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第29話

 瞳を開けると篝火の明かりが照らす、広場が目の前に広がる。橙色とも赤色とも言えない、炎の色に染めらた街は、夜にも関わらず人通りは多い。

 皆人は賑やかな広場の隅のベンチに座り、ウィンドウを開くと、早速ステータス表示の設定を弄り始める。


「えっと……簡易表示の職業の項目を不可視設定にして、後は弄らなくても大丈夫かな?」


 ミナトは頭上の表示を見上げてみる、ウィンドウが視界に入るように自動で傾くと、職業の表示が消えているのを確認する。


「うん、消えてる。これで取り敢えずは安心かな……次は通話アプリだけど、フレンドリストを見れば分かるかな……」


 フレンドリストを開くと、リストに載っている名前の横に、通話可能を示すマークが出ているのに気付く。


「ジンはアプリを入れてるけど、ユズリハさんは入れてないみたいだな……」


 ミナトは試しに、ジンに通話をして見る。


「もしもし、ジン?」


(ミナト? おーーー! 通話アプリを導入したのか、これでお互い気軽に連絡を取り合えるな!)


「うん、ジンは、今……平気?」


(おう! 今は塔の都(ストーバ・トルレム)のギルドホールで休憩中だから、特に問題はないぞ)


「それなら良かった。ところでジンは今、何してるの?」


(夕方のリストで更新された、新職業の事をギルメンと話してた所……ミナトも知ってるだろう?)


「うん……まぁね……」


 ジンの言葉に歯切れ悪く答えると、ミナトは苦笑を浮かべる。


(お前も新職業を探してたよな? 先を超されたみたいだけど、落ち込むな……あの条件は厳し過ぎる。今、ギルメンが新規プレイヤーを勧誘して、新職業を目差そうとしてるけど、ありゃ相当時間がかかるな)


「へ、へぇ~……新職業の事、もう、そんなに話題なってるんだ……」


(当たり前だろ! 下級職業が一気に三つも増えたんだぞ! しかも、どの職業もかなり強いからな、条件の厳しさを乗り越えても就きたいって、思う連中も結構居るはずだ)


 ミナトは、やっと事の重大さに気付き始める。今やEOTCは新職業の話題で持ちきりらしい、その当事者が自分自身だと、今更ながらに思い知らされた。


「あのさ……新職業を見つけたのが、僕だって言ったら、信じる?」


(はぁ? お前何いっ……いや、お前がそんな冗談言うとは思えない……おいおいマジか!?)


「うん、ジンだから言うけど。新職業を見つけたのは僕だよ」


(…………)


 ミナトの言葉に、通話先の大助は絶句する。そして大きく息を吐くと。呆れたような声で言ってくる。


(どの職業を発見したのが、お前なのかは聞かないけど、暫くは気をつけろよ? 色々な奴が居るのがMMORPGだ、中には傍迷惑な連中も居る……簡易ステータスの表示を弄れるアプリがあるから、それを入れて置け、今すぐにな)


流石に新職業の全部を一人で見つけたとは言えず、ミナトは心の中でジンに、謝罪をしてから、話の続きを始めた。


「ああ、それはもう入れたよ、今設定したところ」


(お前にしては、随分用意が良いな? 流石に自覚があったか? 騒ぎになるって……)


 ジンは感心したように言ってくる、それにミナトは苦笑を浮かべると素直に白状する


「ううん……こんな大騒ぎになってると思わなくて、これを導入したのも知り合いに教えて貰ったからだよ、あると便利だって……」


(はぁ、そのアプリを教えてくれた人に、礼を言っておけよ? それにしても、相変わらず何処か抜けてるよな、ミナトって……)


 ジンは呆れるを通り越し、諦めに似たような気持ちでミナトに言葉をかけた。


「うん、ちゃんとお礼を言っておくよ……それとジンの言葉、心に響くよ」


(まぁ、今回はこれでも、まだ大人しい方なんだぞ? 話題が分散してるからな……)


「分散? 他に何か話題になるような事あったけ?」


(あのなぁ、始まりの都(インゼル・ヌル)に居て、あれだけの騒ぎがあったのを忘れるなよ! 大暴走(グラン・スタンピード)の事だよ!)


