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第33話

 市場(マルクト)を抜け、闘技場の受付まで戻ってくると、受付カウンターに居るミアキスが、二人に気付くと、ミナトに向け頭を下げてくる。そのミアキスの行動にに首を傾げると、隣を歩くリーフに視線を向ける。

 そんな何も分かっていない。ミナトの様子に呆れた顔をすると、リーフはミアキスの元に歩いていく。

 ミナトは困惑の表情を浮かべながら、リーフの後を追って受付に向かう


「ミナトさん、先程は大変失礼しました。素人の私が大変差し出がましい事を言ってしまって……」


「一体何の事を言ってるの?」


「ミナト君のエントリーを止めた事だよ……さっきの試合を見たからだよね?」


 ミアキスはコクコクと頷くと、リーフの言葉を肯定する。ミナトは漸く事態をを把握すると苦笑を浮かべ、ミアキスに手を振る。


「そんな事、気にしなくて良いよ、僕のLVが低かったから、受付嬢さんは心配してくれたんでしょう?」


「そうですけど……ミナト様の実力を疑う様な事を言ってしまって……」


 ミアキスはしょんぼりと俯く、その姿にミナトは軽く溜息を吐くと、明るい口調で励ます様に声をかける。


「受付嬢さんは一人の初心者の事を心配して注意を促しただけ。それで良いんじゃないかな? 僕としての事実はそれだけだから。あとは気にする様な事なんて一つもないよ」


「ミナト様……」


 ミアキスはミナトの言葉に俯いていた顔を上げると、感謝する様に微笑み、飛び切りの笑顔を浮かべた。


「さて、無事解決したみたいだし、ミナト君はそろそろ準備のために控え室に向かった方が良いんじゃないのかな?」


 二人の話し合いを見守っていたリーフが微苦笑を浮かべながら、ミナトにそう告げる。


「そうだね、時間的にも調度良いし、それで構わないよね?」


 ミナトは、受付カウンターのミアキスにそう尋ねると、少し慌てながらも受付の業務を果たすために答える


「あ、はい、ミナト様は選手控え室で暫くお待ち下さい。試合開始までもう少し時間がかかる様なので……」


「ありがとう」


 ミナトはミアキスに礼を言うと、少し心配そう顔で見つめて来るリーフに、腕を掲げると、力強く言葉を発した。


「それじゃあ行って来るよ! 応援よろしく頼むね!」


 ミナトの言葉に大きく頷くと、リーフは不安そうな顔から無理矢理に笑顔を作ると、大きな声で答える


「うん、応援する! 絶対ミナト君に聞こえる位の声で! だから……頑張って!! ……それと無理はしないでね……」


 リーフの言葉に背中を押されながら、ミナトは闘技場に向かい歩みを進める。その後姿が通路の先に消えるまで、リーフは祈るように手を組みながら見送っていた。




 通路を進み、選手控え室の前まで来ると、扉を開け中に入る。控え室の中に居る、参加者達の視線が一斉に集まる。

 ミナトはその視線を平然とを受け流すと、控え室に備え付けの椅子に腰掛けると、部屋の奥の椅子に座っていたギドーが厭らしく笑いながら大声で挑発してくる。


「良く逃げ出さずに来たなぁ、この俺にやられる運命なのによぉ……あの女の見てる前でボコボコにしてやるぜぇ!」


 その声に一切、反応せずミナトは精神を集中するように目を閉じる。


(さて、外野に煩いのが居るし、EOTCという仮想世界の中でも出来るかどうか分からないけど……一応試してみるか)


 ミナトは心を落ち着かせると、深く息を吸いながら呼吸を整えていく、一定のリズムで呼吸を刻み精神を集中させると、周りの気配を探っていく。


(控え室の中の人数は……僕を含め十二人、明確な敵意を向けてくる気配が一つ、全くこちらを気にする様子がないのは……七、様子伺う様な気配が四か……この四人はギドーというか、リックのギルドの関係者……かな)


 ミナトは、明確な敵意を向けてくる、ギドーの気配に辟易しながら、閉じていた目を開け、控え室を見渡すと、気配の通りに十二人の参加者の姿があり、

 ミナトと目が合うと、その目を反らす人数も四人と、気配の通りなのに満足すると、小さく頷いた


EOTC(此処)でも出来るもんなんだ……気配を読む事が……凄いなぁ、本当に仮想世界なのか疑いたくなるよ。それにしても、相変わらず難しいなぁ気配を読むって……気配を察知するだけなら、比較的簡単なんだけど……そういえば、星奈先輩が得意だったな、気配を読むの……)


