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第28話

 夏の暑い日差しを受けながら、漸く自宅に辿り着く。

 玄関を開け中に入ると、玄関には三つ指突いた凪沙が待っていた。


「お兄ちゃん、お帰りなさい。お風呂にします? それともご飯? もしかしてわ・た・し?」


「ただいま~、海深母さ~ん! 凪沙が暑さで壊れたみたい」


 凪沙を無視するように、横を抜けリビングに向かいながら皆人は母親(海深)に報告を入れる。


「や~ね、その子は最初からぶっ壊れているわ。外面が良いから周囲の人が気付いてないだけ」


 母親も皆人の言葉にさらりと答える。


「なんですか! 二人とも! 壊れたとかポンコツとか酷いじゃないですか!」


 凪沙はリビングに駆け込んでくると、二人に勢いよく文句を言い始める


「ポンコツとは言ってないわ、それに、ポンコツなんて可愛い感じではないわ……暴走車って表現が、貴方にはピッタリよ、凪沙」


「お母さん、ヒドイ!!」


 母娘は朝から変らず、仲が良さそうだ、皆人は微苦笑を浮かべながら凪沙声をかける


「出かける準備は出来てるの?」


 皆人の声に嬉しそうに振り返りながら、凪沙は返事をしてくる


「はい! 準備は整っています! あとはお兄ちゃんの出発の言葉を待つだけです!」


「分かったよ、それじゃあシャワーを浴びて着替えてくるから、あと十五分位待って?」


「はい!」


 凪沙の元気の良い返事を聞きながら、皆人は風呂場に行きシャワーを浴びていると、脱衣場に人が入ってくる気配がする。


「海深母さん? どうかしたの?」


「どうかしたのじゃないでしょう? 素子から電話がかかって来て、診断結果を聞いたわ……肩の骨にひびが入ってるんですって?」


 母親(海深)は心配そうに皆人に声をかけてくる。


「大丈夫だよ、先生がテーピングしてくれたから殆ど痛まないし……ちょっと動かし難いけど」


「無理をしなくても良いのよ……理由を言って、凪沙と出かけるのを今日はやめておいたら?」


「そんな事をすれば、凪沙が臍を曲げますよ……それに約束ですから」


 皆人がそう言うと、母親(海深)は溜息を吐くと、声を落として言ってくる


「皆人君が、その言葉を使ったら、私がどんな事を言っても聞かないでしょうね……

でも、無理はしては駄目よ? 凪沙だってもう子供ではないわ、理由が正当なら怒りもしないし、臍を曲げる所か、貴方の事を心配して、自分から出かけるのをやめると言い出すわよ。きっと……」


母親(海深)の言葉に苦笑を浮かべると、皆人は困った様な声で答える


「だからですよ……余計な心配はかけたくないし、心配をかけるほどの怪我ではないから……海深さんには心配をかけてますけど」


 皆人はすまなさそうな声で言うと。それを聞いた母親(海深)は懐かしそうな声で語りかけた。


「まぁ、皆人君は昔から怪我の絶えない子だったからね、道場に通っていた時は、毎日、私が治療をしてあげてたのを思い出すわ……それに今回は素子のお墨付きもあるし大丈夫なのは、分かっているんだだけどね……ちょっと心配しすぎなのかな?」


 母親(海深)は自嘲気味に言うと苦笑を浮かべる。


「海深さん、僕は大丈夫だから……心配かけてごめんね、それと、ありがとう……今日の夕食は海深さんの好きな物を作るから楽しみに待っていて?」


「皆人君……」


 母親(海深)は皆人の優しい言葉に思わず涙ぐみそうになりながら、ドア越しの会話だった事を感謝していた。


(良かった、こんな顔、皆人君見せられないよ……)