 ミナトは、ジンの言葉に首を傾げながら尋ねてみた。


大暴走(グラン・スタンピード)って何?」


(お前な、リスト位見て置けよ……昨日始まりの都(インゼル・ヌル)の北で起きた、大規模暴走(スタンピード)大暴走(グラン・スタンピード)って名づけるって、運営が発表したんだよ。でも、それを解決したPTもギルドも不明のまま、あの謎の大爆発も規模や被害は発表されたけど、それ以外は公表されずじまい、謎が謎のまま、この事件を始まりの都(インゼル・ヌル)の奇跡なんて、呼んでるプレイヤーも出始めた……)


「へぇ……それは知らなかった……」


 ミナトはまたしても、自分の関わった事が話題に登り、顔を引き攣らせながら、ジンに何とか言葉を返す。


(今、その大暴走(グラン・スタンピード)を解決した、PTなりギルドをかなりの数のプレイヤーが探しているらしいけど、情報が全然集まらないから、運営の自作自演のイベントじゃないかって噂も出てるな……確かにあれだけの大爆発、攻略系のギルドの高LV魔法使いでも不可能だと言われてるからな……)


 ミナトは、ジンの声を聞きながら、これだけの騒ぎになってしまった事態に驚きを隠せないで居た。


「ジンは、その大暴走(グラン・スタンピード)を解決した人達を探してるの?」


(俺自身は探してないよ……ただ、ギルドの連中は一生懸命探してるみたいだな……俺はその人達が名乗り出ないなら、態々探す必要は無いと思ってるから……名乗り出ないのには、それなりの理由がある筈だからな)


 その言葉に、ミナトは安心した表情を浮かべると、嬉しそうな声で大助に言った


「大助のそういう所、好きだよ」


(気持ち悪いこと言うな! あとジンと呼べ! 全く……おっと、悪い。これからクエストの手伝いをする事になったから切るな、くれぐれも気をつけるんだぞ!)


「分かったよ、それじゃあ、またね!」


(ああ、またな!)


 ミナトは通話を切ると時間を確認する。待ち合わせの時間まで、まだ少しあるが、ミナトはクライマーギルドを目差し歩き始める。


「委員長は時間をきっちり守るタイプだろうからな……」


 ミナトは歩く速度を速めると、篝火灯る夜の街を急いだ。


 クライマーギルドが視界に入ると、そこには沢山の人々が集まっている、ミナトは目を凝らしながら、委員長を探していると、後ろから声をかけられる。


「結城君だよね……」


 その声に振り向くと、一人の小柄なエルフの少女が立っていた。緑色のローブを羽織り、手には白い長手袋、金色の髪を青色のリボンで綺麗に三つ編みにいしている、何処となく委員長の面影のある。そのエルフを見つめたあと、頭の上の名前を確認する、


