睨む


「なんなんだ!! お前はいつもいつもいつもいつも、俺の邪魔をしやがって、いい加減邪魔なんだよ!! 本当にぶっ殺すぞ!!!」


 そう言ってミナトの胸倉を掴もうとするリックの腕を、横から出てきた別の手が掴む。


「はい、そこまで! 全く初心者に対して何やってんだ、仮にもギルドを率いてるんだろう?」


「誰だ! 俺の邪魔をする奴は!!」


 腕を捕まれたリックは、そう怒鳴りながら、腕を掴む相手を睨みつけようとするが、相手を確認すると顔色が一気に変る


「貴方は……」


「俺の顔を知ってて貰えると嬉しいねぇ、クルセイドのギルマス、リック・バルサス」


「どうして、貴方ような人がここに居るんだ……攻略系ギルド。風雲(ヴィント・ヴォルケ)の副ギルドマスター、ジン・ハイス……」


 ジンを驚愕の表情で見つめるリックの姿に、ミナトは苦笑を浮かべると、リーフにそっと囁く


「あれ、大助だから、安心して良いよ」


 ミナトの言葉に、リーフは驚きの表情を浮かべ、ジンをジッと見つめる


「随分と感じが違うね……まぁ、ゲームだから当たり前なんだけど……さっき連絡をしていたのは、周防君にだったのね?」


「うん、もしかして厄介な事になるんじゃないかと思ってね……相談したら来てくれるって言うから」


 ミナトは、リーフと小声で話しながら、ジンとリックの様子を見つめる。


「そこの二人とは友達なんでな……厄介事に巻き込まれたと聞いて、駆けつけたって訳だ……それにしても、中堅ギルドの中でも、それなりに大きいギルドのクルセイドのギルマスが初心者を相手に、何をしてるんだ! 」


 ジンの一喝に、リックは体を震わせると、開き直ったようにジンに言葉を返す。


「私は、ただ、自分のギルドに勧誘しただけで、やましい事など一切ない、ジンさんの言う様な厄介事など存在しませんよ」


「だが、そこの二人からはしつこく勧誘されて困ってると聞いているぞ、しかも、脅されているとも言っていた」


 ジンの言葉に、リックは心外だとばかりの顔を作りながら、言い訳を口にする


「私は何も言ってませんよ? それは多少荒い言葉を使ったかもしれませんが、脅したのは、私では無く、ギルメンの誰かなのではありませんか? ギルドを思うあまり、行き過ぎた行動をしてしまったのかも知れません。それはギルマスである私の責任、後ほど、その二人を脅したというメンバーに注意をして置きましょう」


 リックはそう言うと、ジンを見つめる。その疚しさなど一切感じていない様子に、ミナトは溜息を吐くと、ウィンドウを開き操作を始める


「これを聞いても、まだそんな事が言えるかな?」


 ミナトがそう言って、ボタンをタッチすると、何かの音声と映像が再生される


『うるさい!! お前の戦いぶりは初心者のものじゃない!! どうせ金に物を言わせた、高LVプレイヤーの複アカなんだろう!! 運営に報告して、お前のアカウントを削除してやる! いいや、その前にPKしてやる! フィールドと塔に出かける時には注意するんだな!!』


『そんな約束は無効だ!! 汚い手を使って人の獲物を横取りした、お前との約束なんて、誰が守るものか!! これからも付きまとってやるからな、それが嫌ならリーフ……分かってるだろう?』


『なんなんだ!! お前はいつもいつもいつもいつも、俺の邪魔をしやがって、いい加減邪魔なんだよ!! ぶっ殺すぞ!!!』


 その映像が再生されると、リックの顔色が真っ青になる。ジンはため息を吐きながら、リックに告げる


「これだけ明確な証拠があるんだ、もうとぼける事は出来ないぞ? すでにこの映像はミナトが運営に送っている……アカウントの削除は避けられない、いい加減に諦めろ」


 ジンの言葉に、顔を歪ませるとリックは、三人を睨みつけながら喚き始める。


「…………何故だ!! 俺は悪い事はしてない、そこの女が、俺の言う事を聞かないのが悪いんだ!! だから、アカウント削除なんて許さないぞ!! 運営を訴えてやる、俺が悪いんじゃない!! 俺は悪くねぇぇぇ!!」