 エプロンで溢れそうになる涙を拭きながら、母親(海深)は誇らしい気持ちと、少し寂しい様な気分を同時に味わっていた、そこに風呂場の皆人から情けない声が響いてくる。


「それは、そうと……僕そろそろ出たいんですけど? 海深さん……」


「あっ!?、ごめんね、直ぐに出るから……」


 母親(海深)は慌てて脱衣場から出ようとする、その時、後ろから皆人の優しい声が聞こえた


「海深さん、本当にありがとう……貴女が居てくれて本当に良かった」


 その言葉に母親(海深)は顔を真っ赤にしながら、脱衣場を出て行く。自室に戻るとドアを閉めると母親(海深)は瞳から溢れる涙を止める事が出来なくなっていた。


「本当に……良い男に育ちすぎだよ……皆人君……」



 皆人は風呂からあがり。自室に戻り着替えると、急いでリビングに降りて行く


「凪沙、お待たせ!」


「いいえ、ちっとも待っていませんよ?」


 凪沙は、青を基調にしたシンプルなワンピース、髪型は長い髪をハーフアップにして上品な感じを出している。皆人は一通り凪沙を眺めるとニコリと笑い


「今日の凪沙は、気合が入ってるね、良く似合ってるよ」


「はい……ありがとうございます?」


「どうしたの? 凪沙……」


「いえ、そんなにあっさり褒められると思っていなくて、ビックリしてしまいました……」


 そんな凪沙の言葉に苦笑を浮かべながら、皆人は凪沙の頭を撫でながら出かける事を、姿の見えない母親(海深)に告げる


「それじゃあ、海深母さん、僕達出かけてくるから!」


「……はーい、気をつけて行って来なさい」


 自室で何かしてるのか、母親(海深)の声は何時もより、少し感じが違ったのが気になった皆人だが、腕を絡めてくる凪沙に気を取られ確めるタイミングを逃してしまう。


「お兄ちゃん! 速く行きましょう? 時間は待ってくれないのです!」


 凪沙腕を引っ張られながら、皆人は苦笑を浮かべると、もう一度声をかける


「それじゃあ、行って来ます」


「…………いってらっしゃい」


 返答が来るのが随分と遅かったが、凪沙に急かされる皆人に、その事を気にかける余裕は与えられなかった。

 家を出ると、ほぼ中天に差し掛かった太陽から容赦なく強い日差しが照りつけている、空を見上げると皆人は、凪沙に言った。


「凪沙、日傘を差した方が良いぞ、お前肌が弱いだろ?」


「えっ!? それだとお兄ちゃんと腕を組めないよ!?」


「組まなくていいから……日傘を差しなさい」


 テンションの高い凪沙に、皆人は早くも振り回されつつ、最初の目的地を目指し歩き出すと、後ろから日傘を差した凪沙が皆人を追う


「もう、折角のデートなんですから、もっと甘い感じを出していきしょうよ!」


「デート……甘い感じ……」


 皆人が首を捻っていると、凪沙は呆れた顔をしながら、手を繋いでくる。握られた手を見つめると、皆人は一言口に出す。


「暑くない?」


「そういう朴念仁な事を言うから、お兄ちゃんは駄目なんです」


 凪沙は、笑顔を浮かべそう言い返すと、日傘をくるくると回しながら機嫌よさそうに歩く。その姿に皆人は苦笑を浮かべながら歩きだした。


「まずは、何処に連れて行ってくれるんですか?」


「昼食を食べに行こう、僕のオススメのお店に連れて行くよ!」


「それは、楽しみです!」


 凪沙は嬉しそうに言うと、足取りを軽くして先を急いだのだった。





「ええ、分かっていました……お兄ちゃんのオススメのお店が、こういう処だって分かっていましたとも!」


 凪沙は小上がりの畳の上で綺麗に正座をしながら、皆人を睨んでいる


「何を怒ってるんだよ? 此処の煮魚定食、凄く美味しいんだぞ。凪沙、カレイの煮付け好きだろう?」


「好きですけど! 大好きですけど!! もう少し雰囲気の良い処があったんじゃないかと、妹は思うわけです!」


「雰囲気?」


 皆人は店内を見渡すと、お昼時なのもあってかなり混雑している。


「大将! 生姜焼き定食一つな! ご飯大盛り」


「姉ちゃん、アジフライ定食一つ! 大急ぎで頼むぜ!」


「こっちは、レバニラ定食の大盛り、それからラーメンも頼む!」


 あちこちから注文する。野太い声が聞こえてくるのを確認すると。皆人は凪沙に向かい首を傾ける


「えっ? 普通?」


「ていっ!!」


 凪沙は、皆人に向かってお絞りを投げつける。


「何処が普通なんですか? 仮にも女の子と二人で来るには不似合いの場所でしょう!?」


 投げられたお絞りを軽くキャッチすると、皆人は凪沙に言い返す。


「だって美味しいし! 安いんだよ! しかも学生は大盛り料金はタダって言う、凄く良いサービスが……」


「ていっていっ!!」


 お通しで出された枝豆の殻を投げつけ、凪沙は皆人を指差すと高らかに告げる


「いくら美味しくても! 女の子を誘うのには間違った選択があるのを知るといいのです!!」


「おおーーーーー!」


 周囲にいた他のお客が凪沙の言葉に感嘆の声を上げると、凪沙はそれに応えながら、皆人を見つめる。

その意見に納得したのか皆人は反省した声で凪沙に告げる


「だって、凪沙に美味しいカレイの煮つけを食べさせたかったんだ……でも、そうだよね……もう少し考えれば良かったね……」


 皆人が寂しそうな顔をして落ち込むと、凪沙は突きつけた指を降ろすと


「こほん、仕方ないお兄ちゃんですね! その気持ちは大変嬉しく思いますよ。よく見れば感じの良いお店じゃないですか?」


「「「「ちょろい!?」」」」


 周囲の客が一斉に声をあげるが、凪沙はそれを完全に無視する。


「仕方ないですね……お兄ちゃんがそこまで私の事を考えて、このお店を選んでくれていたのなら、文句などありません! さぁ! 店員さん! お兄ちゃんおすすめのカレイの煮付け定食をお願いします! あっ!もちろん大盛りでお願いします!!」


 凪沙は高らかに言うと、嬉しそうに座る、皆人も注文をすると、二人は他愛も無い話をしながら、料理が来るのを待った。





 お昼を済ますし店を後にすると、隣を歩く凪沙の笑顔に皆人は微笑むと、昼食の感想を聞く


「どうだった? 美味しかっただろう?」


「はい! とっても美味しくてビックリしました!!」


 凪沙は満足そうに微笑むと、皆人にお礼を言ってくる


「あんなに美味しいご飯を、ご馳走してくれてありがとうございます。最初はどうなる事かと思いましたが、あれだけ美味しければ、お店の雰囲気なんて関係ないんですね……最初は文句を言ってしまって、ごめんね。お兄ちゃん……」