 ミナトは昔を思い出したのか苦笑を浮かべると、ウィンドウを開き、装備とスキルの確認をして行く。


(装備は……何時も通りで良いよね、スキルは……そう言えば、どういう効果のあるスキルか分からないのがあったな、まだ時間もありそうだし、確めておこうかな)


 ミナトは、ウィンドウを操作しながら、スキルの効果を確めていく



剣術LV1 

  剣での攻撃力、命中力、攻撃速度の上昇         パッシブスキル

歩法LV1     

  移動速度上昇、気配遮断などの効果           パッシブスキル

遠当てLV1    

  装備武器から衝撃波や斬撃を、撃ち出す事が可能になる  アクティブスキル

透しLV1     

  1LVにつき10% 防御力を貫通する攻撃を放つ事ができる  アクティブスキル  

気孔術LV2    

  身体ステータス上昇の効果。              パッシブスキル

クリティカル率上昇LV1

  1LVにつき5%クリティカル率上昇            パッシブスキル



(なるほど、こうして見ると強力なスキルばかりだなぁ……)


 ミナトは改めて、新職業の恩恵の大きさを感じると、スキルウィンドウを閉じる。


「おい、てめぇ、さっきから完全無視とは良い度胸だな。余程、死にてぇらしいな!」


 ギドーが顔を真っ赤にしながら大声で怒鳴ってくる。ミナトは漸く、先程からずっと因縁を付け続けられている事に気付く。


「はぁ~、さっきから煩いですよ。もう直ぐ始まりますから、大人しく待っていてください。そんな事も出来ないなんて子供なんですか? 貴方は……」


 ミナトはワザとらしく溜息を吐くと、ギドーを挑発するように言う、


「いい度胸だ……久々にキレちまったぜ。お前は、絶対! 俺が殺す!!」


 ギドーは怒りに体を震わせながら、ミナトを睨む、その視線を正面から受け止めると、平然と見返してくるミナトに、ギドーは一瞬怯むと、その瞬間、アナウンスが流れ始める。


『PvP勝ち抜き戦が始まります、参加者は闘技場に移動してください。繰り返します……』


 アナウンスの声が控え室に響く、それを合図に参加者は移動を始める。

 ミナトはギドーから視線を外すと、黙って控え室を出て行く。


「あの野郎、只者じゃねぇな……だが、勝つのは俺だ!」


 ギドーは、そう宣言すると、ミナトが出ていった扉を見つめながら、声を上げて笑い出したのだった。




 闘技場に続く通路を歩きながら、ミナトはアイテムストレージから、武器を取り出すと装備していく。

 ショートソードを腰の剣帯に下げ、矢筒を背中に背負い弓を持つ。準備を整えながら通路を進むと。闘技場への入り口が見えてくる。


「さて、それじゃあ、気合を入れて行きますか!」


 ミナトは気合を入れ、一言そう言うと、闘技場の入り口をくぐる。観客席はほぼ全て埋まっていた、歓声と怒号が、闘技場の高い天井にぶつかり響き渡る。

 ミナトは入り口で、渡された番号札に書かれている場所に移動しながら、他の参加者の位置を確認していく、一番最後に現れたギドーは、ミナトとは調度、反対側になる所に配置されたようだった。


「いきなり、ぶつかる事にはならなかったけど……狙いは、きっと僕だけだよね……」


 闘技場の反対側にいる、ギドーを見つめながら、ミナトは自分の周りの参加者も確認する。


(重装備の戦士が一人、大剣装備の戦士が一人、魔法使いが一人、猟兵が一人……この中で、僕の事を伺っていたのは、魔法使いと重装備の戦士か……まずはそこからかな……)


 心の中で作戦を練っていると、実況席から元気な声が聞こえて来る。


「はい! 皆さん、お待たせしました! これよりPvP勝ち抜き戦を始めたいと思います。この勝ち抜き戦とは名ばかりのバトルロイヤルを制して勝利の栄冠を掴むのは、果たして誰なのか! 実況は私、シンシア・ウォーレンで引き続きお送りしていきます……おっと早くも準備が整った模様です! 観客の皆さんと参加者をお待たせするのも悪いので、早速始めたいと思います!! それではPvP勝ち抜き戦、始め!!」