リックはそう喚きながら、闘技場から出ようとするが、ログ・アウト時のエフェクトがリックを包む。


「なんだこれは!! 一体何が起こってるんだ!! 説明しろくそ運営!! 何が起ころうとしてるんだよぉぉぉぉぉ!!?」


(リック・バルサス、EOTCの規約違反により、アカウントの停止と削除を行なうために、強制ログ・アウトを実行します。以降、EOTCへの接続は不可能になりますのでご了承下さい)


「ふざけるな!! そんな事が許されるとでも思っているのか!! クソ! 止めろ止めろ止めろ止めろ止めろぉぉぉぉ!!!」


 リックの叫びが木霊を残し消える。その光景を複雑そうな顔で見届けると、ジンが二人に話しかける。


「これで一件落着だな……委員長……リーフは怖い思いをしたみたいだな」


「ううん、ミナト君が守ってくれたし、周防……ジン君も助けに来てくれたから……」


 リーフは、ミナトとジンを見つめるとお礼を言った。それに照れ笑いを浮べるジンに、ミナトは改めて礼を言った。


「本当に助かったよ、録画の事教えてくれて助かったよ、ジン」


「何、先輩プレイヤーとして当然の事さ、それでこれからどうするんだ?」


「受付で、賞金と賞品を受け取ったら、落ちようと思ってるけど……リーフはどうする?」


 ミナトはリーフに問いかけると、少し疲れた表情のリーフは頷きながら答える


「今夜は色々ありすぎて、少し疲れちゃった……何もしてないのに申し訳ないけど……」


「ううん、あれだけ恐い目にあったんだから、疲れて当然だよ。それじゃあ今日は解散で良いよね?」


 その意見にリーフは小さく頷くと、近くにあるソファーに座り込む。


「大丈夫? リーフ……」


「うん、少し気が抜けちゃって力が抜けただけだから……ミナト君は、早く賞金と賞品を貰いに行って来なよ、私は此処で少し休んでるから」


 リーフはそう言うと、ソファーに深くもたれ掛かる。ミナトは視線をジンに向けると、その視線の意味を理解したのか、リーフの対面のソファーに座ると手を振ってくる。それに頷くとミナトは受付に向かう。

 受付にはミアキスがおり、ミナトを見つけると嬉しそうに手を振ってきた。それに手を振り替えしながら近付くと飛び切りの笑顔でミナトを迎える


「ミナトさん! PvP勝ち抜き戦優勝おめでとうございます。凄かったです!! 私すっかりミナトさんのファンになってしまいました」


 興奮した様子で話しかけてくる、ミアキスにミナトは苦笑を浮かべながら礼を言う。


「ありがとう、それで賞金と賞品を受け取りに来たんだけど……良いかな?」


「あ、大変失礼致しました。私ったらはしゃいでしまって……」


 ミアキスは頬を赤く染めると、コホンと一つ咳払いをする、表情をを引き締めると、一枚のメダルと、十枚の金貨が乗ったトレイをカウンターの上に置いた。


「こちらが賞品と賞金になります。お納め下さい」


「えっと……賞金は分かりますけど……このメダルは何ですか?」


 ミナトはメダルを手に取ると不思議そうに眺める。その様子にミアキスはメダルの説明を始める。


「そのメダルは、あちらに見える。闘技場特製のマシーン(ガチャポン)を動かす為の専用メダルです。そのメダルでしか動かないのでチャンスは一回だけですが、此処でしか手に入らないアイテムなどもありますから。後ほど試して見て下さい」


