表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/52

第27話

 病院から出て行く橘花を笑顔で見送ると、皆人は待合室の椅子に腰掛けると問診表を書いていく。一通り書き終わり、それを受付の看護師に渡すと皆人の服の裾が引っ張られる。

 そこには小学校低学年の女の子が嬉しそうに皆人の事を見上げている。


「お姉ちゃんに渡してきたよ、お兄ちゃん。」


「ありがとう。これはおつかいに行ってくれた、お礼」


 皆人はそう言って、先程病院の売店で買った、飴の袋を渡す。少女は笑顔を浮かべ、それを受け取ると皆人に手を振りながら、他の科の方へ歩いていった。


「随分、手馴れているのね? 小さい子の扱いに」


 背後から声を、かけられ振り向くと、そこには白衣を着た綺麗な女性が、皆人を見て笑顔を浮かべていた。


「妹がいますからね、小さい時ああやって、簡単なお使いを頼んだりすると喜ぶんですよ?」


「大人ぶりたい年頃なのね……分かるわ、私にもそういう時期はあったと思うもの、もう随分、昔で憶えていないけど」


 女性はそう言って可笑しそうに笑う、看護師から皆人が書いた問診表を受け取ると。改めて挨拶してくる。


「海深の義理の息子の結城皆人君ね。私は涼宮素子見ての通りの医者よ、よろしくね」


「はい、よろしくお願いします。涼宮先生」


 そう言って頭を下げる皆人に、素子は頷きながら処置室に連れて行く。


「今はピークも過ぎたとは言え、まだ外来患者がいるから診察室を使う訳にも行かないの、だから、こちらの処置室で診てあげるわ。」


「すみません。何か無理をお願いしたみたいで……」


「良いのよ、私も海深の義理の息子に会ってみたかったし、うん、海深が惚気るのも分かるわ……」


「惚気る?」


 皆人は不思議そうな顔で素子を見ると、人の悪そうな笑顔を浮かべ喜々として言ってくる


「海深とは、今でもよく連絡を取りあうのだけれどね、貴方の話題が上がらない事は無いわよ? やれ、今日は私の作ったご飯を褒めてくれただとか、夕飯を作ってくれてそれが美味しかったとか、それこそ自分の恋人を自慢するみたいにね」