 実況席のシンシアの合図と共に、ミナトは弓に矢を番えると、魔法使いに向けて矢を射る。しかし、奇襲に近いそれを読んでいたのか、重装備の戦士が大盾でその矢を防ぐ。

 矢が届かない事が分かったミナトは、魔法使いに向かって走り出す。その速度は他の参加者の追随を許さないほど速い。

 あっと言う間に距離を半分に詰めると、矢筒から一本矢を抜き取り、そのまま更に距離を詰める。その進路上に重装備の戦士が立ちはだかる。ミナトは構わず、そのまま速度を上げると、盾を構え防御体勢に入った重装備の戦士の盾を足掛かりにして跳ぶと、空中で弓に矢を番え、戦士の後ろに庇われていた魔法使いに向かって射る。ほぼ無防備だった体を貫くと、魔法使いはゆっくりと倒れていく。

 ミナトは倒れた魔法使い近くに着地すると同時に、右側から大剣を装備した戦士が上段から大剣を振り下ろしてくる。ミナトはそれをギリギリで躱すと、地面に叩きつけられた剣が甲高い金属音を響かせる。 戦士は剣を再び振り下ろす為、大剣を持ち上げようとするが、ミナトは大剣を左足で踏みつける。それによって行動は阻害され、驚きの表情を浮かべる戦士に目掛け、右足で横腹を蹴り抜くと吹っ飛んでいく。

 そこで漸く重装備の戦士が、魔法使いがやられた事に気付いたのか、己の身長より長いランスをアイテムストレージから取り出し装備すると、ミナトを目掛け、正面から槍突撃(ランス・チャージ)の要領で突っ込んで来る。

 その攻撃を左に躱すと、ミナトはランスを持つ右手に向かって、剣帯から抜いたショートソードを振り下ろす、分厚いガンとレットをヴァンプレイスに守られた、重装備の戦士の右手から、金属同士のぶつかる音と火花が散る。その衝撃で腕が痺れたのか、重装備の戦士は装備したランスを支えていられず、地面に落す。

 攻撃の術を失った重装備の戦士のあご先を、剣の柄で殴ると、糸の切れた人形のように膝から崩れ落ちる。

 ミナトは崩れ落ちる寸前の戦士から、大盾を奪うとその影に隠れる、大盾にぶつかる金属音を聞き。盾の影から飛び出すと、第二射を放とうとしている猟兵と目が合う。

 勝ちを確信したその目を、鋭く見返しながら、ミナトも弓に矢を番えるが、相手の方が速く矢を放つ。真っ直ぐ飛んでくる矢を。冷静に見つめながら、ミナトは番えた矢を解き放つ、矢は風切り音を鋭く奏でると、飛んで来る矢に正面からぶつかり地面に落ちる。

 そのあまりの出来事に猟兵が呆然としていると。ミナトはすかさず第二射を射る。その矢は猟兵を貫き、闘技場の壁に突き刺さる。理解出来ないような表情を浮かべながら猟兵は静かに倒れた。

 ミナトは一先ず回りに敵が居なくなった事を確認すると。大きく息を一つ吐いた。


「取り敢えずは、数を減らさないと……次の相手は……」


 ミナトは闘技場の見渡し、近くに参加者が居ないかを確認する。すると、二人の戦士がミナトに向かって歩いてくる。


「モンスター勝ち抜き戦は、やはりまぐれではなかったのか……」


「だから言ったろ? 偶に居るんだよ、VRに特別な才能を発揮する奴が……」


 二人の戦士は会話を交わしながら、ミナトの手前五メートル程の位置で止まると。話しかけてくる。


「君の戦いぶりは、見せてもらったよ……本当に初心者なのか疑いたくなる」


「良い腕してるよな、お前」


「貴方達は?」


 ミナトが問いかけると、二人の戦士は苦笑を浮かべると首を横に振る。


「変に馴れ合うのも良くないからな、名乗りは試合が終わったらさせてもらうよ」


「そういう事らしいんでな、それじゃあ早速始めますか!」


 二人は、ミナトの問い掛けにそう答えると武器をそれぞれ構える。真面目そうな戦士は、剣と盾で武装した正統派のスタイル、もう一人の軽い感じの戦士は、片手半剣(バスタードソード)を両手で持って戦う、前衛特化(タイプ)