「気にしてないよ、凪沙が満足したのなら、それで良いよ……さて、まだ時間もあるしどうする?」


 皆人がこれからの予定を聞くと、凪沙は考え込むと、何か思いついたのか、皆人に聞いて来る。


「お兄ちゃん! 私、行きたい所があるんですけど良いですか?」


「うん、構わないよ、それで何処に行きたいの?」


 皆人の問い掛けに、凪沙は満面の笑顔を浮かべ答える


「アニメショップだよ! お兄ちゃん!!」


「はっ!?」


 その凪沙の言葉に、皆人は驚きの声をあげると、凪沙を見つめながらボソリと呟いた。


「アニメショップか……」


「お兄ちゃんは行った事無いの? アニメショップ」


「いや、行った事は何回かあるよ? 大助の付き合いで」


 皆人の答えに、凪沙は頷くと、手を力強く引っ張り、笑顔を浮かべながら言った。


「それじゃあ、初心者のお兄ちゃんを案内してあげる!」


 凪沙は、アニメショップを目指し街の中心エリアに向かい歩き出す。停留所でバスに乗り、駅前で降りると、凪沙は皆人の手を引きながら一つの建物に入って行く。


「ここの二階から三階が、アニメショップになってるんだよ、最近出来たばかりで、広くて品数も豊富だから、何時間居ても飽きないんだよ」


 凪沙は目を輝かせながら、店内に入って行く。手を引かれながら皆人も入店すると、中は広く漫画や小説、アニメのグッズなどが整然と並べられている。


「うんうん! やっぱり良いね、お兄ちゃん! 私、漫画売り場に行くけど、どうする?」


「僕は取り合えず、その辺を見て回ってみるよ、凪沙も好きに見てまわりなよ」


「でも、お兄ちゃんの事案内するって……」


 その言葉に苦笑を浮かべると、皆人は凪沙の頭を撫でると笑いながら言う。


「僕も、こういう処に来るのは初めてじゃないし、大丈夫だよ。気にしなくて良いから行って来な」


「お兄ちゃん……うん、ありがとう! 漫画を見つけたら戻ってくるから!」


 凪沙は皆人の言葉に頷くと、漫画売り場に向かって歩いていった。それを見送ると、皆人は周囲を見渡すと。

 [EOTCコラボキャンペーン実施中]のポスターが大量に張ってある場所があるのに気付くと、そちらに向かう。


「へぇ~、トレーディングカード(God World)だけじゃないんだ、コラボ商品って……」


 皆人は独り言を口にしながら、その場所に辿り着くと、数多くの商品が並べれていた。


「なるほど、EOTCの書籍なんかも一緒に置いてあるんだね……」


 皆人がその中の一冊を手に取ろうとすると、横から同時に手が伸びてくる、皆人の手に伸びて来た手が重なると、二つの手はほぼ同時に本から離れた。


「すみません、どうぞ取ってください」


「いえ、私の方こそすみません……気にせずどうぞ」


 二人は互いに遠慮の言葉を発しながら、相手の顔を確認しあう


「あれ? 貴女、確か……委員長の家のメイドさんですよね?」


 皆人が相手の顔を確認すると、それは昨日委員長の家で会ったメイドの女性である事に気付く。


「結城さんでしたねよね……まさかこんな所で会うなんて思いもしませんでした……」


神流は皆人の姿に驚きながらも、頭を下げると自己紹介を始めた。


「先日は名乗りもせず、すみませんでした。私は御子柴神流(みこしば かんな)と言います。」


「いいえ此方こそ、いきなりお宅にお邪魔してしまって、すみませでした……」