 皆人はそんな自分の知らない、海深の話を聞くのは初めてなのか、顔が赤くしながら照れている。その姿を微笑ましそうに見ながら、素子はさらに続ける


「あの子も、外見は年齢不詳も甚だしい事天下一品だし、皆人君と歩いていれば姉弟……もしかして恋人に間違われた事もあるんじゃない?」


「……」


 皆人は過去に海深と出かけて、確かにそういう間違われ方をされた事があるのを思い出し言葉に詰まる。その反応に素子は笑いながら付け加える


「まぁ、あの子はきっと、そういう風に間違われて嬉しかっただろうし、皆人君も義理とは言え自分の母親が若くて綺麗なのは、嬉しいだろう?」


「そうですけど……」


 皆人は、普段の母親の顔の海深と、偶に見せる、昔の優しいお姉さん風の海深の笑顔を交互に思い出すと顔を赤くしながら俯く。


「その反応からすると、海深が、皆人君の初恋の相手かな?」


「の、ノーコメントです……」


「図星か……これは海深をからかう事の出来るいい情報を聞けたぞ」


 素子は嬉しそうに笑いながら皆人見つめる。その視線から目を反らし明後日の方向を見ていると。素子もからかいすぎたと反省したのか、それ以上は何も言わなかった。


「さて、楽しい話はこれ位にして、処置を始めようか? それじゃあまず擦り剥いた処を診せてもらえるかな?」


 素子の言葉に、皆人は視線を素子に戻し、ジャージの裾を上げると傷口を見せた。素子は巻いてある包帯を丁寧に解きながら傷口を見ると


「うわ~ 結構酷いな……痛かっただろう?」


「いえ、慣れてますから」


「こういう時は素直に痛いというものだぞ……」


 素子はそんな事を言いながら、傷口を消毒していく。その手つきは流石に本職だけあって淀み無く、適切な処置を施していく。


「次は右腕か? 袖を上げてくれ」


 皆人は袖を肘まで捲くると、素子が巻かれた包帯を解いて、同じ様に処置をして行く。


「少し痕が残るかもしれないぞ?」


「平気ですよ、傷痕くらい……女の子だったら大問題ですけど」


 皆人はそう言って、委員長の事を思い出すと一人で笑う、その笑顔と言葉に大体の事象を察したのか素子は優しげな表情で皆人見つめながら話しかける。


「確かに、これだけの怪我を年頃の女の子が負ったとしたら、それは確かに大問題だな……でも、怪我の大小に性別は関係ないからな、皆人君も今後はあまり無理をしない事だ」


「はい、分かりました……」


 皆人は素子の言葉に素直に頷く、それを見て満足そうな笑顔を浮かべると素子は傷口に包帯を巻き、取り敢えずの処置を終えると、何か書類を取り出し皆人に渡してくる。


「これを持って放射線科に行って来なさい、話しは通してあるから、直ぐに撮ってくれると思うわ」


「分かりました」


 素子の言葉に素直に頷き、皆人は処置室を出ると、廊下に張ってある案内表示に従って目的地を目指して歩き始めた。暫く案内表示に従って歩くと放射線科の受付が見えてくる。


「大きい病院だなぁ……移動するだけでも大変だ」


 皆人は軽い溜息を吐くと、受付に素子から預かった書類を渡すと、待合室の椅子に腰掛け順番を待っていると。レントゲン室から髪を三つ編みをした女の子が出てくる。


「あれ? 結城君……?」


「委員長?」


 二人は暫く見つめ合うと、皆人は松葉杖を突いている委員長に気付くと、傍に近付くと声をかける。


「委員長、やっぱり酷かったの? もしかして骨に異常でもあった?」


「ううん、結城君が言った様にただの捻挫だよ。ただ、お母さんが心配してね……病院に行きなさいって言われたから……それより、私よりも結城君の方は大丈夫なの? ここに居るって事はレントゲン撮りににきたんだよね?」


 委員長は心配そう皆人を見つめる。


「僕の方も委員長と同じだよ、母親に怪我したのがバレてね、心配だから、知り合いのお医者さんにみてもらえって言われたから……怪我自体は酷くないんだけどね」


 皆人は委員長の視線に気付くと、病院を訪れた理由を話すと少し安心した表情になると、松葉杖をついて歩き出そうとするとバランスを崩す。

 皆人は咄嗟に双葉を支えると、そのまま抱き上げて近くの椅子に降ろす


「気をつけないと駄目だよ! 委員長は怪我してるんだから!」


「…………」


「委員長?」


 返事の無いこ事を不思議に思い皆人は改めてを見つめると、一気に顔を真っ赤にして視線を外す委員長に驚く。


「ゆ、結城君には、昨日から助けられてばかりで、さっきも危ない所を抱きかかえて助けてもらって……抱きかかえて? 抱きかかえて…………うにゃーーーーー!」


「委員長!? いきなりどうしたの? なにかの発作?」


 委員長が顔を真っ赤にして暴れ出した事に驚くと、皆人は双葉の肩を押えて正面から見つめる


「しっかりして!! 委員長大丈夫?」


「結城君が……こんな近くに……きゅ~~」


「えっ!? 何? 委員長! しっかりしてして委員長ってばーーーーー!」


 目を回した委員長を抱きかかえながら皆人は困り果てるのだった。





 あの後、待合室で騒いでいる二人を看護師さんが見つけ、静かに叱り、目を回した委員長を、その看護師さんにあずけると、皆人は急いで検査を済まし、目を覚ました双葉と共に看護師さんに平謝りをして、放射線科から逃げるようにして去ると。

 二人はトボトボと病院の廊下を歩いていると、皆人の隣を歩く双葉が落ち込みながら声をかけてくる。


「ごめんね……結城君みっともない所を見せてしまって……」


 委員長は俯きながら謝って来る。その姿に皆人は苦笑を浮かべると、軽く返す


「気にしてないよ、それより本当に大丈夫? 委員長は怪我もしてるから心配だよ……」


 皆人の言葉に、委員長は慌てて首を振ると大きな声で言ってくる


「うん、大丈夫!! さっきのはただちょっと舞い上がっただけだから! 昨日はおんぶされ、今度は二日もしない内ににお姫さま抱っこまでされてしまうなんて……それでちょっと心乱してしまいました!! ですが大変嬉しかったです!!」