 ミナトは瞬時にそう判断すると、距離を取る為に後ろに下がる。真面目そうな戦士が、それに気付くと距離を詰めようと迫ってくる。ミナトは一気に速度を上げると、真面目そうな戦士はそのスピードに驚きの表情を浮かべる、一気に二十メートル程距離を取ると、ミナトはアイテムストレージから魔法の矢を取り出し弓に番えると狙いを定め矢を射る。風切り音を鋭くあげながら黒い魔法の矢は飛んでいく。

 真面目そうな戦士は、盾を構え飛んできた矢をどうにか防いだ、盾と矢ぼぶつかる音が響く。


「くっ、なんて衝撃なんだ……」


 表情を歪める真面目そうな戦士に向かい、ミナトは次々と矢を撃ち込んで行く。五本目の矢を防いだ時に盾が弾かれ、体が無防備に晒される、

 その隙を逃さず矢を射ようとする、ミナトに向かい、軽そうな戦士が大声をあげながら迫ってくる。


「俺の事を忘れてんじゃねーぞ!」


 そう言いながら突っ込んで来る軽そうな戦士は無視して、ミナトは矢を射る。鋭い音と共に飛ぶ矢を、軽そうな戦士はニヤリと笑うと、片手半剣(バスタードソード)を野球のバッターのように構え、飛んできた矢を剣の腹で打ち返す。


「凄い……」


 ミナトは賞賛の声を上げるが、既に二射目を射る体勢は整っている。真面目そうな戦士は、弾かれた盾を構え直しなら向かって来る、

 構えていた弓を降ろすと、ミナトは剣帯からシュートソードを抜くと、軽そうな戦士に向かい一気に距離を詰める。


「猟兵が苦し紛れに、接近戦を挑んだ所で本職の戦士に敵う筈がないだろうが!」


 そう大声で言うと、片手半剣(バスタードソード)で突きを放ってくる。ミナトはそれをしゃがんで躱すと、更に距離を詰め一気に懐に入る。


「誰が、猟兵なんですか? 僕の本職は近接戦闘ですよ」


「何!?」


 ミナトのその言葉に、驚愕の表情を浮かべる軽そうな戦士の、無防備な腹に左拳を撃ち込むと、その衝撃に体が、後にさがり、上半身が前に落ちる、無防備に晒された後頭部にシュートソードの柄を打ち込むと、そのまま倒れる。

 軽そうな戦士の体が地面に倒れ付す前には、ミナトはもう、真面目そうな戦士に向かい走り出していた。

 一転して距離を詰めて来るミナトに、真面目そうな戦士は警戒の表情を見せるが、それでも距離を置かれるよりは有利と判断したのか、速度を上げミナトに迫る。

 真面目そうな戦士が、ミナトに向かって剣を振り下ろす。袈裟斬り気味の攻撃を、体を捻る様に左に躱すと、そのまま後ろに回りこみ、背中を斬り付ける。鎧に阻まれるが、その衝撃で体勢を崩し、前にそのまま倒れこむ、ミナトは背後から後頭部に剣の柄を振り下ろし、意識を刈り取った。


「EOTCでの気絶判定って、現実(リアル)とそう変らないみたいだね……」


 倒れて動かない二人の戦士を見つめる。ミナトは周囲に人影が無くなったのを確認すると、シュートソーソを鞘に納め、使った矢を素早く回収する。

 すると、実況席から、シンシアの声が闘技場に響き渡る。


「なんと! 闘技が始まり僅か五分弱で、参加者の人数が残り四人に絞られました! これ程速く、ここまで人数が減ったのは初めてではないでしょうか!」


 その言葉にミナトは、ギドーの居る、闘技場の反対側を見ると参加者が何人か倒れているのが見える。


「いよいよ、直接対決か……」


 矢を矢筒に納めると、それを背負いゆっくりと歩き出す。ギドーも近づいて来る。ミナトに気付いたのかニヤリと笑うと、ミナトに向かって歩いてくる。闘技場のほぼ中央で互いに向き合う。