 皆人は、先日会った時と少し印象の違う感じのする神流に戸惑いながら、挨拶を交わす、それに気付いたのか神流は、苦笑を浮かべると皆人に告げる


「今の私は、青月家のメイドではありません、プライベートの時まで、あんな杓子定規な喋り方はしませんよ?」


「すみません、何か気を使ってもらってしまったみたいで……」


「いえ、初めて会った時に、あれだけきつい事を言ったんですから、今の私の態度に、戸惑いを覚えるのは仕方ない事ですよ」


 神流は苦笑を浮かべると、皆人に謝ってくる。


「昨日はすみませんでした……職務とは言え、失礼な事を言ってしまって……」


「いえ、僕は気にしてませんから。それより今日はお休みなんですか?」


「ええ、そうなんです。一応週に二日お休みを頂いていますから。それで今日は、趣味の漫画やアニメ、ゲームなどのオタク文化の発展の為にお布施(散財)しに此処に来たわけです」


 嬉しそうに買い物籠を見せてくる、神流に驚きながら、皆人は微笑を返しながら問いかける


「この場所に居るって事は、御子柴さんもEOTCをプレイしてるんですか?」


「はい、もう始めて一年くらい経ちます。結城さんもやっているのですよね? EOTC……」


「始めたばかりですけどね、そうかぁ……もしかして委員長がEOTCを始めたのは?」


「あら、双葉さんから聞いたのですか? 確かに私がオススメしました。何かとストレスの溜まる、立場ですから……少しでもそれが解消できればと思って……」


 神流は少し複雑そうな顔をすると、皆人に言ってくる。


「もし、よろしければ双葉さんと一緒に、EOTCで遊んでもらえませんか?」


「それなら、もう約束しました 今日の夜、一緒に遊ぶ予定です」


 皆人の言葉に驚きながら、神流はそれでも嬉しそうに笑うと、からかう様に言ってくる。


「結城さんは、意外と手が早いんですね? 昨日の今日で早速デートの約束ですか?」


「EOTCで遊ぶ事をデートと呼ぶなら、きっとそうなんでしょうね」


 皆人は苦笑を浮かべてそう答えると、神流も微笑をを浮かべながら言葉を返してくる


「ええ、きっと双葉さんは、今頃、今夜が楽しみすぎて色々な攻略情報(デートスポット)を探しているでしょうね」


「あの真面目な委員長が? そんな事をしているとは思えないですけど?」


「それこそ、結城さんの思い違いです。真面目な子ほど、一回火がつくと止まらなくなるものですよ? 行動も妄想も拍車がかかるばかりですからね」


 神流は笑いながら、そう進言してくる。


「肝に銘じておきます」


「そうして下さい」


 皆人と神流はそう言いながら、互いに笑い合う。


「それにしても、EOTC関連のグッズって沢山あるんですね……」


 皆人は改めて周囲を見渡すと、その数に驚く。神流はそんな皆人を見ると、微笑を浮かべながら聞いて来る


「もし、良かったら、初心者が持っていると便利な、EOTC専用の追加アプリをお教えしましょうか?」


「えっ? 良いんですか? 僕は初期設定のままEOTCをしてるんで、便利な追加アプリがあれば、ぜひ教えて貰いたいです」


 嬉しそうにそう話す皆人に、神流は頷くと、EOTC追加アプリの販売コーナーに向かう


「まず、最初に追加アプリの機能をEOTCで使用出来るようにするには、spirt worldにアプリをインストールする事になりますけど……皆人さんの使っているspirt worldは、簡易型の物ですか?」