 ミキアスはホールに設置してある、マシーン(ガチャポン)を指しながら、簡単に説明する。


「分かりました。それにしても随分と、モンスター勝ち抜き戦とは違いますね……あっちの時は何か凄い雑な扱いだったんですが……」


 ミナトは、あの慇懃無礼な男とのやり取りを思い出すと、少し不機嫌そうな顔になる。


「申し訳ございません……関係者が失礼な態度をお取りしたみたいで……」


 ミアキスは申し訳なそうな表情で頭を下げる。それを見たミナトは、慌てながら手を振ると言った。


「受付嬢さんが謝る事無いですよ……ただ、どうして此処まで差が着くのか不思議に思っただけで……」


 ミナトは不思議そうな顔をしながら、ミアキスに質問する。


「端的に言ってしまうと、低LV帯のモンスター勝ち抜き戦は人気が無いからなんです。盛り上がりに欠け、賭け試合として成立する事もほぼありませんから……」


 ミアキスは困った様な顔で、その質問に答えた。ミナトは参加した時の事を思い出すと納得した。


「確かに、PvPの時の方が観客が盛り上がっていたような気がします……」


「やっぱり、昔のゲームでも対人戦は盛り上がりますからね……技術は進歩しても、プレイしているのが人間である限り、どうしても変らない部分というものもありますから……」


 ミアキスの言葉に頷くと、ミナトは苦笑を浮かべながらも楽しそうに言う


「それでも、僕はどっちの闘技も楽しかったですよ。シンシアさんの実況は場を盛り上げてくれたし、受付嬢さんに心配して貰えたのも嬉しかったです、色々な問題もあったけど闘技場に来て良かったと思っていますよ」