「漸く、お前のすました顔を歪められるかと思うと、楽しみで笑いが止まらねぇぜ!」


現実(リアル)でも、その性格だったら、さぞかし日常生活でも苦労してるんだろうね……友達以いないだろ、アンタ」


 二人は顔を合わせると同時に、互いに挑発しあう。


「控え室ではダンマリだったのに、此処では随分と喋るじゃなねぇか!」


 ミナトの言葉に頭にきたのか、顔を怒りに歪ませながら凄んで来る。それを冷め切った目で見つめると、あしらう様な声と仕草でミナトは言う


「これで最後なんだ、少しくらい相手になってやらないと、アンタが可哀想だろ?」


「……ここまで、舐めた口を聞かれたのは初めてだ。もういい、さっさと始めようぜ、そして女の前でボコボコにしてやらぁ!!」


「それはこっちの台詞だよ……友達を泣かせた事許すつもりは無い!! 悪いけど本気で行くよ!」


 二人は、それぞれの武器を構える。ギドーはロングソードを逆手に持ち、左手を前に向けるような格好で構え、ミナトはアイテムストレージからジンから貰った剣を取り出し腰に差すと、剣の柄に手をかける。

 先に動いたのはギドーだった、逆手に持った長剣(ロングソード)で下から振り上げるように切り付けてくる。ミナトはその攻撃を見切ったように、僅かに動いて躱す。その回避を予想していたのかギドーは振り上げた剣を、今度は上から突き刺すように振り下ろしてくる。それを今度は前に出る事で躱す。その回避によって、ギドーとの間合いが詰まり懐に潜りこむと、ミナトは胸に左手で掌底を打ち込む。


「ゲホッ!」


 咳き込むとに後ろに下がった。ギドーに向かい剣を抜こうとするが、何かを感じたのかミナトは一旦間合いを取り後ろに下がる。


「デカイ口叩くだけあって、やるじゃねぇか! これは俺も本気を出さねぇとなぁ! おい、お前ら少し時間を稼げ!」


 ギドーの言葉で、残り二人の参加者、戦士と魔法使いがミナトに向かって来る。


「やっぱり仲間だったのか……」


 ミナトが魔法使いの方に向かい駆け出すと、戦士が魔法使いを庇う為に前に出る。それに構わず、更に速度を上げる。

 槍を構えた戦士はミナト目掛け、槍を突き出してくる。槍の穂先を躱すと、横を通る柄を手で掴み一本背負いの要領でそのまま投げ飛ばす。槍を持っていた為受身も取れず。背中から落ちた戦士は衝撃で意識を失った。

戦士が戦闘不能になったのを確認する事も無く、ミナトは魔法を発動しようとしている魔法使いに向かい、一気に速度を上げ間合いを詰めながら、腰からショートソードを抜くと、それを投げつける。

魔法使いはそれを回避すると、精神集中を途切れさせ魔法の発動が止まる。その隙を逃さず、ミナトは懐に入り込むと胸に掌底を叩き込み、さらに無防備の腹に拳を突き入れる。辛うじて意識があるのか、ふらつきながらも、顔を上げようとする魔法使いの側頭部に拳を叩き込むと、そのまま地面に倒れこむ。

 ミナトは起き上がる気配のない事を確認すると、ギドーに向き直る。そこには背中から腕を二本生やし、四本腕になったギドーが獰猛な笑顔を浮かべミナトを見つめていた。


「時間稼ぎ、ご苦労だったなぁ……お前達の役目は終わりだぁ。これで、ゆっくりとお前を料理できるぜ!!」


 ギドーはアイテムストレージから武器を取り出すと、それぞれの腕に渡って行く。

 右腕には片手半剣(バスタードソード)、もう一本の右腕には短槍(ショートスピア)、左腕には盾、もう一本の左腕にも短槍(ショートスピア)と言う出で立ちの、ギドーがミナトを睨んでくる。


「まさか、性格も相当、人間離れしていましたけど、体も人間離れしていたとは思っていませんでした」


ミナトは呆れる様に言うと。ギドーの正面に立つ。


「その減らず口もここまでだがな。俺のアビリティ変身(シェイプテェンジ)の前では、てめぇなんか敵じゃねぇんだよ!!」


 ギドーはそう言うと、ミナトに目掛け左右の短槍(ショートスピア)で攻撃してくる、左右から迫る短槍(ショートスピア)を最小限の動きで躱しながら、ミナトは間合いを詰めようと前に出るが、今度は片手半剣(バスタードソード)が左から斬り付けてくる。それを回避する為に大きく後ろに下がると。またしても短槍(ショートスピア)の攻撃に晒される。