「いえ、最新のハイエンド(タイプ)のspirt worldです」


「えっ? すごいですね……結城さんってお金持ちなのですか?」


「いえ、三年間バイト三昧して買いました」


「それは、更に凄いですね……」


 神流は皆人の言葉に感心しながらも、アプリを選んでいく。


「機種がハイエンド(タイプ)なら、アプリも使用制限はありませんね。それなら、まずは通話機能アプリですね、その名の通りEOTC内のフレやギルメンに直接通話する事が出来るようになります。相手も同じアプリを入れておく必要がありますが、それでもとても便利なアプリです」


「それは本当に便利そうです」


 皆人は通話アプリの値段を見ながら真剣に考えている。神流は次のアプリの紹介を始める


「結城さん良いですか? 次のオススメアプリの説明に入りますよ? 次のオススメはハイエンド機種なら導入推奨のアプリ。同時通訳アプリです。これで世界中の人と気兼ねなくEOTCを楽しめます」


「つまり、言語の壁が無くなるって事ですよね……spirt worldって本当に凄いんですね……」


 その感想に神流は深く頷くと、皆人に尋ねてみる。


「結城君は、海外にお友達とか居ないのですか? もし居るならサーバー間移動で、その人達ともEOTCが出来るようになりますよ?」


「居ない事はないんですけど……その人は日本人だから……」


「留学中のお友達なんですね。このアプリは高額ですから、ゆっくりと考えてからでも遅くないと思います。それでは最後にして本命を紹介しましょう……ステータス表示設定追加アプリ」


「それが本命?」


 皆人が不思議そうな顔で聞いて来る。神流は微笑みを浮かべながら説明を始める。


「EOTCでステータス関連の事に触れるのはタブーとされてるのは知っていますよね?」


 皆人はその問いに頷くと、自分の持っている知識で話し出す


「確か、結構最近まではそんな事なかったんですよね? ある事件が切欠でステータス閲覧に規制が掛かったて聞きましたけど……」


「そうです。事件に関しては、私もあまり詳しくないので割愛しますが、EOTCではステータスの閲覧や非表示の管理には気を使わないといけません。そのためのアプリですね。普段外見(アバター)の頭上に表示されている、簡易表示に何が表示されているか知っていますか?」


「えっと……名前とLV、それから職業です」


 皆人が答えると、神流は大きく頷く。皆人は自分の答えが間違っていなかった事に安心したのか、息を大きく吐く。


「その通りです。名前、LV、職業、この三つは表示されてしまいます。しかし、この中で表示される事でプレイヤーが迷惑行為を受けかねない表意が一つあります。皆人さん分かりますか?」


「名前に関してはそういう事は無いと思うし……LVに関してはやっかみはあるだろうけど迷惑行為まで発展する事は、そうそう無いだろうし……そうすると職業って事になりますね……」


 その答えに神流は頷くと、皆人に向かって説明を始める


「EOTCでは、新しい職業が見つかる事も珍しくありません。その新職業になる条件はリストに発表されますが……それでも、新しい職業を見つけた人への、ギルドやPTへの勧誘が激しくなり過ぎてプレイに支障をきたす場合が数多く報告されているそうです」


「…………」


今の話は人事ではない事に気付く。皆人自身、新しい職業に就いた事で、そういう事態に巻き込まれる可能性を持っているのだ。それを改めて認識すると、複雑な気持ちなる皆人だった。


「このアプリは、そういう事態を未然に防ぐ為のアプリです。備えあれば憂いなしと昔から言いますし、気持ちよくEOTCをプレイするための保険の様なものですね。無くても良いけど、あれば便利! の基本みたいなアプリです」