「ミナトさん……」


「だから、これからも楽しい所にしてくださいね、僕もまた来ますから、あっ! フレを待たせてるんで、これで失礼します。ありがとうございました。受付嬢さん!」


 ミナトはそう言って、カウンターから離れようとすると、ミアキスが後ろから声をかけてくる。


「ミナトさん!! 私の事はミアキスって呼んで下さい!」


 その声にミナトは笑顔を作ると、手を振りながらミアキスにもう一度、別れの挨拶をする。


「それじゃあ、また来ますね、ミアキスさん!!」


 ミナトは楽しそうな笑顔でカウンターから離れて行く、その後姿をいつまでもミアキスは見送っていた。




 取り敢えずの用事を済まし、ジン達の待つ場所まで戻ってくると、幾分顔色の良くなったリーフがミナトに手を振ってくる。


「お待たせ! 二人とも。僕の用事は済んだよ」


「お疲れさま、ミナト君……」


「おう、お帰り」


 リーフは微笑みながら、ジンは軽く手を挙げながらミナトを迎える。


「二人とも何してたの?」


 ジンの隣のソファーに座りながら、ウィンドウを弄っている二人に話しかける。


「ああ、フレンド申請をしたんだ、また厄介事に巻き込まれた時の保険だよ」


「ジン君が、保険は幾つもかけておいた方が良いって言うから」


 そう言うと登録が完了したのか、二人はウィンドウを閉じる。ミナトは貰った賞金を財布に入れながら、二人に聞いた


「それじゃあ、今日はこの辺でお開きにする?」


「ああ、いいぜ、俺はこのままINを続けるつもりだし、此処でお別れだな」


 ジンはそう言うと立ち上がる。ミナトとリーフも立ち上がり、改めて礼を言った。


「ありがとう、ジン、今日は本当に世話になった」


「ありがとう、ジン君、このお礼はきっとするからね」


 そんな二人の言葉に照れたのか、頭を掻きながら、ジンは無言で手を挙げると去っていく。しかし、ふと、立ち止ると、ミナトに向けて声をかけて来る


「お前、今日、塔の都(ストーバ・トルレム)に来るって、言ってたよな? 着いたら連絡をしてくれ、少し話したい事があるから」


「分かった、着いたら連絡を入れるよ」


 ミナトの返事を聞くと、今度こそジンは闘技場から去っていった。その後姿が見えなくなるまで見送ると、二人も闘技場をあとにする。

 人通りも大分減った大通りを、ゆっくりと歩きながら、ミナトは夜空を見上げる。そこには幾つも星が瞬いている。


「ミナト君は……良く、そうやって空を見上げてるよね?」


 リーフの優しい声が隣から聞こえる。ミナトは夜空を見上げたまま、その問い掛けに答える。


「うん、癖なのかな……中学の頃からの……」


「ふ~ん、そうなんだ……」


「何か意味がありそうな、ふ~んだね……」


 リーフの相づちに、そう突っ込みを入れると、自嘲する様な表情を浮かべると、リーフはミナトに問いかけた。


「星奈先輩の事……思い出してるんでしょう?」


「そういえば、委員長は生徒会でよく一緒だったから、先輩と面識があるんだっけ……」


 ミナトは苦笑を浮かべながら、夜空を見上げるのを止めると、リーフを見つめた。


「そうね、生徒会長とクラスの委員長って言う、関係以上にお世話になったわ……でも、最初に先輩から、ミナト君と幼馴染だって事を聞いたときは驚いたわ、だって、学校では殆ど話さなかったでしょう?」


「それは勘違い……先輩は良く僕に話しかけてきたよ……不意を突いたり、人にばれない様にやってきて後ろから声をかけて、僕を驚かせようとしてた」


 ミナトは懐かしそうに当時の事を思い出しながら言うと、リーフの顔が少し寂しげに曇る、しかそ、それは一瞬で、思い出に浸るミナトはリーフのその表情に気付くことは無かった。


「あの先輩が、そんな子供っぽい事をしてたなんて知らなかったな……先輩が卒業するまで、何度もお喋りをしたのに、私にはそういう姿を見せてくれた事はなかったわ……」


「先輩は外面は完璧だったからね。でも、決して委員長に心を開いて無かった訳じゃないと思うよ? 先輩は、気に入った相手じゃないとお喋りなんかしなかったから……」


 ミナトのそのフォローに、また、顔を歪ませると、その顔を隠すためにリーフは俯きながら言い返す。


「良く知ってるんだね……流石は幼馴染……でも、それじゃあ何で、先輩はそんな仲の良い幼馴染を残して海外に留学してしまったの? 先輩の通ってた学校にいる友達に聞いたら、結構強引だったて聞いたわ、先輩の留学……」


 ミナトは静かにリーフの言葉を聞き続ける。その表情は変らなかったが、リーフからは見えない右拳を強く握り締めていた。

 その行為に気付く事無く、リーフは話し続ける。


「先輩の留学にはきっと何か理由がある、そしてそれは先輩の留学の時期から逆算すると、一番可能性が高いのは、私達が中学三年生だった頃の夏休み……そこでミナト君……貴方と何かあったからだよね?」


 リーフの言葉に、ミナトは小さく頷くと、静かな声で語りだす。


「うん、時期も理由も委員長が言った通りだよ……確かに先輩の留学の理由は……僕にある……でも、その理由を明かす事は出来ない。これは僕と先輩の問題で委員長には関係ない話だから……」


 ミナトのその言葉に、リーフの体はビクリと揺れる、血の気が引いたのか、俯く顔は真っ青になり、少しふらつきながらも、リーフは話し続ける。


「確かに、先輩とミナト君の問題で、私には直接関係の無い話かも知れない……でも、二人とも私の大事な人なの……! その人達の事を心配するのはいけない事なの?」


 リーフの声は涙に濡れ、ミナトに問いかける顔は哀しみに溢れていた。


「委員長……」


 涙に濡れた瞳で強く見つめて来る、リーフにミナトは何も言う事が出来ないでいた。


「ミナト君……だったら一つだけ教えて、これに答えてくれたら、私はもう何も聞かない……だから答えて! ミナト君は星奈先輩と喧嘩したの? それで嫌いなっちゃったの? だから二人は離れ離れになったの?」


「委員長、聞いてる事が一つじゃないよ……」


ミナトはリーフの言葉に苦笑を浮かべる、だが、そんな事知らないとばかりに詰め寄ってくる。


「一つなら答えてくれるんでしょう? なら一つに絞るから絶対答えて!」


「分かった、約束する」


「それなら、これだけで聞ければ良い……先輩の事嫌いなっちゃったの?」


 リーフは真剣な顔で、何よりも大事な事だと言わんばかりにミナトに問いかける。その目には沢山の思いが込められていた。


「僕が先輩を嫌いになるなんて事は無いよ」


「そう……それが分かれば、私に聞く事はもう無いわ……」


 その言葉に安心したのか、リーフの体から力が抜けるとそのまま倒れそうになる。咄嗟にミナトが支えるが、意識を失っているのかミナトが呼びかけても返事が返って来る事は無かった。