 相変わらずの自爆癖を発揮している委員長に、皆人は笑顔を浮かべ見つめながら告げる。


「うん、僕も委員長みたいな可愛い子を、抱っこ出来るなんて凄く嬉しいよ」


「はうっ!? 結城君はそういう事を気軽に女の子に言っちゃ駄目だよ!! 本気にしちゃうよ! 免疫の無い子は! 私とか特に!!」


 委員長は首まで真っ赤しながら、皆人に注意をしてくる。


「分かったよ、もう言わない」


 皆人は委員長に向かいそう返事をすると、ちょっと複雑そうな顔で何か小声で言っている。


「…………それはそれで寂しいというか、勿体ないと言うか……」


 皆人はその小さな独り言を面白そうに聞きながら、松葉杖を使いながら歩く委員長のペースに合わせゆっくりと歩く。それに気付くと委員長は嬉しそうに微笑むと、皆人に問いかけて来る


「昨日と今日のお礼をしたいんだけど……結城君は、いつ頃が時間取れそう?」


「昨日も言ったけど、お礼なんてしなくて良いよ」


「それじゃあ、私の気が済まないの! それとも夏休みはもう予定でいっぱいなの?」


 委員長は不安そうな顔で、皆人を見つめる。


「予定なんて無いよ、唯一あるとすれば、お盆の頃に妹と出かける約束をしているくらいで……あっ。でも、もしかしたらこれからは少し忙しくなるかもしれないなぁ」


 皆人は凪沙との約束の他に、EOTCの今後の予定も考えると黙り込んでしまう。その様子に委員長は半泣きになりながらも食い下がる


「結城君の都合の良い時で良いんだよ! 私が合わせるから……よ。夜だって良いんだから! 私は、ほら、大人のショーツを穿くほど経験豊富だし……って嘘だよっ! 経験なんて無いよ! 初めては結婚してからだよ!!」


