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第3話

 見渡す限りの緑の草原に穏やかな風が吹き抜けていく、気持ちの良い天気、足元には柔らかい下草が生え風が吹くたびに柔らかな音を立てる。小高い丘の天辺からは遠くまで緑の景色が続いている。

 そんな所に一人立ち尽くすミナトは、風に吹かれるまま、緑の草原を遠くまで見渡していた。


「ここがゲームの世界……凄い本当に別の世界に来たみたいだ……」


 感動で動けなくなっているミナトの背後に声がかけられる。驚いて振り向くと一人の老人が荷馬車に乗りながら此方を見ていた


「お前さんはここら辺の者ではないな……クライマー志望か? 若いの」


 随分と渋い声で、思わず悪い事もしてないのに謝りそうになってしまう。そんなミナトを見て。老人は皺だらけの顔に笑顔浮かべる


「始まりの(まち)……インゼル・ヌルに行くんじゃが乗っていくかい?」


 ミナトは戸惑いながらも頷くと。老人は荷馬車の後ろを指し示す、ミナトは荷馬車に近づくと。荷物の置いていない。僅かなスペースに腰を落ち着ける。

 ミナトが乗ったのを確認すると、老人は荷馬車を引く馬の手綱を操り。荷馬車を走らせる。整備された道を荷馬車はゆっくりと進み始める。


「お前さんはインゼル・ヌルに行くのは初めてかい?」


「はい、今日此処に着いたばかりで……お爺さんは都には行商ですか?」


 NPCだと分かっていても、あまりに自然に会話を成立させるため。ミナトは普通に人と接するように答える。その老人は笑いながら、ミナトの質問に答える。


「行商などと大袈裟なモノではないよ、里で出来た野菜や果物、工芸品なんかを売りに来ただけさ、この街道はモンスターが殆ど出ないからな、里から街に行くときは何時もこの道じゃが……ワシも驚いたわい、幾らモンスターが殆ど出ないと言っても、丸腰でうろうろしているお前さんを見た時は」


 豪快に笑いながら、ミナトを見つめる老人に、苦笑を返しながら、ミナトは荷馬車から草原を見渡す、そのあまりに雄大な光景に目を奪われる。


「本当に綺麗な所ですね……」


 思わず声が出てしまい、それを聞いた老人は、ミナトと同じ様に草原を見つめると、誰とも無く話し始める。


「此処は大昔、大きな戦の戦場になった場所でのう…その大きな戦を終結させた勇者が眠る地でもあるらしい、調度、お前さんが居た辺りが、その勇者が息を引き取った。最後の地だと言われておるな……」


「その勇者は命を賭して。その戦いを収めたのですか?」


 ミナトは、老人の語る言葉に質問を投げかける、老人は草原を見つめながら首を左右に振る。


「それは分からないんじゃ……戦に傷つき倒れたのか、戦いを止める為に、その身を犠牲にしたのかは分からないままじゃ……しかしのぅ、その勇者と呼ばれた若者が居て、その若者が戦いを治めたのは事実で……それ以上の事は。蛇足でしか無いと思うんじゃよ……」


 老人は、風が吹きぬける草原を悲しそうに見つめると、荷馬車の後ろに座る。ミナトに視線を向けた。


「其処にあった思いは忘れられ…都合の良い事実だけが伝わる……それが歴史というものじゃよ。歴史にワシは興味は無い、しかし、戦を治め勇者と呼ばれた若者は確かに居たのじゃ、その若者に。どんな思いがあったのかはもう分からぬが……

 勇者と呼ばれた若者は。後世語り継がれる偉業を成したのじゃ、そこに後の世の者が。あれこれとその思いを語るのは、無粋というものじゃよ」


 ミナトは老人の言葉に感心してしまう、これがNPCとはとても思えなかった、ミナトは老人の言葉を心に留めると。改めて草原を見て、自分が立っていた辺りに視線を向ける。

 そこがかつて勇者と呼ばれた若者の終焉の地、たぶんゲームの中のちょっとした設定の触りの部分に。触れただけのはずのミナトは、それ以上のドラマ性を感じ思わず震えた。


「これがゲームだなんて……五感で体験するってここまで臨場感が違うのか……」


 一人で感動していると、老人が丘を越えた街道の先を指で指し。ミナトに語りかける。


「ほれ、見えてきたぞ、あれが始まりの都インゼル・ヌルじゃ」


 老人が指し示す先に、十メートル以上の城壁に囲まれた。大きな街が見えてくる。その街並みは、中世北欧風の石作りの建物と、歴史を感じさせる水路が、街のあちこちの張り巡らされている。水路を流れる水面に、日の光が反射して綺麗に瞬いていた。