 神流はそう言って締め括る。


「ありがとうございました。幾つか買って帰ろうと思います」


 皆人の言葉に微笑を浮かべると、先程の本を手に取りとそれを籠に入れると、神流はこのコーナーから出て行く。その後姿に皆人は声をかける


「今日は本当にありがとうございました。もし良かったら今度EOTCで会いましょう」


 皆人のその言葉に、神流は微笑むと、バックからメモ帳を取り出し何かを書いて渡してくる。


「私の携帯の番号とメールアドレスです」


「あれ? 昨日交換しましたよね?」


「あの連絡先は、仕事用の携帯の番号です。こっちは私個人の携帯の番号ですから、連絡をするなら此方にお願いします」


 神流は微笑みながらそう告げると、エレベーターに向かって歩き出す。そして最後に振り向くと、皆人に一言忠告してくる。


「結城さん! 女性と行動を共にしている時に、別の女性に声をかけては駄目ですよ」


「?」


 神流の言葉の意味に首を傾げると、後ろから凪沙の怒りに震える声が聞こえてくる。


「お兄ちゃん……あの綺麗な女性は何処の何方様ですか?」


「な、凪沙……」


 皆人は漸く、神流の言葉の意味を理解するが、それは遅すぎたようだった。


「私が、たった十分ほど目を離した隙に、あんな黒髪ポニーテールの長身美人と仲良くなるなんて……しかも、また年上っぽい……お兄ちゃんは年上に好かれる妙な電波でも出しているのですか!?」


「出してないよ! あの人はクラスメイトの家でメイドをしてる……」


「メイド!? とうとうお兄ちゃんの趣向がマニアックな方向に!?」


「さっきから人聞きが悪すぎる!」


 凪沙と皆人は店員に注意されるまで、言い合いを続けたのだった。






「もうっ! お兄ちゃんのせいで怒られちゃったじゃない! 暫くあの店にいけなくなったよ!」


「それは自業自得だよ……僕が説明してるのに言う事ちっとも聞かないから……」


 皆人は疲れた様に言うと、手に持ったスーパーの買い物袋を持ち直す。


「だって最近、お兄ちゃんの周りが不穏すぎるよ! 此処三年は何事も無かったのに、ここ三日……ううん! あのゲーム機を買ってから、女の影が多すぎるよ! 妹は心配です!!」


 凪沙は、皆人と繋いだ手をぶんぶんと振り回す。


「ちょっと!? 振り回さないで! 卵が割れちゃうよ!」


「卵より、妹の機嫌を心配して下さい!!」


 凪沙の力強い主張に、皆人は苦笑を浮かべながら言う。


「今日の夕ご飯は、凪沙の好きなエビチリだから機嫌直してよ」


「私も好きですけど……それはお母さんの大好物じゃないですか! そんなついでみたいな扱いでは、私の機嫌は直りません!」


「あはは、やっぱり駄目?」


「当たり前です! まったくもう! お兄ちゃんは食べ物で、私が誤魔化されるとでも……」


「じゃあ、もう一品追加しよう、凪沙のために青椒肉絲(チンジャオ・ロース)を作ってあげる」


「仕方ありませんね……許してあげます」


 凪沙はあっさりと言うと、嬉しそうに笑いながら、繋いだ手を強く握ってくる。その姿を微笑ましそうに見つめながら、二人は涼しくなってきた夕暮れの道をゆっくりと歩いた。


「「ただいま~」」


 二人の声が、家の中に響くと、リビングから母親(海深)が出てくる


「おかえり、二人とも、早かったのね? もう少しゆっくりして来ても良かったのよ?」


「いえ、海深母さんに夕ご飯をご馳走するって、約束していたから」


「うん、楽しかったよ! あのねお昼に食べたカレイの煮付けが凄く美味しくてね」


 嬉しそうに話す凪沙に、母親(海深)は苦笑を浮かべながら言う


「はいはい、お土産話は後で聞かせて貰うから、手を洗って着替えてらっしゃい、暑かったし汗もかいたでしょう? お風呂も沸かしてあるから、入っても良いわよ」


「はーい、それじゃあ、私は着替えてくるね、ついでにシャワーだけ浴びてこよう」


「皆人、ご飯は炊いておいたから、後は任せても良いかしら?」


「うん、構わないよ、海深母さんは、ゆっくりしていて」


 皆人は買い物袋を持って、台所に入ると、手を洗い、早速料理に取り掛かる。その姿をリビングのソファーから見つめて来る。母親(海深)の視線に気付くと、首を傾げながら視線で問い返す。

 皆人から視線に、母親(海深)は微笑むと、嬉しそうに言ってくる。


「うんうん、良いね、休みの日に息子の手料理が出来るのを、こうやってゆっくり待つ……贅沢の極みだわ」


 ソファーの背凭れに寄りかかり、此方を見てくる母親(海深)の姿に、笑顔を浮かべ、皆人は優しい声で言葉を返す


「これくらいの事で喜んでくれるなら、海深母さんの休みの日は、僕が夕食を作る事にしようか?」


「偶にだからこういう風に幸せに浸れるの……こんな幸せ、毎週味わっちゃったら勿体無いわ」


 母親(海深)は微笑みながらそう言うと、ソファーから立ち上がり、皆人の傍に来ると声をひそめて、聞いて来る


「大丈夫だった? 肩痛まない?」


「平気ですよ、テーピングが効いてるのか痛みはあまり感じませんし……そうだ、あの先生がテーピングが剥がれたら、海深母さんにして貰えって……自分より上手いからって言ってましたけど?」