「分かった、分かってるから落ち着いて委員長!!」


 また、目を回しそうな興奮している委員長を何とか宥めると、皆人は委員長に話しかけた


「委員長には悪いけど、これからの予定はまだ分からないんだ……」


「そうなんだ……」


 委員長は寂しそうに俯く、皆人はその姿に声をかける


「明日EOTCで……フレに今後の予定を聞いてみるからさ、そして時間が取れそうだった、委員長にれん……」


「結城君()EOTCをプレイしてるの?」


「えっ!? 僕も……って事は、委員長もEOTCプレイヤー?」


「そうだよ! 私EOTCしてるよ! まだ始めて三ヶ月だけど……」


 先程とは打って変わって、委員長は嬉しそうに皆人に話しかけてくる。


「結城君は? 始めてどの位? LVは幾つ? 職業はなに? スキル構成はどうしてる?」


「待って、委員長そんなに一気に聞かれても答えられないよ」


 皆人はつい最近も同じ様なやり取りを大助としたのを思い出すと苦笑を浮かべる。

 そんな皆人の様子に委員長はつい先走りすぎたのに気付くと、また顔を赤くして俯いた。


「僕は、本当に最近始めたばかりで、LVも低いし、塔の都(ストーバ・トルレム)にも行った事も無いから、委員長とはLVも違うと思うよ?」


「私だって、そんなに強い訳じゃないけどね……そうかぁ……結城君もEOTCのプレイヤーだったのかぁ」


 委員長は本当に嬉しそうに微笑むと、皆人に提案してくる


「あのね……今夜EOTCに入れる? もし都合がいいなら向こうで会って少し遊ばない? 面白い所知ってるから!」


 委員長の提案に皆人は少し考えると答える


「夜の十時過ぎなら……たぶん大丈夫だと思うけど……委員長はそれで良い?」


「うん! 夜の十時を過ぎた頃に始まりの都(インゼル・ヌル)のクライマーギルドの前で待ち合わせで良いよね」


「うん、了解! 楽しみにしてるね」


「私も凄い楽しみ!!」


 委員長は満面の笑顔で嬉しそうに歩く、皆人もその様子に微笑を浮かべると、隣を歩く委員長の足の様子を気遣いながら、ゆっくりと白い廊下を歩く。

 委員長がエレベーターの前に立つと、皆人とは違う階層らしく、そこで分かれる事になった。


「それじゃあ、結城君! 夜楽しみにしてるから!」


 そう言ってエレベーターに乗り込むと、扉が閉まるまで皆人に手を振り続け委員長は上の階へと上がっていった。


「ほほう。随分遅いので覗きに来て見たら、皆人君はナンパ中だったとは……誰だい? 今の真面目そうな子は? ああ言うタイプが好みなのかい?」


「あれは、同じ学校のクラスメイトです!」


「おや、驚かないんだね? 私は気配を殺すのは得意なんだが……」


突然後ろから声をかけたのに、素子は、皆人が驚いてないのを不思議に感じ問いかけると。皆人は正面の綺麗に磨かれたエレベーターの扉を指差しながら答える。


「後ろから近付いてくるの、扉に反射して見えてましたよ……涼宮先生って意外と子供っぽいんですね」


 皆人が、「ふふん」と笑うと、素子はニヤリと笑うと、皆人に体を寄せ耳元で囁いてくる。


「心は初心だけど、体は凄く大人だぞ……皆人君(ボーヤ)……」


 素子は皆人の腕を胸で挟み込み、皆人の頬にそっと口付けをすると、アッサリと離れる。そして何事も無かったように処置室に向かい、エレベーター近くの階段を降りていく。

 その後姿に皆人は小さな声で一言呟く


「凄かった……」


 皆人はその言葉が今の出来事の全てを物語っているのだった。



 素子が皆人のカルテとレントゲン写真を見ながら、軽い感じで言ってくる


「検査の結果、皆人君、君の右肩の骨にひびが入っているが判明した、という訳だから、服を脱ぎなさい」


「いきなりの告知に、いきなりな展開だな、涼宮先生、淫行って知ってますか?」


「何を、当たり前の事を聞いて来る? 私は人の体なら外から中まで知り尽くした女だぞ? 今更高校生男子の裸程度で淫行に走るほど、飢えてもいないし、不自由もしてないぞ」


 素子は皆人のジャージを捲ると、一気に脱がし、皆人を押し倒すと、右肩を触診しながらテーピングを施していく


「白衣の綺麗な女医に、押し倒されているのに、なんでこんなにも興奮しないんだろう……」


 皆人はさめざめと泣きながら、素子の処置を受ける。


「まったく、そんなに興奮したいなら、海深を拝み倒せ、きっと一緒に風呂くらいは入ってくれると思うぞ?」


「ぶっ!!? 僕の家族を崩壊させる気ですか!」


 皆人の突っ込みも意に返さず、素子はイヤらしい笑みを浮かべると、押し倒した皆人の耳に口を寄せいってくる。


「いいか? 海深やつ、小柄の癖にオッパイは……」


「ああああああああ、聞きたくありませーーん!!」


 皆人は大声を出して、素子の声を遮る、それに素子は苦笑を浮かべ、残りのテーピングを済ますと、皆人の上から退くと、薬の入った紙袋を皆人に投げてくる。


「痛み止めの頓服薬だ、それと解熱剤、胃薬、それと一応座薬の痛み止めも入れて置いた、頓服が効かなかったら、そっちを使うといい」


 皆人はそれを受け取ると、ジャージを羽織り、右肩の調子を確める。


「凄い全然痛みを感じない……」


 皆人は目の前の無茶苦茶な女医の技術に驚いていると、素子が告げてくる


「今日は風呂に入るな、シャワー位なら大丈夫だが、湯船にはつかるなよ? テーピングはシャワーを浴びた位じゃあ、剥がれないから安心しろ。それとなるべく動かすな、少なくとも一週間は激しい運動は禁止だ。あと……SEXはしても構わない!!」


「よし、最後の言葉は要らなかったな!」


 皆人は処置台から立ち上がると、素子に一瞥して部屋から出ようとすると、声をかけられる


「一週間後に、また来なさい。それとテーピング、私より海深方が上手いから剥がれたら、頼んで見なさい、きっと喜んで処置してくれるはずよ」


 その言葉に皆人は頭を下げると、処置室から出て行った。一人残された素子は顔を赤くすると


「中々、良い男じゃない、海深が惚気るのも分かるわ……怒られるかもしれないけど。ちょっかいかけて見ようかな?」


 素子は楽しそうに笑うと、皆人のカルテを大事そうにファイルに挟み込んだ。



 診察を終え、病院の自動ドアを抜けると、夏の暑さは最高潮になっており。皆人は空を見上げると、処置室でのやり取りを思い出すと苦笑を浮かべ


「無茶苦茶な人みたいだけど、腕は確かみたいだね……それにしても海深母さんとは、どういう関係なんだろ?」


皆人は首を捻りながら、自宅を目指してゆっくりと歩き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