「大きな都ですね……ここが始まりの都…此処から僕の冒険が始まるのか……」


ミナトは、次第に大きくなる城壁を見ながら、これから始まる冒険に心を躍らせていた。


「もう直ぐ着くぞ坊主。お前さんは都に着いたらどうするつもりじゃ?」


 老人は、人が多くなり始めた街道に入ると、荷馬車をゆっくり走らせながらミナトに問いかける。


「友達が待っている筈なので、まずは其処に行って見ようかと思っています」


「そうかい、知り合いが居るのは心強いな、インゼル・ヌルは治安は良いが、坊主みたいな警戒心の無い奴は心配だったんだが……それなら大丈夫だろうよ」


 老人は、からかう様な笑い声で、ミナトに言ってくる。苦笑を浮かべながらも、自分を心配してくれる。この老人をミナトは好ましいと思った。そこで、ふと、何かに気付くと、ミナトは老人に話しかける


「お爺さん、貴方もハーフエルフなんですね……」


 老人は笑顔を崩さず、ミナトの瞳をジッと見つめながら、語りかけるように言う。


「お前さんは、これからきっと苦労するじゃろう、クライマーの連中は種族が何だとかには、拘らない連中が多いが……街の人々は違う…きっと坊主は嫌な目に会うはずじゃ……じゃがな、人は決して芯から悪ではない……それを忘れるでないぞ若者よ」


「はい、ありがとうございます。お爺さん……」


 老人は最後に、クシャクシャの笑顔を浮かべると、後は前を向いて、唯、荷馬車を進めるだけだった。その後姿に、壮絶な人生を感じる。ミナトは頭を下げ、もう一度心中で礼を言った。

 互いに、もう喋る事無く、インゼル・ヌルの城門で出入りの許可を貰って都に入ると、老人は最後に右手の親指を立てて笑顔を向けると、ミナトとは逆方向に荷馬車を進めて行く。その後姿に頭を下げると、ミナトは大助…ジンとの待ち合わせ場所。

 クライマーギルドを目指して歩き始める。都の大通りを、あちこち見ながら進むと、通りの右手に大きな建物が見えてくる。

 その前には、様々な種族が大勢集まり。周りよりも大きい喧騒を振りまいている。建物にはクライマーギルドと書かれており。ミナトは、そこに集まる多種多様な種族(プレイヤー)の中から、ジンを見つけなければならないと思うと、途方にくれるのだった。

 暫く、その喧騒を遠巻きに見ていると。一人の男がミナトに向かって歩いてくる、もしかしてと思っていると、その男のほうから話しかけて来ると。その声はまさしく探していた人物(大助)だった。


「お前……アバターがリアルとほぼ同じってチャレンジャー過ぎるだろ……」


 大助の疲れたような第一声にミナトは、笑いながら答える


「あはは、チュートリアルの時にも言われたよ、でも、知り合いに会うなんてそうそう無いからたぶん大丈夫だよ」


 ミナトは相変わらず軽く答えると大助は呆れたように首を振り、諦めた様に溜息を吐くとミナトに言う


「まぁ、それに関して俺はもう何も言わないけど、一応注意しろよ。しかし、ハーフエルフとは……相変わらず微妙な所をピンポイントで撃ち抜くな」


「どういう意味さ!? これでも結構良い所を選んだと自負してるんだけど!?」


 ミナトは大助の言葉に心外だと言わんばかりにツッコミを入れる


「確かに、お前が素直に人間やエルフを選ぶとは思ってなかったけど……最初は苦労するかもしれないぞ、クエストの受注にペナルティが着くし、NPCの店や宿は利用できないかもしれないぞ」


「結構リアルに迫害されているんだね、ゲームの中で此処まできっちり再現されてるの珍しいよね」


「まぁ、そこが売りだから、もう一つのリアル世界ってのがキャッチコピーの一つでもあるしな、ある程度の不自由はリアリティが増すからな……それよりお前、なんで丸腰なの?」


 大助はミナトの姿を見てジト目で睨む、ミナトははてな?と首を傾げると自分の姿を確認する


「確かに丸腰だけど……武器も買ってないし当たり前の事じゃないの?」


「お前はステータス画面を開かなかったのか? そこに初期装備が収納されてるからさっさと装備しろよ」


「えーと、どうやってステータス開くの?」


「そこからかよ!?」

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