「素子がそんな事言ったの?」


「はい、私より上手いからして貰えって……」


 母親(海深)は笑うと、皆人の肩に触り確認すると頷きながら言ってくる。


「うん、これなら私の方がまだ上手いかもね……良いわ剥がれたら言いなさい、私が貼りなおしてあげるから」


「これより上手いって……そういえば僕、海深さんの職業を、詳しく聞いた事無かったけど……研究員なんだよね? もしかして医療関係だったりする?」


 皆人は、今更ながら母親(海深)に問いかけて見る


「そうよ? 詳しく話した事なかったわね……私の専門は脳機能、その研究と新技術の開発に携わっているわ」


「そうだったんですか……父さんと同じ仕事なんですね、あっちはコンピューターの研究らしいですけど」


 皆人は、改めて聞く母親(海深)仕事に感心しながらも、調理の手は止めない


「まぁ、その伝で、今日の診察を捻じ込んで貰ったんだけど、素子の奴。何か変な事言ってなかった?」


「別に、これと言って変な事は…………いってませんでしたよ?」


 皆人は病院での素子のやり取りを思い出し、顔を赤くしてしまう。それに気付いた母親(海深)は慌てて皆人に問いかけて来る


「あの子、まさか皆人君に変な事を言ったの? 何を言われたの? もしかして私の昔の事を……あの事とかあんな事を……ち、違うの皆人君、違うのよっ! 誰しもが通る。若さゆえの過ちというねっ!」


 母親(海深)は何か思い当たる節が数多くあるのか、慌てながら皆人に言い訳を始める。


「大丈夫です! 何も聞いてませんから! ただ、海深さんが僕の事を褒めていたって教えてくれただけです」


「本当に何も聞いてないの? 嘘ついたら怒るからね? それで、私が皆人君を褒めていた話って、どういう内容?」


 探るような瞳で見てくる母親(海深)に、皆人は昼間、素子と話した事を話し出す


「えっと……作った料理を美味しいって言ってくれるとか、今日みたい料理をしてくれて助かるとかです」


「それだけ? 他に何か言ってたでしょう?」


「本当にこれ位でしたよ? あとはまるで恋人を自慢されている見たいだって言われた位です」


「えっ?」


 皆人の言葉に母親(海深)は意外な顔をして驚いていた。


「素子……そんな風に言ってたの? まるで皆人君を自分の恋人みたいに自慢してるって……」


「はい、でも、その他には本当に何も言ってませんでしたよ」


「そう…………」


 母親(海深)は何かを考え込むように、ソファーに戻って行く。その後姿を不思議そうに見ながら、皆人は料理を続けるのだった。

 凪沙が着替えとシャワーを終え、リビングに戻ってくる。


「お兄ちゃん、何か手伝う事ある?」


「それじゃあ、お皿出したりしてくれる? もう少しで出来上がるから」


「はーい、お母さん、もう直ぐ夕ご飯出来上がるって」


「…………うん」


「どうしたの? どこか具合が悪いの?」


 凪沙がを心配そうに見つめると、その視線に気付いたのか母親(海深)は笑顔を浮かべ立ち上がると、妙に明るい口調で話しかけた。


「美味しそうな匂いだね、早く準備して食べよう! ほらほら凪沙も手伝って」


 母親(海深)は凪沙の背中を押すと食器棚に向かっていく


「ちょ、ちょっとそんなに押さないでよ。お母さんってば!!」


 そんな二人の様子を見て、皆人は料理の仕上げを急ぐ。食器が並んだのを確認すると、大皿にエビチリと青椒肉絲(チンジャオ・ロース)を盛り付けると、それを食卓の真ん中に置く。