「あれ……? 私の体……何か揺れてるよ? それに暖かくて気持ちいいなぁ……」


 リーフの意識が戻ったのは、それから五分ほど経ってからだった。背中からそんな声が聞こえると、ミナトは安心したように微笑を浮かべる。


「目が覚めた? 良かった……いきなり倒れたから心配したんだよ?」


「ふぇ? あー、ミナト君らぁ、えへへ~助けてくれらんらぁ~、優しいらぁ~」


 リーフはどうやら少し寝ぼけているらしく、呂律の回らない言葉を喋りながら、ミナトの背中に体を摺り寄せてくる、現実(リアル)で感じたのと同じ様な塊が、ミナトの背中で押し潰され形を変えるのが分かるのか、ミナトは顔を真っ赤にしながら当て所なく夜の街を歩く。


「えへへ~、ミナトく~ん、私のオッパイ気持ち良い? 結構自信あるんだぁ、クラスでも一番大きいんだよ?」


 そんな衝撃的な情報を聞き、さらに顔を赤くしながら無言でで歩く。そのまま暫く歩き続けると、背中のリーフの様子がおかしい事に気付く。


「大丈夫? またどこか具合が悪いの? 直ぐに横になれる場所探すから……」


 ミナトが慌てながら、そう言うと、背中のリーフから蚊の鳴くような小さな声が辛うじてミナトの耳に届いた。


「ごめんなさい……寝ぼけて何かとても恥ずかしい事を口にしたみたいで……すみませんけど、落ちつけるまで、このままでいて貰って良いですか?」


 顔を真っ赤にしながら、ミナトの背中に顔を押し付けると身悶えながら声にならない声をあげていた。五分ほどゆっくりとした速度で歩いていると、漸く、落ち着いたのかリーフが背中から声をかけてくる


「またしても、ミナト君には恥かしい所を見せてしまいました……」


「大丈夫、気にしてないし、リーフも気にしなくて良いよ」


 ミナトは笑いながら言うと、リーフは落ち込んだ小さな声で言う。


「すみません……聞きたい事が聞けたから……何か気が抜けちゃったみたいで……本当に迷惑をかけてばかりだね……私……」


「ううん、でも、なんでリーフは僕と先輩の事を聞きたかったの?」


 ミナトの問い掛けに、リーフはまた顔を赤くするとミナトには聞こえ無い程小さな声で答える


(今でも、先輩が好きなら、諦めなくちゃいけないから……でも、やっぱり駄目みたい……今日でもっと好きになってしまったから……それにしてもミナト君、鈍感すぎです、異性に向かって大事な人だって言ったのに……全然その言葉を深読みしてくれないんだから……)


「リーフさん、ちっとも聞こえないんですけど……」


 ミナトのその言葉に舌を出し、あっかんベーをすると、リーフは笑いながら言葉を紡ぐ


「ミナト君には、まだ教えてあげません。もう少し乙女心を理解できるようになってから、もう一度聞いてきて下さい。その時はちゃんと教えてあげますから」


「それは何時になるか分からないね、妹にも乙女心が分かって無いと、よく言われるから」


 リーフの言葉にそう答えると、ミナトは苦笑を浮かべながら答えた。


「良いんです、慌てなくてもゆっくりと理解していって貰えれば……早すぎても遅すぎても駄目な物なんですよ乙女心って」


「難しいね乙女心って……僕に理解できる日が来るのかな……」


「きっと来ますよ、それも、そんな遠くない日に……でも、それが世間一般と同じとは限らないかもしれませんが」


 この時、リーフが何故こんな事を言ったのかは、後々判明するのだが、それはもう少し先の話である。

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