「委員長だよね?……それともフォリアさんって呼んだほうが良いかな?」


「リーフで良いよ。結城君」


 そう言いながらリーフは微笑み浮かべ、ミナトの傍まで歩いてくると、改めて挨拶してくる。


「こんばんは、結城君、今日はありがとう、突然の誘いなのに受けてくれて、それにしても……現実(リアル)と同じ顔でプレイしてるんだね……びっくりしちゃった……」


「ジン……大助にも同じ事を言われたよ」


「そういえば、周防君もEOTCプレイヤーなんだよね」


「あれ? よく知ってるね」


「私の席の近くで、よくEOTCの話しをしていたでしょう? 周防君、声が大きいから……」


 リーフは苦笑を浮かべながらそう言うと、ミナトはすまなさそうな顔で謝った。


「うるさくしてごめんね。今度から気をつけるよ」


「いいのよ、何時も二人が楽しそうに話しているの知っているから」


 笑顔を浮かべながら、リーフはミナトを見つめる。


「結城君は、本当に始めたばかりなんだね? 装備も初期装備だし……LVも……1?」


「あはは、実は転職したばかりで……」


 ミナトは、頭を掻きながら照れ臭そうに俯く。


「そうなんだ。でも、これから頑張れば良いんだから気にする必要はないよ! 誰だって最初はLV1から始めるんだから」


 リーフは力強く励ますと、ミナトは大きく頷くと、リーフに告げる


「あ、僕の事はミナトで良いよ。僕もリーフって呼ぶからね!」


「えっ!? 心の準備が出来てないよ!? 男の子を名前で呼ぶなんて初めてだし……」


 リーフは、エルフ特有の長い耳を赤く染めると、俯いてしまう。


「そんなに緊張する事ないよ、ただ名前を呼ぶだけなんだから」


 ミナトは、リーフの緊張を解そうと、軽い口調で言った。


「簡単に言うけど、私には凄く難しい事なんだよ!? 結城君の事を名前で呼ぶって!」


 真っ赤な顔で、ミナトに詰め寄ると、正面からミナトと向き合う。互いの視線がぶつかると、リーフは慌てて、その視線を外す。それを見たミナトは苦笑を浮かべながら、ある事を提案する。


「じゃあ、せーので一緒に呼び合ってみる? それなら大丈夫なんじゃない?」


 ミナトの提案にリーフは赤い顔をしながら、渋々という感じで頷くと、ミナトを見つめて来る。その視線を受け止めると、柔らかく笑いかける。


「うぅー、余計に緊張して来たよ~やっぱり無理かも……」


「ほら、頑張って! 普通に呼べばいいだけだから!」


 ミナトの言葉にリーフは頷くと、意を決したように両手を握りしめると大きく息を吸う。


「じゃあ、行くよ! せーのっ!」


「…………」


「ミナト君!!」


 リーフの声だけが周囲に響き渡ると、ミナトは良い笑顔でリーフ呼び声に返事をする。


「何か僕に用かな? リーフさん?」


 ミナトに騙された事に気付くと、リーフは首まで真っ赤にすると大声で叫んだ。


「うっ、うぅぅぅぅぅ、ミナト君の……意地悪ーーーー!!!」


 先程の一件で、臍を曲げるリーフをミナトは宥めながら、クライマーギルドの前から離れ、二人は歩き出す。


「もうっ! ミナト君があんなに意地悪だとは思わなかった!! 私、凄く恥ずかしかったんだよ!!」


「ごめん……まさか、あんなにあっさり引っ掛るとは思わなかったから……ぷっ」


「ああ!? 今笑った! 人を騙して、それを笑うなんて! いけないんだよ! ミナト君!!」


 リーフは、体を震わせながら笑いを堪えているミナトを、涙目で睨みながら怒っている。


「うん、本当にごめん! でも、リーフ……さっきから僕の事名前で呼んでいるのに気付いてる?」


 ミナトは笑いを収め、その事を指摘すると、リーフは驚いた顔をする。


「本当だ……私、何時の間にかミナト君て名前で呼んでる……」


「それじゃあ、改めてよろしく! リーフ」


 ミナトが名前を呼ぶと、リーフは嬉しそうな笑顔を浮かべると元気の良い声で返事をした。


「うん、こちらこそ! ミナト君!!」


リーフとミナトは互いに笑顔を浮かべると、篝火の炎に揺れる大通りを歩く。


「それで、今日は何処に行くの? 僕はこの街の事も良く知らないんだけど……」


「ミナト君が初心者なのは聞いていたからね、それを考慮して、色々検討した結果……」


「うん、検討した結果?」


始まりの都(インゼル・ヌル)の闘技場……アンフィテアトルムに行く事にしました」


リーフは始まりの都(インゼル・ヌル)の東地区を指差すと、ミナトはその方向に目を向けると、東の夜空を煌々照らす、大きな明かりがあるのに気付く。


「あれが闘技場……」


「そう、闘技場(アンフィテアトルム)と呼ばれ、賭博上(カジノ)でもある、EOTC最大の娯楽施設……楽しそうでしょう?」


リーフの言葉に、ミナトは笑顔を浮かべると、大きく頷きながら夜空を照らす明かりを見ながら言った。


「うん、今夜はどんな冒険が出来るのか楽しみだよ!」

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