「厄介だな……間合いを支配されてる……」


 ミナトは短槍(ショートスピア)届かない距離まで下がると、弓を取り出し矢を射る。しかし、それもギドーの左腕が持つ盾に阻まれる。


「腕力も上がってるみたいだ……ちょっとやそっとの攻撃で、あの盾を弾く事は出来そうもないな」


「ははは、残念だったな、俺の変身(シェイプテェンジ)は身体能力を底上げするんだよ! 俺の盾をを弾くには威力が足りないぜ!」


 ミナトは弓をしまうと、改めて腰に差してある剣の柄を握ると、静かにギドーに告げる。


「今からアンタに、僕の本気を見せてやる……」


「はっ! 言うじゃねぇか? それじゃあ、見せてみろよ、お前の本気ってやつをなぁーー!」


 ギドーは大声をあげながら、ミナトに向かい左右の短槍(ショートスピア)を繰り出そうとすると


“チン”


 鍔鳴りの音と納刀の音が、ほぼ同時に鳴り響く。ミナトの姿はそこから動いた気配は無い。しかし、ギドーはその音を聞いた瞬間、背筋に悪寒が走るのを感じた。


「今、見せたよ……何をされたかには気付いてないようだけど。何かされたのには気付いたんだ……それだけでも大したものだよ」


 ミナトの言葉に、ギドーの本能が悲鳴を上げた。


「あぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぉぉぉおぉぉぉぉ!?」


 ギドーは恐怖から叫びをあげると、ミナトに向かって短槍(ショートスピア)片手半剣(バスタードソード)を振り下ろそうとする。

 しかし、その時には背中から生えた両腕の肘から上が短槍(ショートスピア)と共に地面にポトリと落ちた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!? 俺の腕が!? 腕がぁぁぁぁぁ!!」


 ギドーは錯乱状態になる、これが普段の戦いならば、これほどまでに錯乱しなかったのだろう。だが、ミナトから感じる気配が、ギドーの本能に恐怖を与える。


「恐いのか? 今、アンタが感じている恐怖について教えてやるよ、人が人を殺そうとする時に発する気配、殺気ってものだよ……」


「こ、これはゲームなんだぞ!? そんな曖昧なものを感じる筈がないじゃないか!」


ギドーはそう言うと、ミナトを恐怖に引き攣った顔で見つめる。


「ゲームだから余計に強く感じるんだろ? EOTCには精神に作用する魔法はないの?」


 ミナトの言葉に、ギドーは何も言えなくなる。恐怖や混乱、魅了や睡眠、特殊な所で呪いなどのゲームならではの、精神や肉体に作用する効果の魔法があり。

 それを受けると、その状態になる事に、ギドーは今まで何も疑問を抱かなかったが、改めてミナトに指摘されると、それは本当に恐ろしいまでに高い、技術水準なのだと漸く気付く。


「理解できたみたいだね…… 現実(リアル)なら、こんなにはっきりと感じる事の無い殺気が、ゲームの中でだと、より強く感じる理由を……」


「ああ、納得したぜ……そして、俺は此処で死ぬんだな?」


「そうだ。僕はアンタを殺す。殺意を持って、アンタを死に至らしめる」


「恐ろしい奴だな……どんな修羅場を潜り抜けたら、そうなるんだよ……」


 ギドーは恐怖に声を震わせながらも、ミナトに視線を向け告げる


「俺は、お前には二度と関わらねぇ、ギルマスに何を言われてもな……それだけは約束するぜ。化物」


 ギドーの憎まれ口を聞くと、ミナトは静かな声で告げる。


「一瞬で済む……恐怖も痛みも一瞬で終わわせるから……」


“チン”


 ギドーの耳に最後に届いた音が、その音だった。ミナトは、一撃でギドーの首を刎ねると、静かに俯く。


「先輩……僕は漸く、出来るようになったんですよ……約束を果たす日は近いみたいです……」


 静かな言葉と共にミナトの瞳から一滴の涙が零れた。

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