「美味しそうだね、お母さん!」


「ええ、とっても美味しそう、冷めない内に頂きましょう。凪沙ご飯をもってくれる?」


「はーい、お兄ちゃんもお疲れさま! あとは座ってて良いよ」


 凪沙がご飯茶碗に、ご飯を盛り付けるのを横目で見ながら、食卓に座る母親(海深)に視線を向けるとやはり何か考え事をしてるのか。難しい顔をしている


「海深さん、どうかしましたか? 何かさっきから変ですよ?」


 皆人が心配そうに問いかけると、母親(海深)は慌てて答える


「大丈夫! ちょっと考え事をしてただけだから、皆人君は気にしないで」


「本当に大丈夫ですか? 顔も少し赤いですし……体の具合が悪いなら無理しないほうが……」


 皆人の言葉に、首を振ると母親(海深)は微笑みながら答える


「本当に平気だから、それよりご飯食べちゃいましょう。凪沙、私ご飯大盛りね」


 皆人は、母親(海深)は具合が悪いわけじゃない事に、取り合えずは安心して、夕ご飯を食べ始める。普段と変わらない賑やかな食卓には、凪沙の賑やかな声と、それをからかう母親(海深)の声が途切れる事無く続いていた。


「ごちそうさま~、美味しかったよお兄ちゃん! 妹はとても満足です!」


「うん、とっても美味しかった。皆人君ありがとう。」


「いいえ、そう言って貰えると作った甲斐があります」


 そう言って、皆人は使った食器を片付けると、リビングから凪沙の声が聞こえてくる


「お兄ちゃん後片付けは、私がしておくからお風呂入ってきなよ、汗かいて気持ち悪いでしょう?」


「うん、分かった、それじゃあ海深母さん、先に入らせて貰うね」


 皆人がそう言うと、母親(海深)はソファーに座りながら、返事をした。


「はーい、夏場だから長湯は駄目だよ。逆上せちゃうからね」


「うん、今日はシャワーだけにして置くよ」


 皆人はそう言って風呂場に向かう。リビングを出て脱衣場に入り服を脱ぐと、少し温度設定を低くしてから、シャワーを浴びる、肩のテーピングに目を向けると、昼間と変らず剥がれた様子が無いのを確認すると、頭と体を洗い風呂場から出る。着替えを済ませリビングに入ると。凪沙がソファーに座って、デザートのアイスを食べていた。


「あれ? 海深母さんは?」


「んー? 部屋に戻ったよ、読みたい本があるんだって」


 スプーンを咥えながら、凪沙は皆人の質問に答える


「そうか……それじゃあ、僕も部屋に戻るよ。凪沙、電気と火の元を確認するの忘れないで、玄関の鍵は僕が閉めておくから」


「分かった~、おやすみ、お兄ちゃん」


「おやすみ、凪沙」


 皆人は、リビングを出ると玄関の鍵を閉めると部屋に戻る。

 自室に入ると、今日アニメショップで買ってきた、通話アプリとステータス表表示設定追加アプリをspirt worldにインストールする。


「ダウンロード版の方が安かったんだけど、ついその場のノリで購入してしまった。ああいうお店にはお金を使わせる、何かが居るよね……」


 皆人はそんな独り言を言いながら、インストールが終わるのを待っていると、携帯に着信が入る、表示には委員長と出ているのを確認すると。皆人は通話ボタンを押す。


(もしもし、私、青月双葉と申します! ゆう……皆人君はご在宅でしょうか?)


「委員長……これは僕の携帯だから、そんなに丁寧じゃなくても良いんだよ」


 皆人は苦笑を浮かべながら、電話口の委員長にそう告げる。


(そうでした! 緊張してしまって……結城君は、今大丈夫?)


「うん、平気だよ」


(あのね、今夜の事なんだけど、少し早く入れるかな? 忙しいなら、無理しなくて良いんだけど……)


「良いよ、今アプリをインストール中だから、それが終わってからで良いかな?」


(うん、それじゃあ、今が八時半だから、九時にクライマーギルドの前で良いかな?)


インストールの終了時間を確認しながら皆人は頷くと、委員長に答える


「了解……あっ! 委員長のキャラ名って何?」


(忘れるところだった……名前はね、リーフ・フォリアだよ)


「うん、リーフだね……僕は、自分の名前で登録してるから」


(うん、分かった、それじゃ三十分後にね)


 皆人が電話を切ると、調度良くインストールも終了する。


「さて、それじゃあ早めに入って、アプリの設定でもしておこうかな」


 spirt worldに横になり蓋を閉めると、今夜の冒険に胸を躍らせながら、皆人はEOTCに向かう。


「ダイブスタート」

長くなってしまいました……

次話から、またEOTC世界で冒険が始まります。


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